六十一、笑う門には福来る
「なあ、小春」
「なんですか」
私たちは、たけさんちで、私の作った夕食を食べながら話をしていた。
「俺のスケジュール管理ってのさ、お前がやってくんねぇ?」
「え・・モデルのですか」
「うん」
「まあ・・それはいいですけど」
「結構、オファーが入ってんだろ。んで、日時とかあるだろ。コンビニのバイトと被らねぇようにしねぇとな」
「確かにそうですねぇ・・ややこしいかもですね」
「だから頼むよ。俺、勉強もあるしさ」
「はい、わかりました。やってみます」
「そっか。ありがと。助かるよ」
私がマネージャーってことね。
よーーしっ、たけさんのために一肌脱ぐわっ!
「あ、それと俺さ、華子にモデルのコツを教えてもらうことにしたからな」
「へぇーそうなんですか」
「前にあいつの雑誌、見たけどさ、あいつ、普段と全く違うのな」
「そうなんですよ~!もう~すっごく綺麗で、私、感激しちゃったんですよ」
「変われば変わるもんだと思ったぜ」
「そうですよねぇ~。まさにプロって感じですよね」
「んだな。で、ここに華子に来てもらうからな」
「そうですか~」
「だから、偶然、お前と鉢合わせしても、勘違いすんなよ」
「ヤダ~、わかってますって!」
「そっか。それならいいんだ」
たけさん、私が勘違いして傷つかないように、先に言ってくれたんだ。
優しいな・・
「そういやお前、合気道はどうなってんだ」
「はい~、頑張ってますよ」
「もう、何級とか段とかのレベルなのか?」
「さすがにまだ、そこまでは行ってませんけど、そのうち審査も受けるつもりです」
「へぇー」
「せっかく習ってるんだから、やっぱり資格は取っておきたいので」
「うん。それがいいな」
「頑張ります~」
「それにしてもお前、この筑前煮、うめぇな」
「そうですか~よかったです」
「それとこっちの、煮魚。これもうめぇわ」
「これね、ウマズラハゲっていう魚なんですよ」
「へぇー」
「名前は残念ですけど、高級魚なんですよ」
「ほぅ~」
「ウマヅラだけでも残念なのに・・ハゲって・・ね」
「あはは。別にいいじゃねぇか」
ルルル・・
あっ、電話だわ。
美琴だ・・なんだろ・・
「すみません、ちょっと出ますね」
「うん」
「もしもし」
「小春~、あんた今、どこにいてんの?」
「え・・たけさんちだけど」
「やっぱりか~!」
「なに・・?どうしたの?」
「今さ~、小春の部屋の前にいてるんや」
「ええええ~~~!そうなの?」
「紬もいてるで」
「げ~~~」
「なんやの~!泊まりに来ったのに~~」
「あっ・・そうなんだ。わかった。すぐに帰るね」
「ちょっと待ちぃな」
「え・・」
「王子の家にお邪魔してもええ?」
「え・・マジで・・?」
「うん、マジ」
「ちょ・・ちょっと待ってね。訊いてみる」
そして私は携帯を手で押さえ、たけさんに訊いた。
「あの・・たけさん」
「なんだよ」
「美琴と紬が来てるんですけど・・ここに来てもいいかって・・」
「え・・ここにかよ」
「はい・・」
「いや・・まあ・・別にいいけど・・」
「そ・・そうですか・・では、そう伝えますね」
「あの・・美琴」
「王子、なんて?」
「うん、いいって」
「マジか!ほな、すぐに行くわ~~」
げ~~~・・ほんとにいいのかな・・
なんだか・・嫌な予感が・・
「こんばんはぁぁ~~」
玄関で、美琴の大きな声がした。
私は急いで扉を開けに行った。
「邪魔するでぇ~~、邪魔するんやったら帰ってんかぁぁ~~、ほーーい、ってなんでやねんっ!」
ぐわあぁぁ~~・・美琴・・一人乗り突っ込み・・さすがね・・
「お邪魔するでありんす~」
そして二人は玄関に足を踏み入れた。
「お・・おぅ・・上がれよ・・」
たけさんは、美琴の破壊力に、明らかに引いていた。
「ほな遠慮なく、上がらせてもらいまっさ~」
「あら・・夕食中だったでありんすか・・」
「ああ・・もう食べ終わるところだから・・」
「あっ!ハゲやんっ!小春~~王子に奮発したなっ!」
「ああ・・うん・・まあ・・」
「それにしても・・お久しぶりでありんすな・・時雨王子」
「あ・・ああ・・。つか・・お前ら座れよ・・」
そして美琴と紬は、ちゃぶ台の前に座り、私も元の位置に戻って座った。
「ほっんま、久しぶりやわ」
「まあ・・な・・」
「っんな~~、そんな引かんでもええがな。取って食わへんって」
「そうでありんす~。緊張しないで・・でありんす」
「いや・・別に緊張してねぇし・・」
「そら~~、美女三人に囲まれたら緊張もするっちゅうねんな!」
「え・・」
ヤダ~~・・たけさん・・完全に引いちゃってる・・
「あっ・・私、お茶淹れるね」
「っんな~、気ぃ使わんでもええで。奥さん」
「げっ・・美琴、なに言ってんのよ~~!」
「若奥さま・・板についているでありんすな・・」
「紬まで~~!もう~~」
「えっと・・俺、風呂行ってくるわ・・」
「ちょっと待ったりぃぃぃ~~なっ!」
うわあ~~美琴・・「りぃぃ」の部分、すごく巻き舌になってるし・・
「いや・・俺、早く行かねぇと・・」
「お黙らっしゃぁぁ~~い」
「は・・はあ?」
え・・それってなに・・?新ネタ?
「おい・・小春」
「はい・・」
「俺・・マジで風呂行くし」
「は・・はい・・いってらっしゃい・・」
たけさんは、入浴グッズを手に持ち、逃げるように出て行った。
「美琴!紬!」
「なんやの~小春」
「もう~~、たけさん・・完全に引いちゃったじゃない~~」
「あはは、ごめんごめん。ちょっと飛ばし過ぎたな」
「時雨王子・・結構シャイでありんすな・・」
「ったく・・もう・・」
「でも二人で仲良く晩御飯か。ええやんかいさ」
「たまたまなんだからね。いつもそうしてるわけじゃないんだからね!」
「かめへんがな。仲良きことは美しきかな、やん」
「そうでありんす。私たちは保護者として・・嬉しいでありんすよ」
「保護者じゃないし・・」
「ところで、小春。王子の不良言葉はどうなったんや?」
「え・・ああ・・やっぱり失敗したわよ」
「そっかぁ~。あかんかったか」
「でもね・・途中までは美琴の言ってた展開になったのよ・・」
「マジかっ!ほらな~、言うた通りやろ」
「でも、もう無理だわ」
「そうやろか」
「え・・なによ・・」
「ギャグってなに使ったん?」
「えっと・・なにぬかしてけつかるんでございますか、と・・ネクタイギャグ・・」
「あっはは!ネクタイやったか~~」
「うん・・。それでたけさん、めっちゃ笑ってた・・」
「おおお~~、王子のストライクやったんか。なるほどな~」
「あと一押しでありんすなぁ・・」
「いや・・っていうか・・もはや目的が違ってきてない?」
「ええがな。なんにせよ、笑うっちゅうのんは、ええことや」
「そうだけど・・」
確かにそうよね・・
笑うってことは・・いいことなのよね・・
「小春、知ってるか?」
「え・・なにを?」
「がんの治療にお笑いを取り入れてるご時世やで」
「え・・そうなの?」
「そやで。笑うことによって、がん細胞が消えたっちゅう症例もあるんやで」
「へぇ~~!それはすごいね」
「だから、お笑いはええねや」
「うん、そうだよね」
「王子さ、モデルの仕事忙しいらしいやん」
「うん」
「慣れん世界で、ストレスも溜まるっちゅう話や。そんな時、笑うことがでけたら、ええやんな」
「うん・・確かにそうよね」
「それは・・小春の大事な役目でありんすよ・・」
「そうだよね・・」
「一緒にご飯食べたり、話したりも、もちろん大事でありんすが・・小春が受け止めきれない悩みがありんしたら、笑わせて和ませてあげるでありんすよ」
「うん」
「ほな~~、いっちょ行こか」
「え・・どこへ?」
「あはは。ちゃうがな。ネタや、ネタ」
「ああ・・うん」
「そやな~・・王子が風呂から帰ってきたら・・」
そこで美琴は、あるギャグをするように迫った。
「ええええ~~・・あれをやるの・・?」
「そやで」
「私・・できるかな・・」
「できるって」
「っていうか・・それ、今やらなきゃいけないの?」
「そやで。私もフォローするやん」
「やるでありんすよ・・小春」
「えぇ~~・・」
っていうか・・たけさん・・今は別に悩んでないと思うんだけど・・
絶対に引くと思うんだけど・・
ガラガラ・・
ほどなくして、たけさんが帰って来た。
わっ・・来た・・
ど・・どうしよう・・
「お・・おかえりなさい・・」
「ああ・・ただいま」
美琴を見ると、目配せしていた。
そして私は覚悟を決めた。
よ~~しっ・・
「美琴、一体どういうことなの?」
「はあ?それはこっちのセリフや!」
「さっきから、難癖ばかりつけて!」
「だから!こっちのセリフやって言うとるやろが!」
たけさんを見ると、呆気に取られていた。
ここで・・終わらせちゃダメよね・・
単にケンカしてることになるもんね・・
「もういい!もう~~いい・・。いつからだ?いつからだ・・言ってみろ!以前のお前はそうじゃなかったはずだ・・」
私はオーバーに両手を広げた。
「あんなに素直でかわいかったお前が・・一体いつからそんな風になってしまったんだ。言ってみろ・・言うんだ、ボラギノール」
「誰がボラギノールやねんっ」
「お前ら・・なにやってんだよ・・」
「いや・・あの・・これはですね・・」
「王子~~、おもろなかったか?」
「え・・今のって、マジじゃなかったのかよ」
「っんな~~、私らがケンカするはずあれへんがな」
「げっ・・じゃあ・・芝居ってことかよ」
「そうやがな」
「で・・意味は・・?」
「説明せなあかんようやったら、今のは失敗やな」
ダメだわ・・
たけさん・・ボラギノールに気づいてないわ・・
「あの・・今のは・・たけさんに笑ってもらおうと思って・・それで・・」
「笑う・・?え・・笑うとこあったのかよ」
「ええ・・まあ・・」
「そっか・・小春・・。お前、美琴に教わってたんだな」
「あ・・はい・・」
「それで関西弁か・・。なるほどな」
「王子、挨拶ギャグ、好きなんやろ?」
「うん。あれは面白れぇよ」
「お笑いっちゅうのは、ええんやで」
「まあ・・な・・」
「嫌なことがあったって、笑えば忘れられるやろ」
「そうとも限らねぇけどよ・・」
「王子。モデル、頑張ってな」
「あ・・ああ・・」
「私らかて応援してるし、楽しみにしてるんやで」
「そっか・・ありがとな」
「小春にお笑いを教えたのも、全部、王子のためや」
「そうかよ・・」
「時雨王子・・。いつも小春を守ってくれて、ありがとうでありんす・・」
「いや・・別に・・」
「これからも、よろしくお願いするでありんす・・」
「わかってるよ」
「美琴・・紬・・ありがとう」
私は二人が、本当はとっても優しいことを、改めて感じた。
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※ 文中に出てくるギャグ
「邪魔するでぇ~邪魔するんやったら帰ってんか~」は、吉本新喜劇の団員さんたちがよく使う、挨拶ギャグです。
「りぃぃ」と巻き舌にして凄むのは、吉本新喜劇、未知やすえさんのギャグです。
「お黙らっしゃぁぁ~~い」は、吉本新喜劇、末成由美さんのギャグです。
「もういい!いつからだ・・・ボラギノール」のやり取りは、吉本新喜劇、池乃めだかさんのギャグです。
ちなみに、ボラギノールは痔の薬ですが、人名として採用したボケです。




