イリーナ編 悪女と聖女の烙印
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『イリーナ編 悪女と聖女の烙印』
お楽しみください。
――偶像に祈る少女の記憶――
真っ白になっていた視界が、徐々に晴れてくる。
そして目の前に、玉座に座る陛下の姿があった。
「へ、陛下!?」
俺は反射的に陛下にひざまずいて頭を下げてしまった。
「クロードさん! 落ち着いてください! そこにいるのは、記憶のなかの王さまです」
「あっ! そ、そうか、つい体が動いてしまった……」
そう言って俺は、顔を上げると、すぐ横に誰かの気配を感じて、目線を向ける。
そこには、とても幼く……しかし、纏う風格は、すでに上に立つ者としてのそれを、少女は漂わせていた。
「叔父さま、本日はわたくしのために、このような催しをしていただき、誠にありがとうございます」
「うむ、そなたも今日で10歳になるが、亡き姉上に似て美しくなったな! これは夜の祝宴も楽しみだぞ!」
『叔父さま』、『亡き姉上』……お互いの話す内容から俺は、横にいる少女が誰かを確信した。
「……イリーナ」
「ほぇ〜、この凛とした子がイリーナさん? なんだか今の雰囲気とぜんぜん違いますねぇ〜」
「……だが亡き姉上とは、イリーナの母親のことだ……間違いない」
そう、セレンディア王国の王族は、武人として成り上がった家系だが、同時に子宝に恵まれない家系でもあった。
陛下の世代で3人、その血筋はイリーナだけだった。
「イリーナよ、そなたのために部屋も用意した! 夜の祝宴までゆっくり休むといい」
「ありがとうございます、陛下……それでは失礼いたします」
そして、イリーナが美しい所作で一礼すると、謁見の間を後にした。
その後ろ姿さえ、凛々しく、そして美しかった……
謁見の間から出ると、1人のメイドがイリーナに近寄ってきた。
「イリーナさま、お疲れさまでした……城の者から部屋の用意ができたと聞いておりますので、ご案内いたします」
「ええ、お願い」
そして、2人は東の塔へと移動している道中、後ろからついて行っていた俺とセレーネは、すれ違うメイドたちの陰口を聞いてしまった。
「ねぇ、あれが『吸血姫』?」
「そうそう、他の子の命を吸い取って生まれた『鮮血姫』」
「やだ怖〜い! じゃあ、あれが次期国王?」
「ええ、王妃さまも子供は期待できなそうだから、女帝の国になるんだわ!」
すでに過去の話だとわかっていても、メイドたちの陰口に、俺が怒りをあらわにしていると、目の前のイリーナが喋り出した。
「放っておきなさい……ただの戯言です」
俺は一瞬、目の前の少女に語りかけられたのかと思い、驚いてしまった。
が、その時――
「しかしイリーナさま! あんな、私にも聞こえるように話すなんて、失礼にもほどがあります!」
どうやら、先頭を歩いていたメイドにも話が聞こえていたらしく、イリーナは、そのメイドに向かって話していたようだった。
「ここであの者たちを罰してしまえば、本当に血を求める『悪女の烙印』を押されてしまいます……あの者たちも、それに気付いているのでしょう……だから、聞こえていようと関係ないのです……」
「ですが……」
「ありがとう……でも大丈夫です! わたくしにはセレーネさまのご加護があります! 神聖術を使えるわたくしを、『吸血姫』だ『鮮血姫』だなんて、堂々と言える存在はいませんよ」
そう言っていたイリーナの背中を凛々しく、そして恐ろしく感じていると、俺の視界が急に真っ白になった……
――セレンディア城 大広間――
気付くとそこは、煌びやかな装飾と豪華な食事、そして華やかな格好の貴族たちが集まる大広間だった。
「なんだ? 急に場所が変わったぞ?」
「どうやら、展開が早送りされたみたいですね! このスキルはあくまで、根底にある記憶だけを回想するスキルですから……」
「そういうことか……それならこの夜会は、もしかして……」
その時――
「おぉ! 陛下がいらしたぞ!」
「では、あの隣におられる方が?」
「ああ! イリーナさまだ!」
俺たちの会話をかき消すように、大広間にいた貴族たちが騒ぎ出す。
貴族たちが注目している先に俺も目を向けると、そこには陛下に手を引かれ、広間の階段から降りてくるドレス姿のイリーナの姿があった。
陛下とイリーナが階段の途中で足を止める。
そこへ飲み物を持った給仕が2人の前に現れ、2人がグラスを受け取ると、陛下が口を開いた。
「諸君! 今日は我が姪、イリーナの10歳の誕生日を祝う席に参加してくれたこと、感謝する!」
やはり、これはイリーナの誕生日を祝う催しだった。
俺は、この日が特別であることを知っている。
なぜならその日は、俺にとっても特別な日だったからだ。
「今日は存分に楽しんでくれたまえ! では、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
陛下の乾杯の一言に、イリーナと貴族たちが一斉に乾杯の音頭と共にグラスを掲げ、口に含んだ。
そして、それは起きた……
『パリーン!』
グラスの割れる音が、大広間に鳴り響き、周囲の目線がその先にいるイリーナに向けられた。
「くっ……」
「イリーナよ! どうしたのだ!?」
彼女は、苦しそうに下腹部を押さえて座り込んでしまった。
「毒か!?」
「いや、それにしては様子が変だ!」
「それより、医者だ! 医者を呼べ!」
辺りが騒然とするなか、陛下がイリーナの異変に気付いた。
下腹部を押さえる彼女の両手から、淡い光が漏れていたのだ。
「イリーナよ! そなたもしや……メイド長を呼べ!」
大広間に陛下の声が響き渡り、それを聞いた使用人たちが、配膳の指揮を執っていただろうメイド長を、慌てて呼びに向かった……
……イリーナは、痛みが治まり大広間の隅にあるテーブルで陛下と共にメイド長を待っていた。
そんな2人の元に年配の女性が急ぎ足で駆けつけた。
「陛下、お待たせして申し訳ありません! お呼びでしょうか?」
「うむ、実はイリーナの身体を見てやってほしいのだ!」
「……お身体を、でございますか?」
「そうだ! 先程、イリーナの身体に異変があった……もしかしたら『天命』かもしれぬ……」
「……かしこまりました……イリーナさま、恐れ入りますが、別室までお願いいたします」
陛下の命を受けたメイド長は、イリーナに頭を下げ、彼女の返事を待っていた。
「……わかりました、お願いいたします……」
メイド長に返事をしたイリーナは、椅子から立ち上がり、別室まで歩き出した……
……別室に移動したイリーナは、メイド長に促され、仕切りの向こうに移動した。
「イリーナさま、お召し物を外させていただきます」
「はい……お願いいたします……」
イリーナの許可を得たメイド長が、彼女のドレスを脱がし、腰に巻かれたコルセットを外したところで、手が止まった。
「これは……!?」
そう言って驚くメイド長の視線の先……イリーナの下腹部には、紋章のようなものが浮かび上がっていた。
「イリーナさま……これはまさしく【聖女の刻印】です!」
「……【聖女の刻印】……ですか?」
「はい! 急いで陛下にお伝えせねばなりません! イリーナさま、ドレスを着直しましょう!」
そう言ってイリーナの返事を待たず、メイド長はドレスの着せ直しを始めた……
……ふたたび大広間に戻ったイリーナとメイド長は、陛下の元に向かった。
「おお、イリーナよ! 身体の方は問題ないか?」
「はい、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした……」
「いや、よいのだ……それでどうだったのだ?」
そう言って陛下は、イリーナの後ろにいるメイド長に視線を移した。
「はい、確かに『天命』でございます……」
「うむ、そうか……イリーナよ、今からそなたの人生は大きく変わることになった……わかるな?」
「はい、叔父さま……」
イリーナの返答に陛下は軽く頷き、そして広間の貴族たちに向き直し、大きく咳払いをすると、貴族たちが陛下に目線を移した。
「朗報である! 我が姪のイリーナが、『聖女』として、女神セレーネからの祝福を受けたのだ!」
その言葉に、貴族たちがどよめき、そして歓声が上がった。
「聖女イリーナさま! 万歳!」
「これで、この国も安泰だ!」
「とうとう、魔王の最期がきたんだ!」
賑わう歓声のなか、イリーナは陛下の横で、その光景を『気持ち悪い』と思いながら、ただ眺めていた……
――イリーナ編 悪女と聖女の烙印 完――
最後までお読みいただきありがとうございます!
ついにイリーナの過去編がスタートしました。
約束された未来が待っているイリーナですが、そのために何を犠牲にしたのか?
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▼次回予告
『イリーナ編 運命との出会い』
明日 21時 投稿予定です!!




