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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第29話 王都奪還

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29-7 王都包囲

 テンペスト新生騎士団はその後10日をかけて王都に到着した。通常より日数がかかったのは負傷した騎士・従士たちの手当と騎士団の再編、さらに次々と合流してくるノーマ伯爵などの高位貴族たちの騎士団の調整が必要だったためだ。

 日数は余分にかかったものの、プレンティス侯爵家が占領していた王都を囲むテンペスト王国新生第1、第2騎士団及び諸侯連合騎士団はおよそ6万を数える規模となり、プレンティス侯爵家が占領していた王都は完全に包囲されたのだった。


 包囲が完成した日の夕刻、王都を望む丘の上につくられた本陣には第1、第2騎士団の主だったメンバーの他、ノーマ伯爵など高位貴族や配下の騎士団長などが集められた。

 パトリシアのすぐ横に警備ゴーレムだけでなくジョアンナも居たので、アルは少し離れたテントの中にドリスに変身してもらったディーン・テンペストと共に座ったままで、いつものように呪文の練習などを繰り返していた。


「諸侯の騎士団がこれほど集まるとは壮観です。これもパトリシア王女殿下の威光のなせる業です」


 王都を囲む軍勢の様子を眺め、第2騎士団の騎士団長パウエル子爵が満足気な様子でパトリシアにそう語りかける。


「私だけではありません。皆の尽力でついにここまで来ました」


 パトリシアの答えに、他の直属騎士団の幹部たちは感慨深げに何度も頷いた。プレンティス侯爵が国王を弑逆し、新たな王を名乗ったのは去年の春のことであった。それからおよそ1年と9か月、雌伏の時を経て遂にここまで来た。パトリシアはゆっくりとその場にいる高位貴族たちの顔を順番に見た。パトリシアに一番近い所には最初に恭順を示したノーマ伯爵が立っていた。ゆったりとした白いトーブと呼ばれる長衣を身にまとい、身長190センチほどで黒髪、褐色の肌をした偉丈夫である。逆に一番遠い所にいるのはタガード侯爵家の娘、ノラであった。以前、アルたちと話をしたときの勝気な様子は全くなく、不安げに強張った表情を見せている。


 本陣に彼女が案内されて来た時、彼女はアルが近くのテントに座っているのに少し驚き、何か話したそうにしていたのだが結局何も言わず、落ち着かない様子で高位貴族たちの列の最後に並んだ。いつもなら自信満々で最前列に行きそうなものだが、今日は全く違ったのだ。

 その様子が気になったアルはグリィを経由してパトリシアのアシスタント・デバイス、リアナから状況を聞いた。すると、彼女は昨日遅くにタガード侯爵家騎士団を率いてやって来た。どうしてタガード侯爵本人ではないのかと尋ねると、状況がまるで読めていない父と兄に対して、配下の貴族たちと協力して二人を強引に説得した結果らしい。ノラの行為についてペルトン子爵などは評価したものの、信用はされずその軍勢は周囲の丘に他の高位貴族たちの騎士団に囲まれた谷に留め置かれた。王国復興のための軍旅をパトリシアが目の前で起こし、領都包囲の危機を救われたにもかかわらず、その助力をせずに静観していたことで、叛意ありと疑われていたためだ。そして彼女のみ護衛も許されず、たった1人でこの場に参加しているらしかった。彼女が率いてきたタガード侯爵家騎士団は4千人足らず。他の高位貴族たちがパトリシアたちを支持している状況ではテンペスト王国騎士団司令部の指示に抗弁すらできずにただ恭順しているといった状況らしい。


 ノラが到着したことで、騎士団の今朝の会議にタガード侯爵家の処遇についての話題が上ったらしい。パトリシアは、国内で唯一プレンティス侯爵家に対抗する勢力であった時期もあることからそれを忠誠心と判断して寛大な処遇をしたいと言い、ペルトン子爵は実際に庇護を受けていた経験から、ノラの行動は裏表なくこれを評価すべきだが、今までのタガード侯爵家の動きはテンペスト王家に対する忠誠よりもタガード侯爵家自身の野望のために動いていただけだという意見であったらしい。もちろんプレンティス侯爵家との戦いが終わっていないため、結論が出るはずも無かったが、リアナの予想では、このままプレンティス侯爵家に勝利した場合、タガード家は侯爵から降爵して伯爵となり、東谷関城を含めて半分程の領地を返上させることになるのではということだった。


「これから、どうなりますかな?」


 ノーマ伯爵がパトリシアに尋ねた。シルヴェスター王国であれば、国王、或いはそれに極めて近い王子などに対して、このような話し方は考えられないものだ。だが、テンペスト王国は元来、それぞれ独立した一族の集合体で、王家の一族もテンペスト一族、侯爵、伯爵といった高位貴族の殆ども同じように一族であり、王族はリーダーに過ぎないといった感覚があるらしい。そのため、王家といっても彼らに対して絶対的な権力はもっておらず、パトリシアに対してもこのような話し方となるようだった。こういった素地がプレンティス侯爵家やタガード侯爵家の行動につながったのかもしれない。


「包囲が完成しましたし、王城にはプレンティス侯爵本人がおられるそうなので、無条件に降伏せよと使者を送っています。期限は明日の日の出までです」

「それが受け入れられなければ?」


 パトリシアはノーマ伯爵の問いににっこりと微笑んだ。


「王城の門は開き、その地下に格納されているゴーレムたちが姿を現すことでしょう」

「なんと!? 今、騎士団に同行している30体のゴーレムだけでなく、王城のゴーレムまでも……」


 高位貴族たちはざわつき、驚いた様子を見せた。王都の守りは堅く、籠城されたら攻略にはかなりの時間を要し、犠牲も多く出るのではと考えていたのかもしれない。新たなテンペスト王国騎士団の力を見てみようという感覚があった可能性もある。だが、すでにパトリシアはアルと共に王城には忍び込み、王族としての認証も済ませている。しばらく使われておらず整備状況には不安はあるものの、リアナを通じて王都の大門の開閉やゴーレムへの指示が可能な事までは前回王城にアルと共に忍び込んだ時に確認済みだ。


「王城のゴーレムは王城の中で儀式をせねば使えぬのではなかったのですか?」


 別の高位貴族の1人がそう尋ねた。王族の継承やゴーレムの使い方について色々と事情を知っているのだろう。高位貴族には王族の姫が降嫁した例が今まで何度もあった。当然、その姫はその事を伝えていたに違いない。だが、今の王城にある管理装置は魔力が不足していた過去の状況ではないし、命令を細かに伝えられるアシスタント・デバイスも存在しているのだ。


「大丈夫です。ディーン様とアル様が王都に忍び込み、宣戦布告を行なって頂いた際にそれらの手続きは済ませております。プレンティス侯爵家の方々はそんな事ができるとは夢にも思っていらっしゃらないと思いますがこれは事実です」

「そうか、ディーン様はテンペスト様の子孫……」


 実際はパトリシアがリアナの補佐を受けておこなったのだが、その誤解をパトリシアは解こうとしない。誤解されたままの方が良いという判断なのだろう。高位貴族たちはちらちらとディーンとアルが居るテントを見る。その視線には少し恐れが混じっているように見えた。


「そ、それは……。わかりました。明日の夜明けを待って王都になだれ込むというわけですな」

「はい、その場合、皆様の騎士団にも協力していただくことになります。詳細はこの後、王国第2騎士団長のパウエル子爵から説明させます。念のために言いますが、王都に住む一般の人々には決して被害を出さぬように。略奪などはもってのほかです。気を付けてくださいね」


 ノーマ伯爵の言葉にパトリシアはそう釘を刺す。その後もしばらくは腹の探り合いのような会話が続いた後、別のテントで第2騎士団長のパウエル子爵が高位貴族配下の騎士団が担当する攻め口やその役割などの割り振りを行いますという事で、その場はいったん解散となったのだった。


-----


 降伏期限であった日の出の直前、パトリシアの本陣にプレンティス侯爵家の使者としてケリー男爵が訪れた。相手が大魔導士だということで、アルも謁見の場に呼ばれた。彼女は飾り気のない真っ黒なドレスを身に纏い、アルが見る限りでは彼女はなにも呪文をつかってはおらず、魔道具も持っていないようだった。


「使者の口上を聞きましょう」


 タバサ男爵夫人がパトリシアの前に出たケリー男爵にそう尋ねた。もちろんパトリシアのすぐ横に警備ゴーレムだけでなくジョアンナも居る。他に第1騎士団の騎士団長であるペルトン子爵は居るが、他の司令官たちは各部隊の指揮のために本陣を離れていた。


「プレンティス侯爵家は王家に対して降伏を致します」


 ケリー男爵はそう言って深々と頭を下げる。こうもあっさり降伏をすると思っていなかったのか、パトリシアとタバサ男爵夫人、ペルトン子爵は何度か視線を交わす。すこし間があってパトリシアが口を開いた。


「賢明なご判断です。では、ペルトン子爵、騎士団を伴ってケリー男爵と共に王城に先行して降伏の確認、プレンティス侯爵家の者たちの身柄の確保をお願いできますか? アル様はペルトン子爵に同行をお願いします。タバサは諸侯に連絡するように」

“リアナが王都及び王城の門の開閉ができるところをアピールしておいて欲しいって言ってるわ。”


 久しぶりに使う機能のはずだが、大丈夫なのだろうか。アルは少し不安に感じながらも軽く頷く。


-----


 しばらくしてエドシック男爵率いるテンペスト王国新生第1騎士団第1大隊の準備が整い、ペルトン子爵、エドシック男爵はケリー男爵を伴い広い王都を囲む城壁の南正門の前に立った。


「王城よ、王都と王城の全ての門を開け」


 リアナに言われた通りにアルが叫ぶ。開けるのは正門だけでも十分なはずなのだが、罠の恐れがあるので全部開かせるのが良いだろうというリアナの判断である。その声に反応して閉じられていた王都のすべての門がギギギと軋みながら次々と開いていく。王都の広い大通りは人の姿はまばらであった。まっすぐ正面に王城が見える。その王城の堀にかかる跳ね橋もゆっくり下り始めていた。


 その光景にペルトン子爵、エドシック男爵、ケリー男爵はそろって息を呑みじっとその様子を見つめていた。しばらくして慌てて我に返ると、ちらりとアルを伺い見た。アルは軽く頷き返す。


「進軍開始」


 第1大隊は整然と王都の大通りを進んでいく。浮遊眼(フローティングアイ)による上空からの映像をちらりと見る。特に軍勢が潜んでいるという様子などはなかった。“(カーム)”と呼ばれる公園を通り過ぎ、何事もなく王城まで到着する。王城は静まり返っており、以前アルが来た時には掲げられていたプレンティス侯爵家の旗は全て降ろされている。王城の入口には初老の男性とその左右に20前後の男性が一人ずつ立っていた。3人とも金色の髪で身長は180センチ程、顔立ちも似ているので親子だろうか。3人揃って飾り気のない黒い服を身に纏っている。眼の下には黒いクマができておりかなり憔悴している様子であった。


「プレンティス侯爵……」


 ペルトン子爵が呟く。侯爵本人が出迎えに来たのか。ということはその左右はその子たちか。3人はペルトン子爵たちに向かい、揃って深々と頭を下げたのだった。



読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中

        Webで第18話(new!)が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
気付けば333話 魔法書も禄に買えなかったアルが…思えば遠くへ来たもんだ。
ん~、タガード侯爵からすれば裏切ったのはパトリシア側だからねぇ とは言え、結納金三倍返しみたいな話は戦争終わってからする事だから、まあ普通に空気読めてないわな
貴族と王族の距離感がそんなに離れてないなら、パトリシアを議長とする共和政への移行もアリか… 各種王族でないと動かない仕掛けもあるからパトリシアの立場は保証されるだろうし、女王という重責に忙殺されること…
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