六十三、久しぶりの再会
そして翌日・・
「おーい、小春~」
玄関の外でたけさんの呼ぶ声がした。
「はーい、今、行きます~」
私はもう身支度を整えていて、バッグを持ち外に出た。
「おはよ」
「おはようございます~」
「んじゃ、行くか」
「はーい」
そして私たちは駅に向かって歩いた。
「東雲さんに会うの、久しぶりですよね」
「そだな」
「一人暮らし、上手くいってるんですかね」
「大丈夫だろ」
「東雲さんとは、一年間、一緒に暮らしたんですよね」
「うん」
「どんな感じでした?」
「どんなって、別に普通だよ」
「東雲さんの性格って、私、あまりピンときてないんですよ」
「あいつは、超がつくくらい優しいやつだぜ」
「そうですよね。言葉遣いも優しいし・・」
「悪かったな」
「え・・」
「俺はこんな不良みたいで~」
「いや・・たけさんは、その方がいいですよ」
「なに言ってんだよ」
「だって・・この間、棒読みでしたし」
「うるせぇよ」
「あはは」
東雲さん、ほんとに優しい人だもんなぁ~。
でも、たけさんだって、すごく優しい人だよ・・
みんなそれを知ってるんだよね。
私たちは電車を乗り継ぎ、やがて都内の最寄り駅に着いた。
すると、改札を出たところで東雲さんが待っていた。
「よう~和樹~」
「東雲さん、おはようございます」
「おはよう。二人ともよく来てくれたね」
そして私たちは、東雲さんのアパートに向かって歩いた。
「和樹、学校はどうだ」
「うん。とても楽しいよ」
「そっか。よかったな」
「勉強は大変だけど、友達も少しだけどできたしね」
「おお~~、そっか。それはなによりだな」
「でもね、僕はやっぱり健人くんや翔くんと一緒にいた時の方が、何倍も楽しかったよ」
「っんな~、ダチいっぱい作ればいいじゃねぇか」
「まあね。自然に任せてるんだ」
「そっか」
ほどなくして、アパートに到着した。
おお・・これは・・アパートと言うより・・マンションだわ。
「ここの二階なんだよ」
「そっか」
部屋は203号室だった。
「さ、どうぞ」
東雲さんに促され、私たちは部屋に入った。
思った通りだわ・・お洒落な部屋だわ・・綺麗にしてるなぁ~
間取りは2DKだったが、ダイニングが広くて、狭さは感じなかった。
私たちは六畳の洋室の居間に置いてある、ソファに座った。
「寛いでね。今、コーヒー淹れるからね」
「あんま気、使うなって」
「使ってないよ~。コーヒーくらいしかないんだ」
東雲さんはそう言って、キッチンへ行った。
白のカーテンが、風に揺れていた。
それにしても綺麗だわ・・
「和樹~!由名見は元気にしてるのか」
「ああ。うん。元気だよ」
「将来、結婚したら医者と看護師だな」
「あはは。健人くん、気が早いね」
そう言いながら、東雲さんはコーヒーカップをトレーに乗せて戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとな」
「ありがとうございます~」
「ところで、健人くん」
「なんだよ」
「モデルの方はどう?」
「ああ、まあ、ぼちぼちな・・」
「しかし、最初聞いたときは驚いたよ。まさか健人くんがモデルなんてね」
「華子と亮介のために受けたんだよ」
「うん、そうらしいね」
うわあ~~・・それ・・私の策略だったんですけどぉ・・
「俺、自分に合ってねぇって、受けたこと後悔したんだけどさ」
「うん」
「でも、辞めるってなったら、華子の顔を潰すことにもなるし、んで、マジでウゼェモデルがいてな。俺、そいつに負けねぇって思って、続けることにしたんだよ」
「へぇーそうなんだ」
「そいつ、奥寺ってやつでな、元ホストらしいぜ」
「え・・奥寺って、下の名前はなんていうの?」
「下の名前・・?なんだったけな・・」
「あの・・直哉って言ってましたけど・・」
「ああ、そっか。直哉だ、直哉」
「えっ・・奥寺直哉?」
そこで東雲さんの顔色が変わった。
「なんだよ、和樹」
「僕、奥寺のこと知ってるよ」
「えっ!マジかよ!」
「僕と同じ店で働いてた人だよ」
「なにっ!あっ!華子が言ってた、後から来てNo.1になったやつって、和樹だったのか!」
「それはどうか知らないけど、奥寺・・あ、源氏名はジョーっていうんだけど、ジョーは何かにつけて僕に突っかかってきたんだよ」
「げっ・・ジョーって・・奥寺だったのかよ!」
「うん。それがどうかしたの?」
「いや・・俺、和樹を探し回ってた時、ほら、ラーメン屋でバイトしてただろ。あん時、和樹と同じ店で働いてたホストが来てな、和樹とジョーのこと話してたの聞いたんだよ」
「そうだったんだ・・」
「それで、ジョーがリュウに嫉妬してるって・・」
「そうだったんだね・・」
「そっか・・奥寺ってジョーだったのか・・」
「ジョーは、とても嫉妬深くてね。自分がNo.1だったのに僕に座を奪われて、何度も嫌がらせを受けたよ。だから、健人くんも気をつけた方がいいよ」
「嫌がらせなんかしやがったら、ただじゃ置かねぇ。つか、ぜってー超えてやる。ますます燃えてきたぜ」
「あまり先走らない方がいいよ。マイペースが一番だよ」
そっか・・
奥寺さんって、東雲さんに嫉妬して嫌がらせするような人なんだ・・
これは気をつけないと・・
「それにしても、和樹」
「なに?」
「部屋、めっちゃ綺麗にしてるな」
「うん。そうなんだ」
「お前、こんなに綺麗好きだったか?」
「実は、静ちゃんがコーディネイトしてくれて、時々、掃除もしてくれるんだよ」
「っんだよ、そうだったのか」
「僕だけなら、もう足の踏み場もないと思うよ」
そう言って東雲さんは笑った。
やっぱりなぁ・・
そうなのよ、部屋の雰囲気、女子っぽいのよね。
「そういえば、この間、僕がバイトしてるコンビニに紫苑くんが来たよ」
「へぇー。あいつ元気にしてんのか」
「あはは。紫苑くん、相変わらずだったよ」
「あいつ、T大落ちて、私立行ってるんだよな」
「私立といっても、名門校だけどね」
「和樹は余裕でT大合格したんだから、またなんか、ネチネチ言ってたんじゃねぇのか」
「あはは、まあね」
「はぁ~・・マジでウゼェな」
「でも僕は、紫苑くん好きだよ」
「そっか」
「同時に感謝もしてるんだよ。今の僕がいるのは、ある意味、紫苑くんのおかげだからね」
「確かにそうだな。あいつがいなかったら、和樹は死んでたかも知れねぇもんな」
「あ、よかったら紫苑くんも呼ぶ?」
「え・・あいつ、ぜってー来ねぇぜ」
「健人くん、連絡してみてよ」
「えぇ~~・・俺がかよ」
「そうだよ」
そしてたけさんは、嫌そうに紫苑さんに電話した。
「おう、紫苑。久しぶりだな。ああ、そうだよ、時雨だよ。え・・なにって、電話しちゃいけねぇのかよ。うん、うん、そうだよ。でさ、お前、今日暇か?今、和樹んち来てんだよ。あはは、ちげーよ。んで、おめぇも来ねぇか?へぇ~、恥ずかしいのか。だったら来いよ。えっとな、住所、言うぞ・・・・だ。そうだよ。で、203号室な。んじゃな」
「紫苑くん、来るって?」
「僕はきみたちの友達ではない!とか言っちゃって。俺、恥ずかしいのかって言ったら、なにを言ってるんだ!心外だなって。んで来る気になったみてぇだぜ」
「あはは、まさに紫苑くんだね」
「小春、紫苑来るけど、いいよな」
「はい~、全然、いいですよ~」
ピンポーン
そして三十分が過ぎたころ、紫苑さんが来た。
「どうぞ、入ってね」
東雲さんがインターホンで対応した。
「や・・やあ、きみたち」
部屋に上がってきた紫苑さんは、少し照れたようにそう言った。
「あっ、きみもいたのか」
紫苑さんは私を見てそう言った。
「はい~、どうもお久しぶりです、紫苑さん」
「きみがここにいるということは・・時雨くんと恋仲になったのか」
「恋仲・・まあ・・そうです・・」
「これは驚いた。学園祭で告白したことが功を奏したという訳か」
「紫苑、ごちゃごちゃ言ってねぇで座れよ」
「時雨くん・・きみは相変わらず無礼だな」
「まあまあ。紫苑くん、今コーヒー淹れるから待っててね」
「気遣い無用だ」
「あはは。いいから、いいから」
そう言って東雲さんはキッチンへ行った。
「紫苑、お前、実家から通ってるのか」
「いや、僕も一人暮らしをしている」
「へぇーそうなんだ」
「きみは、相変わらずお兄さんと暮らしているのか」
「兄貴は結婚していねぇよ」
「ほう。じゃ、きみも一人暮らしという訳か」
「そうだよ」
「生活費はどうしているんだ」
「バイトしてるっつーの」
「なるほど。やっと自立したという訳か」
「っんだよ、やっとって。おめぇだってそうだろが」
「それにしても、あの時雨くんに彼女ができたとはな」
「あのってなんだよ、あのって」
「薄柿さんと言ったね。きみはこんな無礼なやつのどこが好きなんだ」
「え・・どこって・・優しくて男らしいところです」
「時雨くん、きみは果報者だ。薄柿さんを手放したらもう二度と次は現れないぞ」
「うるせぇよ!俺は毎日のように告られてんだよ」
「世の中には物好きな女性もいたものだ。信じられないな・・」
「おめぇはどうなんだよ」
「僕はそんなもの必要ない。勉学の邪魔になるだけだ」
「はっ、マジで相変わらずだな。ちょっとは成長しろよ」
「心外だな。成長というのはだな・・」
「はいはい。そこまでね。どうぞコーヒー召し上がれ」
そう言って東雲さんは、キッチンから戻ってきた。
紫苑さん・・ほんとに理屈っぽいわ・・
これじゃ・・彼女作りたくてもできないわよね・・
「紫苑くん、一人暮らししてるって本当なの?」
「そうだが」
「どこに住んでるの?」
「大学の近くだが、それがなにか」
「今度、遊びに行ってもいい?」
「なっ・・なにっ。僕たち学生には遊んでいる暇などないはずだ」
「僕ね、きみと友達になりたいんだ」
「しっ・・東雲くん・・。きみは一体なにを言ってるんだ」
「きみはT大には落ちたけど、頭はいいと思ってるんだよ。それにきみの行動力とか、洞察力には光るものがあるよ」
「くっ・・僕をバカにしているのか」
「まさか。僕は本当にきみから学ぶことがあると思ってるんだよ」
「なっ・・なにを言ってるんだ・・」
「だから、住所、教えてね。行くから」
「しっ・・東雲くん・・きみという人は・・」
「僕に色々と教えてね」
「かっ・・勝手にすればいい」
「おっ!紫苑。俺も行ってもいいか」
「しっ・・時雨くんまで、なにを言ってるんだ」
「私も行ってもいいですか」
「なっ・・薄柿さんまで・・。そうか、これはなにかの策略だな」
「っんな、勘ぐり過ぎだっつーの」
「僕を罠にはめようとしていないか」
そこで私は、みんなに見えないように携帯を手にした。
紫苑さん・・ほんと素直じゃないんだから。
見てらっしゃい。驚かせてあげるから。
「ちょっと待ったらんかぁ~~い!」
私は突然、大声を上げた。
すると、当然のように、東雲さんと紫苑さんは呆気に取られていた。
しかし・・さすがにたけさんは、次に何が起こるのか、期待感を抱いた表情をしていた。
「後でかけなおす!」
私は携帯を耳にあてて、そう言った。
「ぶっ・・あははは!小春~、さすがだぜ」
「あの・・薄柿さん・・?」
「電話がかかってきたのか。それにしてもきみ・・誰かと揉めているのか」
「いえ・・別に・・」
「どんなことで揉めているんだ。もし必要とあらば僕が解決してあげよう」
「いえっ・・電話はかかってきてません・・」
「なにっ!かかってきてないだと!?では今のはどういうことだ」
「どうって・・なんでもありません」
「不可解だな・・。僕のプロファイリングにはない事象だ」
「げ・・そんなんじゃないんですけど・・」
「紫苑、お前、混乱してるな」
「心外だな。混乱などしていない。しかし・・それにしても奇異だ。かかってきてもいない電話の相手に、いや、相手などいなかったのだ。それなのに、ケンカを吹っ掛け、後でかけなおす・・と。一体、誰にかけなおすと言うんだ・・」
「だから・・そうじゃなくてですね・・」
「あはは。考えろ、考えろ~紫苑」
「これは・・新たな研究が必要だな。東雲くん、きみはどう考える」
「え・・僕は、特には・・」
「それではダメだ。不可解な現象には必ず何かが隠されている。それを突き止めなければ危険を放置することになる。であるからして・・」
その後、紫苑さんは、わけのわからない持論を、延々と展開したのであった。
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※ 文中に出てくるギャグ
「ちょっと待ったらんかぁーい、あとでかけなおす」は、吉本新喜劇、安尾信乃助さんのギャグです。




