五十、設楽さんの変化
「もしもし~小春~」
その日の夜、時雨さんから電話がかかってきた。
「はい~、勉強、どうですか?」
「ああ~・・もうクタクタだぜ」
「そうなんですね」
「朝から夜までずっと缶詰だからな」
「そうなんですか~、大変ですね」
「お前は、なにしてたんだ?」
「あの、実は、今日、設楽さんと亮介くんを連れて、時雨さんちにお邪魔してたんです」
「へぇーそうなのか」
「なんかね、亮介くんがお兄さんに会いたいって・・」
「ああ・・なるほどな」
「一緒に写真も撮ってましたよ」
「そっか。亮介、喜んでたか」
「はい。とっても。それで、ずっと兄ちゃん、兄ちゃんって・・」
「そうかぁ・・。亮介、淋しいんだな」
「あ、それでね、亮介くん、東雲さんに勉強、教えてもらうことになりましたよ」
「ほぅ~、高校行く気になったんだな」
「はい。で、亮介くん、最初は勉強してないしって言ってたんですけど、お兄さんが、健人は昔、超バカで0点取ってたのにE高校へ行ってるって言ったら、亮介くん、やる気になったみたいで・・」
「っんだよ、それ。俺をダシに使うんじゃねぇーっつーの」
「あはは。でもよかったですよね」
「そうだな」
設楽さんの様子が気になったこと・・言った方がいいかな・・
でも私の勘違いかも知れないしな・・
「あの・・時雨さん」
「ん?」
「私の勘違いかも・・いや・・おそらく勘違いかも知れませんが、ちょっと気になったことがあって・・」
「なんだよ」
「設楽さんね・・もしかしたら・・お兄さんのこと好きなんじゃないかな・・」
「はあ?どういうことだよ」
「いや・・女の勘っていうか・・どうも設楽さんのお兄さんを見つめる様子が・・それっぽくて・・」
「それって、今日のことか?」
「はい・・」
「で、兄貴はどうなんだよ」
「お兄さんは、まったく普通です」
「だろうな。兄貴は葵ちゃんにベタ惚れだから、無理だぜ」
「そうですよね・・」
「っんなこと、お前が心配することはねぇよ」
「そうですよね・・」
「言っとくけど、兄貴って面食いじゃねぇから」
「あ・・はい・・」
「兄貴って、人当たりもいいし、性格もあんなだけど、兄貴の心を動かすのは難しいぜ」
「そうなんですか・・」
そうだよね・・
お兄さんは葵さんのこと、すごく好きだもんね。
いくら女優みたいに綺麗な設楽さんでも・・無理よね・・
「んじゃ、俺、もうひと頑張りするわ」
「はい、あまり無理しないでくださいね」
「うん。ありがと。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい~」
時雨さん・・頑張ってるんだなぁ・・
もう十時過ぎてるのに・・今から勉強するんだ・・
偉いなぁ・・
そして翌日・・
「昨日はありがとう」
設楽さんがバイト中、声をかけてきた。
「あ、いいえ~」
「亮介ね、あの後、とても喜んでたのよ」
「そうですか~、よかったですね」
「それで・・今日も行くんだ~って」
「そうなんですね~。設楽さんもですか?」
「ううん。私は遠慮させてもらうわ」
「え・・どうしてですか」
「姉弟で連日押しかけるなんて出来ないし、勉強みてもらうんだって」
「あっ、そっか。東雲さんにみてもらうんでしたよね」
「東雲さんっていう苗字なのね。これでやっと勉強する気になってくれて、ほんとよかった・・」
「そうですね」
「あ、そうだ。後で休憩の時に、雑誌、見せてあげるわね」
「えっ!それってもしかして、モデルの?」
「うん」
「わあ~~、嬉しいです~~やった~~!」
「あはは。あまり期待しないでね」
そして、休憩時間になり、私は雑誌を見せてもらった。
「これね。見たらそこに置いといてくれればいいからね」
「は~い」
どれどれ~~・・
ペラペラとページをめくると、流行の服装に身を包んだ設楽さんの写真が出てきた。
うっわあ~~~~!
なんて綺麗なの~~~~~!
コンビニではスッピンで・・でもスッピンでもめちゃくちゃ綺麗だけど・・
綺麗に化粧をした設楽さんの顔は、この世のものとも思えないほど、美しく輝いていた。
プロが化粧すると・・こんなになるんだ・・いいなぁ~~・・
それとこの服・・かわいいなぁ・・
でも設楽さん・・プロだな・・
ニコッと笑ったのと、悩まし気な表情と・・ちゃんと使い分けてて・・
すっごーーーく綺麗!!
髪も・・巻き髪のと・・ストレートのと・・ほんと素敵・・
はぁ~~~・・ため息が出ちゃうな・・
やがて休憩も終わり、私はカウンターへ行こうとした。
するとそこで、設楽さんとお兄さんが、仲良さそうに話しているのを見た。
あ・・お兄さん、来てたんだ・・
設楽さん・・とても嬉しそう・・
私は少しだけ、後ろに下がった。
「華ちゃん、遠慮しなくていいから、華ちゃんもおいで」
「いえ・・だって姉弟で押しかけるなんて・・」
「っんなこと気にしなくていいって。亮介はもう来てんだぞ」
「でも・・まだ仕事が・・」
「終わってから来ればいいじゃねぇか。和樹のことも紹介したいしさ」
「そうなのね・・じゃ、挨拶だけしに行くね」
「うん、わかった。じゃ、待ってるからな」
「ありがとう・・」
ヤダ・・なに・・この雰囲気・・
まるで・・恋人同士みたい・・
お兄さん・・もしかして・・もしかするの・・?
「あら、薄柿さん、なにしてるの?」
「あっ・・いえっ・・。あっ!雑誌、ありがとうございました。すっごく綺麗で、もう眩暈がしました」
「あはは。大袈裟ね」
「もう、憧れます~~。ファンになりました~」
「ありがとう」
そう言って設楽さんは、輝くような笑顔を見せた。
「あ・・私、ここが終わったら、時雨さんのおうち、行くことになったの」
「そ・・そうなんですか・・」
「亮介に勉強を教えてくれる、和樹さんって人にご挨拶をしなくちゃね」
「ああ・・そうですよね」
心なしか・・設楽さん、やっぱり嬉しそう・・
ほんとに大丈夫なのかな・・
「薄柿さんも行かない?」
「あ・・いえ、私は稽古がありますので・・」
「あっ、そっか。合気道ね」
「はい・・」
「私、まだ緊張しちゃうから、ほんとは行ってほしいんだけどな・・」
え・・緊張するんだ・・
それって・・やっぱりそういうこと・・?
「そんな・・緊張だなんて、設楽さんらしくないですよ~」
「え・・私だって緊張するのよ~」
「そ・・そうですか・・」
「あ・・お菓子買って行った方がいいよね」
「え・・」
「これから亮介がお世話になるし」
「あ・・ああ~~・・そ・・そうですね」
「なにがいいかな・・」
えっと・・設楽さん・・目の前にお客さんが来てるんですけどぉ・・
設楽さんは、そのことに気がつかないで、上の空になっていた。
「あ、いらっしゃいませー」
私はそう言って、お客さんが来ていることを知らせた。
「あっ・・すみません」
すると設楽さんは我に返って、お客さんの対応をした。
こ・・これは・・もはや、確実だわ・・
ヤバイよね・・これって、絶対にヤバイよね・・
ヤダ~~・・時雨さんに知らせた方がいいのかな・・
でも・・兄貴の心は動かねぇとか言ってたしな・・
なんか、余計な詮索するみたいで・・こんなの時雨さん、嫌いよね・・
でも・・どうしたらいいのかな・・
ほんとに、このままでいいのかな・・
やがて設楽さんのバイトも終わり、設楽さんは店内でお菓子を選んでいた。
うわあ・・籠にたくさん入れてる・・
ジュースやお茶も・・
「薄柿さん、肉まんを三つ、包んでくれない?」
「あっ・・はいっ」
そっか・・以前、お兄さんが肉まん買って行ったもんね・・
「あっ・・でも、二個ずつ食べるとして・・やっぱり六つにしてもらおうかな」
「あ・・はい。六つですね」
そして設楽さんはたくさん買って、店を出て行った。
ヤダ~~・・気になるぅ~~・・
でも・・稽古があるしな・・
様子は・・また、設楽さんに聞けばいいか・・
そして私もバイトを終え、自転車で駅に向かおうとしたが、やっぱり気になって時雨さんのアパートの前まできた。
中に入るわけにもいかないしなぁ・・
「あははは」
中から楽しそうな笑い声が聞こえてた。
まあ・・いっか・・
亮介くんのために、みんな協力してくれてるんだもんね・・
ダメダメ・・余計な詮索は禁物よ。
そして私は道場へ向かった。




