イリーナ編 リィナの計画
今日も読みに来てくれて、ありがとうございます。
『イリーナ編 リィナの計画』
お楽しみください。
――セレンディア城 城下町 大通り――
すこし歩いて出店などが見えてくると、俺は揚げ物の香りがする屋台に目が行ってしまった。
「美味そうな匂いだな、あれはなんだ?」
「……あれは、たぶん『つぶし揚げ』ですね!」
「……なんか、すごい物騒な名前だな……」
「ふふっ! そうですね! でも、ジャガイモを細かくすりつぶして揚げた物なので『つぶし揚げ』って言うみたいですよ!」
リィナが料理の説明をしていると、その話を聞いたセレーネが反応した。
「ほぅほぅ! つまりコロッケですね!」
(コロッケ? 美味いのか?)
「はい! 商店街での食べ歩き定番料理として大人気ですよ!」
(商店街? よくわからんが、美味いんだな!)
俺は、セレーネの説明から必要な部分だけを汲み取ると、リィナに提案した。
「ちょっと買ってくるから待っててくれ!」
「あっ! クロさま!」
俺は彼女の腕の拘束をすり抜け、屋台に駆け寄り、屋台の男に声をかけた。
「オッサン! 2つくれ!」
「あいよ! 銅貨8枚ね!」
屋台でつぶし揚げを購入した俺は、急いでリィナの元に戻り、手に持っていたつぶし揚げを1つ、彼女に差し出した。
「お待たせ、リィナ! 熱いから、ちゃんと両手で持てよ!」
「あ、ありがとうございます……それでテーブルはどちらでしょうか?」
「テーブル? 違う違う! こういうのは、歩きながら食べるんだ!」
「歩きながら……ですか?」
「そう! 行儀は悪いが、買った飯を食べながら歩くんだ! 解放感があって、飯の美味さが跳ね上がるぞ!」
俺は、リィナに食べ歩きの醍醐味を説明した。
俺の説明を聞いた彼女は、俺の顔とつぶし揚げを交互に見た後に、小さくつぶやいた。
「……では、いただきます……」
そう言ってリィナは、その小さな口でつぶし揚げの端っこをかじり、すこし味わった後、言葉を発した。
「……とても美味しいです! クロさま!」
「だろ? 普通に美味いけど、出来立てを外で食うと、なぜかもっと美味くなるんだ! まぁ、俺もこれ初めて食べるんだけどな」
俺は彼女の反応が嬉しくて、ついはしゃいで話していると、リィナは笑顔で俺につぶやいた。
「ふふっ、クロさまは、未知のことでも、わたくしに教えてくださるのですね……」
そう言う彼女を見たとき、俺はなぜかゾッとする感覚に襲われた。
その瞳は、俺が映っているはずなのに、本当に俺を見ているのか、不安にさせるものだった。
「リィナ?」
「……はい、どうかされましたか?」
そう言って、俺に返事をした彼女の瞳は、元の澄んだエメラルドグリーンの瞳だった。
「いや、なんでもない……疲れただろう? 少し休めるところを探そうか」
「そうですね……でしたら、先ほど可愛らしい看板の喫茶店を見かけたので、そちらに参りましょう!」
「喫茶店か、確かに喉も渇いてきたからちょうどいいな……じゃあ案内してくれるか?」
「はい! こちらです、クロさま!」
そう言ってリィナは、器用に片手でつぶし揚げを持ちながら、空いた腕を俺の腕に絡ませてきた。
その瞬間――また背後で鼻血とヨダレを垂らした女神が、なにかをつぶやいているが、俺はそれを無視すると、腕の感触で心を乱さぬように歩き出した……
――セレンディア城下町 喫茶店"リリテオ"――
その喫茶店は、小さいが落ち着いた静かな感じの店だった。
看板には、店名のほかに2匹の猫の絵が描かれ、店内の装飾にも、猫をあしらった物が見受けられた。
そして驚きだったのが……
「わぁ……素敵なお店ですね! 猫ちゃんがいるのでしょうか?」
「いや、さすがにいないだろう……」
「……いるよ……」
「……えっ?」
俺たちの会話が聞こえていたみたいで、店の主人が割って入ってきた。
「今は、寝てるがそこに小さいのと、あそこに大きいのがいるよ……運が良ければ寄ってくるよ……」
まさかの店内で猫を飼っていたことだ……
「まぁ! 猫ちゃんがいらっしゃるのですね? お名前はなんて言うのでしょうか?」
「……白と茶色の小さいのが、姉の『リリィ』で黒の大きいのが弟の『テオ』だよ……」
「リリィちゃんにテオくんですね! もしかしてこのお店の名前も?」
「……2匹からとった……」
「まぁ! なんて素敵なのでしょう!」
なぜか、店主との会話が盛り上がり、それから俺たちは、店主自慢らしい紅茶を注文した。
「それにしても、リィナが猫好きだったなんて知らなかったな」
「そうでしたか? 犬も猫も、みな大好きですよ!」
そう言ってリィナは、寝ている茶白の猫を眺めていた。
(そろそろ本題に入るか……)
俺は意を決して、リィナに問いかけた。
「リィナ……見合いの件なんだが……その、リィナはなんで俺と結婚したいんだ?」
すこし正直に聞き過ぎたかと思ったが、彼女は俺に向き直すと、笑顔で答えた。
「それはもちろん! ……クロさまに、一生お仕えするためです!」
「……うん?」
『仕えるため』……それは、結婚相手に言う言葉なのか、俺は一瞬考えてしまった。
「クロさまにお仕えして、この身を捧げる……そして勇者の血を残す……それ以上の幸せなんてありません!」
「……うんん!?」
やはり、『身を捧げる』とかいう言葉は、なにか違う気がして、俺はまた聞き返してしまった。
「リィナ……お前は俺のことを、その……」
リィナの俺への好意を確認しようと、言い淀んでいると、彼女はそれを待たずに答えた。
「はい! 信仰しております!」
それは、積年の想いを打ち明ける少女のように、まばゆい表情で……だが、そう言って見つめられた彼女の瞳には、俺ではない"何か"が映っていた……
リィナの告白……の後、店主が紅茶を持ってきたので、いったん話を中断し、2人は喉の渇きを潤した。
(セレーネ……聞いてるか?)
「はいはい、アナタのセレーネさんですよぉ〜」
(茶化すな! ……なあ、さっきイリーナは確かに『信仰してる』って言ったよな?)
「言ってましたねぇ〜」
(それって、貴族流の『好き』とか『愛してる』って意味ではないよな?)
「そうですねぇ〜、『マンガ』や『ゲーム』『アニメ』もだいたい履修済みですが、多分違いますね!」
(……それが何かは知らんが、まあ、だよな……)
俺は、リィナの発言の意味を理解するために、さらに突っ込んだ話をすることにした。
「リィナ、もしも……俺たちが結婚したら、考えてることはあるのかな?」
俺の問いかけに、彼女は綺麗な所作で飲んでいた紅茶をテーブルに戻すと、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら答えてくれた。
「……はい! ございます! すこし、お話してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、聞かせてくれ……」
内心、鼓動が速くなっているのを押し殺して、彼女の話を聞くことにした。
「では! クロさまとわたくしが結婚したら、まず王家の別荘にクロさま専用の大聖堂を建てます! そこでクロさまには最上階に住んでいただき、下界との関係を完全に断っていただきます!」
「……うん!?」
「ご安心ください! クロさまには神として、ゆっくり余生を謳歌していただきます! 政務や財務などの雑務は、わたくしにお任せください!」
「いや、そうじゃなくて……」
「ふふっ……わかっておりますよ……クロさまも"男神"……必要なとき、すぐにこの身も捧げられるよう、直結した部屋を設ける予定です!……もちろん!」
リィナは、自身の計画を嬉々と説明し、最後に一呼吸入れると、ささやくように俺に告げた。
「……全員を迎え入れても……かまいませんよ……」
俺の紅茶を持つ手は、静かに震えていた……
――イリーナ編 リィナの計画――
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ついに、イリーナの本性が見えてきました。
もう、あの感触を気にしている場合ではなくなってしまいました……
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応援していただけたら、あの感触をもう一度……あるかな? ないかも?
▼次回予告
『イリーナ編 恋心の行方』
明日 21時 投稿予定です!!




