八十五、仕事
「小春・・ここに来て、目まぐるしい展開やったな」
教室で美琴がそう言った。
「そうなのよ。間宮さんが倒れたのは大変なことだけど、でも、結果オーライってことでいいよね」
「それにしても・・時雨王子・・。よく決断したでありんすな・・」
「うん。たけさん・・ある程度吹っ切れたっていうか・・気持ちの整理がついたんだと思うわ」
「小春、よかったな」
「うん、私も一安心よ。でもね・・たけさんのことだから、またいつ切れるかもわからないから、それが心配なのよ」
「そんなことあらへんって。王子が一緒に暮らすとまで言い出したんは、壁を乗り越えたってことやがな」
「でもね、ずっとババアとか言ってるし」
「そこはしゃあないやろ。いくら王子でも「お母さん」とは言えんで」
「たけさんって・・小さい頃、お母さんのこと、なんて呼んでたのかな・・」
「さあ~・・それは王子にしかわからんこっちゃな」
「まさか・・ママ、ではないでありんしょな・・」
「げ~~・・あの王子がママってか?あり得えへんわ」
「でもそれは、わかんないわよ?」
「いやっ!ある意味、昭和臭のする王子やでっ。ママは、ないない」
「そうかなぁ~」
「それで・・お母さんは、もう働くところは決めたでありんすか」
「それが、まだみたいなんだけど、たけさんは、家にいろって言ってるの」
「そうなん?」
「ほら・・やっぱり倒れたことが気がかりでね・・」
「でもさ~、お母さんって綺麗な人なんやろ?」
「うん。すごく美人」
「ほんで、まだ五十なんやろ?」
「そうなの」
「もったいないな~。今の五十って、昔と違って若いんやで」
「だよね~・・」
そうなのよ・・
美琴の言う通り、すごく若いのよ。
今は・・見た目は・・白髪もあるし・・お化粧もしてないし・・あれだけど・・
でも、背も高いし、綺麗にすれば、絶対に見違えると思うんだよね。
「んで、王子、またモデルやるん?」
「うん。そう言ってるけど、たけさんは、性に合わないはずなのよ」
「あれやな、お母さんに、ちょっとでもええ暮らしさせたいんやな」
「うん、そう思う」
「そやっ!小春!」
「なっ・・なにっ?」
「今のご時世、美魔女とか言うてやな、綺麗なオバサンとか流行ってるん知ってるか?」
「あ・・うん、聞いたことはあるけど」
「美琴・・そう来たでありんすか」
「そうそう」
「なによ・・美琴も紬も・・」
「お母さんの美を活かさん手はないで」
「え・・どういうこと?」
「王子はモデルなんてする必要ないでっ!お母さん自身がモデルをやるんや!」
「えええええ~~~!間宮さんがモデルぅぅ~~?」
「モデルやったら、スーパーで働くより、体力的には楽なんちゃうか?」
「まあ・・そうりゃ、そうかもだけど・・」
「ほら、設楽さんいるやん?」
「ああ・・うん」
「設楽さんに連絡して、一回、お母さんを会せたらどないや」
「いや・・ちょっと話が飛躍しすぎてない?それなら、まず間宮さんの気持ちを訊かないと・・」
「訊いたらええがな」
「それと・・たけさんの気持ちも・・」
「そりゃそうやな」
「小春、いいんじゃないでありんすか?」
「そうなのかなぁ~」
そして私は、間宮さんに訊いてみることにした。
その日の夕方、私はたけさんちに寄った。
「こんにちは~」
私は玄関を開けた。
「あ、薄柿さん、いらっしゃい。今、学校帰りですか?」
「はい~」
「どうぞ、上がってください」
「はい、お邪魔します~」
私は部屋へ上がり、ちゃぶ台の前に座った。
「たけさんは、まだですか?」
「えぇ・・もうじき帰ると思います」
「あの・・いきなりなんですけど・・」
「はい・・?」
「間宮さん、もう働くところとか、決めてるんですか」
「あ・・いえ・・まだなんです・・」
「あの・・もしよかったら・・モデルやってみませんか」
「えっ・・も・・モデル・・?」
「私、たけさんがモデルやってた時、マネージャーやってまして、その時の知り合いの人がいるんですけど、会ってみませんか?」
「え・・あの・・どういうことでしょうか・・」
「間宮さん、とてもお綺麗ですし、背も高いし、きっといけると思うんですよ」
「え・・」
「働くっていっても、スーパーとかだと、また身体を壊されるかも知れませんし、雑誌モデルなら体力は必要ありませんし」
「でも・・私にそんなことが出来るでしょうか・・」
「大丈夫ですよ~。なんなら、私、マネージャーやってもいいですよ!」
「え・・」
「それで、その知り合いって、今も現役でモデルやってるんですけど、その人に会ってみませんか?」
「はぁ・・でも、健人に相談してみないと・・」
「そうですよね。私もたけさんに訊いてみます」
「そうですか・・」
間宮さんは、困惑していた。
察するに・・中年の自分が、モデルなんて、と思ってるんだわ。
そりゃ、びっくりするよね。
「ただいまぁ」
ほどなくして、たけさんが帰ってきた。
「健人、おかえりなさい」
「たけさん~おかえりなさい~お邪魔してます~」
「お、小春、来てたのか」
「健人・・私、ご飯作ってみたんだけど・・」
「マジかよ」
え・・間宮さん、たけさんのためにご飯作ったんだ・・
たけさんは台所へ行って、見ていた。
「ふーん・・オムライスか」
「うん・・」
「小春も食ってけよ」
「えっ、私はいいですよ~」
「遠慮すんな」
そう言ってたけさんはちゃぶ台の前に座った。
「薄柿さんも是非・・」
「いやいや、私、これから合気道の稽古があるんです」
「そうなのか」
「はい」
「んで?これから稽古なのに、なんか用でもあったのか?」
「あ・・そのことなんですけど・・」
そして私は、間宮さんをモデルにしたらどうか、話を持ち掛けた。
「はあ?ババアがモデル?」
「私、いいと思うんですよ。ほら、スーパーだと立ちっぱなしだし、大変だと思うんですよ。でも雑誌モデルなら体力も必要ないですし」
「いやいや・・無理だろ」
「そんなことないですよ。間宮さん、とてもお綺麗ですし、今ね、美魔女とかいって、流行ってるんですよ。間宮さんなら背も高いしスタイルもいいし、絶対にいけると思うんですよ」
「んで・・ババアはどうすんだよ」
「私は・・健人の意見を聞こうと思って・・」
「間宮さんがモデルをやるなら、私、マネージャーやりますよ!」
「マジかよ!」
「勝手知ったるなんとかで、私なら安心でしょ?」
「まあなぁ・・そこはいいと思うけどさ・・」
「それでね、設楽さんに会ってもらおうと思ってるんですよ」
「華子か・・。まあ、あいつなら現役だしな」
「私・・会ってみようかな・・」
「ババア・・マジかよ・・」
「家にいるだけでは・・健人に申し訳ないし・・。それで薄柿さんが勧めてくれるなら、大丈夫だと思うの・・」
「まあ、ババアがそう言うんなら、いいんじゃねーの」
「そうですか~!よかった!じゃ、明日にでも設楽さんに連絡しますね」
「小春、ゴリ押しすんなよ」
「わかってますって~。設楽さんプロだし、ダメならダメってはっきり言ってくれますよ」
「まあ、そうだな。あいつはシビアだ」
「薄柿さん・・ご面倒をおかけします・・」
「いいえ~!では、私は稽古に行きますね~」
そして私は翌日、設楽さんに電話をかけた。
設楽さんは、たけさんたちの母親が現れたことに、とても驚ていたが、同時にすごく喜んでもいた。
設楽さんは、間宮さんと会うことを、当然のように快諾してくれた。
それから二日後、私は間宮さんを連れ、駅前のカフェで設楽さんを待った。
「設楽さんって、とても綺麗な人なんですよ」
「そうなんですね・・」
「でも、間宮さんも設楽さんに負けないくらいお綺麗ですよ」
「薄柿さんったら・・そんな・・」
「こんにちは」
そこに設楽さんがきた。
「あ、どうも~設楽さん、お久しぶりです~」
「ほんと、久しぶりね。あ、初めまして、私、設楽華子と申します」
「どうも、初めまして・・。間宮茜音と申します」
間宮さん・・茜音っていう名前なんだ・・かわいいな・・
たけさん・・ババアとか言ってるけど・・ほんと、失礼よね。
「私、時雨さんご兄弟には、大変お世話になったんですよ」
「そうでしたか・・」
「だから、いつか恩返しをと思っていたところなんです」
「そうですか・・」
「こんな形で恩返しができるなんて、思ってもいませんでした。私としても大変うれしく思います」
「いえ・・そんな・・」
「でも、モデルとしての評価は、それとは別ですので、その点はご理解くださいね」
「はい・・もちろんです・・」
「設楽さん・・それで・・どうでしょうか」
「うん。OKよ」
「えっ!ほんとですか!」
「間宮さんが変身された姿が、私、わかるのよ」
「おお~~さすが現役モデルですね~」
「こんなにお綺麗のなに、もったいないわ。是非、事務所に話してみます。間宮さん、それでよろしいですか?」
「あ・・はい。ありがとうございます・・」
「よかったですね~~!間宮さん!」
「はい・・ありがとうございます・・」
こうして事務所がOKすれば、間宮さんは雑誌モデルとして働くことになった。
設楽さんが速攻でOK出したんだから、絶対に大丈夫だわ。
「それにしても・・時雨さんご兄弟は、間宮さんが帰って来られたことを、喜んでおられたでしょう?」
「いえ・・それは・・」
「まあ・・ある程度揉めたことは、想像に難くないですが・・」
「はい・・お恥ずかしい限りです・・」
「それはもう~~大変でしたよ。お兄さんはともかく、あのたけさんでしょ」
「あはは、わかるわ~」
「もう猛獣ですよっ!猛獣」
「ヤダ、薄柿さん、猛獣って・・あはは」
「それでもたけさん、今は間宮さんと暮らしてるんですよ」
「ええっ!そうなの?」
「びっくりでしょ~」
「いやあ~~・・こんなに驚いたの・・何年振りかしら・・」
「色々あったんですけど、雨降って地固まるってことですね~」
「そうなのね。よかったわね」
「真人や・・健人は・・いいお友達に囲まれて・・。私はほんとに・・嬉しく思います・・」
「時雨さんご兄弟は、ほんとにいい人ですよ。私はどれだけ救われたか知れません」
「そうですか・・」
「間宮さん、あまり自分を責めないでください」
「え・・」
「いくら母親っていっても、一人の人間なんですから、そうそう完璧でいられるはずがありませんよ」
「・・・」
「でもこうして帰って来られたのですから、それでいいじゃありませんか」
「はい・・」
「これからですよ。だから元気を出してください」
「はい・・ありがとうございます・・」
設楽さんのお母さんは、もう亡くなっていないのよね・・
だから、間宮さんが帰って来たということだけで、設楽さんにとっては羨ましいことなんだよね・・
そして設楽さんは、間宮さんの顔と、全身の写真を撮り、それを事務所の人に見せると言っていた。
さーて、これから新しい生活のスタートよ!




