四十五、とんでもない誤解
それから数日後・・
私はいつものようにバイトに入っていた。
もうずいぶん寒くなったなぁ。
もうすぐクリスマスか・・
ケーキの予約とか結構あるんだよね。
冬休みに入ると、時雨さんはますます受験勉強しなくちゃいけないし、デートどころじゃないよね。
我慢・・我慢・・
受験が終わるまでは、我慢するのよ・・小春。
「小春ちゃーん」
あっ!お兄さんだ。
わあ~~珍しいな~~
「お兄さん、お仕事帰りですか?」
「うん、まあね」
「わあ~~来てくださって嬉しいです~」
「頑張ってるみてぇだな、小春ちゃん」
「はいっ!」
「肉まんくれねぇか」
「あっ、はい!おいくつですか?」
「そだな~、健人と和樹、よく食うから、六つもらおうかな」
「はい!少々お待ちください」
そっか~。
時雨さんと東雲さんに差し入れするのね~。
優しいなぁ~・・お兄さん。
「薄柿さん、肉まん、後で補充しといてね」
設楽さんが奥から出てきて、そう言った。
「あ、はい」
そこで設楽さんは、お兄さんを見て、少し驚いた表情を見せた。
え・・なんだろ・・
知ってるのかな・・
「お兄さん、お待たせしました。肉まん六つです。どうぞ」
「ありがと。んじゃ、またな」
お兄さんはレジを済ませ、店を出て行った。
その後姿を設楽さんは、じっと見つめていた。
設楽さん・・どうしたのかな・・
若干、切なげなんだけど・・
「設楽さん・・」
「え・・?あ、なに?」
「さっきの人・・知り合いですか?」
「あ・・いいえ、知らない人よ」
「でもなんか・・設楽さん、様子が変でしたけど・・」
「ま・・まさか。余計な詮索しないで」
「はぁ・・すみません」
いや・・さっきの設楽さんは確かに変だった。
でも知り合いじゃないって言ってたし・・
そもそも知り合いなら、時雨さんのことだって知ってるはずだけど・・時雨さんのことは知らなかったし、時雨さんも設楽さんを知らなかったし・・
どういうことなんだろう・・
ま・・いっか。
「あの・・薄柿さん・・」
「はい、なんですか」
「さっき・・お兄さんって言ってたわよね」
「え・・ああ、さっきのお客さんのことですね」
「うん」
「あの人、私の彼のお兄さんなんですよ」
「そうなの・・」
「それが、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
なんでもないって・・
そんなはずないよ・・
なんでもないのに、わざわざそんなこと訊いてくる?
「亮介くんは、その後、どうですか」
「相変わらずよ」
「そうですか・・」
「高校にも行かないって言うし・・かといって、働く気もないみたいだし・・まったく・・どうしようもないわ」
「そうなんですね・・」
「あなたはなぜ、一人暮らししてるの?」
「あ・・えっと・・父の転勤で、両親はアメリカへ行ったんです」
「へぇー」
「で・・私は行きたくなくて・・それで」
「そうなの。それで彼があなたを・・」
「はい。でも、もう迎えには来ません」
「どうして?」
「私、自分の身くらい自分で守らなくっちゃって思って、合気道習ってるんです。その技を彼に掛けたら納得してくれて」
「あなたが彼を倒したってわけ?」
「あはは。そうなんです」
「へぇー、すごいわね」
「彼、受験生だから、私のために時間を取らせたくなくて・・」
「そうなのね。あなた、強くなったわね」
「そうですか~!設楽さんにそう言ってもらえると、私、嬉しいです~」
私がそう言うと、設楽さんは初めて優しい笑顔を向けてくれた。
わあ~~・・なんて綺麗な笑顔なんだろう・・
女優さんみたいだな・・いいなぁ~~・・
「設楽さんって・・年はおいくつなんですか」
「十九よ」
「えええ~~!わかっ!」
「そうかな」
「いや・・とてもしっかりされてるので・・二十歳は超えていると思ってました」
「まあ、よく言われるけど」
「モデルもされてるんですよね」
「うん」
「雑誌ですか?」
「うん。あまり有名じゃないけどファッション雑誌よ」
「そうですか~。今度、見せてください~」
「そんな、見せるほどの物でもないわよ」
「いやいや~~ぜひぜひ」
「さっ、そんなことはいいから、仕事よ」
「はい~」
ファッション雑誌かぁ~~・・いいなぁ~~・・
憧れちゃうな・・
設楽さんって、こうやって話すといい人だな・・
以前、私に冷たかったのは、仕事人としてしっかりしてほしかったからなんだよね・・
今はそれがわかる・・
「小春~」
「あっ!美琴ぉ~紬ぃ~」
店に二人がやってきた。
「制服、似合ってるやん~」
「二人とも、どうしたの?」
「それやがな~。泊まりに来たで」
「えええ~~!そうなんだ。嬉しい~」
「来店したからには、買い物をするでありんすよ」
「そうなんだ。ありがとう。あと少しで終わるからね」
そして美琴と紬は、店内を見て回っていた。
二人とも、私のことを気にかけてくれてるんだな・・
嬉しいな・・
やがて二人がレジに来た。
「わあ~、たくさん買ってくれるんだ~」
籠の中には、お菓子、アイス、ジュース等々・・たくさんの商品が入っていた。
「あったり前田のクラッカーやがなっ!」
「あはは。ありがとうございます~」
バーコードリーダーでチェックしていると、見覚えのない箱が出てきた。
ん・・?この箱はなんだろう・・
新しいお菓子かな。
ピッ・・
「えっと・・全部で二千五百三十円です」
「はーい」
美琴がそう言って、三千円を出した。
「四百七十円のお返しです。ありがとうございました」
「ほな、私ら外で待ってるわな。終わったらすぐに来てや。アイスあるし」
「うん、わかった」
そして二人は店の外へ出た。
「薄柿さんのお友達?」
設楽さんがそう訊いてきた。
「はい。学校の同級生です」
「泊まりに来てくれたのね」
「はい~」
「あまり、羽目を外さないようにね」
「はい~、わかりました」
「私の言ってる意味、わかってる?」
「え・・はい・・」
「あなたたち、まだ高校生なんだから、それを自覚しなさい」
「は・・はい・・」
なんだろ・・
意味って・・なに・・?
やがてバイトも終わり、私は外へ出た。
「美琴~、紬~」
「おお、来たか。ほなはよ行こ。アイスが溶けるわ」
「じゃ、私、自転車だから、先に行って冷やしておくね」
「うん、わかった~」
「小春、あまり慌ててはいけないでありんすよ~」
「わかった~」
そして私は自転車を走らせ、アパートの前に着いた。
「おお~小春、今帰りか」
「あっ、時雨さん~」
「今日もお疲れさま」
「今からお風呂ですか」
時雨さんが入浴グッズを持っていたので、そう訊ねた。
「うん。お前、ちゃんと晩飯食えよ」
「あっ、今から美琴たちが来てくれるんです」
「へぇーそうなのか」
「で、こんなに買ってくれて」
そこで私は袋の中身を時雨さんに見せた。
「へぇーマジでたくさんだな」
「でしょ~」
「え・・」
突然、時雨さんが袋の中身を見て驚いた。
「なんですか?」
「お前・・これ・・」
「え・・なんですか」
「な・・なにって・・」
「え・・?」
私は袋の中を覗いてみた。
なんか変な物、入ってたかな・・
別に・・ないけどなぁ・・
「これさ・・お前、なにか知ってんのか」
時雨さんは箱を指してそう言った。
「え・・これってお菓子でしょ」
「は・・はああ?」
「違うんですか」
「ばっ・・バカっ!」
「え・・」
「風呂行ってくる!」
そう言って時雨さんは、お風呂へ行った。
え・・なに・・今の・・
あっっ!アイスが溶ける~~~!
私は急いで部屋に入り、冷凍室にアイスを入れた。
それにしても、時雨さん・・なんだったんだろう・・
私はその箱を手に取り、改めて見てみた。
チョコレート・・?違うな・・
えっと・・
「小春~」
あっ、美琴たちだ。
「はーい」
私は急いでドアを開けに行った。
「どうぞ~~入って~~」
「お邪魔しまんにゃわっ」
「なによ、それ」
「まあ、ええがな」
「お邪魔するでありんす~」
そして私は、座卓にお菓子を並べた。
「あっ、そうだ。ねぇ、この箱ってなに?」
「小春・・それを知らないでありんすか」
「やっぱりな~。そうやと思たわ」
「えっ・・これってなんなの?新しいお菓子?」
「あはは、お菓子ってか。ちゃうちゃう」
「さっきね、時雨さんに会って、この箱見てすごく驚いてたのよ」
「げ~~~~!王子に見せたんかいなっ!」
「なんと・・。で、時雨王子はなんと言ってたでありんすか」
「バカっ!って言われちゃったんだけど・・」
「あははは!ああ~~おもろい~~」
美琴はお腹を抱えて笑っていた。
「ねぇ、なんなのよ、この箱」
「開けてみるか?」
「美琴・・それはあまりにも刺激が強すぎるでありんすよ・・」
「あはは、そうやな」
「もう~~なんなのよ!」
「小春・・それは・・コンドウさんでありんす」
「コンドウさん・・?なによ、それ」
「コンドーですっ!」
「なに言ってんのよ、美琴・・」
「その・・男性用の避妊具でありんす・・」
「え・・ええええええ~~~~!嘘でしょ~~~!」
「あははは~~小春・・あかん・・あんたおもろ過ぎる~~」
「ちょ・・ちょっとおおおお~~~!ヤダ~~私、時雨さんに・・見せちゃったじゃないの~~!」
「そら、王子もびっくりやな」
「ヤダ~~私が買ったと思われてるじゃない~~!っていうか・・美琴と紬・・どうしてこんなもの買ったのよ!」
「そら~~小春のためやん?」
「なんで私のためなのよっ!」
「事に至るのは・・突然ラブストーリーでありんす・・」
「いや、それを言うならラブストーリーは突然に、や」
「ああいったことは・・突然訪れるものでありんす。その時に、これがなかったらダメでありんしょ」
「まったく~~~!そんなことないって言ってるでしょ!」
「小春は、まだ高校生でありんす・・。避妊はしないと、でありんすよ・・」
「紬だって高校生じゃない・・」
まったく・・この二人には・・ほんと、参っちゃうわ・・
「あれ・・小春、これってバランスボールやんか」
美琴がバランスボールを見つけて、そう言った。
「うん」
「買ったん?」
「うん、買ったの」
「なんでまた」
「あのね、実は・・」
そこで私は、合気道を習っていることと、その動機も話した。
「ええええ~~~!小春が合気道ってか!」
「あら~~・・これは意外でありんしたな」
「でね・・私、この間、時雨さんを倒したのよ」
「なにっっ!まっ・・まさか・・。ついに王子は我慢でけんようになったか・・やっぱり十八やしなぁぁ・・しゃあないか・・」
「やはり・・コンドウさんを買って、正解でありんしたな・・」
「違うぅぅぅ~~~!時雨さんはそんな人じゃないの!私が襲ってって言ったの!」
「ぎゃ~~~!小春っっ!大胆にも程があるっちゅーーーねんっ!」
「やはり・・コンドウさんを買って正解でありんした・・」
「もう~~!違うんだったら~~!」
この二人・・絶対わかってるよね・・
わざと言ってるよね・・
あ・・そうか・・
だから設楽さん・・「羽目を外さないように」って・・言ってたんだわぁぁ~~!
ひぃ~~~、誤解されてる~~!
-------------------------------------
※ 文中に出てくるギャグ
「お邪魔しまんにゃわ」は、吉本新喜劇、井上竜夫さんの挨拶ギャグです。




