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三人王子と三匹の子ブタちゃん  作者: たらふく
43/94

四十三、複雑な過去



私たちは暫く街をブラブラしていたが、どうも時雨さんは何かを気にかけている様子だった。


「時雨さん」

「なんだよ」

「なにか気になることがあるんじゃないですか?」

「あ・・うん・・」

「どうぞ言ってください」

「いや・・さっきの柴中さんに連絡を・・と思ってな・・」


あ・・きっとお墓参りのこと気になってたんだわ・・


「どうぞ連絡してください」

「そしたら俺、柴中さんを連れて家に戻らないといけねぇけど・・」

「なにを気にしてるんですか~。いいですよ~」

「いいのか・・?」

「はい!」

「せっかくのデートなのによ・・。わりぃな・・」

「いいえ~。さっ、連絡してください」

「うん」


そう言って時雨さんは、柴中さんに電話をした。


「柴中さん、俺。今から俺んち連れてくよ。うん、ああ、そうだよ。なっ・・なに言ってんだよ!バカじゃねぇのか。ったく・・。ああ。んじゃ、駅前で待ってっから」


そう言って電話を切った。


「ったくよ~、おっさん相変わらずなんだからな」

「どうしたんですか?」

「バカっ・・言えるかよ」

「え・・」


柴中さん・・なんか変なことを言って、時雨さんをからかったんだわ・・あはは。

そして私たちは駅前に向かった。


「悪かったな、小春」

「いいえ~、大丈夫ですよ」

「また今度、誘うからな」

「はいっ!楽しみにしてますね」


私たちが駅前に着くと、柴中さんはもう待っていた。


「時雨、悪かったな」

「いいんだよ。んじゃ行こうぜ」


そして私たちは家に向かって歩き出した。


「小春ちゃんか・・あんた高校生か?」

「は・・はい・・二年生です・・」

「にしてもよ・・時雨のどこに惚れたんだ?」

「えっ・・」

「柴中さん、くだらねぇこと訊いてんじゃねぇよ」

「いいじゃねぇか。な、どこに惚れたんだ?」

「えっと・・男らしくて・・優しいところです・・」

「ほっほぅ~。まあ確かに時雨は男らしいな」

「は・・はい・・」

「んで・・時雨は小春ちゃんのどこに惚れたんだ?」

「ば・・バカかっ!知るかよっ」

「照れなくてもいいじゃねぇか」

「照れてねぇっつーの」


そうだわ・・

時雨さんって私のどこが好きなのかな・・

言ってほしいな・・


「時雨さん・・私のどこが好きなんですか?」

「は・・はああ?小春、てめぇまでなに言ってんだよ」

「あはは。小春ちゃん、なかなかいいじゃねぇか」

「二人ともうるせぇ!」

「真面目な話、こいつクソガキだけどよ、根はいいやつだぜ。俺が保証するぜ」

「そうなんですね・・」

「こいつには、さんざん迷惑もかけたし、世話にもなったんだぜ」

「そうですか・・」

「なんと言っても・・坊ちゃんの命の恩人なんだぜ・・」


命の恩人・・?

え・・どういうこと・・?


「柴中さん、もういいって。ほら、着いたぞ」


時雨さんはそう言って、玄関を開けた。


「おーい、和樹~」

「おかえりー。早かったね。デートは終わったの?」

「まあな。んで、お客さん連れて来たぜ」

「え・・誰?」

「さ、入ってくれ」


時雨さんがそう言って、柴中さんが玄関に足を踏み入れた。


「あっ!柴中!柴中じゃないか!」


東雲さんは目を輝かせて、とても嬉しそうにしていた。


「坊ちゃん!お久しぶりでございます」

「柴中~~!元気そうでよかった」

「坊ちゃんもお元気そうでなによりです」

「柴中さん、上がってくれよ」

「ああ。済まねぇな」


そして柴中さんは部屋に上がった。


「あの・・では、私は帰ります・・」

「なに言ってんだよ、小春も上がれよ」

「いえ・・でも・・お邪魔かと思いますので・・」

「っんな、なに言ってんだよ。ほら、上がれよ」


私は時雨さんに促され、部屋に上がらせてもらった。

うわあ~~・・なんか・・場違いっていうか・・

違うと思うんだけどなぁぁ・・

怖い話とか・・するんじゃないの・・?


「小春、こっち来てお茶の用意、手伝ってくれ」

「あ、はい」


私は台所へ行き、時雨さんを手伝った。


「小春、気を使わなくてもいいからな」

「あ・・はい・・」


ほんとにいいのかしら・・

三人で話した方が・・いいと思えるのだけど・・


「それにしても坊ちゃん、ほんとにお元気で、柴中は嬉しいです」

「僕もだよ、柴中。ほんとによく来てくれたね」

「えぇ・・。御大の墓参にと」

「そっか。ありがとう」

「坊ちゃんと一緒にお参りしたいんですが・・。いいですか?」

「もちろんだよ。きっとお爺さんも喜ぶよ」


「あの・・お茶をどうぞ・・」


私はそこで二人に湯飲みを差し出した。


「薄柿さん、ありがとう」

「済まねぇな」

「あ・・いえ・・」


そして時雨さんも加わり、話が続いた。


「それにしても・・あれからもう一年以上が経つんですね」

「そうだね・・」

「よく・・よくぞ・・坊ちゃん・・立ち直られて・・ほんとに嬉しいです・・」

「柴中・・」

「いや、俺は・・時雨に任せっきりで・・坊ちゃんのもとを離れてしまいました・・。気になってはおったんですが、里のおふくろも病気を抱えておりやして・・世話をする者がおりやせんで・・」

「そんな・・当然じゃないか。なにを言ってるんだ」

「で・・アルコール依存症の方は・・もうすっかりいいんで・・?」

「うん。もう完治したよ」

「そうでしたか・・。それで・・屋敷の方はどうなさったんで・・」

「うん。あれから暫くして、売りに出してね。今では別の人が住んでるよ」

「そうでしたか・・」

「僕は高校を卒業したら、ここを出ていくつもりなんだ。いつまでもお世話になるわけにもいかないしね」

「お一人でお住まいになられるんですか」

「そうだよ。大学へ通いながらね」

「そうでしたか・・。で・・どこの大学へ・・?」

「T大医学部を受けるつもりなんだ」

「おお~~・・これは・・お医者さんになられるのですか」

「うん。医者になってね、商店街の人たちのために開業するつもりなんだ」

「坊ちゃん・・そこまであそこの住人たちのことを想ってなさるんですね・・」

「うん。僕は跡目を継げなかった分、他で役に立ちたいと思ってるんだよ」

「そうですか・・さすが坊ちゃんでらっしゃる・・」


うわあ~~・・なんか違う世界の話しみたい・・


「時雨・・」

「なんだよ」

「何もかもおめぇのおかげだ・・。ほんとに坊ちゃんを大切にしてくれて・・礼を言うよ・・」

「なに言ってんだよ。和樹は一生のダチだぜ。当然じゃねぇか」

「おめぇと翔がいなかったら・・今の坊ちゃんはいなかったと思うと・・俺は・・俺は・・」


そこで柴中さんが泣き出した。


「柴中・・」

「おいおい・・柄にもねぇって。泣くなよ」

「俺は・・嬉しいんだ・・。泣かせてくれよ」


ヤダ・・なんか私まで泣けてきた・・

この柴中さんって人・・怖かったけど・・優しい人なんだな・・


「それで、お兄さんはいねぇのか」

「ああ。出かけてる」

「そうか・・。くれぐれもよろしく伝えてくれな。おめぇの兄貴にも足を向けて寝れねぇ・・」

「そんな・・いいって」

「あ・・小春ちゃん、なんか悪かったな」


柴中さんが私に気を使って、そう言ってくれた。


「い・・いえ・・どうぞ私のことは気にしないでください」

「そうか。ありがとな」

「柴中、そろそろ墓参りへ行こうか」

「はい、坊ちゃん」

「健人くんも一緒にどう?」

「いや、俺はまたにするよ。今日のところは二人で行ってくれ」

「そうか。では、行ってくるね」


そして東雲さんと柴中さんは出かけて行った。


「小春、悪かったな」

「いえ~、ぜんぜん!」

「話がわかんねぇだろ」

「そうですけど・・でも、なんかジーンときました」

「柴中さんはな、ほんとに東雲の爺さんや和樹のこと、ずっと命を張って守ってきたんだぜ」

「そうですか・・」

「俺もさ、ひょんなことから東雲と関わり合うようになってな」

「ひょんなこと・・?」

「和樹さ、以前は身体が弱くてな。んで一時、俺が和樹の身代わりになったことがあんだよ」

「そうなんですか・・身代わり・・」

「俺と和樹って似てるだろ。それが好都合だったらしくてな。和樹と知り合ったのもそれがきっかけなんだよ」

「なるほど・・」

「あいつ、ヤクザの家で育ったから、ダチが一人もいなくてな。「友達」ってもんを知らなくてな・・」

「そうなんですか・・」

「俺もさ、ダチなんて翔だけだったから、似たようなもんでさ。俺は翔のおかげと、和樹と知り合ったことでダチってのがどんなものか知ったんだよ」

「そうですか・・」

「それは和樹も同じでさ。あいつさ・・失踪してホストやったあと、アル中になったし、ドラッグにも手を出してな。もう廃人だったんだぜ。でも俺たちがしつこく探し回って、やっと立ち直らせたんだ」

「・・・」

「あ、紫苑っていんだろ。あいつの存在は大きかった。あいつがいなかったら、和樹を探し出せなかったんだぜ」

「そうなんですね・・」

「そうそう。紫苑の女装のこと、あっただろ」

「はい・・」

「あれな、あいつ女装して和樹が勤めるホストクラブへ行って、和樹のこと調べてたんだぜ」

「そうだったんですか・・なるほど・・。それなのに・・私たちは変な勘違いしてしまって・・」

「あはは。そうだったな」

「今更ですけど・・すみませんでした・・」

「それはいいって。まあなんにせよ、色々あったけど、結果オーライってことだよ」

「はい・・」


ほんとに色々とあったのね・・

大変だったんだ・・

あの東雲さんが廃人って・・想像もできないわ・・

みんな大変な思いをして・・それを乗り越えて来たのね・・


そう考えると・・私のバイトの苦労なんて・・恥ずかしいくらいだわ・・

ラーメンを失敗して泣いちゃったこととか・・ほんと・・バカみたい・・


「小春・・」

「はい・・?」

「お前、最近、変なこと言わなくなったな」

「変なこと・・?」

「どやさ~とか。クセがすごい~とか」

「あっ・・そういえば・・」

「俺さ、お前がトイレの前で挨拶してただろ。あれ、めっちゃ面白かったぜ」

「ヤダ~~そうなんですね~」

「俺にも教えてくれよ」

「ええええ~~~!時雨さんに?」

「っんだよ、いいじゃねぇかよ」

「はい~~教えてあげます~~」


そして私は立ち上がり、まっすぐ前を向いた。


「いいですか、まず、ごめんください!って元気よく言うんです」

「へぇー」

「いや・・へぇーじゃなくて・・時雨さんも立ってください」

「あ・・ああ・・」


そして時雨さんは私の横へ立った。


「ごめんください!はい、時雨さんも言って」

「ごめんください!」

「で、次に、どなたですか!です」

「どなたですか!」

「あはは。んで、自分の名前を言うんです」

「そっか。時雨健人!」

「あ・・そこは「です」を付けてください」

「時雨健人です!」

「で、お入りください!です」

「お入りください!」

「で、最後に、ありがとう、です」

「ありがとう!」

「あはは、いいですね」

「おお、そうか」

「じゃ、最初から言ってください」

「よし。えっと。ごめんください!どなたですか!時雨健人です!お入りください、ありがとう!」

「あははは!面白い~~」

「そっかー!で、これってどんな時に使えばいいんだ?」

「えっと、必ずドアの前で使ってください。どこかへ入る時ですね」

「ほぅ~」

「それを言った後、ドアの中へ入るんです」

「なるほどな」


「お前ら・・」


げっ・・もしかして・・お兄さん・・?


玄関を見ると、お兄さんがめちゃくちゃ引いて立っていた。

ぎゃあ~~~~!見られていたのね~~~!

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