六十七、ファッションショー
そして、いよいよイベント当日が訪れた。
今日は、美琴や紬も、東雲さんや静香さんも観に来ることになっている。
お兄さんと葵さんは、やはり・・設楽さんに気を使って遠慮した。
場所は都内にある、小さなホールだ。
舞台の中心から花道のような台が付け足され、そこをモデルたちが歩くことになっている。
開演にはまだ時間があるが、ホールの外ではたくさんの人たちが行列を作っていた。
私とたけさんは、その様子を横目で見ながら裏口へと向かった。
「あっ!時雨さんだわっ!」
列に並んでいた女性から、そのような声が挙がった。
「きゃあ~~!ほんとだ!時雨さんよ!」
「わあ~~、実物の方が何倍も素敵だわ~~」
「かっこいいわ~~!」
「時雨くーーん、時雨くーーん」
次から次へと声が挙がり、たけさんに向かって手を振っていた。
うわあ・・さすが人気投票No.1だわ・・
あの人たちは、たけさん目当てで来たのね。
たけさんは、全く声を無視して中へ入って行き、私も後に続いた。
「たけさん」
「なんだよ」
「あの・・ファンの人も来てるみたいですけど、少しは笑うとか・・した方がいいんじゃないですかね」
「知るかよっ」
「あの・・そうじゃなくてですね・・人気投票一位になれたのも、あの人たちのおかげなんですから」
「俺、タレントじゃねぇし」
「まあ・・そうですけど・・でもこの仕事も人気商売ですよ」
「俺、関係ねぇし」
ったく~~~!
知らねぇ知らねぇばっかり言って。
「こらっ!」
私は思わず、大声で怒鳴った。
「なっ・・なんだよ」
「マネージャーとして、それは許しませんよっ!」
「げ・・」
「せっかく、時雨くんって言ってくれてるんですから、笑うくらいはしてください!」
「わ・・わかったよ・・」
「わかったなら、よろしい」
「うわぁ・・怖えぇぇ」
「青年~~!調子はどうだい」
そこに亜矢さんがきた。
「亜矢さん、今日は、よろしくお願いします」
私は丁寧に頭を下げた。
「あいよっ!まっかせなさぁぁ~~い」
「よろしくお願いします・・」
たけさんも、そう言って頭を下げた。
「んじゃ~~、青年、控室へ行くぞ」
「あの・・私も入ってもいいのでしょうか」
「いいけど、モロに着替えを見ることになるよ」
「え・・」
「他のモデルも着替えるけど、いい?」
「いや・・遠慮します」
「あはは!ウブだねぇ~。まあ、私に任せなさい。あなたは、舞台の袖で待ってるといいよ」
「はい、わかりました」
そしてたけさんと亜矢さんは、控室へ入って行った。
ひぃ~~・・着替えなんて見れないわ・・
あ・・美琴たち、来てるのかな・・
電話してみよう。
ルルル・・
「もしもし、小春だけど」
「おお~~こっはるちゃ~ん」
「もう来てるの?」
「来てまんがな~。紬もおるで」
「そうなんだ。外で並んでるの?」
「うん、そやで」
「ごめんね、暑いでしょう」
「っんな~~、熱中症対策は万全やっちゅうねん」
「紬は・・大丈夫なの?」
「大丈夫やって。心配しなや」
「そっか。でも、くれぐれも気をつけてね」
「王子、しっかりやってや~」
「うん。たくさん練習したし、大丈夫よ」
「楽しみにしてるで~」
「ありがと。じゃ、後でね」
開場まで・・あと三十分か・・
私は女子の控室へ行った。
中へ入ると、設楽さんが着替えていた。
「設楽さん」
「あっ、薄柿さん、こんにちは」
「大変ですね」
「イベントはいつもこうなのよ。ごった返してるでしょ」
「はい、すごいですね・・」
「ある意味、戦場なの」
そう言って設楽さんは笑った。
周りを見ると、当然だけど、綺麗な人ばかりだった。
すごいなぁ・・圧倒されちゃうわ・・
「薄柿さん」
「はい」
「今日はね、私と健人くんで歩く場面もあるのよ」
「えっ、そうなんですか」
「カップルって設定なんだけど、健人くんとなら気が楽でいいわ」
「わあ~~、楽しみです~~」
「腕を組んだりするけど、気にしないでね」
「そんな~~、ぜっんぜん、気にしませんよ~」
「実はね、ほんとは私、奥寺と歩かされる予定だったのよ・・」
「えっ・・」
「私、頑として断ってね。まあ・・仕事だから断るっていうのもダメなんだけど、私、やっぱり奥寺はダメなのよ。寒気がするの」
「わかりますよ~」
「そういうことだから」
「はい~。頑張ってください」
私は控室を出て、舞台の袖へ行くことにした。
すると、男性の控室から奥寺さんが出てきた。
うわっ・・ヤダな・・顔を合わせたくないわ・・
私は下を向いて歩いた。
「あれ・・きみって、時雨くんの友達だよね」
私は奥寺に声をかけられた。
「あ・・どうも・・お久しぶりです」
「観に来たんだ」
「いや・・実は私、時雨のマネージャーになったんですよ」
「へぇー」
「どうぞよろしくお願いします」
「今日の出演、きみが決めたの?」
「え・・まあ・・そうですけど・・」
「ふーん、そうなんだ」
「あの・・なにか問題でも・・?」
「いや、別に」
そう言って奥寺さんは歩いて行った。
なによ・・今の。
なんか含みのある言い方だったわ・・
ま、奥寺さんなんてどうでもいいわ。
それより、たけさんの成功を祈るしかないわ。
そしていよいよ開演時間となった。
ああ~~・・ドキドキするわ・・
たけさん・・大丈夫かな・・
私は舞台の袖で、たけさんを待っていた。
「小春」
あ・・たけさんだ。
たけさんは、秋物のファッションに身を包んでいた。
「たけさん、大丈夫ですよね」
「っんな、たりめーだろが」
「なんか、後で、設楽さんとペアで歩くらしいですね」
「みてぇだな」
「頑張ってくださいね」
「ああ」
たけさん・・かっこいいな・・
ほんと、素敵だわ・・
「それにしても、暑いよな」
「ですよねぇ。クーラー効いてるはずなんですけど、人が多いですからね」
「俺、長袖だぜ。んで、おまけにこのジャケット。あちーわ」
「あ、私、自動販売機行って、水を買ってきます」
「水なら控室にあるから、俺、とって来るわ」
「あ、それなら私が行ってきますよ」
「いや、野郎の控室だし、俺が行く」
「そうですか。わかりました」
そしてたけさんは、控室へ行った。
ほんと・・暑いわ。
お客さん・・熱中症とか大丈夫かな・・
「ほら、小春も飲めよ」
ほどなくしてたけさんは、ペットボトルを二本抱えて戻ってきた。
「あ、私の分まですみません」
「しっかり水分とれよ」
「はい」
やがてショーが始まり、次から次へとモデルが舞台へと出て行った。
会場のお客さんは、それは大盛り上がりで、意中のモデルが出てくると黄色い声があちこちから挙がった。
ああ・・次はたけさんだわ・・
しっかり・・たけさん。
たけさんは、設楽さんのアドバイス通り、堂々と舞台へ出て行った。
すると「きゃあ~~~時雨くん~~」という声が挙がっていた。
そうそう・・背筋を伸ばして・・真っすぐ前を見て・・
するとたけさんは、声が挙がる方を見てニコッと笑い、手を振っていた。
「きゃあああああ~~~!」
「時雨くーーーん!かっこいい~~~~!」
うわあ・・すごいな・・
それにしても・・たけさん・・様になってる・・
そうそう~~いいわよ~~!
これなら奥寺さんにも負けてないわ!
「青年、いいね」
「あ。亜矢さん」
「この短期間で、一体どんな魔法を使ったんだい?」
「設楽さんにアドバイスしてもらったんですよ」
「おお~設楽か。そりゃいいな」
「はい~」
「さーーて!控室に戻るね。仕事~仕事~~」
「よろしくお願いします~」
今日の亜矢さんは、たけさんのためだけに、ここに来てくれた。
専属のスタイリストでもないのに・・ほんと、ありがたいわ。
悔しいけど・・奥寺さんもとても様になっていた。
でも・・なんか・・ナルシストっていうのかな・・
ちょっと嫌味な感じがあった。
それでも奥寺さんも人気があった。
設楽さんは・・もう、女子の私が失神しそうなくらい、超絶綺麗だった。
たけさんには怒られるかも知れないけど、ほんと、替われるものなら替わりたいわ・・
一度でいいから・・あんな風に堂々とみんなの前で歩いてみたいな・・
ショーは順調に進み、やがて男女ペアの時間が訪れた。
たけさんと設楽さんは、並んで舞台の袖で出番を待っていたが、どうも設楽さんの様子が変だ。
「設楽さん、大丈夫ですか」
私は設楽さんの傍へ行き、声をかけた。
「うん・・平気・・」
いや・・平気じゃないわ・・
とても疲れた感じがするのだけれど・・
「華子、お前、マジで大丈夫かよ」
「ごめん、健人くん・・」
そう言って設楽さんは、その場に座り込んでしまった。
「設楽さん!」
「おい、小春。華子、熱中症じゃねぇのか」
「えっ!」
「これ・・無理だぜ」
「どうしたーー!」
そこに亜矢さんがきた。
「おい、設楽!しっかり!」
「亜矢さん・・」
「きみ・・ダメだよ。無理だ」
「でも・・私が出ないと・・もう・・時間が・・」
「ダメダメ。ステージで倒れたりしたら、それこそ大変だ」
「す・・すみません・・」
「設楽さん、控室へ行きましょう」
私はそう言って設楽さんを抱きかかえた。
「小春、お前じゃ無理だよ。俺が連れて行く」
たけさんは、設楽さんをおぶって控室へ向かった。
私と亜矢さんも後に続いた。
「亜矢さん・・どうしましょう・・。もう時間が・・」
「代わりがいればいいんだけど、時間的に無理だな」
「え・・じゃ、たけさんはどうなるのでしょうか」
「一人で歩くしかないね」
「そんな・・」
あっ・・!美琴はどうかな・・
「あの・・美琴が来てるんですけど・・代わりにならないですかね・・」
「えっ!美琴ちゃん来てるの?それを早く言いなさい~~!で、どこに?」
「客席にいますけど、私、電話します」
「うん、そうして!」
そして私は美琴に電話をかけ、控室に来てもらうよう話した。
「小春、どうしたん?」
美琴がそう言って控室に入ってきた。
紬も一緒だった。
「あのね、設楽さんが倒れてしまって。んで、急なことなんだけど美琴、たけさんと歩いてほしいんだけど」
「ええええええ~~~!私が舞台に上がるっちゅうんかいな!」
「美琴ちゃん、ほら、こっち来て!」
亜矢さんが美琴を引っ張って、椅子に座らせたと思ったら、すぐにメイクに取り掛かった。
「え・・ちょっと・・待って・・」
「喋らない!黙る!」
戸惑う美琴に亜矢さんがそう言った。
「おい・・小春」
「はい」
「俺・・美琴と歩くのか?」
「はい、そうです」
「マジかよ・・。美琴、歩けるのかよ」
「たけさんがリードしてあげてください」
「俺がリードって・・。おい・・マジかよ・・」
「おい、美琴」
たけさんに声をかけられ、美琴は目だけたけさんに向けた。
「お前、ちゃんと歩けよ。とにかく、背筋を伸ばして真っすぐ前を向いて歩けばいいから」
「美琴ちゃん~、できるよね?私はきみはできる子だと思ってるんだよ~」
亜矢さんは美琴の顔をいじりながら、そう言った。
「美琴、お願い!歩いてね」
「美琴~、美琴ならできるでありんすよ~。自信を持つでありんす」
「さあ~~てと、着替えだ!青年は退出!」
「あ・・ああ。美琴、外で待ってるからな」
そう言ってたけさんは、出て行った。
亜矢さんは、設楽さんが着ている服とは別のを選び、美琴に着替えさせた。
「よしよし~~、これでいいな。さあーー美琴ちゃん、張り切ってな!」
「私・・できるんやろか・・」
「迷ってる暇はないよ!さ、青年のところへ行きな!」
「美琴、大丈夫だから、頑張って」
「そうでありんすよ~。王子、待ってるでありんすよ」
「う・・うん・・」
「小春ちゃん、私、設楽を看るから。きみは青年と美琴ちゃんに着いてって」
「はい、わかりました」
そして、私たちは舞台へと向かった。




