四十九、兄ちゃん
ルルル・・
え・・なに・・?電話・・?
嘘ぉ~~・・今何時なの・・
時計を見ると、朝の六時だった。
ええ~~・・誰よ・・こんなに早く・・
画面を見ると、時雨さんからだった。
え・・なにかあったのかな・・
「はいっ、もしもし」
「おう、小春、起きてたか~」
「なにかあったんですか!」
「あはは、なんもねぇよ」
「え・・こんなに早く、一体どうしたんですか」
「あのさ、俺、合宿行ってくるから」
「え・・合宿・・?」
「うん。塾の合宿な」
「え・・いつから行くんですか」
「今からだよ」
「えええええ~~~!そんなの聞いてないですよ~~」
「言わなかったんだから、当然だろ」
「なんで言ってくれなかったんですかぁ~」
「だってさ、合宿行くなんて言ったら、お前また、私のせいでぇ~勉強がぁ~疎かになったからですねぇ~とか、言うじゃん」
「なっ・・モノマネしましたね・・」
「あはは。んじゃ、そういうことだから」
「えっ!今、家ですか?」
「いや、もう駅だぜ」
「げ~~~!ひっどーーい!」
「あはは。向こうで電話すっからな」
「ちょ・・ちょっと待ってくださいよ~~」
「なんだよ」
「いつ・・帰ってくるんですか・・」
「正月明けてからだよ」
「えええええ~~~~!そんなにっ?ヤダ~~一週間もあるじゃないですかぁ~」
「ほら~、そんな風に言うだろ。だから言わなかったんだよ」
「あの・・勉強、遅れてるんですか・・?」
「遅れてねぇよ。今から行く塾、俺、相性いいんだよ。んで、合格を確実にするためにな。念のためだよ」
「そうですか・・。わかりました。我慢します。時雨さんの合格のためですもんね。わっかりました~~」
「お前、風邪ひくなよ」
「時雨さんも。気をつけて行ってらっしゃい」
「ああ。んじゃな」
そう言って電話は切れた。
なによ・・
少しくらい言ってくれてもいいのに・・
今だって・・ここに来てくれたらよかったのに・・
ううう・・急に淋しくなってきた・・
一週間かぁ・・長いなぁ・・
え・・正月明けってことは・・ヤダ~~初詣、一緒に行けないじゃない~~
でも・・わがまま言っちゃダメよね・・
受験が終わったら、思いっ切りデートするんだからね~~!
それから二日後・・
「薄柿さん・・」
バイト中、私は設楽さんに声をかけられた。
「はい、なんですか」
「あの・・バイト終わったら・・ちょっと一緒に行ってくれないかな・・」
「え・・どこへですか」
「時雨さんのお家に・・」
「え・・時雨さんの・・?」
「うん。亮介がね・・真人さんに会いたいって言ってるの」
「そうなんですね~、いいですよ~」
「よかった。ありがとう。じゃ、よろしくね」
「はいっ!」
そっか~~・・亮介くん、亡くなったお兄さんに会いたい気分なんだろうなぁ・・
それにしても、設楽さん・・少し表情が明るくなった気がする・・
亮介くんが、立ち直りかけてるのかな・・
そしてバイトも終わり、私と設楽さんは時雨さんちへ行くことになった。
店の外では亮介くんが待っていた。
「亮介くん、こんにちは」
「あ・・どうも・・」
「胸の痛みはどう?」
「はぁ・・特に痛くないっす・・」
「そうなんだ。設楽さん、よかったですね」
「うん。ありがとう」
「あ・・でも、お兄さん帰ってるのかな・・」
「え・・まだお仕事中なの?」
「うーん、帰ってくる時間は、まちまちみたいで、早ければもう帰ってると思うんですけど」
「そうなのね・・。帰ってなかったら、外で待たせてもらうわ」
「あ、よかったら私のアパートへ来てくださいよ」
「え・・」
「私のアパート、時雨さんのアパートの隣なんですよ」
「そうだったの・・」
「はい~」
やがて私たちは、時雨さんちへ着いた。
「こんにちは~」
私はそう声をかけたが、中から返事はなかった。
やっぱり帰ってないのかな。
「いないみたいね・・」
「そうですねぇ~」
「おお~~、小春ちゃーん」
そこに、ちょうどお兄さんが帰ってきた。
「あっ、お兄さん~!おかえりなさい~」
「小春ちゃん、健人な・・塾の短期合宿へ行ってんだよ。だからいねぇんだよ。ごめんな」
「あっ、知ってます~。えっと、今日は時雨さんに用じゃなくて・・設楽さんたちがお兄さんに会いに来たんです」
「そうなのか。こんにちは、亮介くん、設楽さん」
「こ・・こんにちは・・」
亮介くんは、とても照れくさそうに挨拶をした。
「突然、すみません・・。それと先日は大変お世話になりました・・」
「いいえ。よく来てくれました。さっ、どうぞ」
そしてお兄さんは玄関の鍵を開けて、設楽さんたちに入るよう促した。
私もついでに上がらせてもらった。
というか・・設楽さんに引っ張られて入った。
設楽さんと亮介くんは、ちゃぶ台の前に座った。
お兄さんは台所へ行った。
「お兄さん、お手伝いします」
私はそう言って、お兄さんの横に立った。
「ありがとな。んじゃ、お茶淹れるから、持ってってくれな」
「はーい」
そして私はお盆に湯飲みを乗せ、二人にお茶を出した。
そこにお兄さんもきた。
「亮介って呼ぶぞ。亮介、ケガの方はどうだ?」
「うん・・もう痛くないよ・・」
「そうか。そりゃよかったな」
「あの・・俺は、なんて呼べばいいかな・・」
「俺か?なんでもいいぞ。兄ちゃんでも、兄貴でも、真人でも、なんでも」
「そっか・・じゃ、やっぱり兄ちゃんで・・」
「うん、それでいいぞ」
「あの・・私は、真人さんとお呼びしてもいいでしょうか」
「はい。なんでもどうぞ」
そう言ってお兄さんは、優しく微笑んだ。
「あんまり緊張しないでくれよ。何でも話していいからな、亮介」
「うん・・」
「あの・・これ、兄なんです・・」
そう言って設楽さんは、一枚の写真を差し出した。
「おっ・・、これがお兄さんですか・・」
お兄さんは、写真を見て驚いていた。
私も横から写真を覗きこんだ。
すると・・まるで時雨さんのお兄さんじゃないかと思えるほど、設楽さんのお兄さんはそっくりだった。
これほど似ているなんて・・
そりゃ・・亮介くんが会いたがるのも無理はないわ・・
「私も亮介も、兄が大好きでして・・。特に亮介は兄と年が離れていますので、亮介が小さい頃からとてもかわいがっておりました。亮介はいつも兄の傍から離れず、甘えてばかりいました」
「そうですか・・」
「父は、亮介が生まれて間もなく亡くなりましたが、兄が父親代わりに亮介を面倒見てくれましたので、この子は淋しい思いをせずに済みました・・」
「そうですか。とてもいいお兄さんだったんですね」
「はい。あ・・なんかこんな話・・つまらないですよね・・」
「そんなことないですよ。気にしないでください」
「あの・・」
そこで亮介くんが口を開いた。
「なんだ、亮介」
「兄ちゃん・・俺と一緒に写真を撮ってくれないかな・・」
「おお、いいぞ!んじゃ、俺の横に来い」
「うん」
そして二人は並んで写真を撮っていた。
「うーん、もう一枚だな」
そう言ってお兄さんは亮介くんの肩を抱き、もう一枚撮った。
「よしよし、これでいいな」
「兄ちゃん、ありがとう」
「っんな~、なに言ってんだよ。写真くらい何枚でも撮ってやるからな」
「どうもありがとうございます・・」
設楽さんもお礼を言った。
「なんの。んで、亮介は高校へ行くのか」
「え・・」
「お前、中三だろ」
「うん・・」
「もうすぐ受験じゃねぇか」
「でも・・俺・・ずっと勉強やってないし・・無理だと思う・・」
「あはは、そんな心配すんな。うちの弟いるだろ。健人。あいつ昔は超バカでな。0点なんてざらだったんだぞ」
「え・・」
「でもな、必死になって勉強して、E高校へ行ってるんだぞ」
「えっっ!E高校って・・超進学校だよ?」
「うん。あいつにもできたんだ。亮介にだってできるさ」
「そ・・そうなんだ・・0点だったのに・・E高校・・す・・すごいな・・」
「亮介・・今からでも遅くないから、勉強して進学しなさい」
「姉貴・・」
「そりゃE高校なんて無理だけど、高望みしなければ進学できるのよ」
「そうかな・・」
「あっ!そうだ。今日はいねぇけど、ここに和樹ってやつも住んでてな。そいつ、超秀才でな。健人よりもずっと優秀。そいつに勉強みてもらえよ、亮介」
「え・・いいの・・?」
「あはは、かまわねぇよ。よし、俺から頼んでやるからな。それと健人が合宿から帰ってきたら、健人にも教えてもらえよ。それでいいな」
「う・・うんっ。兄ちゃん、ありがとう」
「あはは。いいってことよ!」
亮介くんの様子を見ていると、もうバカなことはしないってわかる・・
お兄さんを見つめる目が、輝いているもん・・
よかったね・・亮介くん、設楽さん・・
「そういえば・・設楽さんの下の名前ってなんていうんですか?」
私がそう訊ねた。
「あ・・私、華子っていうの」
「わあ~~かわいい名前ですね~」
「おお~~華ちゃんですか。んじゃ、これからは華ちゃんって呼びますね」
「あ・・はい・・」
「んー・・ってか、敬語もやめるか。もうダチ語で話すけど、いいか?」
「はい、ぜひ、そうしてください」
「っんな~、華ちゃんも敬語、やめようぜ」
「え・・でも・・」
「いいからさ。気楽に行こうぜ、気楽にな」
「あ・・うん・・」
え・・設楽さん・・
なんか・・ちょっと・・
いや・・私の考えすぎかな・・




