32-10 中規模集落討伐
翌朝、アルとギュスターブ、オーソンが準備を整えて政務館の中庭に到着した時には、既にフェリシア卿とオービルは既に中庭で待っていた。2人はアルが指定したように軽装で鎧を含めてほとんどの荷物を馬に積んでいる。
「おはようございます」
アルが声をかけると、2人はその言葉遣いの丁寧さに驚いたようすだったが、すぐにおはようございますと返事を返して来た。ギュスターブは呆れ、オーソンは苦笑している。
「2人ともご苦労だった。今日はよろしく頼む。アルフレッド、空を飛ぶときの説明をフェリシア卿にしてやってくれ。ついでに軽く飛んで適性もみてやってほしい。オービルも新しい試みをしているので試してみろ」
「うん」
オービルがまだ少し苦手かもしれないというのも含めて、飛行には苦手な人も居るのだというのをギュスターブに昨夜説明をしていた。フェリシア卿がオービルの父、オズバートのように極端に苦手であれば連れて行くのは難しい。先に軽く確認をしておくべきだろう。
ギュスターブの言葉にアルは頷き、運搬呪文を使う。今日はいつもの椅子ではなく鞍の形である。鐙もあり、鞍の前には手で掴める棒のようなものも付けた。これはアルから話を聞いたギュスターブが、騎士なら椅子よりも鞍にまたがるほうが落ち着くのではないかと思いつき、昨夜色々試してみた結果であった。
実際に乗ってもらうと2人にはこれが好評であった。フェリシア卿はもちろん、いつもなら身体を強張らせるオービルも椅子の形では落ち着かないが、鐙に足を乗せ、太ももで鞍を挟むこの姿勢なら全く問題ないと答えてくれたのだ。アル自身では思いつかなかった発想で、他人と相談するといろいろと進歩するのだなと感心させられたのだった。
「じゃぁ、出発します。荷物と馬は師匠に借りてきたマジックバッグに一旦全部収納しますね」
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アルたちは順調に空を飛び、2時間程で蛮族たちが高山の山肌に築いた中規模集落が見下ろせる場所に到着した。安全な場所でまずは作戦会議である。ここで希望者には呼吸確保呪文なども使っておく。
アルが上空から浮遊眼呪文を通して見える現在の中規模集落の様子を記録再生で映し出し、その再生窓の映像と実際に見える中規模集落の様子を見比べながらどう攻めるかの検討をした。
「ここの尾根からみんなで力押しすれば十分だろう」
ギュスターブが再生窓の映像の一か所、尾根道の北側を指さす。中規模集落に通じる道は南北に細くあるだけである。
「そうですね。ゴブリンの数は多いですし、上位種も居るので分散せず5人で固まって行動したほうが安全です。この道の細さなら囲まれることも少ないでしょう。南に逃げていくのも居るでしょうが、今回の作戦ではこの集落を潰すことが目的であって、完全に根絶やしにする必要はないので挟み撃ちなどして兵力の分散はするべきではないと考えます」
フェリシア卿がそう答えると、オーソンとオービルも頷いた。あとは、呪文を使うラミアや上位種であるホブゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンシャーマンの位置やその対処方法を整理しておく。といっても、アルの援護呪文があれば、金属鎧を着ている騎士であれば大きく致命傷を受けることはないと思われるので、いくつかの状況を想定して誰が対処をし、誰が援護をするかという連携の確認が主だ。
作戦会議が終わり、アルは再び飛行呪文で中規模集落から尾根伝いに伸びる道の南側、少し離れたところに移動した。そこでアル以外の4人は鎧や武器を装備し直し、愛馬たちに軽く食事をさせた。アルは警備ゴーレムを1体、マジックバッグから取りだし、盾呪文、魔法抵抗呪文、打撃強化呪文などを使って4人を強化しておく。警備ゴーレムについて初めて見る3人の反応は先日のオービルと全く同じで、結局、後日模擬戦をすることを約束させられたのだった。
「じゃぁ、行くか。数は多いので油断はするな」
先頭はオービル、次にフェリシア卿、ギュスターブと続く。この3人は騎乗している。大きな岩もごろごろしている荒れ地なのだが、3人にとっては問題ないらしい。その後ろに続くのがアルとオーソン、警備ゴーレムだ。こちらは徒歩(厳密に言うと、アルは飛行呪文で少し地面から浮かんだ状態)である。基本的な作戦としては、3人の騎士が突撃して暴れ回り、アルが呪文で支援、オーソンは遊撃、警備ゴーレムはアルの護衛というものであった。
「突撃―っ」
ギュスターブの掛け声と共に3騎がゴブリンの集落に突っ込んでいく。全身金属鎧と馬鎧で身を固めた騎士の突撃に不意を打たれたゴブリンたちは簡単に蹴散らされていく。最初に遭遇した上位種はホブゴブリンであったが、これはオービルが槍で簡単に身体を貫く。
「やるな、オービル」
「アルフレッド様の呪文のお陰です。この呪文のかかった槍を使っていると、まるで相手に骨がないみたいです」
3人はどんどんと前に進む。敵の数がある程度増えると、アルが味方を対象外として魔法の火花群呪文を撃ち込み一気に数を削っていく。
“アリュ、前に出過ぎよ”
気がつくと、徒歩のオーソンやアルの護衛のはずの警備ゴーレムを置き去りにしてしまっていた。蛇行している細い道を飛行状態であるアルは簡単に横切れるが、徒歩の2人はそうはいかない。慌ててアルはオーソンたちと歩調をそろえる。
“アリュ、南と東”
ゴブリンメイジとゴブリンシャーマンがぼろぼろの小屋から姿を現したが、彼らが攻撃呪文を唱える前にアルは長距離魔法の矢呪文を放つ。今日はオーソンたちに不意打ち対策は任せ、いつもなら背後を警戒しているアルの浮遊眼の眼は上空に浮かんでいる。戦場全体を俯瞰して見ているのだ。その映像の中にグリィは標的とすべき相手に印をしてくれていた。アルはそれに対して呪文を放つだけの簡単な役割である。
それでも、盾呪文の熟練度が高いと苦戦するかもしれないとアルは少し心配していたが、実際にはゴブリンメイジの熟練度が低くて盾の枚数は2枚、ゴブリンシャーマンは盾呪文を使いすらしていなかった。結局、アルが飛ばした矢の本数は3本ずつで初撃で決着がついたのだった。
そのようにして蛮族の集落の大半を殲滅させた頃、集落の南側にあった穴からラミアが頭を出した。巣穴の位置はわかっていたのでおおよそ想定通りである。まだ最前線の3騎からは大小の岩があって見えない位置であった。ラミアの周囲をギュスターブたちから逃げてきたゴブリンがちょろちょろと走り回っている。
「穴からラミア出てきたよ。距離は30メートルぐらい」
アルが大声を出して上空の浮遊眼から得られた情報を前方で戦っている3騎に伝える。ギュスターブたちは軽く頷く。まず、一歩オービルが前に出た。槍の一番根元あたりを右手で握りしめる。
<薙払>槍闘技 --- 範囲攻撃技
槍はブンブンと風を切る音をさせた。巻き込まれたゴブリンたちは吹き飛ばされ、それより遠くにいた者たちはその勢いに怖気づいた様子で後ろに下がる。
「十分です。行きますよ」
フェリシア卿が声を上げて前に出た。彼女は槍の中心あたりで両手を交差させるように持っている。オービルが彼女と入れ替わるように後ろに下がった。十分ですというのは彼女が何かするための場所が確保できたということか。
<槍回>槍闘技 --- 範囲攻撃技
彼女は右左に自在に槍を持ち替えて振り回しつつ、オービルが確保した空間を利用して助走をつけ、馬を一気に進める。その進路にいたゴブリンたちは一気に吹き飛んだ。穂先に当たって手足が飛んでいる個体も居る。闘技というのをアルはよく知らないが、槍闘技の範囲攻撃技というのは1種類ではないらしい。
『長距離魔法の矢』
フェリシア卿の攻撃と呼吸を合わせ、浮き上がって射線を確保していたアルの掌から青白い矢のようなものが6本、ラミアに向かって飛んだ。六角形の盾のような光が5つ立て続けに浮かび上がり、最後の1本がラミアに刺さった。だが、ラミアの鱗は堅いようで、すこし青黒い血が出ただけだ。
「よし、よくやった。予想通りだ。任せろっ」
<突撃>槍闘技 --- ダメージ増加技
ギュスターブは鐙で馬の腹を軽く蹴った。馬はそれに応えるように軽く嘶く。フェリシア卿が切り拓いた道を一気に疾駆していく。ラミアは両手のかぎ爪を立てて対抗しようとするが、ギュスターブの槍がラミアの腹に突き立つのが先だった。アルの呪文攻撃によって盾呪文は効果を失っており、槍はそのままラミアの身体を貫通する。
「ギャギャギャギャ……」
ラミアはそのまま事切れたのか、力なく地面に倒れ伏した。ゴブリンたちはクモの子を散らすように一気に逃げ出し始めた。
「ふぅ、うまくいきました。やったーっ」
「うんーっ、やったね」
オービルが肩で息をしながら槍を突き上げる。アルも思わず両手を上げて喜んだ。
「待て、喜ぶのは戦いが終わって無事が確認できてからだ」
ギュスターブが真剣な顔をして2人を窘める。そうだった。オーソンや警備ゴーレムは混乱してアルたちに向かって逃げてくるゴブリンたちとまだ戦っている。
そこからはゴブリンを掃討するのに3時間ほどかかり、集落に平穏が訪れたのは昼すぎの事だった。蛮族の死体は全てマジックバッグに回収する。一部上位種はパーカー伯爵への報告の際に使用するし、ここに放置しておけば、また蛮族がこれを食べて増えるかもしれないので処分する必要があるのだ。
カサーバと思われる芋やそれの栽培手段となる蔓も確保した。これについてはアルも見本としていくつか持ち帰り、研究塔で育ててみようと思っている。
臭いに耐えながら丹念にゴブリンのゴミ捨て場も浚う。その結果、人骨の一部がいくつか出てきた。何人分かわからず、もちろんイングリッドのものかどうかもわからない。だが、さすがにそこまで昔のものではなさそうな気もする。動物変身呪文をこの人骨の一部で使用すれば髪の色などは判るかもしれないが、それが判ったとて何の慰めになるわけでもないだろう。
ギュスターブの許可を得て、これらは持ち帰り、マーローの街に慰霊碑を立てる事にした。
魔道具や呪文の書、宝石など価値のあるものはほとんど見つからなかった。数枚の銀貨や銅貨程度である。
捜索が終わった後、アルはギュスターブたちと相談して小屋らしきものやその他ガラクタは全て集めて燃やしてしまった。残しておくとまた何かに利用されてしまうかもしれない。その炎を見ながら、アルは改めてこれら蛮族をきっと何とかするのだと心に誓ったのだった。
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