クレス編 繰り返す、ハチドリ
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クレス回想編
【繰り返す、ハチドリ】
お楽しみください。
ーークレス セレンディア領内ーー
王都へつながる街道を走る馬車の荷台に、私は乗っていた。
「勇者が旅に出る日が今日って本当?」
「ああ、そうだよ! だから行商のみんなも一目でも勇者さま御一行を拝もうと、王都に集結してるんだよ!」
「へぇ〜、じゃあもうすぐクロードに会えるんだ!」
「なんだい、お嬢ちゃん? 勇者さまを知ってるのかい?」
「うん! 昔同じ村でよく一緒に遊んでもらってたんだぁ」
「ほぉ〜、要は『幼馴染』ってやつかい?」
「『幼馴染』?」
私は、聞き慣れない言葉に首を傾げてしまった。
「そうだよ、小さい頃から一緒に育った関係を指して『幼馴染』って言うんだよ!」
「へぇ〜、じゃあ私とクロードは『幼馴染』なんだぁ!」
私は行商のおじさんと楽しく話しながら、勇者の旅立ちに立ち会い、一緒に連れて行ってもらえないか、淡い期待をしていた。
そして、王都セレンディアに着くと街は祭りのような賑わいを見せていた。
初めての王都の街並みとその賑わいに圧倒されながら、私は城下町のギルドに向かうため、一際大きな建物を目指した。
ギルドの中に入り、受付にいた女性に話しかけた。
「あの、聞きたいんですけど、勇者の旅に同行する冒険者を募集してたりしませんか?」
冒険者ギルドになら、勇者と会うための正式な手段があるかもしれないと……そう期待を込めて受付の女性に質問したが、返ってきた言葉は期待を裏切るものだった。
「……申し訳ありません、そのような依頼は現在ございません」
「……そうですか……ありがとうございます……」
「いえ……アナタ、ここは初めてよね?」
「あ、はい! えっと、私こういう者です!」
私は、首から下げていた金のプレートを女性に見せた。
「あら! 金級冒険者さまでしたか……これは大変失礼いたしました」
「いえ……あの、実はもう募った後だったとかですか?」
私の質問に受付の女性は、少し考えた後、私に教えてくれた。
「はい……実は、そうなのですが……結局中止となりまして……」
「中止……ですか?」
「はい……私も詳しくは知らないのですが『金級以上』の冒険者さまを対象にした依頼だったみたいですよ……」
ーーーー
クレスと受付の話を聞いていたセレーネが、俺に問いかけてきた。
「クロードさぁん、さっきから話している金級ってなんですかぁ?」
「冒険者の証明で支給される、プレートのことだよ……最初は簡素な木製のプレートだけど、魔物の討伐を行って、冒険者としての位が上がると『白磁』『鉄』『銅』『銀』『金』ってプレートの材質が変わるんだよ」
「ほぇ〜、つまりクレスさんは、すでに高位の冒険者だったんですねぇ〜」
「ああ……でも、だからクレスは俺とは一緒にいけないんだ!」
「うん? どういうことですか?」
「……多分それは、この後わかる……」
俺の予想が正しければ、それはあの出来事が関係している……
ーーーー
受付の女性から、中止になった依頼について聞いていると、私たちの会話を横で聞いていた、男の冒険者が声をかけてきた。
「君、ちょっといいかな?」
「……はい、なんですか?」
私は、その男の問いに警戒しながら返事をした。
「いやなに、勇者の旅の同行の話が聞こえてね……同僚のよしみで教えてあげようと思って……ほら!」
そう言って男は、自分のプレートを私に見せてきた。
「金……級ですか……」
そのプレートはたしかに金色のプレートだったが、年季が入っていびつな形をしていた。
「そういうこと! ……ここだと受付の子が可哀想だから、そこのテーブルでいいかな?」
「ちょっと、ガットさん! 困ります!」
「大丈夫だって! 内緒の話にするから! それに、教えちゃった方が早いでしょー」
受付の女性とそんな話をして、ガットという男は受付から離れた立ちテーブルを指差して、私の同意を求めた。
「……わかりました、お願いします……」
私は、男の提案に同意して立ちテーブルへと移動した。
「さて……勇者の旅の件だけど、受付の子からはなんて?」
「……募集の依頼はあったけど、中止になったって……」
「まぁ、そういう建前になってるよなぁ〜」
「……? どういうことですか?」
男は周囲を確認してから、小さな声で事情を説明した。
「これは内緒の話だから誰にも言うなよ! ……勇者の旅への募集とその試験は確かに行われた……でも全員不合格だったんだよ!」
「……不合格?」
「そう! 不合格……まぁ俺もなんだけどさ……っでその試験内容ってのが、勇者と一騎打ちで実力を見せるってもんだ……」
「それで……全員ダメだったの?」
「ダメだったどころの話じゃねぇよ、勇者にだれも歯が立たなくて、挙句の果てに全員でかかったのに、瞬殺だよ!」
「そっかぁ、やっぱりすごいなぁ〜」
私は、クロードの活躍が聞けて、とっても嬉しかった。
それは、自分が追いかける背中がそこにあり、その隣に自分が立てる自信もついていたから。
「でも、私も腕には自信があります! きっと試験に参加できれば……」
すると、私の言葉を遮るように、男が絶望を突き付けてきた。
「金級程度じゃ無理だよ!」
「……えっ?」
私は男の言葉の意味を、理解できないでいた。
『金級程度じゃ無理』……それはまだ上があるということ? そういえば、受付の人も『金級以上』って言っていた。
でも金級の上の位なんて、聞いたことなかった。
「……その様子だと知らないみたいだから教えてあげるけど、ギルドには金級よりも上に【白金級】っていう最高位の位が存在する……ギルドから実力と功績を認められ、陛下のお墨付きまで貰ってやっとなれる位だよ」
「白金級……そんなのがあったの?」
「まぁ、片田舎の冒険者には縁のない話だからな! でその白金級ってのは、王都の『剣聖』と肩を並べるほどの実力者で、全部で4人しかいないんだ!」
同じ金級相手に失礼な人だと、私は思いつつ、楽しそうに白金級のすごさを語りだす男の話を聞いた。
「でだ! 勇者の試験には当然、その白金級の奴らも全員参加していたが……結果はさっき言ったとおり、あっさり返り討ちにあったってこと!」
「だから……私では無理だと?」
私は、実力も知らずに決めつけるように語る男に、睨みつけるように問いただした。
「……ああ、無理だね……なんなら証明してやろうか?」
男は、私の問いに、わざと煽るように返してきた。
私たちの会話が途切れ、周囲の喧騒に沈んでいくように静寂が流れた、次の瞬間――
テーブル越しに私の拳が、男の顔面に入る。
……っと思っていたが、私の拳は男に簡単に避けられ宙を切り、その腕を掴まれテーブルに叩きつけられた。
その勢いで、頭を突き出すように前のめりになってしまい、男の拳が顔面すれすれで止まった。
「……だから無理だって言っただろう?」
そう言うと男は、私の腕を離して立ち上がると、前のめりになったままの私の肩に手を置いた。
そして、男は私につぶやいた。
「俺たちを返り討ちにした勇者はね、その後こう言ったんだよ……『これじゃあ、連れていけない』ってね……」
そして男はギルドを後にした。
私は、自信に満ちていた自分の実力が、大したことがなかったと打ちひしがれていた。
街のギルドでは、自分よりも強い冒険者はおらず、『ハチドリ』という二つ名や『毒喰み』なんて忌み名を付けられてもてはやされていた。
それが王都に来て早々に世界の広さを思い知らされ、ハチドリは叩き落とされた。
2人の様子を見ていた受付の女性が、『大丈夫?』と声をかけてくれたが、私はそれを無視して、ギルドを後にした。
『これじゃあ、連れていけない』……それは彼らに向けられたはずの言葉なのに、自分のことのように私の心に突き刺さって抜けなかった……
そしてトボトボと歩いていると周囲の人たちが、騒がしく中央広場に集まりだした。
「勇者の出陣だー!」
その言葉に、ハッとなり群衆の奥に見える、騎士たちの行進を見つめた。
「クロード……」
小さく彼の名を呼ぶと、行軍がよく見える場所を探して建物を見上げた。
ちょうど出っ張った壁を見つけて私は、建物の屋根や壁をつたって、出っ張りに着地し、騎士団行列の中を目を細めて見て回った。
そして……私は、ひときわ大きい台車の上にいる勇者の姿を見つけ出した。
あの頃と変わらない、少しクセのある髪の毛、親しみやすいけどしっかりと整った顔、それは間違いなく勇者だった。
「クロード! いた……やっと、見つけた……」
私は、彼のもとへ行こうと体勢を変えたそのとき、ギルドで聞いた話を思い出した。
『金級程度じゃ無理』『連れていけない』あの冒険者はそう言って、邪魔をしてきた。
そして、その邪魔者を撃退するどころか、逆にやり返されてしまった。
その現実が、私の足が……はばたく羽が地面から離れることを許さなかった……
「おい! 聖女さまもいるぞ!」
私が飛び出すことを迷っているそのとき、群衆の一人がある女性の姿に気付き、声を上げた。
その声に、もう一度私は、クロードの立っている台車をよく見ると、彼の姿に隠れるように一人の女性が立っていた。
「きれぇ……」
クロードの横にいる女性を見た感想が、思わず口に出てしまっていた。
「あのお方が、国王陛下の血縁で、聖女の力に目覚めたイリーナさまか!」
「ああ、そうだよ! 聖女さまも勇者さまと一緒に魔王討伐の旅に出るんだな……」
「しかし、あの2人、絵になるねぇ」
「だな! きっと凱旋のあかつきには、2人の婚姻の話も出るんじゃないか?」
群衆のなかで、2人のことを妄想する声がいたるところでささやかれ、私の耳にも入ってしまった。
「聖女さま……? クロードのお嫁さん……?」
私のなかで、なにかが音を立てて崩れていく。
「……もっと、強くならなきゃ……クロードはもっと頑張ってるのに……」
私の願いは今でも変わらない。
「じゃないと……もっと遠くに……クロードが行っちゃう!」
私は、遠くに行ってしまう、クロードの背中をいつまでも見つめていた……
それは、あの雨の日に似ていた……
ーークレス編 繰り返す、ハチドリ 完ーー
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
学園物でもよくある『強豪校に行ったら、自分は底辺だった』みたいなお話でした。
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▼次回予告
『琥珀のピトフーイ』
明日、15時 投稿予定です!!
ただ今、期間限定の2話連続投稿キャンペーン中なので、明日もぜひぜひ、お読みくださいませ!




