イリーナ編 運命との出会い
いつも読みに来てくれてありがとうございます。
『イリーナ編 運命との出会い』
お楽しみください。
――セレンディア城 礼拝堂――
イリーナが『聖女』として覚醒した日から、彼女の生活は激変した。
元々、神聖術の素養があり、教養の1つとして学んでいたが、それにほとんどの時間を費やすようになった。
朝、目覚めると共に祈りを捧げ、身体を清め、神聖術の研鑽を重ねる。
陛下の計らいで、城の地下に礼拝堂が作られてからは、彼女の世界は、東の塔と礼拝堂の往復になった。
そして、高名な神聖術師の女司教が、イリーナの指南役として任命された。
ただ問題だったのは、その司教が過度な純潔主義だったことだ……
「いいですかイリーナさま、女神セレーネさまは、清く美しく、そして穢れなき存在を愛してくださるのです!」
その言葉を聞いた俺は、横にいるセレーネに目線を向けると、気まずそうに彼女が言い訳をした。
「いやぁ、個人的にどっちもアリなんですけどねぇ〜、信仰の強さが、神聖術の強さに直結するんですよ〜」
そう言いながら、セレーネは手元を遊ばせて話を続ける。
「そこに私の意思は関係ないので、『偏った思想』が正しいものだと勘違いされちゃうんですよねぇ〜、想いが強ければそれだけでいいのにぃ〜」
「だがイリーナには、そういうものだと、思うしかなかったってことか……」
女司教の行動は異常だった。
イリーナの仮住まいとなっていた東の塔に足を運び、本棚を調べると『これは不適切だ』『これは不純だ』などと言っては処分させ、これが『正しい聖典』だと言って分厚い本の束を押し付けていた。
そして、メイドたちの行動も嫌悪し、城下町で流行りの恋愛小説を持っていたメイドを『神に唾を吐く行為だ!』と糾弾し、その悪評はメイドたちの間で瞬く間に広まることになった。
そのせいで、イリーナに関わると面倒なことになると、以前とは別の意味で避けられるようになった。
「イリーナさん! 男は不浄な生き物です! あんな穢らわしい生き物と関わることは、セレーネさまはお許しになりません!」
「イリーナさん! 休憩など許されません! セレーネさまへの祈りが疲れるなんてことはありえません! そんなことでは、聖女の貴女がこの国を治めたとき、穢らわしい野獣共を追い出せませんよ!」
それは、負の循環だった。
純潔主義のために男を忌避し、自らの能力がそれを証明したと疑わず、挙句の果てに国の在り方までに口を出す始末だった。
さらに、イリーナが聖女としての力を増すことで、女司教の傲慢さは、より凝り固まっていくのだった。
そして、そんなイリーナと女司教を、周りの人間は禁域の厄介者として遠ざけていった。
陛下がその事態に気付き、女司教を不敬罪で処罰するまでに、すでに2年の月日が経っていた……
……視界がまた真っ白になり、場所が変わる。
そこは城の中庭で、俺が剣の訓練に明け暮れていた場所だ。
そう懐かしんでいると、聞き覚えのある掛け声が聞こえてきた。
「クロードさま、いきますぞ!」
「こい! アルバイン!」
それは勇者と認められ、騎士団長のアルバインに稽古をつけてもらっていた、自分の姿だった。
あの頃はすでに、アルバインといい勝負ができていると思っていたが、こうやって見ると彼が手を抜いてくれていることに気付いて、恥ずかしく思う。
そしてそんな光景を、イリーナも見ていた。
俺たちの様子を見ていた彼女に、幼いメイドが駆け寄ってくる。
「イリーナさま! こんなところにいらしたのですね……どうかされましたか?」
「……いえ、あれが勇者さまかと思って見ていただけです」
「勇者さま? ……あっ!」
「ミリス? どうかしましたか?」
「いえ! なんでもございません! もうすぐ北方領土の司教さまがいらっしゃるとのことです」
「わかりました、行きましょう……」
そう言って、2人は俺の訓練を横目に、歩き去っていった……
どうやらイリーナの指南役は、思想が偏らないように、定期的に変わるようになったようで、彼女の世界も少しだけ広くなっていた。
小説などを嗜んでみたり、料理や洗濯をメイドたちに混ざってすることで、彼女の世界と周囲の目が変わってきていた。
しかし、イリーナのなかで消えない呪いがあった……
『清く美しく、穢れなき存在』女司教の言葉であり、イリーナにことあるごとに教え、刻み込んだ呪いが今でも彼女の頭のなかを蝕んでいた。
だから彼女は、疑問を抱いた。
わたくしは、本当に清く美しく、穢れなき存在なのか?
神に祈りを捧げ、神聖術の鍛錬に明け暮れて、泥のように眠りにつき、朝になってまた繰り返す。
コレが本当に、女神セレーネが愛する存在なのか?
わからない……わからない……わからない……
そんなとき、東の塔の窓から、あの中庭が見えた……
もう日も沈み、辺りが暗くなっているなかで、なにかが動いているのが見えた。
「侵入者……!?」
そう思い、中庭の方をじっと見つめると、そこにいたのは今朝見た男の子だった。
その男の子は、クタクタになりながら、なんどもなんども剣を振っていた。
途中、息切れを起こしたように倒れ込むが、少しするとまた立ち上がり、剣を振り出す。
ただの熱心な少年の訓練だった……でも、その姿が目に焼き付いて離れない。
気付けば、毎朝の訓練場の様子を見に行くのが、日課に加わっていた。
――イリーナ 14歳の誕生日――
わたくしは、相変わらず、死んだような毎日を送っていました……
朝、目覚めと共に祈りを捧げ、その日の司教さまと神聖術の鍛錬に励み、疲れと共にベッドに倒れ込む……
それがわたくしの世界の全てでした。
そう、あの日までは……
わたくしの14歳の誕生日を祝うために、叔父さまが夜会を開いてくださいました。
優しい叔父さま、わたくしを本当の娘のように可愛がってくれる……親とすぐに死別したわたくしも、叔父さまを本当の親のように思っていた……
乾杯の挨拶も終わり、叔父さまと隅のテーブルで休んでいると、騎士団長のアルバインが、あの人を連れて、わたくしたちの元に来てくださった。
「イリーナさま、お誕生日おめでとうございます、今日はこの者をイリーナさまに会わせたく連れてきました」
そう言ってアルバインは、その方の背中を押して、わたくしの前に連れてきました。
「えっと、初めまして姫さま、クロードって言います、その勇者です」
彼の後ろでアルバインがため息を吐きながら、苦言を漏らしていました。
「お前なぁ、ちゃんと挨拶の仕方教えただろう? なぁにぎこちない挨拶してんだよ!」
「うっ、うるさいなぁ! そんなのどっか行っちまったよ!」
「はぁ……イリーナさま、大変失礼いたしました! この者には後で厳しく言っておきますので!」
「いえ、いいのです! えっと、クロードさま、でしたよね?」
「あ、ああ! あってるぜ! えっとイリーナでいいか?」
その瞬間――わたくしのなかでなにかが弾けるようなものを感じました……
なぜでしょう? 礼儀もなにもなっていない、それなのに嫌だとは思えなくて、むしろ嬉しく感じてしまった……
そう思っていると、クロードさまは、アルバイン団長に頭を叩かれて怒られていました。
「アルバインさま! 落ち着いてください!」
「しかし、イリーナさま……」
「いいのです、勇者さまとは、今後長い付き合いになります……なら打ち解けるのは、早いに越したことはありません」
「……イリーナさまがそう言われるのでしたら……」
「ありがとうございます、アルバインさま……」
そしてわたくしは、もう一度勇者さまに向き直し挨拶をしました。
「よろしくお願いいたします、クロードさま……」
「……ああ! よろしくな! イリーナ!」
その言葉にわたくしのなかで、またなにかが弾ける音がしました……
――イリーナ編 運命との出会い 完――
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ここでイリーナは、クロードに初恋をしますが、それを彼女は自覚できていない、だから胸の高鳴りの意味が理解できない、そんな描写をイメージしました。
本作を気に入った!続きがちょっと気になる!ってなったら
下にある【☆☆☆☆☆】マークから評価と、ブックマーク登録を何卒よろしくお願いいたします!
▼次回予告
『イリーナ編 大人への儀式』
明日 21時 投稿予定です!!
センシティブではないよ!




