八十八、嵐の前の静けさ
「さあ~~、ようさん食べておくんなはれや~」
美琴がそう言って、肉や野菜をたくさん焼いていた。
そして紬と斎藤くんが、みんなにお茶やジュースを配っていた。
「美琴、私も手伝うよ」
「なに言うてんの~、あんたは主役なんやから、なんもせんでええねや」
「でも、それじゃ悪いし・・」
「悪ないっ!ほら、王子の横へ行って食べ」
「うん、わかった。でも手が足りなかったら言ってね」
「はいはいっ」
そしてみんなは、それぞれにお皿を持ち、とても美味しそうに食べていた。
「このサラダ・・とても美味しいですわね。それとこのドレッシング・・。お手製でしょうか」
田中さんは、美琴が作ったシーザーサラダを食べて、紫苑さんと話していた。
「確かにな。美琴くんは料理が上手だからな」
「そうでございますか。私も習わないといけませんわね」
「きみ、料理は苦手なのか」
「はい・・あまりやったことがありませんの」
「あの・・」
そこで私は田中さんに話しかけた。
「私もね、ぜっんぜん料理やったことがなかったんですけど、美琴に習って出来るようになったんですよ」
「そうでございますか」
「だから田中さんも大丈夫ですよ」
「お優しい言葉を・・ありがとうございます」
「琴ちゃん、こいつさ、インスタントラーメン作れなくて、泣いてたんだぜ」
「あら・・そうでございますか・・」
「時雨くん、また琴ちゃんなどと・・馴れ馴れしいぞ」
「いや、美琴と琴美だろ?ややこしいんだよ。だから琴ちゃんって呼んでんだよ」
「わたくし・・琴ちゃんと呼ばれるのは、初めてでございまして・・なんだか照れくそうございます・・」
「あはは、ったく、琴ちゃんは丁寧だな」
「みなさん~~!はいっ!ちゅーーもーーく!」
美琴がそう言い、みんなは食べる手を止めた。
「え~~、宴もたけなわ、盛り上がってまいりましたぁぁ~~ところでですね、ここで、斎藤からのサプライズをお見せします~~!」
斎藤くんのサプライズって、なんだろう・・
「斎藤~~!こっち来てや~~」
そして斎藤くんは、丸めた紙を持って、美琴の横へ行った。
「えっと、僕は絵を描くのが好きです。それで今回、薄柿さんのために絵を描いてきました。これです!」
斎藤くんは丸めた紙を広げ、みんなに見せた。
え・・
なに・・この絵・・
ヤダ・・泣きそうだわ・・
その絵は、B4サイズくらいの大きさの白い紙に、私とたけさんが手を繋いで楽しそうに笑っている似顔絵が描かれてあった。
「それと、もう一つあります!僕は漫画家を目指しているのですが、これまでずっと薄柿さんと時雨さんの物語を描いてました。それがやっと完成し、僕はこの作品を出版社に持ち込みしようと考えています。ボツになるかも知れませんが、みなさんには事前に知ってほしいと思いました」
みんなから「おお~~」という声が挙がった。
たけさんは驚きのあまり、言葉を失っていた。
「僕の漫画を面白いと言って褒めてくれたのは、薄柿さんだけです。だからそのお礼も込めて描きました」
「斎藤くん・・ありがとう・・」
そしてたけさんが、斎藤くんの傍まで行った。
「斎藤・・ありがとう。俺、お前と話したことねぇけど、めちゃくちゃ嬉しいよ。マジで感謝するよ」
「時雨さん、これからも薄柿さんのこと、よろしくお願いします」
「うん。わかってる。斎藤、俺たちダチな。それでいいな?」
「はい!もちろんです」
私はもう、涙で何も見えなかった。
みんなも一斉に拍手をした。
「斎藤~~!この絵、めっちゃ上手いやんか!今度、私も描いてな~~」
「あはは、いいよ」
「斎藤くん、この絵、アメリカに持って行ってもいい?」
私は斎藤くんの傍へ行き、そう言った。
「もちろんだよ。薄柿にプレゼントするつもりで描いたんだよ。はい、どうぞ」
私は絵を手にして、改めて見つめた。
ほんと・・上手だわ・・
最高のプレゼントだわ・・
そしてバーベキューも終わり、いよいよ日が暮れた。
うわあ~~・・これから肝試しか・・
ヤダな~~・・
「ではみなさん~、この紙に名前を書いてください~」
美琴があみだくじの紙を用意し、名前を書くようみんなに促した。
「こっちが男子、こっちが女子な~。一応、男女ペアにしてるで~~感謝しぃやっ!」
そして私は女子の紙に名前を書いた。
葵さんは、なんだか嬉しそうにしていた。
「葵さん・・怖くないんですか・・」
「ぜっんぜーーん。私、こういうの平気なのよ」
「げ~~・・マジですか・・」
「一人でだって行けるわよ」
「げぇ~~~!葵さん・・どんだけ強いんですか」
「あはは、そうかな~」
「それでは記入が終わったようなので、組み合わせを発表しますで~~!」
お願い・・たけさんとペアになりますように・・
「まずは~~、時雨王子と田中さん!」
げ~~~・・早くも外れてしまった・・
「そして~~、和樹王子と葵さん!ほんで~、紫苑さんと小春!」
ぎゃ~~・・紫苑さんと・・
「そして~~、斎藤と静香さん!最後は~~お兄さんとお母さん!以上でっせ~~」
わあ~~・・カップルはみんな、バラバラになっちゃった。
「和くん・・」
静香さんが泣きそうな顔をして、東雲さんの顔を見ていた。
「静ちゃん、大丈夫だよ」
そう言って東雲さんは静香さんの頭を撫でていた。
「時雨さん・・よろしくお願いします・・」
「琴ちゃん、怖がらなくていいからな」
「はい・・」
もう~~・・たけさんったら・・
「薄柿さん、きみは平気か」
「え・・私、こういうの苦手です・・」
「そうなのか。僕は平気なんだが」
「あの・・私、きっと歩けなくなると思います・・」
「きみ、怖いと思うから怖いのだぞ。そもそも非科学的なことなど誤認が多いんだ。つまり、幻覚の類は錯覚なんだぞ。昔から言うだろ。幽霊の正体見たり枯れ尾花、とね」
「そうですけど・・」
「まあ僕に任せたまえ。何もありはしない」
そんなこと言ったって・・怖いんだもん・・
「和樹くん、私なら平気よ」
葵さんが東雲さんにそう言った。
「葵さん、平気なんですか」
「あはは、こんなのどうってことないわよ」
「さすがですね」
「和樹くんはどうなの?」
「まあ・・僕も平気な方ですかね」
「もし怖かったら、私が守ってあげるわよ」
「あはは、頼もしいですね」
静香さんは斎藤くんの横で、黙ったまま立っていた。
「あの・・僕、斎藤と言います・・」
「あ・・私は由名見静香です・・」
「えっと・・こんな僕ですみません」
「いえ・・とんでもないです・・」
「よ・・よろしく・・」
「こちらこそ・・よろしくお願いします・・」
うわあ~~・・すごく、ぎこちない・・
大丈夫なのかしら・・
「俺はお袋かよ」
「なに~・・私じゃ不満なの・・?」
「あはは、そんなことねぇけど」
「私もね・・こういうの苦手だわ・・」
「怖いことなんてねぇよ」
「真人が一緒なら・・大丈夫ね・・」
「たりめーだろ」
お兄さんたちは・・親子だからいいよね。
「紫苑、お前、ちゃんと小春を守れよ」
「心外だな。きみこそ琴美くんを頼んだぞ」
「任せとけって」
「しかし・・よりによって時雨くんとはな」
「っんだよ、よりによってって」
「東雲くんならよかったんだが」
「うるせぇよ!小春を泣かせたら承知しねぇからな!」
「では~~!私らは先に行って準備してますんで~、十分後にスタートしてくださいよ~~!道順は矢印を木に括りつけてありますよって、それを目印に進んでおくんなはれ~」
そして美琴と紬は懐中電灯を持って、暗闇に消えて行った。
ヤダな~~・・いよいよスタートだわ・・
最初は、たけさんたちからか・・




