クレス編 蠱毒
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クレスの過去編
【蠱毒】
お楽しみください。
――夜の森――
モス村までは大した距離じゃない……そう思って入った森のなかは、いつもの明るいときの景色とはまったく違う顔を見せ、彼女を迷わせた。
「おかしいな、もう村に着いてもいい頃なのに……」
彼女は、まだ気付いていなかった……すでに村への道から大きく外れ、森の深淵に向かっていることに。
「どうしよう……ぜんぜん知らないところに来ちゃった、なんで? どうしよう……」
もともと空腹を我慢して歩いていたクレスには、すでに正常な判断ができず、自身の状況を理解した頃には、絶望が彼女を支配していた。
「うそ!? どうしよう? なんで!? クロード助けてよぉ」
いるはずもない彼のことを呼び、もう歩く気力もなくなり、その場でうずくまってしまう。
「お腹空いた……ご飯食べたい……」
彼女は、なにか食べるものが残っていないか荷物をあさると、ある物が目に入った。
「これ、薬草と間違えた草だ……食べられるかな?」
それは毒草で、ギルドの引き取りを拒否された物だったが、今の彼女に正常な判断は無理に近かった。
「いただきます……苦い……不味い……」
そう言いながら、彼女は毒草を口にする。
すると、毒草の効果が、幼い体ゆえに、すぐに現れた。
「なんか、口がヒリヒリする……なんだろう? それにクラクラする……」
と自覚症状が出るころには、彼女は意識が混濁して倒れてしまう。
「あれ? なんで私横に……寝るならもっと安全なとこ……」
その瞬間――
彼女は、何度も嘔吐を繰り返し、気絶するようにその日は眠った……
それから何時間経ったのか、彼女はまた空腹のせいで目が覚める。
口には胃液の痕がこびり付き、異臭がした。
「そっか、昨日の草を食べて、すぐに吐いちゃって、疲れて寝ちゃって……」
彼女は、重くなった体を起こし、自分の居場所を確認するが、やはり戻り方がわからない。
「どうしよう、とりあえず食べ物を探さなきゃ」
そう言って彼女は、また行き先のわからない森のなかを彷徨いだした。
幸い、肉食動物の痕跡や気配はなく、ナイフを片手に持って、生えていた木の実やキノコを採取することができた。
しかし、どれも見たことのない物ばかりで、食べられるのかわからなかった。
「どうしよう、食べて大丈夫なのかわからないよ……食べちゃダメな物だったらどうしよう……」
お腹が空いて限界だったが、毒だったときの恐怖で食べることができない。
そう考えて悩んでいると、茂みのなかから大きさにして1メートルほどのヘビがクレスの前に現れた。
「……ヘビ! これなら食べられるかも!」
彼女は、残ったわずかな力を振り絞り、ヘビを捕まえた。
火を起こすこともできない彼女は、ヘビの皮を剥ぎ、肉だけにするとそのまま頬張った。
「……うぅ、もにゅもにゅする……」
食感は最悪だったが、久しぶりの肉とその血から取れる水分は、彼女の体力を回復させるには十分だった。
ただ一つ、そのヘビにも毒があり、本来は毒抜きが必要なことを除いては……
その日の夜、クレスは熱にうなされていた。
「頭痛い……気持ち悪い……熱いよぉ……寒いよぉ……クロードォ、助けてぇ」
彼女はだれもいない森の奥深くで、毒が抜け切るまでの数日をうなされて過ごした。
毒にうなされて数日、クレスはやっと起き上がることができた。
しかし、満たされたはずの腹はすでに枯渇していて、彼女はまた空腹に襲われていた。
「どうしよう、動く気力も体力もないよ……」
そう頭を悩ませていると、彼女の目の前に、数日前に採取した謎の木の実とキノコが目に入る。
「もう、なんでもいいや……」
彼女は、あきらめ混じりの考えで、それを口にする。
「……やっぱり美味しくない……」
その日の夜、彼女はまた毒に苦しむことになったが、昨日よりはまだマシだった。
そして次の日もその次の日も、この木の実は食べてもお腹を壊すだけ、このキノコはちょっとクラクラするなど、彼女のなかで食べ物は、害があるけど我慢できるかどうかに認識が変わっていた。
毎日体を壊してはうなされ、また毒を食べる。
あのヘビも毒が酷かったけど、一番マシで美味しかったからまた食べたい。
だから、食べ方を変えてみるけど、毒抜きを知らない彼女は、また熱にうなされて数日を過ごす日々を繰り返していた。
そしてある日、自身の異変に気付いた。
「あれ? この木の実、食べると口のなかがゴワゴワするはずなのに、今日はなんともないや……」
今まで、毒だとわかっていたけど食べていた木の実やキノコの影響が、明らかに軽くなっていることにクレスは徐々に気付きだした。
「なんだろ? 慣れたのかな? じゃあもっと食べても大丈夫だよね!」
そう言って彼女は、お腹いっぱいになるように食べて、その日の夜も体調を崩した。
しかし、確実に毒の影響を受けなくなっていた。
そう確信したのは、ヘビを食べたのにその日は、あまり熱にうなされなかったことだ。
「やっぱり私、毒に強くなってる?」
そう思った彼女は、いつもよりもお腹いっぱいに木の実やキノコを食べたことで、体力を取り戻していった。
そして、そんな毎日が繰り返されて数ヶ月が経とうとしていた頃、彼女は森からの脱出を果たし、もう一度冒険者として暮らし始めた。
そこからの彼女の活躍は目覚ましかった。
クエストでの稼ぎを、武器や防具といった道具に使い、宿代や食事代は、森の物で済ませることで必要としなかった。
そして、彼女は持ち前の小柄さで、戦場を飛び回り、いつしか『ハチドリ』の二つ名で呼ばれるほどの冒険者になっていた。
そしてなぜか彼女は、毒への対策が必要な魔物を好んで討伐するため、一部の冒険者からは『毒喰み』という忌み名で呼ばれるようになっていた……
「今回の魔物の毒は、ちょっとヒリヒリするけど大したことないかな? たしか牙と髭を持っていけば証明になるから、お肉ちょっと貰って今日の夕飯にしよっと!」
今日も彼女は毒抜きなど知らず、食べられるならタダという理由でなんでも食べてしまう悪食となっていた……
「なるほどぉ、彼女の毒無効のスキルは、修行とかではなくて、ただ純粋に生きるために食べていただけなんですね!」
「……そうだな……」
彼女の体験した壮絶な出来事に、俺はなにも言えなくなっていた。
「クロードさん、大丈夫って訳なさそうですねぇ〜、でも我慢してください! あとちょっとで終わりますから!」
「……ああ、わかってるさ……」
セレーネの『あと少し』の言葉に、俺は気持ちが軽くなる感覚を覚えつつ、クレスが感じた絶望はこんなものではないと思い、気持ちを切り替えた……
ーークレス編 蠱毒 完ーー
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
幼いクレスに、過酷なことをさせるのは、大変心が痛みつつ、筆が乗っていました……本当に酷い話です。
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▼次回予告
『繰り返す、ハチドリ』
本日、20時 投稿予定です!!
ただ今、2話連続投稿キャンペーン中です!
ぜひぜひ、お楽しみください!




