七十八、一回戦
そして二日後の夜・・
「たけさん~」
私はそう言って扉を開けた。
たけさんは、寝ころんでテレビを観ていた。
「小春か」
「お邪魔します~」
私は勝手に部屋へ上がった。
「なんか用か」
「用がなくちゃ、来ちゃいけないんですか~」
「別に」
「たけさん、もうお風呂行ったんですか」
「ああ」
「ジュース、もらってもいいですか?」
「ああ」
たけさんはテレビの画面を観ながら、惰性で返事をしていた。
この後、葵さんが来る。
私はたけさんの様子を見てて、これから起こるであろうことに不安を覚えていた。
しっかりしなくちゃ・・
絶対にビビったり・・引いたりしたらダメよね・・
「どうぞ~」
私はたけさんにもジュースを入れ、コップを差し出した。
たけさんは、返事もせずにテレビを観ていた。
「あの・・たけさん」
「なんだよ」
「この間・・お兄さんちへ行ったんですよね」
「ああ」
「なんか・・急用でもあったんですか・・」
「お前には関係ねぇよ」
「そうですか・・」
やっぱり・・私には話さないつもりなんだわ・・
そんな私が・・間宮さんと、もう二度も会ってるなんて言えば・・たけさん、怒るどころの騒ぎじゃないよね・・
なんだか・・怖い・・
「こんばんは~」
あっ・・葵さん、来た・・
「え・・葵ちゃん?」
たけさんは起き上がってそう言った。
「健人くん、ちょっとお邪魔しますよ~」
葵さんは、部屋に上がり、ちゃぶ台の前に座った。
「葵ちゃん、どうしたんだよ」
「どうもしないわよ」
「兄貴は?」
「来ないわよ」
「は・・?」
「健人くん、もう一度、話に来たの」
「けっ、またかよ」
そこでたけさんは私を見た。
「小春、お前は帰れ」
「え・・」
「健人くん、薄柿さんからも話があるの」
「はあ?なんの話しだよ」
「お義母さんのことよ」
「葵ちゃん!余計なこと言ってんじゃねぇよ!」
「余計なこと?あなた、薄柿さんを何だと思ってるの?」
「っんだよ!」
「あなたの彼女でしょ。その彼女に何も話さないなんて、あんまりじゃない?」
「小春には関係ねぇんだよ!」
「あなたがそう思うのは勝手だけど、薄柿さんはもう、お義母さんと会ってるのよ」
「なっ・・なんだとっっ!!どういうこった!小春!」
たけさんは、血相を変えて私を睨んだ。
「わっ・・私は・・たけさんが何も話してくれないし・・んで・・元気がないし・・そんなたけさんを見てるの辛いし・・」
「そんなこと訊いてねぇよ!会ったってどういうことだ!」
「わっ・・私・・この間・・アパートの前で、偶然、見かけたんです・・。それで声をかけて・・。んで・・色々あって・・話をすることになって・・私の部屋に来てもらったんです・・」
「小春!!てめぇ~~!なにやってんだよ!」
「だって・・たけさん・・元気がないし・・このまま放っとけないし・・」
「だからっ!お前には関係ねぇって、俺、言ったよな!」
「・・・」
「言ったよな!」
「健人くん・・ちょっとは落ち着いたら?」
「なにいってんだよ!葵ちゃん、知ってたんだな」
「知ってたわよ」
「てめぇら・・勝手なことしやがって・・」
「たけさん・・話を聞いてください」
「うるせぇ!俺はクソババアのことなんて、話したくねぇよ!」
「たけさん・・」
たけさんは、想像以上に怒っていた。
これじゃ・・話しなんて無理だわ・・
「お前ら、帰れ!」
「健人くん!」
「あのな・・言っとくけどな、これ以上クソババアに関わりやがると、俺は一生、お前らを許さねぇからな」
「たけさん、葵さんになんてことを!」
「うるせぇ!お前、今後、このことに触れやがるとお前とは別れるからな」
「たけさん・・」
「お前らになにがわかるってんだ!放っといてくれ!」
「ああ、そうですかっ!別れましょうよ!そしたら私とたけさんは赤の他人。私が誰と会おうと誰と付き合おうと私の勝手ですからね」
「ああっ?」
「私は間宮さんと友達になりますから!」
「小春・・てめぇ・・なに言ってんだ・・」
「なによ!たけさん、ちっとも話を聞こうともしないで!勝手なこと言わないで!」
「わかった。お前とは今日限りだ。勝手にしろ」
「そうですか!わかりましたっ!」
「まあまあ・・薄柿さん、落ち着いて・・」
「だって・・葵さん・・」
「そりゃね・・健人くんの気持ちはわかるわよ。お母さんの話もしたくない、ましてや会うなんてね」
「・・・」
「でも、血の繋がった実のお母さんじゃない。お母さんだって、なにも気軽に会いに来たわけじゃないのよ」
「だから!ババアがどうしようと俺は知らねぇっつってんだろ!」
「たけさん・・お母さん、今お一人なんですよ。それで、スーパーでパートやってて・・生活に苦労してるみたいなんです」
「それを自業自得ってんだよ。俺たちが今までどれだけ苦労して来たと思ってんだ!パートで苦労だと!?クソみてぇな苦労を憐れんでんじゃねぇよ!」
「分からず屋!」
「一人っ子で甘やかされて育だったてめぇには、俺たちの気持ちなんかわからねぇんだよ!」
「なによそれ!そりゃわかんないわよ!でも、間宮さんを気の毒に思うこともいけないの!?」
「知るかよっ!」
「私の大事なたけさんのお母さんなのよっ!心配しちゃダメなの?」
「俺にはクソババアのことなんて、関係ねぇからな。これは今後も変わるとはねぇよ」
「そうですか!わかりました。では私は勝手にさせてもらいますからね」
「これ以上、話しても無理ね・・」
葵さんは呆れたように、ため息交じりにそう言った。
「今後も無理だからな」
「そっか。わかったわ。じゃ、帰るね」
「ああ」
「私も帰ります!たけさん、今までどうもお世話になりましたっ!」
「もう来んなよ」
「頼まれたって来ませんよっ!」
そして私と葵さんは、家を出た。
「なによ~~!あの態度!」
私は思わずそう叫んだ。
「あはは。まあ、想定内ね」
「そうですけど・・ったく・・」
「それにしても・・健人くん・・頑固過ぎるわね・・」
「ほんとですよっ!あんな分からず屋、初めてですよ」
「まあまあ。別れ話は健人くんも本心じゃないし」
「そうですかねぇ」
「そうに決まってるじゃない」
「もう、無理やり、家へ連れて行きます?」
「お義母さんを?」
「そうです」
「それはどうかな。さっきより逆上すると思うわ」
「まあ・・そうですよね・・」
「まあ・・何度も話を持ち掛けるしか手はないわね」
「そうですね・・」
「それじゃ、これで。お疲れさま」
「あ、おやすみなさい」
たけさん・・どうするのかしら・・
「もう来るな」って言ってたけど、行ってやるんだからね!
誰が別れるもんですか!
なにか・・いい方法はないかなぁ・・
「たけさん~」
私は次の日の朝、学校へ行く前にたけさんちに寄った。
「お前、なんなんだよ」
たけさんは朝ごはんを食べていた。
「またそんな~」
「来るなって、俺、言ったよな」
「そんなの知りません~」
「あのな、俺はお前と別れたんだ。もう来んな」
「またまた~」
「てめぇ・・俺をからかってんのか」
「そんなことないですよ」
「俺はお前に裏切られた気持ちだぜ」
「え・・?」
「勝手なことしやがって」
「まあ、いいじゃないですか」
「よくねぇ!出て行け!」
「そうですか。では行ってきます~」
私はそのまま家を出た。
こんなことで、めげないんだからね!
毎日、行ってやる!




