32-7 攫われた子供の探索 後編
蛮族の大きな集落の敷地は広く、アルがオプションをフルに使って全周囲に視界を拡大した浮遊眼呪文をもってしても捜索するのに4時間がかかった。それでもきちんと捜索できたと言えるのは疲れを感じないグリィとコーリンの協力があってこそであった。アルだけではすべてをチェックするための集中力がとても続かなかっただろう。だが、その捜索でも攫われた子供2人の痕跡を見つける事ができなかった。そして残された懸念が2つあった。集落のほぼ中心にある北から南に流れる川の周りに堆積したゴミの山と、蛮族の上位種が持つ魔道具である。
そのうち、ゴミの山のほうは掘り返す事ができなかったのですべては探索できたとは言えないが、表面は一通り見、あたらしい人骨や衣服等は発見できなかったので可能性は薄いと言えるだろう。
問題の魔道具は3つである。そのうち2つはホブゴブリンのさらに上位種であるゴブリンスローターの腰に下がっている袋からうっすらと見えた魔道具の反応であった。4体居たゴブリンスローターのうち2体は何らかの魔道具をもっていたのだ。袋の中にあったので何かはわからないが、マジックバッグのようなものであれば、そこに子供、あるいは子供の遺体を収納することは可能だろう。可能性はどれだけあるのかは全くわからない。残る1つはゴブリンシャーマンのさらに上位種らしい個体の首からぶらさがっていたおそらくアシスタント・デバイスと思われる魔道具であった。アルは仮にこのゴブリンシャーマンより頭がかなり大きい個体をゴブリンハイシャーマンと呼ぶことにした。
ゴブリンスローターとゴブリンハイシャーマンとの力関係はよくわからない。だがいずれもゴブリンより2段階もの進化を重ねており、簡単に倒せるものではない。それより上位種は見つからず、ゴブリン種以外にはオークの姿しかなかった。
「どうしよう?」
真っ暗な中でアルはオービルに問いかけた。オービルは力なく首を振る。さすがにこの集落を2人で討伐するのは無理そうだ。
「一旦戻ってギュスターブ様に報告し、今後どうするか相談されてはいかがですか。まだ探せていないところがあるかもしれません」
オービルの言葉にアルは肩を落とした。意気込んで探索に来たが、子供2人の行方はわかりそうにない。この大集落についてはなんとかしないといけないとは思うが今すぐというのはかなり厳しい話となる。もし討伐するのなら大規模に騎士団を動員しないとだめだろう。
いつ頃から行われているのかはわからないが、このカサーバの栽培によってゴブリンはこの集落で大量に増え続けているにちがいない。鉄鉱山からたった10キロほどしか離れていないところでだ。他にも同じような大集落はあるのだろうか。この規模の蛮族の集落がいくつもあると想像するとぞっとする。いつかはなんとかしなければならないだろう。
だが、今は子供の探索が優先だ。
「そうだね。2人の捜索で他に出来る事が無いか聞いてみよう。こっちの集落の話はそれとは別に報告してもらわないとだね。帰ろうか」
2人は急いでギュスターブの居るファラー村に向かったのだった。
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ファラー村に帰って来たアルたちが村に一歩踏み入れると、数時間前と雰囲気が全く変わっていた。ウロウロと不安そうに歩く者の姿はなくなり、ぴりぴりと緊張していたものが和らいで、何か落ち着いて静かに見えたのである。村の広場に居た従士の一人に何があったのかとオービルが聞くとその従士は2人が見つかったのだと教えてくれたのである。
「なんだって?」
オービルの驚きの声に気がついたのか、ギュスターブがテントから出てきた。
「アルフレッド! オービル! ようやく帰って来たか。行方不明だった2人がみつかったのだ。筏にのって流されてきたのを救出されていたらしい。2人共ショックで寝込んでいて出身地がわからず、今日の夕方になって連絡がきたのだ。他の部隊には伝令をだしたのだが、2人には連絡のしようがなくてな」
「わぁああ、よかった」
「おおーっ、よかった」
アルとオービルは肩を抱き合って喜ぶ。本当に良かった。襲撃された際に出た犠牲はあるものの、攫われた幼い子供は皆助かったのは救いであった。雰囲気の変化は村全体が行方不明の子供に対する焦燥感から犠牲となった3人を悼むものに変わっていたからだろう。
「筏っていうのは?」
「うむ、まぁ、テントに入れ。それでな……」
アルが気になって尋ねる。ギュスターブはアルたち2人を自らのテントに案内し、椅子に座るように勧めると説明をしてくれた。最初子供たちが襲われたのはミュリエル川の川原であったらしい。そこに居た子供たちというのは初級学校の年少組である3才~6才が5人、彼らの面倒を見ながら遊んでいた年中、年長組が5人であった。
アルが救出した2人が言っていた友だち3人というのは年少組の残り3人ということだったのだろう。そこにミュリエル川をゴブリンの集団が粗末な筏のようなもので渡って来たらしい。川原で初級学校の生徒たちが帰宅途中に遊ぶのはよくあることであり、それを狙われたのではないかということだった。
年中、年長組が年少組を庇って抵抗し、そのうちに大人たちもゴブリンに気がついて参戦してなんとか撃退したのだが、その際に年少組5人のうち一番の年少の3才の男の子を除いた4人がゴブリンに手を掴まれて筏に乗せられてしまったという話だった。
その後、それと同じ筏らしきものに子供2人が乗った状態でミュリエル川を流れているところを3キロほど下流の別の村の住人が発見したらしい。その時には既にゴブリンは乗っておらず、いまにも分解してしまいそうな筏に2人の子供は必死にしがみついていたらしい。何らかのアクシデントで筏は対岸に戻れなくなり、子供2人が筏に残されたのだろう。
「川の捜索はしてたんだよね」
アルの問いにギュスターブはもちろんと頷く。
「対岸にもかなりの人数を割いて探索し、付近の村にも流れ着いた子供が居ないか尋ねさせていたのだがな。保護していたのは村から少し離れたところにこの季節、一人で住んでいたという変わり者の猟師だったそうだ。筏を発見した後苦心して岸に寄せ、ぐったりしていた2人の子供を自分の狩猟小屋に運び手当をしてくれていたらしい。残念ながらそこから一番近くの村長も2人の子供をその男が保護していたのを知らず、猟師も保護した子供の容態があまり良くなくてその看護のために連絡がすぐにできなかったそうだ」
蛮族や魔獣と出くわすリスクを考えれば珍しいが、獲物の生態に合わせて狩猟小屋などでシーズンを過ごす猟師など居ないわけではない。アルに狩猟をおしえてくれたモリスも同じような事をしていたし、このあたりでは蛮族や魔獣と出くわす頻度も下がっているのでこういう猟師も増えているのだろう。とりあえず無事でよかった。本当に良かった。
「とりあえず亡くなった3人には気の毒だったけど、4人は無事見つかって良かった。それでね、兄さん。見つけた蛮族の集落についてなんだけど」
「ああ、どんな様子だった?……ちょっと待て、その前に2人とも腹は減ってないか?」
ギュスターブは身を乗り出しかけて、一度止まる。
「あ、ちょっと減ってるかな。軽くは食べたけど……」
「用意させよう。パンとスープなら残っているはずだ。マルティナ頼む」
ギュスターブはテントの中に居た従者らしい若く背の高い女性に指示を出した。その女性はテントから急いで走っていく。アルの知らない顔である。アルはそれを見送って椅子に座り直す。
「新しく雇った人?」
「ああ、全然人手が足りなくてな。マーロー男爵家に仕えていた者だが身元調査もしてある。信頼できるから大丈夫だ」
急に子爵になったせいか。そっちの話もしたいが、順番に話をしよう。
「わかったよ。じゃぁ、とりあえずこれを見て」
アルは順番に2つの集落の状況を記録再生呪文で映し出して見せた。2つめの大きな集落の様子を見てギュスターブはかなり驚いた様子でオオと大きな声を上げる。途中でマルティナと呼ばれた従者が食事の載ったトレーをもってきてくれた。それを食べながら、アルは報告を続ける。
「問題はこの芋だよ。カサーバっていう毒のある芋だと思うんだけど、簡単に栽培できるらしい。ゴブリンはこれを食べて増えているみたいだ。この栽培を教えているのが、ゴブリンシャーマンっていうゴブリンの上位種、こいつだとおもう」
アルはゴブリンシャーマンが枝を切り分けてゴブリンたちに配っている姿を見せた。
「毒があるのか? 人間は食べることができない?」
「わかんない。僕も話をきいたことがあるだけで実物を見た事が無い。調べれば何か判るかもしれないけど……」
ギュスターブは苦い顔をした。
「こんなに増えているのか。その前の高い所の集落なら潰せるかと思ったが、これほどの規模の集落となると、パーカー伯爵閣下と相談せねばいかんな」
「そういえば、父さんは子爵閣下になったらしいね。全然知らなかったよ」
唐突なアルの言葉にギュスターブは噴き出した。
「本当にお前は何と言うか……呑気だな。全部お前さんと爺様の功績なのにまるで他人事だ。セオドア王子殿下、パーカー伯爵閣下から使者が来た時には親父も俺もひっくり返ったんだぞ。内政も治安維持もまだまだ落ち着いてない。親父には直接謝っておいたほうがいいぞ」
ギュスターブは呆れるような口調であった。アルはうん、落ち着いたら一緒にマーローの街に行くよと返事をして頭を掻く。
「高い所の集落は此処からどれぐらいかかる?」
「距離はそれほどでもないよ。ここからだとミュリエル川をわたって北西に6キロか7キロといったところだろうね。飛行呪文で飛べば30分もかからない。でも徒歩だと何日かかるかはよくわからない。標高が2500メートルぐらいあって、たぶん尾根伝いにしか行けないと思うんだ」
アルの答えを聞いて、ギュスターブは真剣な顔をして考え込んだ。
「そうか。わかった。どちらの集落もどうするかちょっと考えさせてくれ。とりあえず今日はもう遅い。明日また相談しよう。アルフレッドのベッドは俺の隣に用意してある」
ギュスターブもどうするか考えてくれるらしい。もう真夜中を過ぎているだろう。急に疲れが襲って来た。3人は立ち上がった。
「うん、そうだね。オービル。今日はお疲れ様でした」
「はい。ギュスターブ様もアルフレッド様もお疲れさまでした。失礼します」
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