六十、プロと素人
やがて、たけさんがファッション雑誌に載り、人気投票が行われた後、たけさんはダントツで人気No.1に選ばれた。
やっぱりなぁ~~・・予想通りっていうか・・当然の結果なんだけど・・
それは大学でも噂になり、女子たちが大騒ぎしているようだった。
でも・・私が頼んじゃったんだから・・悩んでも仕方がないよね・・
よしっ!たけさんを信じよう!
それから次から次へとオファーが入るようになり、たけさんはとても疎ましがっていた。
今日も撮影に行く日だった。
「華子や亮介のためとはいえ・・受けたのマズかったなって、後悔してんだよ、俺」
「そんなことないですよ~」
「やっぱ・・俺の柄じゃねぇんだよ」
「でも、たけさんのギャラも上がるし、いいじゃないですか」
「にしてもなぁ・・」
「まあまあ、さっ、着きましたよ」
私たちは、撮影スタジオの前に到着した。
私はもう着いて行かないって言ったんだけど・・たけさんは、どうしても着いて来いと言って聞かなかった。
そして中へ入り、カメラマンの桐生さんが準備していた。
「桐生さん、こんにちは」
「ちわっす・・」
たけさんは、仕方がない風に挨拶した。
「あ、どうも。時雨くん。早速準備してね」
「あ・・はい・・」
たけさんはそう言って、奥へ入って行った。
すると奥から「来たか~~!青年っ!」と、亜矢さんの大きな声が聞こえてきた。
「時雨くんの人気、すごいね」
桐生さんが私にそう言った。
「はい、すごいです」
「きみの彼なの?」
「え・・あ・・はい・・」
「そうなんだ。だからいつも一緒なんだ」
「えぇ・・まあ・・」
「えっと、今日は、別のモデルの人も来るから、よかったら見てってね」
「そうなんですね。はい。ありがとうございます」
ほどなくして、たけさんが奥から出てきた。
きゃ~~~!今日も素敵だわ~~~
そっかぁ~~・・もう夏向けの服なんだわ~。
たけさんは、白で半袖のニットシャツ、黒のスキニー、素足にグレーのサンダルを履いていた。
そして頭にサングラスを乗せていた。
「さて、時雨くん、行こーか」
桐生さんが声をかけて、撮影が始まった。
「ちょっと笑ってね。夏っぽくね」
桐生さんはファインダーを覗いて、たけさんに促した。
「もうちょっと、歯を見せて~。そうそう。いいね。で、右手でグラサン持とうか」
たけさんは窮屈そうに、桐生さんの指示に従った。
「青年~~!イケてるね~~!」
奥から亜矢さんが出てきて、そう言った。
かっこいいわぁ~~・・ほんと・・ため息が出るわ・・
「どうも」
そう言って、一人の男性が現れた。
げっ・・
なに・・この人・・めっちゃかっこいいんですけど・・
あ・・モデルが来るって言ってたっけ・・
そっか・・この人なんだ・・
その男性はイケメン長身は当然なのだが、なんか・・佇まいというのか・・
とても落ち着いた「大人」な感じの人だった。
ふわあ~~・・圧倒されるわ・・
「こんにちは」
そこに遅れて、もう一人、男性が入ってきた。
「奥寺くん、早足だからな~」
その男性がそう言った。
「なに言ってんの。佐田さんが遅いんだよ」
「あっ・・あれが噂の子だね」
「そうみたいだね」
二人は、たけさんを見てそう言った。
「なるほど。確かにイケてるね」
「そうかな。僕はそう思わないけど」
奥寺さんが、たけさんを否定した。
「え~、イケてるよ。服も似合ってるし」
「確かにそうだけど、でもプロとしては全くダメだね」
「それはそうだけどさ。まっ、新人なんだし」
なによ~~・・偉そうに。
たけさん、人気№1なのよ。
そこで奥寺さんが私を見た。
私は少しだけ頭を下げた。
「きみ・・彼のマネージャー?」
「いえ・・違います・・」
「あ・・ファンの子だね」
「え・・それも違います・・」
「え・・違うんだ」
「はい・・」
「じゃ・・きみって誰なの」
「誰って・・友達・・かな・・」
私はなぜか気が引けて、彼女と言えなかった。
ほどなくして撮影が終わり、たけさんは奥へ入って行った。
「奥寺くん、彼と入れ替わりで準備してね」
桐生さんがそう言った。
「OK」
「彼、いいでしょ」
「まあ、素人の真似事としてはいいんじゃないの」
「相変わらず、辛口だねぇ」
「事実だよ」
「彼、人気あるんだよ」
「僕には関係ないよ」
「はいはい」
そこにたけさんが戻ってきた。
「ああ~~・・疲れた。小春、帰るぞ」
「あ・・はい・・」
「時雨くん、お疲れさま。またよろしくね」
「はい・・。お疲れさまでした」
「きみ・・時雨くんっていうんだ」
そこで奥寺さんが、たけさんに話しかけた。
「ああ」
「僕、奥寺直哉。よろしく」
「ああ。よろしく」
「きみさ、この仕事、なんか「ついで」にやってる?」
「ちょっと・・奥寺くん・・」
佐田という人が、奥寺さんを制した。
「なんだよ、てめぇ」
「あのさ・・きみ、年いくつなの?」
「はあ?なんでてめぇにそんなこと言わなきゃいけねぇんだよ」
「僕さ、二十五。きみ、僕より年上なの?」
「はっ。っんなもん関係ねぇよ」
「失礼だな」
「ああっ!?てめぇが先に失礼なこと言ったんだろうが!」
「あの・・たけさん・・やめましょう・・」
私はたけさんの腕を引っ張った。
「うるせぇ!っんだよ、こいつ」
「口は悪い。礼儀はなってない。仕事は「ついで」。取るところないよね」
「てめぇ・・なに言ってんだよ」
「見た目だけで、この仕事勤まると思ってる?」
「なんだと・・」
「お気楽だね」
そう言って奥寺さんは奥へ行った。
「っんだよ、あいつ。何様だよ」
「たけさん・・落ち着いて・・」
「あの・・うちの奥寺がごめんね」
佐田さんが済まなさそうに、たけさんに詫びた。
「俺、初対面であんな言い方される覚えはねぇんだけどな」
「うん。そうだよね。悪かったよ」
「あいつもモデルなのかよ」
「そうなんだよ。うちの専属モデルなんだ」
「ふーん」
そこに奥寺さんが出てきて、カメラの前に立った。
「よーーしっ。奥寺くん、行こーか」
桐生さんがそう言って、撮影が始まった。
すると・・たけさんには申し訳ないけど・・モデルとしての格の違いが一目でわかるほど、奥寺さんの身のこなしはプロそのものだった。
顔の作り方・・視線・・全てにおいて、非の打ちどころがなかった。
たけさんはその様子を、じっと見つめていた。
「いいね~~奥寺くん。そうそう、それそれ。こりゃ~今年の夏も乙女たちが気絶しっぱなしだよ~~」
桐生さんは、ノリノリでシャッターを押していた。
「青年」
そこに亜矢さんがやってきた。
「なんだよ」
「あれがプロの仕事だよ」
「・・・」
「青年。きみもギャラ貰ってるなら、プロとしてやってみな」
「え・・」
「お金を貰った時点で、それがいくらであろうと、プロなんだよ」
「っんだよ・・それ」
「私はさ、きみを応援してるんだよ。だから頑張りな」
「・・・」
「奥寺なんかに負けるなよ」
亜矢さんはたけさんの肩を叩いて、奥へ戻って行った。
たけさんはその後も、ずっと奥寺さんの撮影を見ていた。
たけさん・・悔しいのかな・・
やがて私たちは、撮影所を後にした。
「たけさん、お疲れさまでした」
「ああ」
「今日も、かっこよかったですよ」
「そうか」
たけさんは、口数が少なく、なにか別のことを考えている風だった。
やっぱり・・さっきのこと気にしてるのかな・・
「たけさん・・」
「なんだよ」
「あまり・・気にしない方がいいですよ」
「あ?」
「いや・・その・・奥寺さんのこと・・」
「気にしてねぇよ」
「そうですか・・それならいいんです・・」
「俺さ・・」
「はい・・」
「金を稼ぐって意味な。勘違いしてた気がする」
「え・・」
「コンビニでは、普通に従業員としてやれることはやってるつもりだ。店にも迷惑かけてねぇ」
「はい、そうですね」
「給料に見合う仕事をやってるつもりだ」
「はい、そうだと思います」
「でも・・モデルは、はっきり言って、嫌々やってた。仕方なくやってた」
「たけさん・・」
「でも、どんな仕事でも金を稼ぐからには、ちゃんとやらなきゃいけねぇんだな」
「・・・」
「俺、あの奥寺ってやつに、ぜってー負けねぇからな」
「たけさん・・」
「くそっ・・奥寺か・・。今に見てやがれ」
「あの・・その・・ケンカとかはダメですからね・・」
「はっ、バカかっ!ケンカなんて意味ねぇんだよ」
「はい・・」
「モデルとして超えてやるっつってんだよ」
たけさんの表情は、とても真剣だった。
そうよ・・
そうよ~~!
あんな奥寺なんかに、負けてなるものか!
たけさんなら、きっと超えられる。
超えられるわよ~~!




