イリーナ編 大人への儀式
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『イリーナ編 大人への儀式』
お楽しみください。
――イリーナ 15歳の日――
その日の朝は、久しぶりに緊張していました。
勇者さまとわたくしが、旅に出るための準備が進み、共に旅をする仲間を決めるため、城下町のギルドへ向かう日でした。
出かける準備を終わらせ、城門の前まで行くと、数名の護衛と共に待つクロードさまの姿がありました。
「イリーナ! おはよう! 昨日はよく眠れたか?」
「おはようございます! クロードさま……それがあまり眠れなくて……」
「やっぱり! 実は俺もなんだ! どんな奴が仲間になるのか楽しみでぜんぜん眠れなかったよ!」
クロードさまが、嬉しそうにそのことを話していると、いつものようにアルバインさまに怒られていました。
わたくしは、それを見ていつも心から笑みが溢れてしまっていました。
なぜなのでしょう? きっとわたくしとは違う世界にいるクロードさまを、まるで物語の主人公のように感じて、はしゃいでいるのでしょうか?
そんな疑問をいつも抱きながら、今日もわたくしは、クロードさまの近くを離れないようにしていました……
そしてギルドへ着き、ギルド長を名乗る方の案内を受け、円形の広場に出向くと、十数人の冒険者たちがいました。
クロードさまの登場に注目が集まりました。
ですが、視線のいくつかが、わたくしにも向けられ不快感を覚えていると、クロードさまが視線を遮るようにわたくしの前に立ち、冒険者たちに大声で語りかけました。
「じゃあ、誰からやる!?」
その言葉に、冒険者たちは笑い出しました。
なんと無礼な! 万死に値する行為です!
そんななかで1人の剣士が、前に出てきました。
使い込まれた黒い鎧と身の丈ほどの大剣、そして首元から見える、歪な形をした白金色の首飾り。
その男は勇者さまに向き合うと、剣を構えて申し出てきました。
「勇者殿、お手合わせ願います!」
「ああ! いつでもいいぞ!」
わたくしと護衛たちは数歩下がり、勇者さまの戦いを見守りました。
そこからは、あっという間の出来事でした……
最初の挑戦者を、クロードさまが呆気なく倒すと、冒険者たちの顔色が変わりました。
それから、1人ずつ相手をしましたが、誰もクロードさまに歯が立たず、一方的な戦いになっていました。
呆れたクロードさまが『全員一気に来い』と言って、まとめて相手をしましたが、結果は変わりませんでした。
ギルド長に、これで全員だと言われて、クロードさまは『これじゃあ連れていけない』と溜息をついて、わたくしたちは城に戻ることになりました……
……城に戻ると、叔父さまが話があると言って、わたくしたちを出迎えてくださいました。
クロードさまとわたくしは談話室に移動し、叔父さまの話をうかがいました。
「先ずは2人とも、今日で15の誕生日おめでとう!」
「陛下! ありがとうございます!」
「ありがとうございます、叔父さま……」
「うむ、して今宵の祝宴なのだが、イリーナよ……成人の儀も兼ねて行いたいのだ」
「わたくしの……ですか?」
「そうだ、普通なら18歳のときにするものだが、そなたは魔王討伐の任に就き旅に出る、だからその前に成人の儀も行いたいのだ……」
この提案は叔父さまの、父としての優しさと、王としての建前なのでしょう……
王族のわたくしが成人した身となれば、旅先での権限が強まり、旅が楽になる場面も増える……
そして、もし旅の途中で命を落としたとしても『成人前の女性を死なせた』ではなく『王族として戦い、志半ばで倒れた』と美談になるでしょう……
……そして……
「陛下! 成人の儀って俺も参加できますか!?」
「おお、クロードよ! 貴公も興味があるのか?」
「はい! だって、一緒の誕生日なのに、イリーナだけなんてズルいっすよ!」
その無邪気な言葉に、わたくしも叔父さまも、笑いを堪えきれませんでした。
「ふふっ……」
「はっはっはっ!」
「えっ? なんか俺、変なこと言いました?」
「いいや、クロードよ! 貴公の意見、もっともだ! では、貴公の叙任式も執り行おう!」
「叙任……式?」
「男性の成人の儀のことですよ、クロードさま……」
「そっか! 陛下、ありがとうございます!」
「うむ……して、イリーナよ! そなたの"相手役"のことだが……」
「大丈夫です、叔父さま……もう決めております」
「ほう……どこの馬の骨かのう……」
「ふふっ、叔父さまも人が悪いですね……」
わたくしと叔父さまが、互いに含み笑いを交わしていると、クロードさまが口を開かれました。
「えっと……わかってないの、俺だけ?」
「ふふっ、申し訳ありません、クロードさま……実は夜会でのことでお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「お、おう! 任せろイリーナ! なにか運べばいいのか?」
「いいえ、クロードさま……わたくしの、お相手役をお願いできますか?」
「……うん?」
クロードさまは、まだことの重大さに気付かれていませんでしたが、だからこそ、わたくしはアナタがよかったのです……
……その日の夜、先ずはクロードさまの叙任式が行われました。
貴族たちが見守るなか、広間の階段の踊り場に特設された玉座に座る叔父さまに、クロードさまが跪きました。
……素敵です!
叔父さまは儀礼用の剣を鞘から引き抜くと、クロードさまの肩に、剣の平を左、右と当てられ、厳かに宣誓と任命を行いました。
「汝、クロードを勇者と認め、騎士の位を授ける」
「……えっと、はい! 謹んでお受けいたします!」
そして、拍手が広間のなかで鳴り響きました。
その後、クロードさまは、一度広間を退室されると、わたくしの元に息を切らして戻ってきてくださいました。
「イリーナ、お待たせ! 準備はいいか?」
「はい! クロードさまも大丈夫ですか?」
「ああ、いつでもいけるぞ! ……それと、ドレス似合ってるぞ!」
「…………」
「……おい、イリーナ?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「おう! じゃあ行こうか!」
そう言ってクロードさまは、わたくしに手を差し伸べてくださいました。
わたくしは、その温かな手を強く握り返し、煌びやかな広間へと歩き出しました……
――イリーナ編 大人への儀式 完――
最後までお読みいただきありがとうございます。
クレス編でもあった無邪気が故に起きた冒険者への苦言や、その後の華やかなエピソードのなかでも、主人公スキル『鈍感』『朴念仁』『唐変木』が発動している残念系主人公のクロードを見つめるイリーナのお話でした。
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▼次回予告
『イリーナ編 月光すら霞む』
明日 21時 投稿予定です!!




