イリーナ編 素晴らしいもの
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『イリーナ編 素晴らしいもの』
お楽しみください!
――セレンディア城 地下礼拝堂――
話がひと段落した俺たちは、礼拝堂の椅子に並ぶように座っていた。
「いかがですか、クロードさま? わたくしの秘密基地は?」
「控えめに言っても『最高』だ! 俺が訓練時代にここを知っていたら、訓練そっちのけで入り浸ってたかもしれん!」
「まぁ! ご冗談を……それに、わたくしも当時は司祭さまといましたから、追い返されていたと思いますよ……」
「そうか……ならイリーナを味方につけて、なんとかやり過ごす方法を考えたかもしれないな!」
「ふふっ……それは、楽しそうですね!」
俺たちの会話は、いつもこんな感じだ……俺が冗談や大袈裟なことを言い、イリーナがときにマジメに、ときに笑って返してくれる。
貴族の嗜みかもしれないが、俺は彼女と何気ないことを話す時間が嫌いではなかった。
「……ところでクロードさま……なぜ、わたくしを選ばれたのですか?」
「うん? どういう意味だ?」
「いえ……3人のなかで、なぜわたくしが選ばれたのか、それが不思議で……」
どうしてかわからないが、イリーナは自身を過小評価するふしがあり、だから2人に劣る自分が選ばれたことに、疑問を抱いているのだろう。
「いや、それはだな……」
「それは……?」
「やっぱり、イリーナと一番付き合いが長いからな! それに2人も言ってたけど、イリーナが一番頑張ったんだから、イリーナを選ばないとって……あと俺のこの服もイリーナが用意してくれたんだなーって思い出したんだ……」
「……そうなのですね、ありがとうございます……」
俺の言葉に彼女は感謝の言葉を紡ぎ、手を前で組んで、祈りの姿勢をとっていた。
すると背後のセレーネが俺にささやく。
「クロードさぁん、やっぱりイリーナさんの声は聞こえません……」
(そうか……やっぱりそれってマズイよな?)
この国の主流な宗教は、セレーネを信仰する『セレーネ神教』だ。
それ以外の神を信仰しているとバレたら『異教徒』として罰せられてしまうかもしれない。
俺の心配とは裏腹に、セレーネの返答は要領を得ないものだった。
「うぅ〜ん、それは大丈夫だと思うんですよねぇ〜」
(大丈夫だと思うってどういうことだ?)
「それはですねぇ〜……」
セレーネが説明をしようとした、そのとき――
「クロードさま? いかがなさいましたか?」
「えっ? あーいや、本当に静かでいい場所だなーって思ってさ!」
「ふふっ、だいぶお気に召してくださったみたいで、嬉しいです……」
俺の苦し紛れの言葉に、イリーナは素直に喜んでくれた。
「クロードさぁん、さっきの話は後でしましょう!」
(ああ、わかった! 忘れるなよ!)
セレーネの言葉に同意すると、俺はイリーナとの会話に集中することにした。
「ところでイリーナは、旅が終わってからは、なにをしていたんだ?」
「わたくしですか? それなら、王族の人間として、様々な外交ごとに振り回される日々を過ごしておりました……」
「ああー、やっぱり俺たちのなかで一番大変そうな立ち位置だもんなー」
「そんなことは……でも、そうですね……戻ってきて早々に縁談の手紙が山のようにきた時は、頭を抱えてしまいました……」
「やっぱり、イリーナにもあったんだな……縁談」
「はい……クロードさまにも、縁談のお話がきていることは聞き及んでおりましたよ!」
「知ってたのか?」
「はい! ですから、どのお話も断られていることに、内心ほっとしておりました……」
「そ、そうか……」
「……はい」
俺はイリーナの言葉に動揺して、つたない返事をしてしまい、彼女も少ない言葉で返事が終わり、礼拝堂に静寂が訪れてしまった。
静かな時間が流れだし、俺は改めてイリーナを見つめた。
なめらかなプラチナブロンドの長髪に、きめ細やかな白い肌、そして澄んだエメラルドグリーンの瞳。
それだけでも目を惹くのに、女性的な柔らかさを思わせる体つきは、男なら放ってはおけないだろう。
そう思ってイリーナを見ていると、彼女がいつもの聖女服ではなく、ドレス姿だったことを忘れていた俺は、彼女の胸元をマジマジと見てしまった。
(これは……なんだ?)
思考が一瞬停止して固まっていると、イリーナが俺の視線に気付き、視線の先に自身の胸元があることに気付く。
すると彼女の口から、予想外の言葉が聞こえてきた。
「クロードさま、よろしければ……どうぞ」
彼女はそう言うと、俺の方を向いて体を前に突きだした。
「……ぅえっ!?」
俺は、人生史上もっとも情けない声を漏らしていた。
(どうぞとは!? なにをだ!? 今なにをどうぞって言ったんだ!?)
俺が言葉の意味を理解できずに混乱していると、イリーナが俺に問いかけてきた。
「クロードさま? ご所望だと思ったのですが、お気に召しませんでしたでしょうか?」
「えっ、いや、そんな、とんでもございません! 大変素晴らしいと思いますですはい!」
「そうですか……では、直接がよろしかったでしょうか?」
そう言ってイリーナは、胸元のドレスに手をかけている。
「あっ、うん! じゃなくて、なんでそうなった!?」
俺は、危うく言葉を間違えるところだったが、なんとか持ち堪えた。
「いや、クロードさん、言葉に出てましたやん!」
背後のセレーネが、なにか言った気がしたが、たぶん俺の気のせいだ。
そして、イリーナが不思議そうに、俺の問いに答えた。
「いえ、ですからクロードさまが、お求めになられていると思ったので……わたくしでよろしければ喜んで捧げようと……」
「なにをだ!?」
「すべてです!」
即答だった……
「いやぁ〜、おそろしく速い返答、私じゃなきゃ聞き逃してましたね!」
(お願いだから、黙ってて!)
「イリーナ……こういうことは、もっとお互いに思い合える関係になってからするべきだと思うんだ……」
「そう……なのですか?」
「そうなのよ!」
おかしい……俺は世間一般的な恋愛観の話をしているはずなのに、イリーナは俺の言葉に、違和感を抱くように質問してきた。
やはり貴族となると、恋愛と結婚は同一のものではないのかもしれない……そう思っていると、イリーナが納得したように返事をした。
「わかりました! クロードさまがそれを望まれるなら、わたくしは、それに応えようと思います!」
「お、おう! わかってくれたか?」
「はい! もちろんです! ですので明日、改めてお出かけでもいたしませんか?」
「お出かけ?」
「わたくし、外に出るにも護衛が必要なのですが、クロードさまが一緒なら、自由にお出かけできると思うのですが……いかがでしょうか?」
イリーナは、そう言うと俺に問いかけてきた。
「なるほど……それなら、俺にまかせろ! どこにでも付き合ってやるぞ!」
彼女の立場上、仕方ないとはいえ、自由に出かけられない苦痛は取り除いてあげたい……そう思って俺は、彼女の誘いに了承した。
「まぁ! ありがとうございます!」
イリーナは嬉しそうに微笑むと、また祈るように手を組んだ。
「……そろそろ、今日は帰るか?」
俺は彼女の祈りが終わるころを見計らって、声をかけた。
「……はい、今日はありがとうございました……」
「いや、こちらこそありがとう……送っていくよ」
「ありがとうございます……では、東の塔までよろしいでしょうか?」
「東の塔? イリーナの家じゃなくてか?」
「はい! 陛下にお願いして、東の塔でクレスさんとルーシェさんの3人でお泊まりしてるんです! よろしければ、クロードさまも西の塔に泊まれるか、陛下にお願いしてみますね!」
「そうか、それは助かるよ」
俺はイリーナの提案に甘え、彼女と共に陛下のもとに行き、西の塔の利用の許可をいただくと、彼女を東の塔へと送り届けた……
――イリーナ編 素晴らしいもの 完――
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
センシティブなイリーナとタジタジになるクロードさんを書くのは本当に楽しかったです!
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▼次回予告
『イリーナ編 偶像の正体』
明日 20時 投稿予定です!!




