九十、窓を覗く男
「それでお前ら、顔は見たのかよ」
暖炉の前でみんなが集まり、たけさんがそう言った。
「私は・・見てません・・」
「しまったな。僕も顔は、はっきりと見ていない。とにかく血まみれの白いシャツに気を取られてしまったからな」
「それって、どの辺りなんだい?」
東雲さんがそう訊いた。
「紬くんに遭遇する手前辺りだ」
「そうなんだ。じゃ、まだ前半だね」
「和くん・・私、とっても怖いです・・」
「静ちゃん、ここはみんながいるから大丈夫だよ」
「明日になれば、その場所を確認すればいいんじゃない?」
葵さんがそう言った。
「そうだな。とりあえず、血まみれってのが、気掛かりだな」
お兄さんが葵さんの意見に賛成した。
「もし・・もしですよ・・?傷害事件でございますと・・その男性は現在も逃走中ではございませんこと?」
「琴美くん、チェイサー・・つまり追跡者がいると言いたいのか」
「はい、そうでございます」
「そうだとすると、殺人事件になりかねないな・・」
「つか・・紫苑。そいつ、マジで生きてたのかよ」
たけさんがそう言った。
「僕は幽霊ではないと思う」
「小春はどうなんだよ」
「私は・・幽霊だと思います・・」
「マジかよ・・」
「きゃあああああああ~~~~~!」
いきなり静香さんが叫び声を挙げた。
「静ちゃん!どうしたの?」
「か・・和くん・・和くん・・」
静香さんは、東雲さんの胸に顔を埋めて震えていた。
「一体、どうしたの?静ちゃん!」
東雲さんは、静香さんの肩をゆすっていた。
「あ・・あそこの・・窓・・」
静香さんは顔を埋めたまま、指だけ窓の方を指していた。
みんなは一斉に窓の方を見た。
え・・なに・・?
なにもないけど・・
静香さん・・なにを見たって言うの・・?
「静ちゃん、どうしたの?なにか見たの?」
「誰かが・・覗いてた・・」
げ~~~~!まっ・・マジでっ・・?
ヤダ・・
ものすごく怖い・・
「鍵を閉めるぞ」
紫苑さんは一番先に立って入口へ行き、鍵を閉めた。
「窓の鍵も閉めるんだ」
紫苑さんがそう指示した。
そしてたけさんや東雲さん、お兄さんや斎藤くんも鍵を閉めに行った。
「きみたちは、ここにいるんだ」
紫苑さんが私たち女性群にそう言った。
「二階へ行くぞ」
紫苑さんがそう言って、たけさんたちも後を着いて行った。
「静香さん・・大丈夫ですか・・」
「薄柿さん・・私・・怖いです・・」
「どんな人が覗いてたんですか・・?」
「とても怖い顔をした・・男の人でした・・」
「静香さん、大丈夫よ。ね?」
葵さんが静香さんの背中を優しく擦った。
「お義母さん、大丈夫ですか」
葵さんは間宮さんにも声をかけた。
「えぇ・・私は平気よ・・」
「田中さん、大丈夫?」
そして葵さんは、田中さんのことも気遣った。
「はい・・なんとか・・。ありがとうございます・・」
「美琴ちゃんたちも大丈夫?」
「はい・・おおきに・・」
「怖いでありんす・・」
「もう鍵も閉めたし、ここへ入って来ようとしても無理よ。真人くんたちは二階の鍵も閉めに行ってくれたんだわ。だから何も心配いらないわ」
葵さん・・強いな・・
「ねぇ、静香さん」
葵さんが静香さんの肩に手を置いて、そう言った。
「は・・はい・・」
「その怖い顔をした男性って、どんな感じだったの?」
「え・・その・・一瞬しか見てないですけど・・なんか・・目を見開いて・・。それで私と目が合ったとたん、姿を消しました・・」
「そうなのね」
「薄柿さん、血まみれの男性って、助けてくれって言ってたのよね?」
「はい・・そう言って追いかけてきました・・」
「なるほどね。じゃ、さっき覗いてた男性って、血まみれの男性じゃないわね」
「そうなんですか・・」
「血まみれの男性だと、静香さんと目が合ったら、助けを求めるはずよ。例えば窓を叩くとか」
「あ・・確かに・・」
「覗いていた男性は、ちょっと危険ね。とにかく今夜は、みんなでここで雑魚寝した方がいいわね」
ほどなくして、たけさんたちが戻ってきた。
「二階の窓もすべて鍵を閉めた。これで大丈夫だろう」
紫苑さんがそう言った。
「紫苑くん、さっき窓を覗いてた男性は危険かも知れないわ」
葵さんがそう言う横で、東雲さんが静香さんの肩を抱いた。
「それは、どういうことでしょうか」
「静香さんと目が合ったらしいの。それで突然姿を消したって。血まみれの男性なら助けを求めるはずよね」
「なるほど。確かにそうです。おそらくその男は、血まみれの男性を探していたか、もしくは、何らかの理由で僕たちに接触を図ろうとした可能性がありますね」
「だから、今夜はここで雑魚寝した方がいいと思うの」
「賛成です。一人も離れることはあってはなりません。そこで、男性諸君」
紫苑さんがたけさんたちに向かってそう言った。
「交替で見張りをする。時間は一時間ごとで構わないか」
紫苑さんがそう提案すると、たけさんたちは、もちろん賛成した。
でも時計を見ると、まだ十時だった。
とても長い夜になりそうだわ・・
早く・・夜が明けてほしい・・
「肝試しの後、私と紬で漫才やる予定やったんやけどな・・。そんなどろこではなくなったな・・」
「くそっ・・」
紫苑さんがいきなりそう言った。
「どしたん?紫苑さん」
「電波が届いてないな・・」
「えっ・・」
そして他の人たちも携帯を確かめた。
「うわっ・・マジやん・・。届いてないわ・・」
ほんとだ・・私のも届いてない・・
「固定電話もなしか・・」
紫苑さんが落胆したようにそう言った。
「なにか武器になるような道具を探そう」
紫苑さんはそう言って各々の部屋や、キッチンなどを探し始め、たけさんたちもそれに倣った。
私もじっとしてる方が怖いので、一緒に探し始めた。
「包丁の類は何もないのだな」
紫苑さんがそう言った。
「そうなんですか・・」
「刃物は、ここを使用する者が持ち込むシステムか」
「美琴は、肉も野菜も家で切ってきたので・・包丁は持ってないと思います・・」
「そうか。あっ!暖炉に火かき棒があったな。あれは使えるぞ」
「あ・・そうですね」
「紫苑くん、お湯を沸かそう」
東雲さんがそう言った。
「あっ、確かにそれはいい」
「それで、冷めないように火を点けておいた方がいいね」
「それはなんのためですか?」
私は東雲さんに訊いた。
「熱湯も武器になるんだよ」
「あ・・襲ってきたらぶっかけるんですね」
「東雲くん、リビングに置いてある観葉植物の土はどうだ」
「それもいいね。みんなに靴下に土を入れるよう言うね」
そう言って東雲さんは、暖炉へ戻った。
「フライパンも使えるな」
紫苑さんはフライパンを持って、みんなのところへ戻った。
「女性の中で、誰か化粧水を持参している者はいないか」
紫苑さんがそう呼びかけた。
「あ・・わたくし・・持っています・・」
田中さんがそう言った。
「琴美くん、済まないが、それをコップに全部注いでくれないか」
「なにをするお積りですの・・?」
「化粧水にはアルコールが含まれている。もし男が襲い掛かってきたら、それを顔にぶっかけるんだ」
「え・・」
「目に入ると多少の痛みを覚えるはずだ。それで少しは時間を稼げる」
「わ・・わかりましたわ・・」
「それと、洗面器に水の用意をしてくれ。それとタオルだ」
「それで、なにをするん?」
「タオルに水を含ませて、振り回すんだ。多少の威嚇にはなる。それと水滴が飛散して相手の目に入ると儲けものだ」
「なるほど!紫苑さん、さすがやわあ~~」
「それと美琴くん、コショウはあるか」
「はい、ありますよ~」
「それも使うんだ。効果は言わずとも承知しているな」
「わっかりましたあ~~」
こうして武器代わりの物をいくつか準備し、私たちは暖炉の前で身を寄せ合っていた。




