八十一、一歩前進
「紬~~待って~~」
「紬は走るの苦手や。すぐに追いつくで」
「うん、そうね」
そして私たちは、全速力で走り紬に追いついた。
「ハアハア・・」
紬の額から汗が流れていた。
「紬・・落ち着いて・・」
「ハアハア・・し・・しんどいでありんす・・」
「はい、汗拭いて」
私はハンカチを出し、紬に渡した。
「ありがとうでありんす・・ハアハア・・」
「紬の気持ちは、とっても嬉しい。でもここは・・落ち着いて・・」
「そやで。今の王子には、なに言うたってアカンて」
「でも・・ハアハア・・このままでいいと思うでありんすか・・ハアハア・・」
「それはそうだけど・・」
「小春・・私は話すでありんすよ」
「紬・・」
「東雲さんの家を教えるでありんす」
「いや・・今日はバイトだと思う・・」
「コンビニでありんすか」
「うん・・」
「なら、そこへ行くでありんす」
「そういえば・・小春」
「なに・・美琴」
「王子とバイトで会えるんちゃうの?」
「ううん・・。たけさんね、私とシフトが重ならないようにしてるの・・」
「マジか・・」
「そんな姑息なことを・・。やっぱり行くでありんす!」
紬は行くと言って聞かなかった。
私と美琴も、仕方なく着いて行くことになった。
やがてコンビニの近くまできた。
たけさん・・驚くだろうな・・
っていうか・・絶対にケンカになるよね・・
「私一人で行くでありんす」
「え・・」
「三人というのは、さすがにダメでありんしょ・・」
「ほな、私ら王子に見つからんところで隠れてるわな」
「わかったでありんす」
そう言って紬は、コンビニの中へ入って行った。
「大丈夫かな・・紬・・」
「まあさすがに、店の中では話しせぇへんやろ」
「うん・・だよね・・」
私たちは、店の側面に身を隠した。
するとほどなくして、二人が店から出てきたようだった。
「なんだよ、話って」
「時雨王子、いつ家に帰るつもりでありんすか」
「紬には関係ねぇだろ」
「王子・・小春をどうするつもりでありんすか」
「はあ?お前、小春から聞いてねぇのかよ。俺たちは別れたんだぜ」
「そうでありんすか。それで、小春をこのまま放っとくつもりでありんすか」
「はあ?」
「約束はどうしたでありんすか!」
「約束ってなんだよ」
「王子は、小春のお母さんと約束したのでありんしょ!」
「・・・」
「そして、私とも約束したでありんしょ。私は言ったはずでありんす。小春をよろしく、と」
「・・・」
「別れたから反故にするでありんすか」
「・・・」
たけさん・・ずっと黙ってる・・
「黙ってないで答えたらどうでありんすか!」
「・・・」
「それと、小春は王子に別れると言われても辛抱して、ずっと王子が帰ってくるのを待ってるでありんすよ。ほんとに小春と別れるつもりでありんすか」
「俺たちのことは、お前に関係ねぇよ」
「関係ない?バカをお言いでないよ!小春を何だと思ってるでありんすか!お母さんのことは、そりゃ悩むのは当然でありんしょ。私も理解してるつもりでありんす。でも!家を出たまま帰っても来ず、連絡もしないなんて、小春に甘えるのもいい加減にしなんせ!」
「・・・」
「王子は、小春が自分から離れないと高を括ってるでありんしょが、小春はそんな都合のいい女ではないでありんす!バカにするのも大概にしなんせ!」
「・・・」
「では、これで帰るでありんす。お仕事中、失礼したでありんす」
たけさん・・どんな気持ちなんだろう・・
なんか・・胸が苦しい・・
「はぁ~~・・言いたいこと言ったら、すっきりしたでありんす」
そう言って紬が私たちのところへきた。
「小春・・ごめんでありんす・・」
「紬・・」
「でも、ああでも言わないと、王子は動かないでありんすよ」
「・・・」
「ちょっと言い過ぎたかも知れないでありんす・・小春・・ごめんでありんす・・」
「ううん。紬・・ありがとう・・」
「王子は小春と別れる気なんかないでありんすよ。意地を張ってるだけでありんす」
「うん・・」
「まあ、紬の想いが、どんだけ王子に伝わったかやな。私なら、ああまで言われて無視はでけんと思う」
「そうなってほしいでありんす」
そしてその日の夜、たけさんちに灯りが点いていた。
あ・・帰って来たんだ・・
紬の気持ちが・・伝わったんだわ・・
よかった・・
正直、私のことなんていいのよ。
私は別れるつもりも、別れた覚えもないし。
それより・・お母さんのことよ。
やっぱり・・ちゃんと会って話さないとね・・
寄りたいけど・・ここは自重すべきね。
たけさんは・・ある意味、プライドを傷つけられたんだもん。
その傷が癒えるまで、会わない方がいいよね・・。
ルルル・・
あっ・・東雲さんだわ・・
「はい、もしもし」
「こんばんは」
「こんばんは・・」
「あのね、健人くんなんだけど、家に帰ったからね」
「あ、はい。灯りが点いてましたから、わかりました」
「そうなんだね。それでね、僕も散々説得して、ようやく気持ちも落ち着き始めてるみたいだよ」
「そうなんですね・・」
「でも、あまり焦らない方がいいと思うんだ。健人くんの口から何かを言ってくるまで待った方がいいよ」
「あ・・はい・・」
「ここで焦ってしまうと逆効果になるからね。そうなってしまったら、もうダメになると思うんだ。だからくれぐれも焦らないでね」
「はい、わかりました」
「それじゃ、これで」
「あの・・色々とありがとうございました」
「ううん。僕は健人くんたちに、なんの恩返しもしてないから、今回、健人くんが僕を頼ってくれて、とても嬉しかったんだ」
「そうなんですね・・」
「薄柿さんも辛いだろうけど、大丈夫だからね。なにかあれば、いつでも言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
東雲さん・・なんて優しい人なの。
今は翔さんが、カナダへ行ってるから淋しいだろうけど、でも東雲さんがいれば、たけさんは大丈夫だわ。
たけさん、以前に「和樹は一生のダチだ」って言ってたけど、ほんと、そうよね。
それは翔さんも同じよね。
もう少しの辛抱だわ。
たけさん・・必ず前を向いてくれるわ。
それから数日後・・
ルルル・・
あっ・・
あああ~~~!
たけさんだわっ!
「はいっ!もしもしっ」
私は電話が壊れるのではと思うくらい、強く握りしめた。
「あ、俺だけど・・」
「こんにちは~」
「あ・・うん・・」
「今日はいいお天気ですね。でも、寒いですけど~」
「そうだな・・」
「風邪とか、引いてませんか?」
「うん、引いてねぇ」
「そうですか~!よかった」
「あの・・小春・・」
「はい~なんですか~」
「今日、学校終わったら、俺んち来てくれねぇか」
「はい~!行きます~」
「んじゃ、待ってるから」
「はい~!」
たけさん・・
やった~~~~!
やったわ~~~~!
たけさんが、前を向いてくれたわ~~~!
「小春、王子か!?」
「うんっ!そうなの~」
「んで、王子、なんて?」
「今日、来てくれって」
「マジかーー!やったやんかいさっ!」
「よかったでありんすな・・」
「私、嬉しい~~!」
「私は・・私の言ったことで・・王子が更に殻に閉じこもってしまったのではないかと・・気になっていたので・・ほんとによかったでありんす・・」
「紬・・そんな~なに言ってんのよ~」
「う・・うう・・」
紬は泣き出した。
「紬・・泣かないで・・」
「ほら~~紬。脱水症状になるでぇ~」
「ヤダ~美琴。今は冬だよ~」
「いやっ!冬でも関係あらへんっ!脱水症状を舐めとったらアカンで」
「ええ~~そうなの?」
「冬は乾燥してるから、体から水分が失われがちなんやで」
「ええ~~マジで?」
「そやで」
「二人とも・・なんの話をしてるでありんすか・・」
「あはは、ヤダ~紬ったら~」
「紬、泣かんでもええ。んで、気にすることなんてあらへんでっ!」
「そうだよ~。私、すごく嬉しかったんだからね」
「小春・・ほんとによかったでありんすな・・」
「うん・・。ありがとう」
そして放課後になり、私は急いで電車に乗った。
美琴は紬を心配して、話しながらゆっくり帰ることにした。
たけさんも友達に恵まれてるけど、私も同じだわ。
美琴も紬も・・ほんとに一生の友達だわ。
そして私は、たけさんちの玄関の前まできた。
深呼吸しよっと・・
はぁ~~~・・
よしっ・・これでいいわね。
「こんにちは~」
私は勢いよく、扉を開けた。
「おう・・」
「たけさん~お久しぶりですね~」
「そうだな・・。上がれよ」
「はーい」
私は部屋に上がり、ちゃぶ台の前に座った。
たけさんは、とても戸惑っている様子だった。
「たけさん、おかえりなさい」
「あ・・ああ・・」
「あっ!知ってます?」
「なんだよ・・」
「紫苑さんね、付き合ってる人がいるんですよ~」
「えっ・・マジかよ」
「それで・・美琴と紬は、見事に失恋したってわけなんです・・」
「そうか・・。そりゃ気の毒だったな」
「でも、友達は続けるみたいですよ」
「そっか・・」
たけさん・・きっと話したいことがあるんだろうけど、言いにくそうだな・・
でもここは、待つしかないよね。
焦っちゃダメよね。




