29-8 プレンティス侯爵家の話とアルの処遇
侯爵が城門の前に居た事に驚いたペルトン子爵たちであったが、彼らはこの事実によって、すぐにこれが罠などではなく何か異変があったのだと判断した。取り急ぎプレンティス侯爵を拘束、パトリシアの居る本陣に使者を走らせて、彼を護送するように指示するとともに配下の騎士たちを王城内に送り込み調査を開始した。
調査に向かった騎士たちが発見したのは、現プレンティス侯爵の実母が王城内の別宮の豪華な一室で眠るように死んでいる姿だった。
当初、彼女の死とプレンティス侯爵の降伏に因果関係は判らなかったのだが、その後、彼女に仕えていた侍女たちへの詮議の結果、彼女は元々王家の出で、殺されたテンペスト王からすると父の姉にあたる人物であり、息子であるプレンティス侯爵には弟の息子であるテンペスト王に比べてお前の方が王としての資質がある。王になるべきなのはお前なのにとずっと言っていたらしい。
息子であるプレンティス侯爵が従兄弟にあたる国王を弑逆し国王を宣言した後は、彼女は自ら国母と名乗り、国政に様々な指示をしていたようだった。そして戦況が悪くなると、ヒステリックに叫びプレンティス侯爵と度々口論をしていたらしい。
騎士たちが発見した彼女の遺体の周囲にはたくさんの花が飾られていたが、その口元には微かに毒物の臭いが残っていた。
それらを総合すると、王城が包囲され戦況を覆すことができないと悟ったプレンティス侯爵は母である彼女に毒を呷らせ、自ら降伏を申し出たようだった。
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プレンティス侯爵が降伏をしてから数日経った夜中、パトリシアはジョアンナだけを連れて、王城のアルの部屋を訪れた。相変わらず呪文の練習をしていたアルはいそいでテーブルを片付けて、二人にソファを勧める。アルの向かいに座ったパトリシアは言いにくそうな様子で探るように話し始めた。
「アル様に爵位、領地を受け取っていただくのはやはり無理ですよね?」
アルは申し訳ないなと思いつつゆっくりと頷く。
「もうテンペスト王国の内戦も終息したことだし、プレンティス侯爵家が行っていた蛮族への工作もこれで一旦終わるだろう。プレンティス侯爵領の制圧はまだ途中だけど、プレンティス侯爵自身は押さえているんだから大丈夫でしょ。僕自身はしばらくは王城地下のゴーレムのメンテナンスをする予定で、それが落ち着いたらそろそろ本腰を入れて蛮族から人々が襲われないような仕組みを求めて古代遺跡を回ろうと考えているんだ。爵位とか領地とかもらっても僕なんかにその責任は果たせないよ」
「やはり、そうですよね……」
パトリシアは考え込む。
「今の所、ペルトン子爵にはタガード侯爵家から返上させた東谷関城及び商業都市アディーを与えて伯爵、加えて騎士団長から宰相に、パウエル子爵も旧セネット伯爵領からシルヴェスター王国に割譲した部分を除き、隣接する王国領から一部領地を加え、ペルトン子爵と同じ伯爵になっていただこうと考えており、これについては彼らとも話し合いを済ませています。タガード侯爵家は伯爵に降爵、現侯爵は隠居し、ジリアン様は廃嫡、あたらしくノラ様が家を継ぐことで落ち着きそうです。エドシック男爵、ラドクリフ男爵は共に子爵に昇爵、ドイル子爵は昇爵については辞退されましたが、第1騎士団の団長は受けて頂きました」
よくわからないけれど、まぁ、そんなものなのかなと考えてアルは頷く。
「プレンティス侯爵家は断絶、侯爵と15才を越えている二人の男子は斬首して城下に晒します。これは一般の者たちに知らしめるためにそうせざるを得ません。ですが、残された夫人や他の家族については、プレンティス侯爵が最後まで抵抗をせず潔く降伏を選択したことで助命してもよいのではないかというところでペルトン子爵たちを説得できそうです」
王家はパトリシアを除いて幼子まで全員、そしてセネット伯爵家も全員が殺された。それを考えるとかなり緩いような気もするが、そこはパトリシアの判断に任せよう。プレンティス侯爵の母の話はアルも聞いたが、そんなところまで王権に執着する気持ちがアルには理解できなかった。とりあえずできるだけ血が流れないのは良い事のような気がする。
「もちろん、戦争という理由をつけて残虐行為を行った者については、これから調査をし、十分にその報いは受けていただきます。ですが、それ以上は憎しみを募らせるだけだと思うのです」
パトリシアの想いはわかった。残虐行為に蛮族への支援も含まれるのだろうかというのは少し気になるが、大元は対処したように思う。しかし、それをアルに今ここで話をするのはどういう意味なのだろう。
「ペルトン子爵たちが言うのです。自分たちが伯爵という地位を頂けるのはありがたいが、自分たち以上に功績を残しているアル様に褒賞がなにもなしというわけにはいかないと……」
実際にはゴーレム関連2巻の呪文の書を貰った上に、研究塔に残る膨大な資料や資材も自由に使えている。ゴーレム関連の呪文はテンペスト王国に代々伝わる第4階層の呪文で、一族以外で習得できたというのはそれだけで報酬としては十分であるし、アル自身も満足しているのだが、テンペストの子孫ディーンの弟子である(という設定の)アルがそれを習得していても、王国からの褒美として与えられたとは認識されないらしい。
「この間の会議では、アル様にはプレンティス侯爵から返上させる領地をまるごと渡して侯爵になってもらえばいいなどと言い始め、その場に居た皆がそれに賛同したのです。なんとかそれはアル様が望まないからと止めているのですが……」
うーん、それは困る。なんとしても断らないと……。しかし、どうしたらいいのだろう。シルヴェスター王国での魔法使いギルド特別顧問官ぐらいの名誉職的なもの位ならよいのだが。アルがそう言うと、パトリシアは少し待ってくださいねと何か小声でぶつぶつと言い始めた。リアナと何か話をしているのだろう。グリィはその話に参加しているのだろうか。
アルはその間を利用して、以前パトリシアが作ってくれた愛用のハーブティを用意して、2人に振舞う。
「ジョアンナさんはこのまま、パトリシアの身辺警護?」
「あ、はい。近々、女性騎士から選抜された者で近衛騎士隊が結成される予定で、その隊長を拝命し、男爵位を頂くことになっています」
そう答えるジョアンナは嬉しそうだ。ようやく自分の居場所が出来るという感じかもしれない。今回の論功行賞を公表すると同時にパトリシアは公に女王に即位することになると聞いていた。そうしたらどうしよう? 爵位などは要らないが、王城内に部屋の一つぐらいは欲しいかもしれない。いや、王城内に歴代王家によって張り巡らされていた秘密通路にはいくつか部屋もあった。パトリシアに了解をもらって、そのうちの一つを使えばいいだろう。そんな事を考えていると、パトリシアが口を開いた。
「あの、アル様、それでは新しくゴーレム頭という役職を設けて、アル様にはそれに就任していただくのはどうかとリアナが言っているのです。どう思われますか?」
「ゴーレム頭?」
アルの問いにパトリシアは頷いた。
「はい、ゴーレムというのはテンペスト王国の礎であり、象徴でもあります。実際にゴーレムの管理や保守については、引き続き、アル様にお願いしないといけないでしょう。そして、いまの王城の地下の状況を見て頂ければお分かりのように、きちんとメンテナンスができていません。これは王家が他の者を信頼できずにゴーレムを独占した結果でしょう。この状況が続いていれば、やがてかつてのリアナと同じく全く動かない状況になっていたに違いありません。そのために、ゴーレム頭という役職を設けて、永続的に信頼できる相手にそれをお願いする必要があるとリアナとは意見が一致しました」
なるほど、パトリシアの言葉にアルは頷く。彼女の言うように王城そのものを管理する魔道装置も魔力が足りていない状況だった。おそらく年に数回程度しか王城の地下には行っていなかったし、きちんと理解もできていなかったのだろう。それに、修理に必要な設備もないので、破損したゴーレムは放置されていた。アル自身もゴーレムのメンテナンスはする必要があると思っていて、メンテナンスのための設備も作ったほうがいいかもしれないというのもマラキと相談しようと思っていた。それに役職名が付くだけなら今と変わりない気もする。
「今回の戦いでは、プレンティス侯爵家がゴーレム管理装置を発見し、今まで王城の防衛戦でしか使ってこなかったゴーレムを外に持ち出して使った事で、その力が示された形となりました。諸侯もテンペスト王家にたいする認識を改めている事でしょう」
今まではゴーレムを使うにしても管理装置がなければ1人が1体に命令するという形でしか使えないので、防衛戦以外の戦いではあまり使えないという認識だったのだろう。何十体ものゴーレムに命令して進軍させられるのがわかって、話は変わって来たのか。
「テンペスト王国の象徴であるゴーレムを扱うのです。地位としては、王宮魔導士の上、諸侯の筆頭と同等という形になるでしょう。ただし、呪文が使えることが条件となりますので、世襲とはしません。将来的には見習いをとって頂くことになります」
「今のディーンや僕がしているのと同じような仕事をするだけでいいの? ずっと会議とかには出なくていい?」
アルの質問にパトリシアはすこし苦笑しながらも頷いた。
「テンペスト王家は王宮魔導士が払底していますので、しばらくは今と同じく重要な会議には出席して頂きたいと思います。すべての会議に出る必要はございません」
うーん、それならゴーレム頭という役職を引き受けても良いかとアルは頷いたのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
2025.12.30 感想欄にて英国に1400年代よりmaster of the horse (主馬頭)という役職があるのだとお教えいただきました。Wikiを見てもそれっぽい。
そのため、ゴーレム管理人を、ゴーレム頭(※theはカタカナ表記に変える際に合わない気がしたので外しました)に変更させていただくことにしました。
今日で年内最後の投稿となります。今年一年間ありがとうございました。
来年からもまた引き続きお楽しみくださいますようによろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
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