表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し勇者は溺愛される ~魔王を倒した勇者ですが、平和の代わりに元仲間たちとのお見合いが始まりました~  作者: 希月タカトラ
やり直し勇者と偶像に祈る少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/70

イリーナ編 神の宣告

今日も読みに来てくれて、ありがとうございます!


『イリーナ編 神の宣告』


お楽しみください。

 

 ――イリーナ セレンディア城 礼拝堂――



 まだ朝の早い時間、メイドや料理人たちが、朝の準備で慌ただしくしているころ、イリーナはそこにいた。

 日の光も射さないその部屋では、彼女の傍に置かれたロウソクだけが、光を灯して揺らめいていた。


 そして彼女は、今日も祈りを捧げる。


 本当にいるのかもわからない神にではなく、見合いの日に私を選び、城下町でのひと時を、共に過ごしてくださった"あのお方"のために……

 祈りが終わると、ロウソクと共に持ってきていた水瓶を前に置き、おもむろに衣服を脱ぎ出した。


 水瓶のなかには、浄化を施した聖水と1枚の布が入っている。

 彼女は水瓶のなかの布を手に取り、軽く水を絞ると、自身の身体を拭き、汚れを清める。

 いつ、"あのお方"に求められても大丈夫なように、いつ、"我が神"に見られても恥ずかしくないように。


 まるで彼女は、自身が汚れているかのように、何度も何度も、冷めきった聖水で身体を拭いていた。




 ――クロード 礼拝堂前――



 俺はイリーナを探して、礼拝堂の扉を『ギィィ』と軋みを上げながら開いた。

 そして薄暗い部屋の奥で、何かをとっさに胸元まで押し当てて振り向く人の姿が見えた。


「どなたですか!?」


「あ、すまない、俺だイリーナ……やっぱりここにいたんだな……しかし、暗くてよく見えないんだが……」


 その声にイリーナは、安堵のため息を漏らし、衣擦れの音をさせながら、ゆっくりと立ち上がった。


「申し訳ありません、クロードさま……今、灯りをお点けします」


 そう言って彼女は、俺との間にあるいくつかの燭台に、火を灯しながら近づいてきた。


「すまない、気を使わせてしまったかな?」


「いえ、とんでもございません……クロードさまがわたくしに、会いに来てくださったのですから……それで、いかがなさいましたか?」


「いや、すこし話がしたいと思って……いいかな?」


「はい! もちろんです!」


「ありがとう……そこにでも座ろうか……」


 そう言うと俺は、並べられた木製の長椅子の1つを選ぶと、イリーナに手を差し出して、座らせようとした。


「ありがとうございます……」


 そう言って、俺の手を取る彼女の手は驚くほど冷たかった。


「イリーナ? 手が冷たいが大丈夫か? 調子でも悪いのか!?」


「っ! 申し訳ありません! その、身体を清めておりました」


「身体を……?」


 俺が手の冷たさに驚き、イリーナに体調を聞くと、彼女は俺から手を離して頭を下げてきた。

 イリーナの反応に、俺は戸惑いながらも、彼女がいた場所に目をやると、闇のなかにうっすらと水瓶のような物が見えた。

 俺は、すぐに自分の上着を脱ぐと、それをイリーナの肩に被せた。


「すまない! とりあえず、身体を温めに行こう」


「だ、大丈夫です! それに、そろそろミリスが来てくれるはずですし……」


「ミリスって、確か……」


「はい、わたくしの侍女です」


 そんな話をしていると、礼拝堂の扉からノックをする音が聞こえた。


「失礼いたします、イリーナさま……羽織るものとミルクを……申し訳ありません、こちらに置いておきますので、どうぞごゆっくり……」


 そう言って、イリーナの侍女は、俺たちの様子を見ると、持ってきた厚手のショールとトレイを置いて出ていってしまった。

 なにか変な誤解をされてしまったが、今はそれどころじゃなかった。


「持ってくるから、イリーナはそこに座って待っててくれ」


「はい……ありがとうございます……」


 彼女を椅子に座らせ、ショールとトレイを取りに行く。

 そして、ショールをイリーナに被せ、カップにミルクを注いで彼女に差し出した。


「ありがとうございます、クロードさま……」


「ああ……いつもこんなことをしているのか?」


 持ってきたショールが温かく、ミルクも温かかったことが気になり、俺は彼女に質問した。


「はい……聖女になった日から、毎日やっております」


「毎日!? じゃあ、俺たちと旅をしていたときも?」


「……できるときは……」


 イリーナの習慣のことを知り、俺が驚いていると、彼女から問いが返ってきた。


「……ところで、クロードさま……お話があるとのことでしたが?」


「あ、ああ、そうだったな! 昨日の話の続きがしたかったんだ……でも、今はゆっくり温まろう」


 そう言って俺は、イリーナの隣に座り、目を閉じて時間が過ぎるまでは何も話さないようにした。

 彼女は俺の様子に、これ以上の会話はできないことを察して、手に持ったミルクを口にした……




 静寂が支配する礼拝堂のなか、俺は目を覚ました。

 どうやら寝てしまっていたらしい。

 隣にいるはずのイリーナに目を向けると、俺の肩にもたれかかった状態で眠っていた……


「なっ!?」


 俺が今の状況に戸惑っていると、背後から声が聞こえた。


「いやぁ〜、ラブコメのド定番ありがとうございます! 電車のない世界で、寝落ち演出は起きないと思ってましたが……クロードさんもやりますねぇ〜」


(いや、お前ずっと見てたんなら、すぐに起こせよ!)


「はぁ!? てぇてぇを阻害しろって言うんですか? バカなんですか? 死ぬんですか?」


(えっ!? なに、怖い!)


 セレーネと話していると、俺の動きに反応して、イリーナが目を覚ました。


「……っ!? も、申し訳ありません! つい、うとうとしてしまって……」


「いや、いいんだ! 俺も眠ってたし、それに……」


 俺は、燭台に灯るロウソクに目線を移した後、イリーナに目線を戻した。


「たいして時間は経っていないようだから問題ない」


「……クロードさまは、相変わらずお優しいのですね……」


 まただ……また彼女の瞳には、俺以外のなにか……俺の姿を模した"神"が映っていた。

 それを感じとった俺は、そんな彼女に"絶望"を突きつける覚悟を決めた。


「イリーナ、お前に話がある!」


「はい、お聞かせください……」


 イリーナは、手を祈るように組み、まるで"神の啓示"でも聞くような姿勢で、俺の言葉を待っていた。


「俺は、イリーナの思っているような存在じゃない、ただの人間だ!」


「自覚がないのは、当然です! でも確かにクロードさまは、わたくしにとって尊いお方なのです!」


「それは、俺じゃない……」


「……えっ?」


「お前は俺のことを見ていない……愛してすらいない……」


「そ、そんなことはありません! わたくしはクロードさまのことを、お慕いしております!」


 イリーナは想いを伝えるが、今の俺の心に、その言葉は響かなかった。


「じゃあ、教えてくれ……お前は俺のどこを、なんで好きになったんだ?」


「それは……お、お待ちください、あります! ちゃんとございます!」


 俺の問いに、彼女は答えられず、強引な返しで誤魔化そうとしてきた。

 そのことに、俺は少し寂しいものを感じたが、同時にイリーナに対する覚悟ができた。


 このまま彼女の願いを聞き入れ、俺が偶像となれば、地位と財力、そしてイリーナを手に入れるだろう……

 何もせずとも腹は満たされ、欲しい物は簡単に手に入り、欲望のままに彼女を穢せる。

 だがそこに、イリーナとの愛はない……


 仮に、彼女との間に子供が生まれても、俺はその子を愛することができるのか?

 きっとできないだろう……

 なぜならそれは、愛した人との子供ではなく、使ったらできた子供になるのだから……


 だから俺は、知らなきゃならない。

 その結果、イリーナとの関係が、終わることになったとしても……


「それに、わたくしの崇拝は本物です! だから……」


 だから俺は、彼女の言葉をさえぎるように、俺(神)の言葉を宣告した。


「……俺は俺を否定する」


「……えっ!?」


「聞こえなかったのか? 俺は俺が崇拝の対象であることを否定するって言ったんだ!」


「な、なりません! そんなこと……」


 彼女はこの言葉を認められない……なぜならそれは、同時にイリーナが俺を神として崇めていることも否定することになるからだ。

 ただの言葉遊びだ……だが信仰を重んじる彼女には、致命的な言葉だった。


「そ、そんなこと……でも、クロードさまが……でも……」


 明らかに動揺するイリーナに、俺の背後にいたセレーネが反応する。


「クロードさん、お見事です……まさかロボットへのパラドックス問題で追い詰めるとは、思いませんでした」


(パラドックス? とりあえず、行けるんだな?)


「はい! 【記憶回想】の発動条件を満たしました、いけます!」


 セレーネの言葉を聞いた俺は、イリーナの両肩を掴み、自分の方に引き寄せた。

 彼女は、ビクッと怯えたように俺を見つめている。


「イリーナ、これからのことを決めるためにも、俺はお前を知る必要がある!」


「クロードさま……?」


「だから……お前の抱えたものを見させてもらう!」


 そして、俺は目を閉じて、心のなかでつぶやいた。


(【記憶回想】をイリーナに使う!)



【スキルの使用を確認しました。対象者イリーナの記憶を回想いたします】



 その声が聞こえてすぐに、俺の視界は真っ白になった……




 ――イリーナ編 神の宣告 完――


 

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しだけ、センシティブな光景を描きながらも、シリアスに何とかしました。

イリーナは書いていると、どうしてもそっち方面に筆が走ってしまいます汗


本作を気に入った!続きがちょっと気になる!そっち方面を書きやがれ!ってなったら

下にある【☆☆☆☆☆】マークから評価と、ブックマーク登録を何卒よろしくお願いいたします!


応援していただけたら……アンタも好きねぇ~


▼次回予告

『イリーナ編 悪女と聖女の烙印』


明日 21時 投稿予定です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ