32-6 攫われた子供の探索 前編
顔が強張ったままのオービルに心の中で応援を送りながらアルは低空飛行で南下を始めた。高い所を飛ばなかったのは期待した中規模集落で子供の手掛かりを見つける事ができなかった以上、少しでも可能性があるところは全部見ておく必要があると考えたからだ。
途中で10体ほどのゴブリンが暮らす小さな蛮族の集落をみつけ、中規模集落と同じように浮遊眼呪文を使って丹念に探したが結局子供は発見できなかった。今後の事を考えて魔法の竜巻呪文で潰し、死骸はマジックバッグに回収する。それを3回ほど繰り返してもうすぐ大規模集落が見えるというところまで来た頃、オービルは高いところに慣れてきた様子でとぎれがちではあるものの会話ができるようになっていた。
「アルフレッド様、その大規模集落と仰っている所はどれぐらいの数の蛮族が居たのですか?」
オービルの問いにアルは首を振る。
「すごい数だよ。空からは見たけど、地上からは一部しか見てないからね。はっきりとはわからない。1000体ぐらいは居たかもしれない。ゴブリンだけじゃなく、オークとかもいたんだ。だからオークに呪文を使って変身して潜入できたんだけどね」
「オークに変身?!」
オービルは怪訝そうな顔をする。
「うん、物語で悪い魔女にカエルに変身させられる話とか聞いたことない? それと同じようにオークに変身する呪文もあるんだよ。あ、この呪文とかは秘密だよ。今回の探索で使った呪文は詳しく他の人には言わないでね。魔法の竜巻呪文や魔法の矢呪文、飛行呪文ぐらいなら大丈夫だけど、変わった呪文が使えるとかわかると変に思われちゃうかもしれないからさ」
そう前置きしてアルはオービルに動物変身呪文やオーク変身呪文について説明をした。同じ手はつかえないかもしれないが、チャニング家に代々仕えている家の長男であるオービルには知っておいてもらったほうが今後のためになるかもしれないと思ったのだ。
「わかりました。秘密にしておきます。すごいですね。そんな事ができるなんて。馬とかになったら遠い所でも……ってそれは飛行呪文で十分なのか」
利用方法を考え込むオービルにアルは苦笑を浮かべた。
「馬に変身している間は呪文も使えないし、服も着たままじゃだめだからね」
そう言ってアルは自分の服をつまんで見せた。浮遊眼呪文で中規模集落を調査しながら鎧作成呪文で作った革製の服(上下+靴)から着替えたのはオービルも知っていた。アルは言葉を続ける。
「前回は上空から偵察した時に檻に子供が居たのを発見したから、そっちを優先に考えていきなり潜入したけど、今回は浮遊眼呪文で集落の様子を詳しく調べてからにしようと思う。ただし、浮遊眼呪文はあまり離れたところからだとすごく疲労しちゃうからできるだけ大規模集落に近づいておきたいんだ」
「なるほど。その探索をされている間の身体の方の護衛はお任せください」
オービルは心得顔で頷いた。騎士団でも馬車に乗った魔法使いが浮遊眼呪文をつかって付近の警戒などをすることはあるのだろう。
「うん、よろしく頼むよ。一応、ゴーレムも出すようにはするけど」
オービルの槍の腕前はどれぐらいなのだろう。騎士団の従士として兄ギュスターブの補佐をしていたぐらいだから少なくともアルよりは強いはずだ。
「ゴーレム?」
「うんうん、古代に施設の警備のために使われていたゴーレムでね。以前遺跡を探索したときに手に入れたんだ。あ、これも内緒でお願いね」
知っておいて欲しい事をいろいろ説明しているうちに大規模集落に到着した。ここに来るまでに中規模集落ではかなり調査に時間をかけたし、小さな集落も潰したので日はかなり傾いている。集落の周りはまだ多くのゴブリンが歩き回っているようだが、空を飛んでいるゴブリンメイジの姿はない。30分ぐらいかけて森の中の崖で岩と岩の間に人の入れる隙間を見つけてそこに潜り込む。
「ここで一晩休憩して明日調査と言う感じですか?」
「ううん、そんなことをしてたら子供がどうなるか……。がんばってこのまま調査するよ。一応中間報告を手紙送信呪文で送るけどね」
そう言って、アルはマジックバッグから取り出したように見せかけつつ、移送呪文をつかって研究塔の移送空間から羊皮紙、干し肉やドライフルーツなどの保存食を入れた袋、水袋などを次々と取り出した。
「いろんなものが入っているのですね。いただきます。おいしそう」
オービルはアルから水袋と保存食の袋を受け取ると中を確かめ、干しあんずを取り出すと早速口に運んだ。
「うん、急に仕事を頼まれることがあるからね。数日分ぐらいはいつも用意してあるんだ」
アルはいままでの調査結果やこれまでの経緯を羊皮紙に書き記すと、手紙送信呪文でファラー村のギュスターブとチャニング村のジャスパーに送る。それを済ませると、今度は本当にマジックバッグから警備ゴーレムを1体取り出した。オービルは物珍しそうにその警備ゴーレムをじっくりと見る。
「それがゴーレムですか。すごいです。手が剣になっているのか。どれぐらい強いのですか?」
「うーん、セオドア王子の警護を務めていたベロニカ卿と一度だけ模擬戦をしたことがあるけど、技量的には彼女のほうがだいぶ上って感じだった。スタミナ面ではゴーレムは疲れ知らずなんだけどね」
オービルは警備ゴーレムに興味津々の様子だった。騎士や従士はみんなそんな感じなのか。日が完全に暮れても大丈夫なようにオービルには知覚強化呪文もかけておく。これにもオービルは目を丸くして驚いた。
「じゃぁ、ちょっと浮遊眼呪文の眼を行かせるね。周囲の警戒はよろしく」
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(注:ここ以降にゴブリンの生活描写が入ります。かなりショッキングな描写もありますので読み飛ばしていただいても結構です。シンプルなまとめをあとがきに入れておきます)
アルは大規模集落を浮遊眼呪文の眼で端から順番にゆっくりと移動させた。そこでまず目についたのが集落のいたる所に生えている8本指のある手のひらのような大きな葉をもち、茎はひょろ長く垂直に立ち上って高さは3mほどもある植物だった。識別呪文によるとこれがカサーバらしい。アルの知る芋とは違い、ツルなどではなくまるで木のように見える。しばらく眼を移動させていると丁度カサーバの木を倒している所に出くわした。ゴブリンが寄ってたかって木に群がると、あらかじめ石で削ってあったらしいところからぽきりと木は折れた。折れた木の根を掘り出すと、そこには細長い芋が30個ぐらいついていた。早速ゴブリンは奪い合い、生のままで皮ごとかぶりつく。
「あれって毒があるんじゃなかったのかな」
思わずアルは呟く。ゴブリンしか知らない調理方法があるのかと思ったのだが、そうではないらしい。そのままゴブリンたちは満足したのかその場から散っていった。
違う所では、螺旋が描かれた布をまとったゴブリンシャーマンが大げさな儀式のような身振りをして倒されて放置されているカサーバの木をナイフで切り分けていた。その様子を見ていたゴブリンたちに一本ずつ渡している。ゴブリンたちは嬉しそうにそれを受け取ると散っていって、思い思いの場所にそれを挿した。
“ゴブリンが農業なんてって思ったけど、上位種であるゴブリンシャーマンが指導しているのならできなくはないのかもね。あの枝だけで増えるらしいわよ。もちろんきちんと根がつかないのも多いのかもだけど、1本の木から2本か3本でも育てばそれだけでも十分ってことなんじゃない?”
急に集落の中で慌ただしい動きが起きた。ゴブリンたちが一つの小屋に集まっていった。そこから死んだゴブリンが空き地に引きずりだされてくる。そしてゴブリンたちは大騒ぎをしながら、仲間の死体を食べ始めた。アルは思わず気持ちが悪くなって眼を閉じる。
“ねぇ、あれって、カサーバを食べて死んだんじゃない?”
他の理由もあるとは思うがその可能性もあるのかもしれない。ゴブリンなら芋が体調の良くない理由であると思いつかないのかもしれないし、毒があっても死に至るのはごく一部だけであり、それは気にしないということではないだろうか。強いものだけが生き残り、弱いものは死んでもいい。それがゴブリンの考え方なのだろう。アルは胃のむかつきに耐えながら探索を続けるのだった。
★ゴブリンの生活をみてわかった事のまとめ
・カサーバを大集落のいたる所で栽培している。
・カサーバを増やすために枝をタンレヴに仕えるゴブリンシャーマンが配布していた。
・カサーバの毒が原因となって死ぬゴブリンも居るようだが、ゴブリンはそんな運の悪い仲間の事は気にしない。
読んで頂いてありがとうございます。
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誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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