三十六、一人暮らし始動
その後、必要最低限の家具や日用品も購入し、いよいよ私の一人暮らしが始まった。
学校へも今日から行けるし、あとは・・バイトよね。
「小春、それじゃお母さん、アメリカへ戻るけど、大丈夫ね?」
「うん。もちろんよ」
「あまり、時雨さんたちを困らせるんじゃないわよ」
「わかってるって」
「連絡は欠かさずにね」
「うん。頻繁に連絡するよ。お父さんにもよろしくね」
「お父さん・・ショック受けてたわよ」
「そこは・・お母さんがちゃんとフォローしないと!夫婦なんだし」
「生意気言うんじゃないわよ。誰のせいだと思ってるの」
「あはは・・ごめん」
「まあ、いいわ。それじゃ行くわね。あんたも遅刻しないようにね」
「はーい。じゃお母さん、気をつけてね」
そして母は、アメリカへ戻った。
さーてと・・そろそろ準備しないとね。
「おーい、小春」
玄関の外で時雨さんの呼ぶ声がした。
「はーい」
私は急いでドアを開けに行った。
「おはよ」
「おはようございます!」
「お前、もう出られるのか」
「はい!」
「そっか。んじゃ行くぞ」
外へ出ると、東雲さんも待っていた。
「薄柿さん、おはよう」
「おはようございます~」
「いよいよ一人暮らしが始まったね」
「はいっ!私、もう嬉しくて~」
「そっか。よかったね」
「んじゃ、駅へ行くぞ」
時雨さんがそう言い、私たちは駅に向かって歩いた。
毎日、一緒に通学できるのね。
嬉しいな~~・・
「おはよう~~」
しばらくして、翔さんも合流した。
「翔さん、おはようございます~」
「今日から四人で通学だね」
「はいっ!」
「あはは、嬉しそうだね」
「はいっ!とても嬉しいです~」
そして私たちは電車に乗った。
すると美琴と紬も乗っていた。
「美琴~、紬~」
「小春~~久しぶりやな」
「小春~、私、感謝感激でありんすよ~」
「私も~。一緒に卒業できるなんて、夢みたいよ」
「王子たち。小春をよろしゅう頼んますで」
美琴が時雨さんたちに向かってそう言った。
「私からも、お願いするでありんす」
「わかってるっつーの」
「またまた・・時雨王子。照れてからに」
「っんだよ。照れてねぇっつーの」
「まあええがな。マジで頼むで」
「ああ」
時雨さんは、美琴の言う通り、少し照れながらそう言った。
なんか・・みんな、私のこと想ってくれて・・
私って、なんて幸せ者なんだろう・・
感謝しなくちゃね・・
「んじゃ、小春、またな」
駅に着き、時雨さんたちは降りて行った。
「小春~、王子とええ感じやん」
「ほんとでありんすよ。なんかしっくり来てるでありんす」
「そ・・そうかな。あはは・・」
私は図星をつかれて、苦笑いをした。
「以前と雰囲気が全く違うで。前は、よう揉めてたのになぁ」
「そうだね」
「小春・・王子の家に泊まった時・・まさか・・事があったでありんすか・・」
「なっ・・そんな、あるわけないよ」
「そうでありんすか~。うーん、二人の雰囲気は既に、事を済ませたように見えるでありんすよ」
「済ませたって・・露骨過ぎるんだけど・・」
「そうでありんしたか。まだでありんしたか」
「もう~紬は・・すぐにそんなこと言うんだから~」
「そりゃ気になるでありんすよ」
「ないない、そんなこと絶対にあり得ないって」
「どうしてでありんすか。若い二人はいつまで我慢できるか・・でありんすよ」
「なっ・・」
「ほんまやな。だって隣やで?もう一緒に住んでるも同然やん」
「ち・・違うって。そんなんじゃないの」
「もし・・済ませたら・・報告するでありんすよ」
「げ~~~・・ないない」
もう~~・・この二人は相変わらずなんだから~。
はぁ~~・・先が思いやられるわ・・
「それよりさ、私、バイトしようと思ってるんだけど、どんなのがいいかな」
「バイトかぁ。それって放課後か?」
「うーん・・取り敢えずは土日と考えてるんだけど、慣れれば放課後も」
「コンビニとかは、どうでありんすか」
「コンビニかぁ。そうね~いいかも」
「生活費、稼がなあかんもんな」
「そうなの。一人暮らしも、それが条件なのよ」
「かわいい子には旅をさせろ・・でありんすな」
「なによ、それ」
「旅をしてるんは、おばさんらやっちゅうねん」
「そういうことではないでありんす。物の例えでありんすよ」
「でも確かにそうやな。その要素はあるな」
「そうでありんしょ。甘えは禁物、でありんす」
「わかってるわよ」
それから私は時雨さんに、バイトのことを相談した。
「美琴たちは、コンビニがいいって薦めてくれたんですけど」
「俺もコンビニでバイトしたことあるぜ」
私は時雨さんのお家にお邪魔していた。
「そうなんですね~。で、どうですか?難しいですか」
「んなことねぇよ。すぐに覚えられるぜ」
「そっかぁ~。じゃ、やっぱりコンビニにしようかな」
「ここから歩いて十分のところにあんだけど、そこの店長、知り合いだから紹介してやろうか」
「えっ!ほんとですか!お願いします!」
そして早速、そのコンビニに連れて行ってもらった。
「店長~!お久しぶりっす!」
「おおっ!時雨くんじゃないか!」
「どうも~」
「もう、全然、来てくれないんだから」
「あはは、すみません」
「で、今日は、買い物?」
「いえ、あの、バイト募集してますよね?」
「うん。えっ、時雨くん来てくれるの?」
「いや、俺じゃなくて、こいつなんすけど」
時雨さんにそう言われ、店長は私を見た。
「こんにちは・・」
「きみ、ここでバイトしたいの?」
「はい」
「きみ、高校生?」
「はい」
「そっか。それで、放課後かな」
「あの・・最初は土日だけとか、いけますか?」
「土日ね。うん、いいよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「名前は?」
「薄柿小春と申します」
「薄柿さんね。じゃ、明日でいいから履歴書持ってきてね」
「はい、わかりました」
「小春、よかったな」
「はい」
「あ・・もしかして、時雨くんの彼女?」
「えっ・・ああ、まあ・・そうっすかね」
「おおお~~」
「こいつ、頼りないけどいいやつだから、店長、よろしくお願いしますね」
「うん、わかった」
「でも、ボサッとしてっと、どんどん叱ってやってください」
「あはは。僕は叱ったりしないよ」
「ですよね。店長、優しいもんなあ」
「ああ~~イケメン青年じゃないの!ひゃ~~久しぶりね」
そこに中年の女性従業員が現れた。
「ああ、昆田さん。お久しぶりっす」
「なにぃ~~、時雨くん、E高校行ってるらしいじゃないの」
「はあ、まあ」
「うちの息子は卒業しちゃったけど、時雨くんは三年生よね?」
「そうっす」
「しっかしまあ~~、相変わらず超イケメンだねぇ~~」
「はあ・・」
時雨さん・・困ってる・・
このおばさんのこと、苦手なのかな・・
「んじゃ、店長、俺たち行くっす」
「うん、またね」
「店長さん、明日、履歴書持ってきます。よろしくお願いします」
「さん、は、いらないよ。店長でいいんだよ」
「あ・・はい・・」
そして私たちは店を出た。
「小春、頑張れよ」
「はいっ!」
「あのババアはどうでもいいけど、店長はいい人だから安心しな」
「ババア・・って・・」
「あいつ、いっつもあんなこと言うんだよ。うぜぇ~ったらありゃしないぜ」
「あはは」
「なに笑ってんだよ」
「いや・・時雨さんにも苦手な相手とかいるんだなぁ~と思って」
「けっ。苦手じゃねぇよ。ウザイだけだ」
「でも気さくそうな人ですね」
「まあ、そうだけどよ。でもあのババアお喋りだから気をつけな」
「はい、わかりました」
こうして私は、コンビニでバイトをすることになった。
よーーしっ。
ちゃんと働いて、生活費、稼ぐぞ~~
「時雨さん」
「なんだよ」
「家に、寄って行きませんか?」
「え・・いいのかよ」
「はい~。どうぞ~」
そして私は時雨さんを部屋へ案内した。
「どうぞ~」
「ああ・・お邪魔します・・」
「ヤダ~時雨さん、緊張しないでくださいね」
「お・・おぅ・・」
あはは。時雨さん照れてる・・かわいいな・・
「あれだな、やっぱり女子の部屋って、綺麗だな」
時雨さんは、座卓の前に座ってそう言った。
「そうですかね~。荷物が少ないだけで、殺風景でしょ」
「っんなことねぇよ。綺麗に片付いてるよ」
「今、お茶入れますね」
「ああ・・」
私はキッチンへ行き、コップにお茶を注いだ。
「気の利いたお菓子ってないんですよ~。ポテチくらいしか・・」
「っんなもん、いらねぇよ」
「まあまあ、お客さんですし」
「気を使うなって」
「は~い、お待たせしました。どうぞ」
私はお茶とポテチを、時雨さんの前に出した。
「ありがとな」
「それにしても、もうすく冬ですね」
「だな」
「受験勉強の追い込みとか、大変でしょう?」
「まあな」
時雨さん・・言葉数が少ないな・・
ひょっとして、まだ緊張してる・・?
「私ね~、ここにいて、夜寝てると、すぐ傍に時雨さんがいるんだと思ったら、嬉しくって」
「そ・・そうかよ・・」
「時雨さんはどうですか?」
「そりゃ・・別に・・」
「別に・・?」
「別に・・普通だよ・・」
「ええ~~・・普通なんですか~。淋しいなぁ」
「っんなこと、いいじゃねぇかよ」
「あはは」
「また笑いやがって」
「時雨さん、かわいいですね」
「ばっ・・バカか!」
「はいはい」
「ったく・・なに言ってんだよ」
そう言って時雨さんは、お茶をゴクゴクと飲み干した。
「やけに喉が渇くな・・」
「おかわり入れましょうか」
「うん・・」
私は時雨さんのコップを持って、キッチンへ行った。
「しかしなんだな。ここは風呂があるからいいな」
「そうなんですよ~」
私はそう言いながら、時雨さんにコップを差し出した。
「よかったら、いつでも入りに来てください」
「は・・はあああ?なに言ってんだよ」
「別にいいじゃないですか。お風呂代、節約できますよ」
「ばっ・・バカか!っんなことできるか」
「私はかまいませんよ。お兄さんも一緒にどうぞ」
「はあ・・お前は・・ったく・・」
「なんですか~」
「お前な!俺はお前のかあちゃんから、お前をよろしくって頼まれてんだよ。っんな軽はずみなことできるか」
「時雨さん・・」
「こうやって部屋に来るのだって、これからは、あんまりしねぇからな」
時雨さん・・なんていい人なんだろう・・
親に心配かけまいと・・
こんなこと、黙っててもわからないのに、それでもちゃんと約束を守って・・
「時雨さん、ありがとう・・」
「なんだよ」
「私・・ほんとに嬉しいです」
「なに言ってんだよ」
「ううん。いいんです。でも、ほんとに時々、お風呂使ってくださいね。その間、私は外に出てますから」
時雨さんは小さく頷いただけだった。
そうね・・
軽はずみに誘っちゃいけないよね・・
私・・もっとしっかりしなくちゃね。




