四十六、初心者の奮闘
やがて冬休みに入り、私は平日も朝から夕方まで、バイトに勤しんでいた。
とにかく生活費を稼がなくちゃね。
それでも休みは必ず取らなければならず、今日はその休みの日だ。
私は久しぶりに、東京の原宿へ来ていた。
やっぱり大都会はすごいなぁ~~・・
冬休みとあって、若い人たちで溢れかえっていた。
今日、ここへ来たのは、時雨さんにクリスマスプレゼントを買うためだ。
地元で買うのもいいんだけど・・やっぱり若者の街っていったら、原宿よね!
さて~・・なににしようかな・・
私は竹下通りを、あちこち見て回った。
お菓子とかは・・食べたらなくなっちゃうし・・
やっぱり思い出に残るものがいいよね。
あっ!服なんてどうかな。
ズボンは・・本人が試着しないとわかんないし・・ウエストとかも・・知らないしな・・
セーターとか?ジャケットとか?
うーん・・迷っちゃうな・・
あっ!帽子なんてどう?
これからもっと寒くなるし、ニット帽とかいいよね!
キャップもいいなぁ~~・・
時雨さん・・マフラーは持ってるんだよね。
帽子と手袋のセットなんてどう?
きゃ~~それにしよう!
そして私は一軒の雑貨店に入った。
わあ~~たくさんあるんだな~~
「いらっしゃいませ。なにをお探しですか?」
そこに若い男性店員が声をかけてきた。
「えっと・・男子高校生なんですけど・・」
「え・・男子高校生を探してるの?」
「えっ・・」
「あはは。冗談。彼にプレゼント?」
「は・・はい・・」
なに~~この人・・わかっててからかったのね。
「そうだな~、彼にプレゼントなら、このネックレスなんでどう?」
「え・・ネックレス・・」
「あなたは私の物よって意味だよ」
「そんなっ・・物とか・・そんなんじゃありません・・」
「どうして?彼、喜ぶと思うよ?」
「い・・いえ・・」
「じゃ、ブレスレットなんてどう?」
「え・・」
「これも同じような意味だよ」
「そんな・・私、彼を束縛するようなこと・・したくありません・・」
「俺も男だけど、彼女からこういうの貰ったら、嬉しいけどな」
「いえ・・結構です・・」
「そう?今、流行ってるんだけどな。これ売れ筋だよ」
「いいです・・」
そう言って私は店を出ようとした。
「っんだよ。ブスのくせに。どうせ男も不細工なんだろうな・・」
そう囁く声が聞こえた。
「ちょっと~~!なによっ!今、なんて言ったの!?」
私は店へ戻り、怒鳴った。
「え・・いえ・・」
「彼のこと、不細工って言ったわよね」
「あはは・・冗談だよ・・」
「これ、私の彼よ!」
私は携帯の画面を見せた。
「え・・めっちゃイケメンじゃん・・」
「そうよ!身長も182あるのよ!」
「いや・・これってマジで彼なの・・?」
「そうよ。悪い?」
「いや・・悪くないけど・・」
「わかったら、謝って!」
「え・・」
「私のことは何とでも言えばいいけど、彼のこと侮辱されるのって許せないの」
「あ・・うん。すみません」
「ったく・・」
「あのさ・・この彼なら・・」
「なによっ!」
「この帽子なんか似合うと思うよ」
そう言って店員は、紺色のとてもかっこいいキャップを手に取った。
あ・・いいじゃない・・
なによ・・なにが似合うか知ってるんじゃないの。
「それ・・いいですね・・」
「でしょ?きっとかっこいいよ」
「えっと・・手袋なんかもありますか」
「うん、あるよ!」
店員は手袋を探しに行き、キャップとお揃いになるような手袋を持って戻った。
「これ、絶対いいよ」
「そう・・ですね・・」
この人・・センスいいんだな・・
「じゃ・・それください」
「ありがとうございます!すぐにお包みしますね。それでよかったら、ポイントカードお作りしますので、ここに必要事項を記入してね」
「あ、はい・・」
私はどっちでもよかったが、とりあえず名前と電話番号を記入した。
そして店員は、サンタの絵が描かれてある包装紙に包み、リボンも付けてくれた。
「彼、喜んでくれると思うよ」
「はい・・」
「さっきは、マジでごめんね」
「あ・・いえ・・」
「彼とお幸せにね」
「はい・・ありがとうございます・・」
そして私は店を出た。
きゃ~~~・・時雨さん、きっと喜んでくれるわ~~。
私は目的の物を買ってホッとし、スイーツを食べることにした。
わあ~~・・たくさんあるな・・
どこに入ろうかな~~・・
私が迷っていると、野次馬が群がっている場所に出くわした。
え・・なんだろ・・有名人でも来てるのかな・・
きゃ~~・・誰だろ。
私は野次馬の中に入って、誰がいるのかを見てみた。
するとそこには、亮介くんが誰かと揉めていた。
げっ・・なにやってるのよ・・亮介くん・・
「だから!俺じゃねぇって言ってんだろ!」
亮介くんが、ガラの悪い男性に向かってそう言った。
「うるせぇ!お前、ぶっ殺してやる!」
そう言って男性は亮介くんに殴りかかった。
群衆から「きゃあ~」という声や、面白がって「やれやれ~~」という声が挙がっていた。
ちょ・・ちょっと待ってよ・・
亮介くんは抵抗していたが、その男性にやられっ放しだった。
更に男性は、畳みかけるように、蹴りも入れていた。
「おら~~!吐けよ!お前だろうが!」
「うっ・・痛てぇ・・ち・・違うって・・」
ちょっと・・やり過ぎじゃない・・?
どうしよう・・このままだと、亮介くん・・大けがされらせてしまう・・
「ち・・ちょっと・・」
私は二人の前に出た。
「ああっ?なんだよ、お前」
「もう止めなさいよ・・」
「うるせぇ!お前には関係ねぇだろ!」
「このままだと・・大変なことなりますよ・・」
「すっこんでろ!」
亮介くんはお腹を抱えて、唸っていた。
野次馬は、小柄で、か弱そうな私が出て行ったので、更に好奇の目でやり取りを見ていた。
「止めなさいよ」
「まだ言うか。それじゃお前も殴ってやるよ!」
そう言って男性は私に殴り掛かってきた。
野次馬から「きゃ~~誰か~~」と言う声が挙がった。
そしてその場は騒然となった。
私は素早く男性の腕を掴んで捻りあげ、前に倒した。
すると「おおおお~~~」という声が挙がった。
「あのっ!誰かこの男性を取り押さえてください!」
私がそう叫ぶと、数人の男性が取り押さえてくれた。
「亮介くん、大丈夫?」
「痛てぇ・・うっ・・」
「病院へ行きましょう」
「うっ・・うう・・」
ダメだ・・救急車を呼ばなくちゃ・・
「誰か!救急車を呼んでください!」
「もう呼んだわよ!」
一人の女性がそう言ってくれた。
「そうですか・・ありがとうございます。亮介くん、しっかりして!もうすぐ救急車が来るからね!」
「う・・うう・・」
ほどなくして救急車が到着し、私は同乗して病院まで行った。
大変なことに・・どうしよう・・
設楽さんの番号・・知らないしな・・どうすればいいの・・
あっ!時雨さんに連絡して、コンビニへ行ってもらおう。
確か、設楽さん・・出勤だったはずよね・・
えっと・・電話・・電話・・
私は手が震えていた。
「もしもしっ!」
「おう、小春か」
「あのっ・・あのっ!」
「おい・・小春、どうした!」
「えっと・・設楽さんの弟さんがケガして・・大変なことになってて・・」
「え・・どういうことだ!」
「それで・・今、病院にいるんですけど・・えっと・・時雨さん、申し訳ないんですがコンビニへ行って設楽さんに知らせてくれませんか」
「ああ。わかった。それで病院はどこだ?」
「都内のT病院です」
「よし。んで、お前もそこにいるんだな?」
「はい・・」
「俺も行くから、待ってろよ」
「はい・・」
ああ・・どうしよう・・
亮介くん・・唸ってたし・・内臓とか・・痛めてるんじゃないのかな・・
それか・・骨折とか・・
暫く経って、先生が出てきた。
「えっと・・お連れの方ですよね」
「はい・・あの、亮介くんはどうですか・・」
「検査しましたが、ろっ骨を折ってますね」
「ろっ骨・・」
「胸部を固定して、手当てしてありますから、心配ないですよ」
「そ・・そうですか・・」
「暫くは痛みますが、それも日にちが経てば軽減されます」
「えっと・・入院とか・・するんでしょうか」
「骨折は一本だけですので、入院は必要ありませんが、通院していただくことになります」
「そ・・そうですか・・」
帰れるんだ・・よかった・・
そこに亮介くんが治療室から出てきた。
「亮介くん・・」
「い・・息が・・」
「きみ、まだ帰れないよ」
先生がそう言った。
「え・・」
「名前や生年月日、色々と訊くことがあるからね」
「あ・・この子は設楽亮介くんっていいます」
「そうですか」
「それで・・もうすぐお姉さんが来ます」
「そうですか、わかりました。ではそれまでここに座って待っててください」
「はい・・」
そして私と亮介くんは並んで長椅子に座った。
「大丈夫・・?」
「・・・」
「一体、何があったの?」
「あ・・あいつ・・俺が・・ハアハア・・痛てぇ・・」
「あ・・ごめん。話すの辛いよね」
「うん・・」
亮介くん・・あそこでなにやってたんだろう・・
変な人に絡まれるようなこと・・やってたのかな・・
「亮介!」
そこに設楽さんが走ってきた。
そして時雨さんもきた。
「小春、大丈夫か!」
「あ・・私は大丈夫です」
「そうか・・よかった・・」
「亮介!一体どうしたのよ!どういうこと!」
「あの・・設楽さん・・」
「薄柿さん・・なんとお詫びしたらいいか・・」
「いえ・・そんなことはいいんですが、亮介くん、話すの辛そうです。息がしにくそうで・・」
「そうなの・・」
そう言って設楽さんは、亮介くんを見つめた。
「まったく・・心配ばかりかけて・・どうして・・言うこと聞いてくれないの・・」
亮介くんはずっと下を向いていた。
「小春・・」
私は時雨さんに手を引っ張られ、別の場所に移動した。
「なにがあったんだ」
「それが・・」
そこで私は、原宿で起こったことを全部話した。
「そうだったのか・・」
「はい・・」
「でもな・・小春・・」
「はい・・?」
「お前・・たまたま相手を倒せただけだぞ・・」
「え・・」
「頼む・・頼むから・・無茶しないでくれ・・」
「時雨さん・・」
「お前に・・もしものことがあってみろ。俺はどうすりゃいいんだ・・」
「・・・」
「お前のかあちゃんに・・なんて言えばいいんだ・・」
「でも・・あのままだと・・亮介くんが大変なことに・・」
「それでもっ!お前が止めに入る必要はねぇよ!っんな・・一人で・・なにやってんだよ!」
「え・・」
「周りに人もたくさんいたんだろうが!そういう時は、すぐに警察を呼ぶんだよ!」
「・・・」
「小春・・」
「はい・・」
「頼むから約束してくれ。今後、ぜってーに無茶はしねぇと約束してくれ」
「時雨さん・・」
「約束しろ!」
「は・・はい・・」
「ぜってーだぞ。わかったか!」
「はい・・約束します・・」
時雨さんは、とても怒っていたが、同時に安堵したような目をしていた。




