六十四、美琴の変身
それにしても・・紫苑さんって独特だな・・
確かに頭は良さそうだけど、理屈っぽいのが・・どうも・・
いわば、たけさんと真逆のタイプよね。
東雲さんを探すためとはいえ、たけさんと紫苑さんって、ずっと行動を共にしてきた時期があったのよね・・
そう考えると・・お互いにすごいな・・
私は家に帰って、そんなことを考えていた。
ルルル・・
あっ、電話だ。
設楽さんだ・・仕事のことかな・・
「はい、もしもし」
「あ、設楽だけど」
「はい、こんばんは」
「あ、今いい?」
「はい、大丈夫です」
「えっとね、まだ先なんだけど、夏休みに、ちょっとしたファッションショーがあってね」
「へぇ~そうなんですね」
「たくさんのモデルが参加するんだけど、健人くん、まだ新人だけど、この間の人気投票が評価されて、特別に参加できることになったんだけど、どうする?」
「そうなんですか・・。それって、撮影じゃなくて、お客さんの前で歩いたりする、あれですか」
「そうそう。ランウェイね」
「それって設楽さんも参加するんですか」
「うん、そうよ」
「そうなんですね~。知ってる人がいると、たけさんも心強いかも知れませんね」
「無理にとは言わないけど、色々と経験するのもいいかなって思ってね」
「わかりました。話してみますね。それでお返事はいつまでに?」
「七月に入るまでに貰えたら、ありがたいんだけど」
「はい、わかりました~」
ファッションショーかぁぁ~~・・
なんか、いよいよデビューって感じだなぁ。
きっと素敵なんだろうなぁ~・・
あ・・たけさん、まだ起きてるかな・・
電話してみようっと。
「もしもし」
「おう、小春か、なんだ」
「あの、今ね、設楽さんから電話があって、夏休みにファッションショーがあるらしいんですけど、たけさんも参加しないかって」
「え・・なんだよ、それ」
「ほら、よくテレビとかでやってる、大勢の人の前で歩くやつですよ」
「げっ・・マジかよ」
「色々経験した方がいいって。設楽さん」
「人前で歩くのか・・。でも俺、歩き方なんて知らねぇぞ」
「設楽さんが教えてくれますよ~」
「っんなこと言ってもよぉ・・」
「まあ・・まだ先ですし、考えてみてくださいね」
「うん、わかった」
「明日は学校ですか」
「ああ」
「そうですか、頑張ってくださいね」
「お前、バイトは?」
「夕方ですよ」
「そっか。俺は確か休みだったよな」
「えっと・・ちょっと待ってくださいよ」
そこで私は、スケジュール手帳を開いてみた。
「あ~、そうですね。バイトは休みです」
「そっか」
「えっと・・今週末、また撮影が入ってますから」
「わかった」
「それじゃ、お休みなさい~」
「うん、おやすみ」
私って、マジでマネージャーみたいよね。
たけさんの体調管理とかも、しないといけないよね・・
風邪でも引いたら大変だもんね。
やっぱり小まめにご飯作って、持って行った方がいいのかな。
栄養のバランスって大事だもんなぁ・・
そして翌日・・
「なぁ~小春」
「なにー、美琴」
「モデルの撮影って、見学できるん?」
私たちは休み時間、そんな話をしていた。
「見学かぁ・・」
「王子の撮影、見に行きたいんやけど、かめへん?」
「うーん・・どうなんだろ・・」
「都合が悪いでありんすか」
「いや・・たけさん・・ただでさえ、モデルに徹するのに照れが入ってるのに、美琴と紬が来たら・・緊張するんじゃないかなぁ」
「それじゃあかんがなっ!誰に見られたって、なりきらな」
「そうなんだけど・・」
「なぁ~ええやん。邪魔せぇへんから」
「変なこと・・言わない?」
「あはは。言うかいな」
「ほんと・・?約束してくれる?」
「もう~~するっちゅうねんっ!」
「紬も・・」
「もちろんでありんすよ。約束するでありんす」
「そっか・・。んじゃ、とりあえず、たけさんには黙っておくからね」
「やった~~!で、次の撮影は、いつなん?」
「今週末よ・・」
この二人・・ほんとに大丈夫なのかな・・
約束はしてくれたけど・・不安だわ・・
やがて週末を迎え、私とたけさんは、撮影所に向かっていた。
紬と美琴には、撮影が始まってから電話することになっている。
最初から二人がいると、たけさん・・絶対に引くよね・・
そのせいで、撮影に悪影響が出たら、目も当てられないもんね・・
スタジオの中に入ると、いつものように桐生さんが既にスタンバイしていた。
「時雨くん~、今日もよろしくねー」
「はい、よろしくお願いします」
たけさんは、少し明るく挨拶した。
よかった・・
やっぱり少しずつ、気持ちの切り替えが出来つつあるのかな。
「青年~~!今日から秋物だからね~」
奥から亜矢さんが出てきた。
「そうっすか」
「さぁーて、着替えるか!」
そう言って亜矢さんは、たけさんを奥へ連れて行った。
私はそこで、桐生さんに見学のことを訊ねてみた。
「あの、桐生さん」
「なんだい」
「えっと・・撮影を見学したいって子がいるんですけど、いいですか?」
「誰?関係者?」
「いえ・・私の友達なんですけど・・」
「そっか。うん、いいよ。でも撮影の邪魔にならないようにね」
「はい、ありがとうございます」
そこで私は美琴に電話をかけ、二人は来ることになった。
よほど近くまで来ていたのか、美琴と紬は、五分と経たないうちに入ってきた。
「小春~」
美琴が声をかけてきたと同時に、私はスタジオの隅に置いてある椅子に、二人を座らせた。
「ここで、大人しくしててね」
「っんな~・・わかってるっちゅうねん」
「おお~~・・撮影スタジオって、こんな感じでありんしたか・・」
紬は物珍しそうに、スタジオ内を見回していた。
「王子はどこにいてんの?」
「今、着替え中よ」
「そうなんや。楽しみやなぁ~」
ほどなくして、たけさんが奥から出てきた。
「いやあ~~、王子、素敵やんかいさ~~」
「しっ・・美琴・・声が大きいよ・・」
美琴の声で、たけさんはすぐに二人の存在に気がついた。
そして、とても嫌そうな顔をしていた。
「素敵でありんす・・。これが時雨王子でありんすか・・」
「紬・・黙っててね・・」
「それにしても・・馬子にも衣裳とは、まさにこのことやな」
「美琴・・失礼よ・・」
「っんな~、褒め言葉やがな」
「さーて、行こーか」
桐生さんがそう言って、撮影が始まった。
たけさんは、桐生さんの要求にできるだけ応えるように努力していた。
「おお~~、時雨くーん、いいね。そうそう、その表情、いいよ~~」
「うはぁ~~、青年!どうしちゃったのさ~。すごくイケてるよ~!」
亜矢さんも褒めていた。
美琴と紬は、たけさんの変貌ぶりに、言葉を失って見ていた。
撮影は順調に進み、やがて休憩に入った。
「お前らな・・」
たけさんは、当然のように二人にそう言った。
「王子~~!めっちゃ素敵やんかいさ~~」
「ほんとに。見惚れたでありんすよ」
「ったくよ・・なんで来たんだよ」
「そら~~見学もしたいっちゅうねん~」
「来てよかったでありんす・・。時雨王子、ほんとに素敵でありんすよ」
「まあ、いいけど。ぜってー大人しくしてろよ。間違っても変なこと言うんじゃねぇぞ」
「あはは。私らかてTPOは心得てるっちゅうねん」
「心配ご無用でありんすよ」
「青年~~!今日はいいね~~!」
そう言って亜矢さんが私たちの傍にきた。
「おおっ!ファンの子か~~?」
「ちがうっす。小春のダチっす」
「へぇ~そうなんだ」
「済まねぇが、見学させてやってくれな」
「それは全然いいけど、あの・・あなた」
亜矢さんは美琴を見て、そう言った。
「は・・?なんですか」
「ちょっと立ってみて」
「え・・はい・・」
そして美琴は椅子から立ち上がった。
「おおっ!高いね~~!身長、いくつ?」
「170ですけど・・」
「ほっほぅ~~・・ちょっとこっち来て」
亜矢さんはそう言って、美琴を奥へ連れて行った。
え・・
なに・・
亜矢さん・・どうしたんだろ・・
「なんでありんしょか・・」
「さあ・・わかんないわ・・」
そして、たけさんも驚いていた。
ほどなくして、美琴らしき女性が奥から出てきた。
え・・
ええ・・
ええええええええええ~~~~!
美琴なの・・?
う・・嘘でしょ・・
どこからどう見ても・・今風のモデルじゃん・・
「あっはっは!やっぱり様になると思ったんだよ~~」
亜矢さんは自慢げに、そう言った。
美琴の顔は・・目が細いはずなのに・・くっきり二重になってアイコンも入れて・・
もうそれだけでも・・驚きなんだけど・・
唇の厚さは・・アンジー風?って言ったらいいのかな・・
薄いピンクで・・少し光沢があって・・
服は秋物の、シックな感じで・・
まるでたけさんの服と・・お揃いのような感じに仕上がっていた。
「いやあ~~、鏡見てびっくりしたわ」
美琴は、自分の姿に戸惑う風もなく、なんならモデル立ちの真似事をして見せた。
「いけてる?まさしく魅惑の変身やな~~!」
「美琴・・ほんとに美琴でありんすか・・」
「っんな~~、私に決まってるがなっ!」
「す・・すごく・・素敵よ、美琴」
「小春~~、おおきにな」
「ねぇー桐生さん、青年と彼女のツーショット撮ってみてよ」
亜矢さんがそう提案した。
「そうだね。ちょっと撮ってみようか。二人とも、こっち来て」
桐生さんは、二人にカメラの前に立つよう促した。
「えええ~~、私も撮ってくれるんですかぁぁ~~」
「そうだよ~、せっかく着せてあげたんだから、記念写真ってことでねー!」
亜矢さんは美琴の背中を押しながら、そう言った。
たけさんは、美琴の変身ぶりに驚きつつも、カメラの前に立った。
「んじゃー、時雨くん、彼女の肩に手を置いて。そうそう。彼女、少しだけ時雨くんの方に首をもたげてみようか。うん、そうそう。んじゃー撮るよ~」
カシャ・・
「んじゃー、時雨くんと彼女。見つめ合って笑って。うん、彼女いいね。時雨くん~~、ほら笑って。そうそう」
カシャ・・
「んじゃー時雨くん、少しかがんで、顔をくっつけようか。頬と頬ね。えっと・・時雨くん、彼女の頭に手を乗せて。そうそう寄せるような感じね」
カシャ・・
こうして何枚かの写真が撮られていった。
うわあ・・美琴・・すごく様になってる・・
さすがに設楽さんほどではないけど・・すごくかわいい・・
いいなぁ・・私もたけさんと撮りたい・・
でも・・私は背が低いし・・それだけで却下よね・・
「彼女~~、名前、なんて言うの?」
撮影が終わり、亜矢さんが美琴にそう訊ねた。
「紫土美琴ですけど」
「美琴ちゃんか。きみ、すごくいいよ」
「えぇ~~、そうですかぁ~。嬉しいですわぁ~」
「きみって・・関西の人?」
「そうなんですわぁ~。バリバリの関西人ですっ」
「あはは。いいねー」
「そうでっか~~!おおきにぃ~」
亜矢さんと美琴は・・カテゴリーが同じっていうか・・
とても気が合っていた。




