八十九、幻覚・・?それとも・・
やがて十分が経ち、たけさんと田中さんは懐中電灯を持って、暗闇に消えて行った。
また十分経ったら、次は東雲さんたちよね・・
それで次は、私たちだ・・
どれくらい歩くのかな・・
寒いし・・怖いし・・
「薄柿さん、大丈夫よ」
「葵さん・・」
「こんなの平気、平気」
「葵ちゃんはな、お化け屋敷も一人で入るんだぜ」
お兄さんがそう言った。
「ええええ~~~!マジですかっ!」
「だからさ~、俺、気が抜けるんだよ」
「葵さん・・どんだけすごいんですか・・」
「ふつーは怖がるもんだけどよ、かわいくねぇんだよなぁ~」
「真人くんったら。どこの誰でしたっけ~、私にしがみ付いてた人は~」
「こいつ~それ言うか?」
そしてお兄さんは、葵さんの頭をくしゃくしゃに撫でた。
あの・・佐良直美・・だっけ・・
まさしく二人の世界ね・・
「私・・怖いです・・」
後ろで静香さんが震えていた。
「静ちゃん、大丈夫だよ」
「和くん・・次ですよね・・」
「うん、そうだよ」
「私・・次の次です・・」
「斎藤くんがいるから、平気だよ。ね?斎藤くん」
「え・・あ・・はい・・」
斎藤くんも若干、震えていた。
え・・斎藤くんも、怖いんだ・・
二人とも怖がってて・・大丈夫なのかな・・
「斎藤くん、大丈夫なの?」
私がそう訊いた。
「だっ・・大丈夫さ・・」
「二人とも怖がってたら、ヤバイんじゃないの・・」
「ぼ・・僕だって男だ。このくらい・・なんでもないよ・・」
「ほんと・・?ペアを交替した方がいいんじゃない・・?」
「それだと・・ルールに反するし・・」
「斎藤くんの言う通りだ。彼らだけ特別扱いするわけなはいかないぞ」
「紫苑さん・・そんな固いことを・・」
「ほら、もう次の組のスタートだぞ」
そして東雲さんと葵さんがスタートした。
うわあ~~・・次は私たちだわ・・
そして・・遠くの方から「きゃあ~~~」という叫び声が聞こえた。
きっと・・田中さんだわ・・
ヤダ・・怖いな・・
「さあ、行こうか」
紫苑さんは懐中電灯を持ち、私にそう言った。
「は・・はい・・」
「薄柿さん・・行っちゃうんですね・・」
静香さんが心細そうに、そう言った。
「次は静香さんたちの番ですから、すぐに追いついてください」
そして私は紫苑さんの横に並んで歩いた。
辺りは真っ暗で、懐中電灯が照らす灯りの場所だけ見えている状態だった。
「紫苑さん・・私から離れないでくださいね・・」
「しっかり着いて来たまえ」
「あの・・腕を組んでもいいですか・・」
「ああ、構わないぞ」
そして私は紫苑さんの腕に手を回した。
カサカサッ・・
ピュウ~~・・
時折、風が吹き、草木の揺れる音がした。
こ・・怖い・・
めちゃくちゃ怖い~~~~!
「この時期は野生動物も冬眠しているので、少なくとも山に生息するヘビの類はいないから、その点は安心だな」
「ヘビの方が・・マシです・・」
「きみ、ヘビを侮ってはいけないぞ。マムシやヤマカガシは毒ヘビだぞ」
「げ・・それって山にいるんですか・・」
「山間部でも水場に出没することが多いな」
「そうですか・・」
「こうやって、話をしながら歩いていると、幾分かは気も紛れるだろう?」
「はい・・そうですね・・」
「アメリカへはいつ出発するんだ」
「えっと・・春休みです・・」
「そうか。それで戻るのはいつなんだ」
「まだ未定です・・」
「少なくとも一年や二年は、向こうで暮らすと言うことか」
「そうなりますね・・」
「あっという間だ。案ずることはない」
「紫苑さんって・・田中さんと結婚するんですか・・」
「あはは。きみは気が早いのだな。まだ決めてないさ」
「そうなんですか・・」
「琴美くんは、なかなかおしとやかでいい女性だが、特別な感情を抱いているわけではない」
「え・・」
「まあ、その話はこのくらいにしよう。さて、随分進んだぞ」
「あ・・そうですね・・」
「幽霊役はどうしたと言うのだ。出てこないじゃないか」
「出て来なくていいですぅ・・」
「なにを言うんだ。それでは肝試しにならないだろう。ただの散歩だ」
「散歩でいいです・・」
「ううう・・た・・助けてくれ・・」
ぎゃあ~~~~!ついに出たわっ!
なにが助けてくれよ~~~!
紫苑さんは、すかさず声のする方を照らした。
すると、血のようなものがついた白いシャツを着た男が現れた。
美琴だわ・・
めちゃくちゃ手が込んでるじゃん!
やり過ぎよ~~~!
短髪ってなによっ!
カツラも用意してたのね~~!
「紫苑さん、美琴ですよっ!」
「美琴くんか・・手が込んでいるな」
「美琴~~!あっち行って~~!」
「助けてくれ・・水を・・くれ・・」
「なによ~~!声まで変えて!やめて~~~!」
私は紫苑さんを引っ張って走った。
「おいおい、走ったら台無しだぞ」
「いやあ~~~!」
「薄柿さん、落ち着きたまえ。前のペアに追いついてしまうぞ」
「ま・・待て・・待てぇぇ~~」
そう言って美琴が追いかけてきた。
「ぎゃああああ~~~!」
私は紫苑さんの腕を離し、一人で走った。
「紫苑さん~~!早く~~!早く来てぇぇ~~」
「混乱してはダメだ。ここは落ち着くんだ」
紫苑さんが私に追いついてそう言った。
「早く・・早く行きましょう~~!」
そして私たちは、矢印の方向へ歩き、途中で紬の「タヌキ」に出くわした。
紬はタヌキの被り物を頭に付けて立っていた。
「ポンポコ・・ポンポコ・・クシュン!」
「紬・・似合ってるわ・・」
「小春・・寒いでありんす・・。そして・・怖いでありんす・・」
「ヤダ~~紬ったら、大丈夫?」
「私も・・一緒に行っていいでありんすか・・」
「うん、一緒に行こう」
「紬くん、リタイアかい?」
「面目ないでありんす・・」
「いや、無理は禁物だ。ここは僕たちと同行した方がいい」
「すみませんでありんす・・。きっと、美琴も震えているでありんしょな・・」
「さっき美琴と会ったわよ。男性の幽霊に化けて、手が込んでるったらありゃしないわ~」
「え・・なにを言ってるでありんすか・・」
「え・・?なにって・・さっき」
「美琴は、この先の折り返し地点で待機しているでありんすよ。しかも女の幽霊に扮しているでありんすよ?」
「え・・うそ・・」
ヤダ~~~!
じゃ・・
じゃあ~~さっきのって、誰なのよ~~~!
「これは奇怪だ。さっきのは僕の幻覚だと言うのか。いや、しかし僕は確かに見た。血まみれのシャツを着た男に出くわしたんだぞ」
「ええええ~~~!それは本当でありんすか!」
「ヤダ・・私と紫苑さん・・見ちゃったんだ・・いやあ~~~~!」
「僕は非科学的な現象は、全て科学で解明されると思っている。けれども・・きっきの男はなんなんだ・・」
「紫苑さんがそんなこと言うと、すごく怖いんですけどっ!解明してくれないと困るんですけど~~~!」
「引き返してみるか」
「いやあ~~~絶対にいやあ~~~!」
「紬くん、薄柿さんを落ち着かせてくれ」
「あ・・はい。小春、しっかりするでありんすよ!錯覚、錯覚でありんす!」
「私、見たの~~!んで・・待てぇぇ~~って追いかけて来たの~~~!」
「ここにいてもなんでありんすから、先に進むでありんすよ」
「こ・・怖い・・怖い・・」
私は紬にしがみ付いた。
紫苑さんは来た方向を照らして確認していた。
「紫苑さんやめてぇ~~~!映ったらどうするの~~~!」
「ったく・・仕方がないな。では先に進むとするか」
「早く~~~早く行きましょう~~~!」
そして私たちは、走って帰り路を急いだ。
「ハアハア・・しんどいでありんす・・」
「紬、頑張って!」
「ほら・・もう、ログハウスが見えたでありんすよ・・」
「わあ~~!やった~~~!帰って来たわ~~」
ログハウスの外では先に到着していた、たけさんたちや東雲さんたちが待っていた。
「たけさん~~~!」
私はたけさんの姿を見て、思わず駆け寄り抱きついた。
「あはは、小春。そうとう怖かったみてぇだな」
「ち・・違うの・・違うの~~~!」
「はあ?なにがちげーんだよ」
「幽霊が・・いたの・・」
「あはは。つか・・紬、お前も帰って来たのかよ」
「ハアハア・・待ってるのが怖くて・・リタイアしたでありんす・・」
「ったくよ~、でもなかなか面白かったぜ」
「たけさん、違うんだってば~~!」
「あ?さっきからなに言ってんだよ」
「だから・・幽霊が・・」
「あはは、それって美琴じゃねぇか。なに言ってんだよ」
「もう~~~!」
私は頭が混乱して、上手く説明できなかった。
「時雨くん、実は美琴くんと紬くん以外にもいたのだよ」
「は?」
「しかし僕は幽霊だとは思ってない。だとするならば・・一体誰だったのか、そこが謎だ」
「つか・・意味わかんねぇんだけど」
「いや、実は途中で血まみれの男と遭遇したのだ。最初は美琴くんが扮装しているものと勘違いした。しかしその幽霊と思しき男は、美琴くんではなかった」
「え・・それってマジかよ」
「ああ。あの男は誰なんだ。しかも血まみれで追いかけてきたんだ。これは事件の臭いがする」
「紫苑くん、それって本当なの?」
東雲さんがそう訊いた。
「本当だ。僕と薄柿さんが目撃したのは間違いない。薄柿さんは幽霊だと信じ込んでいるようだが、僕はそう思っていない。あれは生きた人間だ。しかし・・このまま放っておくと、彼は死んでしまうかも知れないぞ」
「それって、大変じゃないか」
「薄柿さん、大丈夫?」
「葵さ~~ん・・」
「なんか、変なことになっちゃったわね」
「葵さんは、見なかったんですか・・?」
「うん。見てないわよ」
「私と紫苑さんだけなんだ・・」
「たまたまよ。偶然じゃない?」
「そうなんでしょうか・・」
ほどなくして、残りのペアと美琴も帰ってきた。
「もう~~小春と紫苑さんと紬~~!あんたら走るから、脅かす間もあらへんかったがなぁ~~」
そう言って美琴が駆け寄ってきた。
うわあ~~・・美琴、その白い布・・怖いんですけど・・
「美琴、なんか、大変なことになってるでありんす・・」
「え・・どういうことなん?」
「本物の幽霊が・・出たでありんすよ・・」
「げ~~~!マジか!」
「でも・・紫苑さんは幽霊ではないと断言しているでありんす・・」
「なんなん~~?どういうことなん?」
そして私たちはログハウスの中へ入り、事件なのか幽霊なのかの話に沸いた。




