五十五、あるようで無い居場所
それから数日後・・
「あのね・・、バイト先で、ほら、あの綺麗な人いたでしょ」
私はお昼休み、美琴と紬に設楽さんの話をした。
「ああ~、めっちゃ綺麗な人な」
「その人が、どうかしたでありんすか」
「その人、設楽さんっていうんだけど・・時雨さんのお兄さんのことが好きなのよ・・」
「えっ!でも真人王子には、彼女いてるんちゃうの」
「うん。設楽さんは、そのことも知ってるのに・・」
「あらら・・横恋慕でありんすか・・」
そして私は、亮介くんのことや、ご両親がいなくて時雨さんと同じ環境ということも話した。
「うーん・・これはややこしい話やな」
「でもね、設楽さんは、絶対に奪ったりしないって言ってるんだけど・・私にはそうは見えないのよ」
「これってヤバイんちゃうの」
「うん・・」
「だって、あの美人やで。普通、男は心が動くで」
「でも、お兄さんは面食いじゃないし、葵さんのこと、すごく好きだし・・」
「この場合・・顔云々は関係ないでありんすよ」
「え・・」
「同じ境遇・・しかも、亡くなった兄とそっくり・・。自分を兄と慕ってくれる二人を、かわいく思うのは当然の気持ち、でありんすな・・」
「そこやがな。かわいい、が、愛しい、に変化することは、ありがちやで」
「それでね・・時雨さんに「お前に、俺たちの気持ちはわからねぇよ」って言われちゃってね・・だから詮索すんなって・・」
「なんや、冷たい言い方やなあ」
「これって・・葵さんに言った方がいいのかな・・」
「いや・・余計な心配をさせない方がいいでありんすよ」
「やっぱり、そうよね・・」
「設楽さんは、よかれって思ってやってるんだけど、なんか・・もう、彼女気どりっていうか・・」
「なんやの、それ」
「時雨さんちでご飯作ったり・・」
「げ~~、マジか!」
「通い妻・・さながらでありんすか・・」
「男の人の気持ちって、わからないわ・・」
「なんやの、小春」
「だってね、いくら同じ境遇だからって、彼女がいるのに・・設楽さんに彼女みたいなことさせて・・」
「そうでありんすなぁ・・」
「そこは・・線を引くべきだと思わない?」
「確かにな」
「もし、相手が時雨さんだったら、私は絶対に嫌だもん」
だって・・設楽さんが健人くんって呼ぶのだって・・すごく・・嫌だもん・・
いくら時雨さんたちが受け入れてくれるからといって、そこは設楽さんが自重すべきじゃないの・・?
絶対におかしいよ・・設楽さん・・
「こうなったら、小春も王子の家へ通うべきやな」
「え・・」
「小春がおったら、設楽さんも滅多なことはでけんやろ」
「確かにそうでありんすな。小春がいることで、設楽さんの気持ちにブレーキがかかるでありんしょ」
「でも・・私が行っても、なにもすることがないし・・邪魔なだけよ・・?」
「それこそ!ご飯、作ったったらええがな」
「え・・」
「設楽さんが作る前に、小春が作るんや」
「そんなことして、いいのかな・・」
「ええに決まってるがなっ!あんたは王子の彼女やねんで」
「そうだけど・・」
「堂々としとったらええねん。もっかい言うで。あんたは王子の彼女なんや!」
「う・・うん・・」
こうして私は、時雨さんの家に顔を出すことが決まった。
ほんとにいいのかな・・
時雨さん・・勘がいいから・・なんか不安だわ・・
そしてこの日の夕方・・
バイトは休みだし・・
私は設楽さんよりも先に、時雨さんちへ行くことにした。
えっと・・スーパーで食材も買ったでしょ・・
なにか忘れてることはないかな・・
「こんにちは」
私は玄関の前でそう言った。
するとすぐに時雨さんが扉を開けた。
「おう、小春。どうした」
「えっと・・晩御飯を作りに来ました~」
「え・・」
「ほら、スーパーで買い物もして来ました~」
私はそう言って、袋を見せた。
「お前、バイトは?」
「今日は休みです」
「道場は?」
「それも休みです」
「そっか。んじゃ上がれよ」
「はーい」
そして私は部屋に上がらせてもらった。
「亮介くんは?」
「もうすぐ来るぜ」
「そうですか」
私は台所で、袋から食材を出しながらそう言った。
「東雲さんは?」
「もう帰って来るぜ」
「そうなんですね」
「つか・・お前、なんで飯なんか作りに来たんだよ」
「ええ~~、変ですか?」
「いや・・変じゃねぇけど」
「だって、時雨さんに食べてもらいたいですから~」
「そっか。ありがとな」
時雨さん・・やっぱり少し、変に思ってる・・
絶対に、悟られないようにしないと・・
ほどなくして、亮介くんが来て、その後にすぐ、東雲さんも帰ってきた。
そして時雨さんは、小春がご飯を作りに来てくれたと、二人に説明していた。
「健人兄ちゃん、俺さ、テストの点数上がったんだ」
「おお~!よかったな。で?何点だったんだ」
「七十五点だよ!」
「マジかよっ!すげーじゃん」
「亮介くん、よく頑張ってるもんね」
「うん、和樹兄ちゃんと健人兄ちゃんのおかげだよ」
「この調子だと、割と上位の高校へ行けるな」
「うん、俺、もっと頑張るよ」
「おう!その意気だぜ!」
健人兄ちゃん・・和樹兄ちゃん・・か・・
私は材料を切りながら、亮介くんの心境を想った。
そうよね・・不良だった亮介くんが、こんなに前向きになって・・
設楽さん・・こんな様子をずっと見てるのね・・
「こんばんは」
そう言って設楽さんが入ってきた。
「おう~華子、いらっしゃい」
え・・華子・・?
うそ・・設楽じゃなくて・・名前で・・
おまけに・・呼び捨て・・?
「設楽さん、こんばんは」
東雲さんは・・設楽さんって言ってるのに・・
「外は寒いわね。だから肉まん買ってきたわよ」
「いつも済まねぇな、華子」
「あはは、いいのよ、このくらい」
「設楽さん、ありがとう」
「姉貴、俺、テストで七十五点取れたんだよ」
「ほんとっ?わあ~、よく頑張ったわね」
「へへ・・」
「和樹さんと健人くんのおかげだわ。ほんと・・ありがとう・・」
「んな~、なに言ってんだよ。さっ、肉まん食おうぜ」
え・・私・・ご飯作ってるのに・・
「おーい、小春~」
時雨さんが私を呼んだ。
「あっ・・薄柿さん、来てたんだ」
「こんばんは・・」
私は振り向いて、頭を下げた。
「小春、お茶淹れてくれねぇか」
「あ・・はい・・」
「じゃ、私も手伝うわね」
そう言って設楽さんは、台所へきた。
「あら・・薄柿さん、ご飯の支度してくれてるのね」
「はい・・」
「よかった。実は、どうしようかと思ってたのよ」
「・・・」
「だから、ご飯ができるまで、とりあえず腹ごしらえってことで肉まん買ってきたのよ」
「そう・・ですか・・」
「ね、なにを作ってるの?」
「え・・豚肉のアスパラ巻と・・煮物です・・」
「へぇー、そうなんだ」
設楽さんは、私と揉めたことを忘れているかのように、普通に話していた。
「お茶は、私が淹れるわね」
「あ・・はい」
そして設楽さんは、三人分のお茶を湯飲みに入れてちゃぶ台まで運んだ。
「ただいまー」
そこにお兄さんが帰ってきた。
「ええ~~、肉まん、あったのかよ~」
お兄さんは驚いてそう言った。
「俺、肉まん買ってきたんだよ」
「あはは、この肉まん、私が買ってきたのよ」
「そうだったのかよ~。重なっちゃったな」
「いいじゃねぇか。亮介、たくさん食えよ」
時雨さんがそう言った。
「うん、兄ちゃん、ありがとう!」
「お兄さん、おかえりなさい」
私は台所からそう挨拶した。
「おお、小春ちゃんも来てたのか」
「はい」
「おおっ!飯の支度してくれてるのか、小春ちゃん」
お兄さんは私の傍まで来て、そう言った。
「はい・・」
「ほぅ~、豚肉のアスパラ巻か。すげーな」
「いえ・・そんな・・」
「ありがとな、小春ちゃん」
そう言ってお兄さんは私の頭を撫でた。
お兄さん・・すごく優しくていい人だけど・・
こういうのって・・女子なら勘違いするよね・・
「小春~、お前もこっち来て、肉まん食えよ」
時雨さんがちゃぶ台の前で、そう叫んでいた。
「あ・・はい・・」
私は仕方なく、部屋に戻った。
「ここに来いよ」
時雨さんは自分の横に座るよう、私に促した。
「はい・・」
そして私は時雨さんの横に座った。
「兄ちゃん、俺さ、テストで七十五点取ったんだ」
「おお~~!もうそんなに取れるようになったのか」
「うん、そうだよ」
「あはは、こりゃ~合格はもう間違いねぇな」
「俺、頑張るよ」
「ああ、そうだ。姉ちゃんのためにも、絶対に合格すんだぞ」
「あの・・合格したら、俺、兄ちゃんにお願いがあるんだけど・・」
「ほう、なんだ。言ってみな」
「合格したら・・俺と姉貴と兄ちゃんと三人で遊園地へ行ってほしいんだ・・」
「亮介・・」
設楽さんがそう呟いた。
「遊園地か。いいぞ、三人で行こうな」
「ほんと?やったー!」
三人で遊園地って・・ほんとにいいの・・?
「亮介・・無理を言っちゃダメよ・・」
「え・・」
「っんな~、華ちゃん、無理じゃねぇよ」
「でも・・」
「亮介の合格祝いだぜ。三人で行こうな」
「うん・・ありがとう・・」
なんか・・設楽さん・・また切なそうなんだけど・・




