全てはここから始まった
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【全てはここから始まった】
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――3ヶ月前 魔王の城 最奥の間――
重く息苦しさを感じる通路のその奥に……奴はいた。
『魔王ベルガドーラ』
赤黒い岩のような皮膚、赤褐色の逆立った髪、側頭部から伸びる王冠のような巨大な黒い角、黒い目に赤い瞳、牙が生えた凶悪な人外の顔立ち。
25年前、世界の端の島に暗黒の城と共に突如として現れ、その城の最奥に女神セレーネを封印した存在。
そこから人間と魔族の長い戦争が始まった、すべての元凶たる魔族の王。
人類の勝利のために、女神セレーネ解放のために倒すべき存在が、玉座に座りこちらを睨んでいた。
俺は剣を構え、魔王を睨み返す。
そして魔王が玉座から立ち上がり低く短く言葉を発した。
「来い!!」
その声を皮切りに、俺は剣先を魔王に向け突進し、そしてそれに合わせるように仲間たちも動き出す。
純白の修道服に身を包み、長い金髪を揺らし『聖女イリーナ』が身体強化の魔法を仲間たちに付与する。
俺の突進に勢いが増し、その勢いのまま魔王に斬りかかる。
だが、片手で軽々と受け流され、魔王の反撃の拳が俺の顔面めがけて振り下ろされる。
俺は紙一重でそれを躱すが、その拳圧は凄まじく、避けたはずの体が吹き飛ばされてしまう。
その隙を見逃さず、魔王が俺に飛びかかろうとした瞬間。
スリットの入ったローブを翻し、ブルーのロングヘアをなびかせた『魔女ルーシェ』が、無数の炎弾を魔王に放つ。
その場で動きを止めた魔王に、動きやすい軽鎧を身に纏ったオレンジ色のショートヘアの『軽戦士クレス』が、素早く近づいて両手の小剣で魔王とすれ違いざまに斬りかかる。
魔王の後ろに出たクレスは、振り向きざまに風の魔術で作った風の刃を飛ばし追撃を行う。
2人の攻撃に翻弄され魔王がよろけている隙に、イリーナの神聖術が部屋を覆うように展開される。
味方の身体強化と共に敵の身体能力を低下させる高等術だ。
俺は長い深呼吸を一度だけ行い、剣に光魔法を付与し、再度魔王に向かって走り出す。
その動きに仲間の3人は、目を合わせることもなく、自らの役割を理解し動き出す。
クレスが魔王の周りを持ち前の素早さと風魔法の応用で動き回り、斬り付けては距離をとって撹乱する。
そして、ルーシェが特大の雷球を作り出し、クレスが魔王から離れた一瞬を狙って放ち、魔王の動きを雷の衝撃で完全に鈍らせる。
その隙に俺は天高く飛び上がり、剣を振り下ろす為の姿勢に入る。
だが魔王も、俺の動きをしっかりと目で追っている。
魔王は飛びかかろうとする俺に対し、魔力を込めた拳を振り上げる。
先ほどの攻撃とは違い、凄まじい拳圧は確実に死を宣告する恐怖の塊だ。
しかし、俺は姿勢を変えることなく、魔王に剣を振り下ろす。
なぜならイリーナが神聖術で、1度きりの完全防御術を付与すると信じていたからだ。
魔王の拳が、俺に当たる瞬間、イリーナの防御術で弾かれた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺の雄叫びと共に、光の剣が魔王の体を斬り裂き、魔王が膝をついた。
「入った!!」
俺は確信めいたものを感じたが、構えを崩さず魔王を睨みつけた。
息を整えながら体勢を直す魔王は、自身が負った傷を確認し、俺たちに静かに語りかける。
「見事だ……」
魔王は不敵な笑みを浮かべながら、俺たちへ短い賞賛の言葉を口にした。
「我は戻ってくる……待っていろ……」
誰もが息を呑んで立ち尽くしているなか、不穏な言葉を残して、魔王は霧散して消えたのだった。
「終わったのか……?」
しばらくの沈黙を破り、呆気ない最後に戸惑いつつも、魔王の気配が完全に消えたことで、緊張の糸が切れた俺は尻餅をつく形で座り込んでしまった。
(終わった……俺たちの長かった戦いが終わったんだ!)
心の中で戦いの終わりに歓喜していると、背後からクレスが思いっきり抱きついて来た。
「クロードー、やったよ! 私たち勝ったんだね!」
感極まってるとは言え、幼馴染でもあるクレスはいつも距離感が近くてちょっと困る。
俺はそう思いながら、俺の首を絞めそうになるクレスの腕をなんとか解こうとした。
「ほら、また怪我してる。私がいないとすぐこれなんだから」
クレスは優しい笑みを浮かべながら、俺の頬の擦り傷を指でなぞった。
「やめろ、お前は俺のオカンか!?」
「おか……」
俺の言葉がそんなにショックだったのか、クレスはへたり込んでしまった。
「まったく! 本当にアンタは無茶な戦い方をして、もっと頭を使った戦い方は出来ないの?」
そんな呆れた物言いをしながらルーシェが近づいて来た。
彼女はとても知的だから、俺の直感的な戦い方が気に入らないらしい。
「いやぁ、ちゃんと考えてたぞ! ルーシェがフォローしてくれるって信じてたんだ!」
ルーシェの叱責に、俺は笑顔でそう応えると、彼女は明後日の方を向きながら喋り出した。
「そ、そんなこと言ったって! ぜ、全然嬉しくないわよ! バカじゃないの!」
ルーシェとはそれなりに長い時間一緒に過ごしたけど、あんまり距離が縮まった気がしなかった。
「わるかったよ……心配させてすまん……」
俺はルーシェに謝ると、彼女は慌てた様子で話し出した。
「別に怒ってないわよ! ……まったく……」
「みなさん、ご無事ですか?」
そう言ってイリーナが待機させていた従者の手を借りながら、俺たちの方に歩いて来た。
「イリーナ、大丈夫だ! 最後の魔法助かったよ!」
そう言ってイリーナへ感謝の言葉を口にした。
「いいえ……クロードさまのお役に立てることが……わたくしの全てですから」
イリーナは謙遜した返しをしながら、俺の前で膝をつき、頬に手を当てながら回復術を使った。
その眼差しは、神像を見つめる信徒のように深く熱い。
「イリーナ、たいした傷じゃないから、そんな真剣にやらなくて大丈夫だぞ?」
「いいえ、わたくしがしたくてそうしてるのです、どうぞご遠慮なさらず……」
そう言ってイリーナは、俺の傷の治療が終わると、静かな口調で話し始めた。
「クロードさま……あちらの方から強い力を感じます。」
強い力、それは封印された女神から漏れ出た魔力のことだろう。
俺は立ち上がると、イリーナの示す方向に向き直した。
確かに、魔王の城とは思えない光の波動を微かに感じた。
「行こう」
静かにそう言って歩き出すと、俺を追いかけるように駆け出したクレスが急に座り込んでしまった。
「あれ? ゴメン、さっきの戦いで足痛めちゃったみたい」
「クレスさん、大丈夫ですか? 足を見せて下さい」
イリーナは、クレスの足首が赤く腫れているのを見て、腫れた部分に手をかざして回復術を使い出した。
「気が抜けたのね。周りに敵の気配はしないから、安心して傷を治しなさい」
ルーシェは2人にそう言うと俺に視線を向けた。
俺はルーシェにうなずいて2人を任せると、1人で女神の封印された場所まで向かうことにした。
微かに感じる光の波動を頼りに、城の奥に向かう通路を歩いていると、巨大で重厚な作りの扉を見つけた。
「ここか?」
独り言を漏らし、扉に手をかけると、あることに気がついた。
「……封印が解けている?」
封印をどうやって解くのか、破壊は可能なのか悩みながらここまで来たのだが、その扉には封印がされておらず、後はこの重い扉を開けるだけだった。
魔王が消滅したからなのか、それとも別の理由か……
「……罠か?」
俺はわずかな可能性を警戒しつつ、扉に渾身の力を込めて、扉を開け放った。
その瞬間、部屋の中から漏れていた暖かな光に包まれ、俺は目を細めた。
光で先が見えないながらも、そこに女神がいることを確信した俺は、徐々に慣れてきた目を開けながら女神へ声をかける。
「女神セレーネ! 助けに参りました!」
そして……完全に光に慣れ、視界が開けたその瞬間——
そこにいたのは、椅子に座ってテーブルに肘をつきながら、パンとパンの間にタレ付きの肉の塊が入った何かを頬張る、女神セレーネだった。
「くぅ! やっぱり人間界の食べ物って最高!! コレがチェーン展開されてるって神過ぎない!? って私が神だったわぁっ……て、あれ?」
そこにいたのは封印された女神……ではなく、ご馳走を食べながら1人で騒いでいる、頭の悪そうな女だった。
「はぁ?」
――全てはここから始まった 完――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
まったく綺麗に終わらない、お話でしたね!
クロードが助けた(?) 女神セレーネとの、今後の掛け合いを、どうぞ楽しみにお待ちいただければ幸いです。
▼次回予告
『平穏は女神によって砕かれた』




