1話 平穏は女神によって砕かれた
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1話 『平穏は女神によって砕かれた』
お楽しみください。
――3ヶ月後 勇者の屋敷――
朝の日の光に眩しさを感じ目を覚ます。
魔王を討伐し女神を解放した俺は、その功績の褒美としていただいた領地で悠々自適な暮らしを満喫していた。
朝、誰かに起こされることなく、気が向くままに目を覚まし、使用人の老執事のセバスが用意した朝食を、ゆっくりといただく。
そして朝から晩まで、趣味の釣りや領民との交流、領地に迷い込んだ魔物の討伐などをして過ごし、夜は家で食事を摂り、風呂を浴びて、泥のように眠りにつく。
食事バランスの悪さでクレスに叱られることも、イリーナの清めの時間を気にして長風呂を断念することも、成果が無かった日の釣りでルーシェに呆れられることもない。
冒険の日々では、ありえなかった日常を、誰にも咎められず、満喫することができた。
ただ一つを、除いて。
「セバスさん! これ美味しいですね! おかわりいただけます?」
「もちろんでございます。すぐにお持ちいたします!」
今日も適当に目を覚まし、朝食をいただこうと、ダイニングに足を運ぶ。
するとその女は当たり前のように、人の家で朝食を食べていた。
月光のような透き通るシルバーロングの髪、神秘的な黄金色の瞳、神々しい白の聖衣を纏い、顔だけ見れば、息を呑むほどの絶世の美女。
俺の認識が正しければ、あれは女神セレーネだ。
しかし、それと同時に、魔王の城の奥で、今みたいに大きな口を開けて食事を楽しんでいた人物だ。
「あの女神様? なぜ私の屋敷でお食事をなされているのですか?」
相手は女神だ。俺は礼儀をもって彼女に、今の状況の質問をした。
「なぜって……お腹が空いていて、そこに美味しそうな食事があるから食べてるんですよ! あっセバスさん、スープおかわり〜!!」
「かしこまりました!」
そう言うとセバスが当然のように、スープのおかわりを女神に出すため動きだす。
「待て、セバス! おかしいだろう? なぜ見ず知らずの相手に食事の用意をしてるんだ?」
俺は彼女を女神と知っているが、セバスは初対面だ。
屋敷に入り込み、更には食事の要求をする不審者など、追い出すか取り押さえて捕まえるかするのが普通の反応だ。
そう思っていると、女神セレーネが説明する。
「無駄ですよ〜、神には『神愛』という権能があって、魔力耐性がない人だと無条件で『尽くしたい!』ってなるんです、便利でしょ?」
「なっ……!? とりあえずセバス! お前はあっちの部屋で待機だ! 俺が良いと言うまで戻ってくるなよ!」
そう言ってセバスをその場から逃がすと、俺はもう一度、目の前の女神に問いただした。
「女神セレーネよ! 重ねての質問で恐縮ではありますが、なぜ私の屋敷でお食事をなされているのですか?」
俺の質問に対し、頬張ったベーコンを呑み込むと、フォークを俺に向けて女神が言い放った。
「そのことでクロードさん! アナタにクレームを言いにきたんですよ!」
「クレーム? ……ですか?」
聞いたことがない言葉に首を傾げながら、女神の言葉を復唱した。
「そうです! 私はアナタに願いを叶える約束をしましたよね?」
「願い事ですか? そう言えば……」
俺はあの日の記憶を思い起こす。
死と隣り合わせの激闘のなかで魔王ベルガドーラを倒し、封印された女神を解放したあの日のことを……
――3ヶ月前 封印の間 【回想】――
「願いを言え……ですか?」
俺は女神セレーネの急な発言に質問で返していた。
「はい! アナタは見事、魔王ベルガドーラを倒し、私をこの封印から解放してくださいました。その功績に報いるため……アナタの望みを叶えてあげましょう!」
女神セレーネは、先ほどまでの大口を開けて食事をしていたのが嘘みたいに、威厳のある雰囲気を出しつつ、俺に願いを叶えることを告げていた。
「何でもかまいませんよ! 例えば金持ちになりたいとか?」
「いや……帰れば王から褒美が貰えるからお金に困ることは無くなるかと……」
「では、絶対的な力が欲しいとか?」
「魔王は、もういないので、それは不要かと……」
「それなら、自分だけのハーレム……じゃなくて、女の園を作って美女をはべらせたい! とか?」
「それは、さすがに不誠実ではないですか?」
「じゃあ、何ならいいんですかぁ!!」
度重なる提案を断っていたら、女神セレーネが機嫌を損ねながら、聞き返してくるので、願いを必死に探したが特に思い付かなかった。
「いや……今は早くみんなと帰って休みたいとしか」
「はぁ……全く無欲にも限度がありますよ」
「すみません……」
(何で、謝っているんだ?)
と内心思いながら、女神の次の言葉を待っていると。
「わかりました! アナタが心の底から叶えたい願いができるまで、願いを叶えるのは保留にしましょう!」
「保留ですか?」
「はい! その時が来たら、会いに来ますから安心して望みを探してくださいね! ではでは、また会う日まで〜、じゃあね〜!」
そう言って女神セレーネは、謎の光に包まれて扉の隙間から外に向かって飛び出し空に向かって消えて行った。
――3ヶ月後 勇者の屋敷 【現在】――
「あぁ、あの時の?」
俺は女神セレーネとの話を思い出し、彼女に問い返す。
「そう! あの時のです! そしてアナタはまだ願いを叶えていませんよね!?」
女神セレーネは、力強く俺に聞き返してきた。
「確かにまだ何も望んでいませんが、それがどうかしたのですか?」
「どうかしたのか? ではありません!! 大問題なんです!!」
彼女は、テーブルを思いっきり叩きながら体を起こす。
「アナタの願いを叶えていないことが原因で、天界に帰れなくなっちゃったんですよ!!」
「はい……?」
天界が何なのか、名前からなんとなくわかるが、願いを叶えていないだけでなぜ帰れないのか、理解できないでいると。
「良いですか? 女神が願いを叶えると言ったのに、何も叶えずに天界へ帰るなんて、詐欺みたいだって! 天界のゲートキーパーに、願いを叶えるまで帰って来るなと追い返されたんですよぉぉぉ!!」
彼女は、天界のルールとか、ゲートキーパー?とか聞いたことのない話の説明をしているが、要は願いを叶えれば帰れるらしい。
「そうだったのですか! では願いを叶えれば帰れるのですね?」
俺は早く帰ってほしい気持ちを抑えつつ彼女に質問するが。
「そうです! だからって適当な願いではダメです! アナタが本当に心の内から叶えたい願いでないといけません!」
(そんな……馬鹿な!?)
俺は彼女の話を聞き愕然とした。
王から褒美と領地を貰い、何不自由無く毎日を過ごす現状で、願いなんて思い付く訳がない。
「ちなみに……帰ってほしいなんて願いは?」
「却下です!」
「ですよね〜」
(終わった……)
どうすれば良いのか頭を回らせていると彼女は続けざまにおそろしいことを言い出した。
「なので、クロードさんの願いを叶えるまで、ここでお世話になりますのでよろしくお願いしますね!」
「……えっ?」
「だって大変だったんですよ! 天界から追い出されて、クロードさんを探し回って西へ東へ、北へ南へ飛び回ってやっと見つけたんですから! ねぎらってください! いたわってください!! 感謝してくださいぃ〜!!」
彼女の理不尽な要望に、怒りの感情を覚えながら、おそらく俺が折れない限り、この会話は続くのだろう……と諦めの感情が勝ってしまった。
「わかりました女神さま。私の願いを叶えるまで、どうぞ我が家で心ゆくまでお過ごしください」
「本当ですか!? イエェ〜イ!! 言質取った〜!!」
彼女は喜びの歓声を上げ、俺を見つめ返す。
「では、クロードさん! これからよろしくお願いしますね! あとさっきからその喋り方、凄くこそばゆいので普通に喋ってくださいね!」
「はぁ、わかりま……わかった」
「よし!」
彼女は、俺にくだけた口調を許すと、機嫌が直ったのか、残った食事を食べ始めた。
(悪夢だ!)
俺は心の中で落胆し、窓の外に目をやった。
今日も世界は平和で、幸せな日常が流れるはずの安息の地は、今日で終わりを告げるのだった。
「セバスさん! ベーコンおかわり〜!」
「は〜い! ただいま〜!」
無邪気な声が、世界が終わる音に聞こえた……
――平穏は女神によって砕かれた 完――
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
女神セレーネの居候話でしたが、殴り飛ばしたくなりましたね!
▼次回予告
2話『王からの招待状、地獄(見合い)からの誘い』
このあと直ぐにお読みいただけます。




