冥界攻略編 勇者らしからぬ振る舞い
——コロッセオ——
『さあ、次は誰が行くのかな? 永住権は早い者勝ちだぞ!』
ヴォルナールの声が、コロッセオに響き渡り、観客だった人々を煽っていた。
「女を殺れ! 男は危険だ!」
そして俺が大男を倒した光景を見た観客たちは、狙いを仲間たちに向けた。
だが、クレスは掴みかかろうとする男の手を、軽々と避けて、腹に向かって蹴りをお見舞いする。
イリーナも、どこから取り出したのかわからないメイスを振り回して、男たちの近づく隙を与えない。
ルーシェは精霊術で火の壁を作り、近づいてきた男を水の精霊術で押し返した。
「おいおい、こいつら全員強いぞ」
「どうする? みんなで一斉に飛びかかるか?」
「そんな捨て身、誰がやるんだよ!?」
俺たちの力量を理解した観客たちが、尻込みし出すのを見て、俺はこのまま、この場をやり過ごして、ヴォルナールの元に行けないかと考えた。
だが、ヴォルナールはそれを許さなかった。
『おいおい! テメェら! 怖気づいてんじゃねえぞ! なんならテメェら全員、処分してもいいんだぞ!』
その言葉に観客たちの怯えが増した。
だがそれは、尻込みして立ち止まっていては、『転生』の対象として選ばれることへの恐怖だった。
観客たちが、俺たちに向かって一斉に飛びかかってきた。
俺たちは、迫り来る観客たちに極力致命傷を与えないようにして戦うが、いつまで保つかわからなかった。
さっきの大男の時は、とっさのことで仕方なかったとはいえ、彼らにも痛みを感じると聞いていた。
だからできるだけ、傷つけたくはなかった。
『オラオラ! もっと景気良く逝けよ! 相手は、手加減して戦ってるぞ!』
「……ちっ!」
ヴォルナールが俺たちの思惑を読んで余計なことを言うから、観客たちの意識からやり返される恐怖が薄れ、そして何もしないで殺される恐怖が上回っていく。
「クロードぉ! こっちも本気でやらないと、ちょっとキツいかも!」
「くっ! ルーシェ! ヴォルナールに向かって精霊術は撃てないか!?」
「もうやったわよ! けど、強力な防壁で防がれた! あんな強力な防壁、いったいどんな奴が張ったのよ!?」
「クロードさま! 一旦防壁を張ります!」
イリーナの言葉に、俺たちは彼女の元に集まった。
それと同時にイリーナが周囲に防壁を張り、観客たちを足止めした。
観客たちが防壁を攻撃している間に、俺たちは息を整えて作戦を練った。
「みんな、消耗は?」
「なし!」
「わたくしも問題ありません」
「強めの精霊術を何回か使ったから、精霊たちを少し休ませたいわ」
「わかった! ルーシェ、禁術以外は試したんだな?」
「ええ、けど全然ダメだった、乱発すれば防壁を突破できるかもしれないけど、そのあと私は魔力切れで無防備になるかもね」
「この状況じゃ、それは危険過ぎるな……」
まだ禁術が残っているが、強力過ぎて敵味方問わず被害が出てしまうし、それでも突破できなければ意味がない。
それに、防壁もいつまでも保つ訳ではない。
打開策が見出せないなか、またヴォルナールの声が響き渡った。
『オメェら! 今からこの光景を外にも見せてやるから、さっさと殺すんだな! じゃねぇと、外から来た奴らに先を越されるぞ!』
その声に、沸々と怒りが込み上げてくるが、今はこの状況をどう打開するのかが先だった。
最悪、手加減せずに戦えば、観客たちはなんとかなると思うが、消耗した状態でヴォルナールとその部下たちを相手取れるのかが問題だった。
「どうするクロード? いったん退いて体勢を立て直す?」
「ダメよ! もし逃げたら、観客たちが処分されるだけよ!」
クレスの提案を、ルーシェがすぐに否定した。
「ああ、その可能性は高いだろうな、なんなら俺たちが戻るまで、1人ずつ処分するとかやりそうだな……」
俺は半分皮肉のつもりで話したが、正直ヴォルナールなら本当にやりかねないと、もう半分は思ってしまった。
するとまた、ヴォルナールの耳障りで騒がしい声が聞こえてきた。
『そうだぁ! ガキどもを呼んでやろう! さあ、勇者さま! 幼くして命を落とした可哀想な子供たちを斬れますかなぁ!?』
ヴォルナールの言葉どおり、広場への扉が開くと、そこからぞろぞろと幼い少年少女たちが現れた。
「……やろうぉ!」
俺は怒りのあまり、声が漏れてしまう。
ヴォルナールは、俺たちが本気を出せばこの状況を打開できることを理解していた。
だから、それをさせないために、あらゆる手を使ってくる。
それを理解した時には、すでに俺たちの最悪の手段は潰されてしまっていた。
「……クロードさま、わたくしに一つ提案がございます」
イリーナの言葉に、俺たちの視線が彼女へと向けられた。
この状況で、どんな手段が残っているのかわからないが、イリーナが無謀な作戦を提案することはないと信じていた。
「……聞かせてくれ、イリーナ」
俺の言葉に、イリーナがうなづいて話し出した……
——ベガス 外の通り——
客間でクロードとイリーナが復讐の話をする前、話を聞かせないよう、リアラに連れられて外に出ていたララティアは、ベガスの街並みを見ていた。
「ララちー! 見てあれ! めっちゃキレイなアクセがいっぱいだよ! 見に行こうよ!」
「えっ? う、うん……ねぇリアラ、まだ帰らないの?」
リアラに言われて色々な店を見て回るが、ララティアはクロードの元から離れるのが嫌で、早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「えっ? う〜ん、そうだねぇ……実は、帰るタイミングがわかんないからウチも悩んでたんだよねぇ……」
「……帰りたい……」
リアラの言葉に、ララティアは素直な気持ちを打ち明けた。
「あぁ、ごめんねララちー……そろそろ帰ろっか!」
「……うん……」
2人がクロードの元に戻ることを決めたその時、忙しなく音楽が流れていた装置が止まり、そこからヴォルナールの声が、ベガスの街に響き渡った。
『ベガスにいる愚民ども! 愚かなお前たちに、謀王ヴォルナールが褒美をやろう! 今、コロッセオにいる獲物を殺した奴に、この街での永住権を与えよう! さあ、早い者勝ちだ! コロッセオに急げよ!』
その声とともに、上空にコロッセオの様子が浮かび上がり、そこには観客たちと戦うクロードたちの姿が映っていた。
「なにこれ? クロっちたち、なんであんなことになってんの!?」
突然のことにリアラが驚いて慌てるが、ララティアはすぐに近くにいた魔族の男の腕を掴んで話しかけていた。
「おじさん、コロッセオってどこにあるの?」
「ああん!? なんだテメェ!? なに気安く話しかけ……」
「どこ!?」
——とある魔族の独白——
その瞬間——俺は死を覚悟した。
「何故って? そりゃあそうだろ? だってあの瞬間、目の前のお嬢ちゃんが魔王さまに見えちまったんだ! 魔王さまにケンカを売った俺は殺されても文句は言えねぇよ! 逆になんで殺されなかったのか、不思議でしょうがねぇよ!」
——とある魔族の独白 完——
「こここ、この先の道を真っ直ぐ行ったところの大きな建物です!」
「……ありがとう」
そしてララティアは、翼を広げて空高く飛び立った。
「ちょっ! ララちー!」
リアラはとっさにララティアを呼び止めるが、その声はララティアには届かなかった……
——コロッセオ——
イリーナの出した作戦に、俺たちは乗ることにした。
確かにそのための布石は打っていた。
だが一回きりの出たとこ勝負、失敗すれば最低最悪な戦い方を強いられる。
だから俺は、ただこう言うしかなかった。
「頼む!」
みんながうなずくのを見て、俺は作戦を実行に移した。
「クレス! イリーナを頼む! ルーシェは俺とだ! イリーナは合図をしたら防壁を解いてくれ!」
俺とクレスは武器を鞘から抜かずに構え、敵陣に突っ込む用意をした。
(セレーネ、聞こえるか? 一つ聞きたいことがある)
『はいはぁ〜い! 聞こえてますけどぉ、手助けはできませんよぉ?』
(わかってる、だからこれだけ教えてくれ!)
『はい?』
セレーネと話した俺は、みんなに合図を送るための秒読みを始めた。
「3……2……1……行くぞ!」
俺の合図とともに、イリーナが防壁を解いた。
そして俺とクレスは、防壁が解けて群がってきた敵に向かって駆け出した。
敵に駆け寄った俺は、剣を打撃武器のように薙ぎ払い、敵をまとめてふき飛ばした。
クレスは敵と敵の間を縫うように素早く駆けながら、短剣を敵の顎や腹に当てて、敵を悶えさせた。
『さあさあ! 獲物が覚悟を決めて突っ込んできたぞ! テメェらも覚悟を決めろや!』
その声に、俺は足を止めてヴォルナールのいる観覧席へと視線を向けた。
そしてセレーネに教わったポーズを、ヴォルナールに向けた。
「ヴォルナール! お前は絶対に俺が斬る!」
俺は前に突き出した拳の中指だけを立てて、大声を張り上げて、ヴォルナールに吐き捨てた……
——冥界攻略編 勇者らしからぬ振る舞い 完——
【お知らせ】
8/10から続けてきた【冥界攻略編】7日間15話の集中更新は、本日の更新で終了となります!
お読みいただきありがとうございました!
『やり直し勇者は溺愛される』はこのまま連載継続し、次回は8/19(水)21時頃更新予定です。
以降は通常どおり、月・水・金の21時頃更新へ戻ります。
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