32-9 報告
「そう……か。わかった、まず二人の報告を聞こう」
ネルソンは残念そうに頷いた。アルの事をもっと聞きたかったようだが、とりあえず今は無視だ。アルは父を含めてその場にいる全員が見えるように大きな再生用の窓を記録再生呪文を使って出し、発見した2つの蛮族の集落を見せた。父を除く4人は記録再生呪文をつかったこのような再生窓は初めて見るらしく、最初はあっけにとられていたが、途中からは身を乗り出して映し出される状況を食い入るように見ていた。
「なるほど、これほど大きな集落が……。だから鉄鉱山への蛮族の襲来は止まぬのか」
大きな集落を空から俯瞰した光景を見てフォード男爵がひきつった声で呟いた。ギュスターブが頷く。
「父上、この大きな集落を討伐するため、騎士団を派遣していただけるようにパーカー伯爵閣下に訴えを出そうと思います。オリバー卿、フェリシア卿。その為の報告書の作成に協力してもらいたい」
その言葉にオリバー卿とフェリシア卿はもちろんと真剣な顔をして頷いた。
「その前に映し出した、もう1つの集落については、アルフレッドに協力してもらってわが子爵家のみで討伐しようと考えております。今見て頂いた通り、以前、討伐した鉄鉱山に比べてゴブリンの数は多いですが、上位種でいえばホブゴブリンが2体、ゴブリンメイジとゴブリンシャーマンがそれぞれ1体ずつ増えたのみです。私とオーソン、オービルでなんとか対応は可能だと判断しました」
ギュスターブの声にアルは頷いた。この作戦については来る途中に馬車の中で相談を受けていた。あの時に比べて呪文も増えているし、警備ゴーレムも使えるので大丈夫だろう。
「大丈夫なのか? たしかにあの作戦は危なげなかったとは聞いているが……」
ネルソンは心配そうだ。
「私たちもできれば参加できないでしょうか? もちろんまだ十分に戦えると自負しております。アルフレッド殿の戦いを間近で見てみたい」
オリバー卿が提案してきた。たしか彼は30才を超え力のピークは過ぎてしまっているだろうが、それでもかつては子爵家の騎士団長を務めていた人物であり、騎士としても十分戦えそうである。横のフェリシア卿はまだ若く、騎士としての力は十分もっているだろう。もちろん人数が多いほうが良い。だがギュスターブが少し考えてから軽く首を振った。
「私も含めて3人共ここを離れるのはあまり……。アルフレッド、あと何人いける?」
ギュスターブとオーソン、オービルの3人の体重はどれぐらいなのだろう。以前調べた時には熟練度は12だった。ということは360キログラムが運べる計算である。鎧などの装備品や荷物、馬たちは釦型のマジックバッグに収納し、身一つで乗るとすれば、あと1人ぐらいは乗れなくはないかもしれない。若しくはオーソンかオービルのどちらかが下りれば2人とも来られなくはない。オーソンは腕は立つが騎士ではないし、オービルは高い所が苦手なのだ。
「僕が運べる重さは上限があります。350キロぐらいでしょうか。何人運べるかというのは乗せる人の体重の合計次第です」
「俺とオーソン、オービルの合計で270キロぐらいだろう。ということはあと80キロか。やはり、オリバー卿かフェリシア卿のどちらかでお願いしたい」
オリバー卿はギュスターブの返答に残念そうな顔をしながらも頷く。ギュスターブの中ではオーソンとオービルは連れて行くのが前提らしい。よく知っている者と連携するほうがいいのかもしれない。
「わかった。フェリシア卿行くか?」
「はい。よろしくお願いします。ギュスターブ卿、いつ出発になりますか?」
オリバー卿の言葉にフェリシア卿は頷き、ギュスターブに尋ねた。
「明日……でも良いでしょうか? 父上、アルフレッド」
「忙しいな。でもわかった」
「はーい」
アルは答えてから、父とギュスターブが目で咎めて来ているのに気がついた。もっと言葉遣いに気を付けたほうが良いらしい。姿勢を正し、ハイと強く言い直し、その後思わず頭をガシガシと掻くのだった。
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「おかえり、アルフレッド。遅かったのね」
以前はマーロー男爵のものだったらしい立派な邸宅の中を入っていくと、母のパメラが出迎えてくれた。ぎゅっと抱きしめられて、アルは以前と変わっていない事に嬉しくなった。
「ただいま、母さん」
アルもぎゅっと抱きしめ返す。先に来ていたオーソンとメアリーもその後ろから出てきた。一緒に帰って来た父ネルソンはメアリーに久しぶりだなと声をかけていた。会議などで使っていた言葉づかいとは一変して以前の口調である。2人の公務が終わるのを待っていたので日はすっかり暮れていた。
「父さんがいつもの口調に戻った」
「気になったか? 仕方ないだろう。周りに王家から派遣された男爵や元男爵が居るんだぞ。今までなら頭を下げて命令を聞いていた相手なのによ。急に立場がかわっちまった」
ネルソンの話にアルは苦笑いを浮かべた。確かに仕方ない事かもしれない。
「ごめんね。とりあえず父さん、子爵位叙爵おめでとう」
アルの言葉にネルソンが首を振る。
「ありがとう……って、何か違うな。この子爵位は本来、アルフレッドが受け取るべき褒賞で、俺は代わりに受け取っただけだろう。俺としてもそろそろ限界だ。さっさと戻って来て子爵家を継いでくれ。俺はチャニング村にもどってのんびりしたい」
「いやぁ、無理だよ。僕はこれから蛮族に対抗するために古代文明ではどういうことをしていたのか、調べようとおもっているんだ。それにテンペスト王国での役割もあるしね。シプリー子爵家は父さんとギュスターブ兄さん、ジャスパー兄さんでよろしくお願いします。手伝いはするからさ」
ネルソンの言葉をアルは即座に否定した。ネルソンは口を尖らせ、不満そうな顔をすると、パメラを見る。見られたパメラは苦笑を浮かべた。
「お父さん、アルフレッドがこう言うのは判っていたでしょ」
「それはそうだが……」
「父さん、おねがい」
アルは頭を下げる。ネルソンはまだ不満そうだったが、やがて諦めた様にため息をついた。
「わかった。とりあえず3年だ。3年経てばアルフレッドも20才になる。その時にまた答えを聞かせてもらおう。ギュスターブもそれでいいか」
その様子を見てギュスターブは苦笑いしながら首を振る。
「親父、アルフレッドはゴーレム頭という、シルヴェスター王国ではなじみのない役職に就いた。貴族たちは皆、その役職がそれほどすごいものではないと思っているみたいだが、東セネット子爵閣下に聞くとかなり重要な、それこそ宰相にも匹敵するほどの役職らしい。その話は親父にもしただろう? それを考えればここには戻って来ないさ。元々3男で家を出た身だ。そのあたりはセオドア王子殿下もわかっていらっしゃるよ」
ネルソンは渋い顔をした。
「それはそうだが……。でもな、俺自身は何もしていないのに子爵様になるなんて、気持ち悪いじゃないか。ギュスターブも思わないか?」
「親父の感覚は正しいと思うが、それでも、いや、まぁいい。親父の言う通り3年待つということにしよう。どちらにしろ、何があったとしてもここはアルフレッドの故郷であり、いつでも帰って来れる場所であることには変わりない」
アルは頷いた。セオドア王子は何らかの思惑があって父を子爵にしたのだろう。もちろん国の蛮族対策としてという事も考えられる。それに家族がここで貴族として遇されている以上、テンペスト王国とシルヴェスター王国との間で事件が起これば、アルは全力でそれを解決しようとするだろう。そう言った事も期待しているのかもしれない。
「食事の用意はできているわ。そろそろ食堂に行って食べながら話をしない?」
パメラがそう言葉を挟んだ。たしかにお腹もすいた。
「うん」
「そうだな」
「ああ、そうしよう」
パメラの言葉に、みんな揃って食堂に移動したのだった。
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