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三人王子と三匹の子ブタちゃん  作者: たらふく
79/94

七十九、二回戦



そしてその日の夜・・


ピンポーン


あっ・・誰かな・・


「はーい」


私がドアを開けると、お兄さんと葵さんが立っていた。


「あ、こんばんは~」

「また突然にごめんね」

「いえいえ~、どうぞ入ってください~」

「真人くん、上がらせてもらいましょう」

「うん」


お兄さんは、いつもの明るさが消えていた。


「どうぞ~座ってくださいね」


私は当然、昨日の話だと思った。

すぐにお茶を淹れ、二人の前に運んだ。


「お兄さん・・私のこと、葵さんから話を聞かれたんですね」

「うん」

「勝手なことして・・すみません・・」

「いや、別に・・」

「私・・何とかしてきっかけを作りたくて・・。だって、このままでいいはずがないですよね」

「・・・」

「私・・余計なことしましたか・・」

「いや、小春ちゃんの気持ちは十分理解してるつもりだ。でも、待ってくれねぇかな」

「え・・」

「俺な、まだ気持ちに整理がつかねぇんだよ」

「そ・・そうですか・・」

「やっぱりな・・俺たちは捨てられたって思いが消えねぇんだよ。頭ではわかってても、気持ちが着いて行かねぇんだ」

「はい・・」

「薄柿さん」

「はい」

「真人くんは、自分の気持ちを、どうしてもあなたに伝えたくてここへ来たの」

「そうですか・・」

「小春ちゃんも知ってると思うけど、俺たちはマジで半端ねぇ苦労をしてきた。俺は六年生だったけど、健人はまだ二年生だったんだ。ガキってより、幼児の年だ。そんな幼い頃に捨てられてみろ、母親のことを恨みこそすれ、憐れんだりできねぇんだよ」

「・・・」

「俺だってそうだ。中学を卒業して俺は生きていくために働いた。健人を死なせるわけにいかねぇからな。今更その苦労を愚痴ったところでどうにもなりゃしねぇ。むしろ俺は、健人を大学まで行かせたことを誇りに思ってる。あいつにも目標ってもんができた。後は健人がてめぇの足で歩いて行くだけだ。その土台はできたんだよ」

「はい・・」

「ところがここに来て、まるで忘れ物でも取りに来たように母親が現れてな。しかもあんな惨めな姿で。俺たちを捨てて出て行ったんなら、一生俺たちの前には現れてほしくなかったよ。俺たちに姿を見せたってことは、弱さを抱えてるからなんだよ。俺はそれがどうにも納得できねぇんだ。勝手すぎるだろ」

「・・・」

「生活が辛い、一人が淋しいっつったってな、おめぇが一番口にしちゃいけねぇ言葉だろって思うんだよ」

「・・・」

「だから、気持ちの整理がつくまで、俺たちのことに口を挟まねぇでほしいんだ」

「そう・・ですか・・」

「それから・・勝手なことを言うようだけど、健人のこと、見放さないでやってくれねぇか・・」

「見放すだなんて、とんでもないですよ。私はたけさんから離れません」

「そうか・・。それならよかった。健人はあんなだけど、よろしく頼むな・・」

「わかってます!たけさんに何と言われようと、私は毎日行くつもりですっ!」

「あはは、小春ちゃん、強くなったな」

「そりゃそうですって!強くならないと猛獣のようなたけさんと向き合えませんから!」


お兄さんは、自分の気持ちを話したことで、顔の表情が幾分か柔らかくなった。

お兄さんも・・辛いよね・・

お母さんの気持ちを分かってあげたいって思ってるはずよ・・

でも・・そこへ辿り着くまでには、時間がかかるよね・・


私は、間宮さんに連絡することを止めようと思った。

そして、たけさんにも一度謝って、もうこの話には触れないようにしようと思った。



そして次の日の朝・・


「たけさん~」


私はまた、登校前にたけさんちへ寄った。


「またお前か」

「はい~また私です」


私は玄関先で立ったまま、話を続けた。


「お前、バカか。俺たちは別れたんだ。それわかってんのか」

「だから~知りませんって」

「はっ、ストーカーかよ」

「あの、たけさん」

「なんだよ」

「私、勝手なことしてすみませんでした」

「・・・」

「もう二度としませんので、許してください」

「知るかよっ!」

「では、行ってきます~」


私はそう言って、家を出た。

よーし。もう謝ったもんね。

たけさんが許そうが許すまいが、どうでもいいわ!

私はたけさんから離れないんだからね!



それから数日後の夜、私はいつものようにたけさんちへ寄った。


「たけさん~こんばんは~」


私が扉を開けて玄関へ足を踏み入れると、見知らぬ女性がたけさんと向かい合って座っていた。


「また来たのか」

「たけさん・・」

「なにしに来たんだよ」

「その人は・・誰ですか・・」


その女性はとても若く、そして・・とても綺麗な人だった。


「お前、しつこいぞ。帰れよ」

「・・・」

「俺たちは別れたんだ。しつけーったらありゃしねぇぜ」


その女性は、ずっとたけさんの顔を見て、様子を伺っている風に見えた。


「こいつ俺の新しい彼女。これでわかったな」

「彼女・・」

「なに突っ立ってんだよ。帰れよ」

「そ・・それは・・本当ですか・・」

「マジだっつってんだろ」

「あの・・本当なんですか・・」


私は女性にそう訊いた。


「うん・・」


女性は頷いた。

ほ・・ほんとなんだ・・

でも・・これって変だよね・・

私と別れてからすぐに次の人を・・

たけさんはそんな人じゃないわ・・


「俺たちさ、今から寝るんだけど」

「え・・」

「邪魔する気かよ」

「そっ・・そんなっ・・」

「おい、有美ゆみ、あっち行って待ってろ」


たけさんは隣の部屋を指してそう言った。

あそこは・・以前、私が寝させてもらった部屋だわ・・


有美という人は、たけさんに促され隣の部屋に入り襖を閉めた。


「こういうことだから、もうここへは来るな」

「たけさん、ほんとに私と別れるつもりなんですか・・」

「つもりってなんだよ。もう別れたんだろが」

「ほとんにあの人のこと、好きなんですか・・」

「たりめーじゃねぇか。彼女なんだぜ」

「そんな・・」

「まあ、少なくとも俺の嫌がることはしねぇよ、有美は」

「・・・」

「帰れよ」


たけさん・・なんて人なの・・

いくら・・やけになってるからって・・こんなこと・・

私は靴を脱いで部屋へ上がり、たけさんの前に立った。


「なんだよ!」


たけさんも立ち上がった。


バチーーン!


私はたけさんの頬を、思いっ切り叩いた。


「なにすんだよ!」

「最低!弱虫!卑怯者!」

「なんだと~~~!」


たけさんは私に襲い掛かってきた。

はっ、バカじゃないの!

私を誰だと思ってるのよ!


私は怒りに任せて、たけさんを投げ飛ばした。


「・・くそっ・・てめぇ・・」


たけさんは悔しそうに私を睨んだ。


「なによ!掛かって来なさいよ!」

「うるせぇ!」


たけさんはまた、私を襲った。

私は造作もなく、投げ飛ばした。

すると襖が開き、有美さんが私たちを見て驚いていた。


「てめぇ・・舐めた真似しやがって・・」

「なによ、口だけ?」

「なっ・・」

「情けない男ね。現実から目を逸らして、やけにしかなれなくて」

「なんだと~~!」

「そうやって、いつまでも後ろばかり見てなさいよ。それで?有美さんも気の毒だわね」

「なにっ!」

「女性を利用して、最低の男だわ」

「あの・・健人くん、大丈夫・・?」


有美さんが弱々しくそう言った。


「うるせぇ!黙ってろ!」

「二言目には、うるせぇしか言えないのよね。それで先生が勤まるとでも思ってるの?」

「小春・・てめぇ・・」

「あなたに小春って呼ばれる覚えはないわ」

「なっ・・」

「有美さん、こんな最低野郎とは、とっとと別れた方がいいわよ」

「いや・・別に付き合ってるわけじゃないのよ・・」

「は?どういうこと?」

「その・・頼まれて・・」

「有美!余計なこと言うんじゃねぇよ!」

「やっぱりね・・。そんなことだろうと思った。ますます最低ね!見損なったわ!」


私は捨て台詞を吐いて、家を出た。

そうなのよ・・たけさんはそんな人じゃない・・

私を遠ざけようとして・・バカな芝居を・・


でも・・それだけ、たけさんの心の闇は深いってことよね・・

本当に大変だわ・・



それから私はしばらく、たけさんの家にもいかず、連絡もしないでいた。

たけさんが私を頼ってきたら・・その時がチャンスだと思っていた。

しかし・・たけさんが私を頼ってくることはなかった。

毎日アパートの前を通っても、電気が点いていることがなかった。


どこへ行ってるんだろう・・

お兄さんのお家・・?

でも・・行けば必ずお母さんの話になるんだから、行くはずがないわ。


それから数日後、東雲さんから電話がかかってきた。


「あ・・どうも、お久しぶりです」

「こんにちは」

「あの・・なにかあったんですか・・」

「うん。あのね、薄柿さんが心配してると思って連絡したんだけど、健人くん、僕の家にいるから」

「そ・・そうなんですか・・」

「話は全部聞いたよ。大変だったね」

「たけさん・・なんて言ってますか・・」

「それなんだけど、今の健人くんは頑なになってて、考えることすら拒否してるよ」

「そうですよね・・」

「それで、しばらく僕んちから大学へ通うことにしたから、心配しないでね」

「バイトは・・どうするんでしょうか・・」

「バイトには行くって言ってるよ」

「そうですか・・」

「薄柿さん、あまり心配しなくていいよ」

「はい・・ありがとうございます・・」

「僕からも話をするからね。健人くんならきっと大丈夫だよ」

「はい・・」

「それじゃ、また連絡するね」

「はい、あの・・たけさんのこと、よろしくお願いします・・」

「うん、わかった」


そっか・・東雲さんちなら大丈夫ね。

紫苑さんだって近くだし・・

私がどうこうするより、あの人たちから話してもらう方がいいかも知れないわ・・

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