三十、たけちゃんって人
「話ってなんでしょうか」
斎藤くんが帰った後、私は翔さんと話をすることになった。
「なんかさ~、たけちゃんと、ギクシャクしてるみたいだね」
「あ・・はい・・」
「僕は子供の頃からたけちゃんを知ってるけど、確かにたけちゃんって、いつもあんな感じで人に対して上から目線だよね」
「はい・・」
「でもね、たけちゃんは、本当はとてもいい人なんだ。誰よりも友達想いでさ、友達のためなら自分がどうなったっていいっていうね。極端なくらいに」
「・・・」
「でも、たけちゃんは、女子を好きになったことなくてね。いわば、薄柿さんが初めて好きになった人なんだよね」
「はい・・」
「だから、なんていうか、上手に自分を出せないんだよ。薄柿さんをどう扱ったらいいのかも、すごく迷ってるみたいだよ」
「そ・・そうなんですか・・」
「不器用なんだよね。そこは、わかってあげてね」
「あ・・はい・・」
「僕は、薄柿さんが、もっと自分の気持ちを素直にぶつけたらいいと思ってるんだ」
「・・・」
「変に気を使うんじゃなくて、嬉しいことも、腹立つことも、悲しいことも、全部、素直に伝えることで、たけちゃんも素直になれると思うんだ」
「でも・・私がなにを言っても・・いつも突き放されるんです・・」
「うん、そうだよね」
「なんていうか・・とても疲れるんです・・」
「すごくわかる。でも、そこで怯んじゃダメなんだよ。たけちゃんに、わからせてあげないと」
「わからせる・・?」
「いいことも、悪いことも、わからせてあげるんだよ」
「・・・」
「それでも薄柿さんが疲れるなら、仕方ないけどね」
「はい・・」
わからせるって・・
私は時雨さんの母親じゃなくて・・彼女なのよ・・
そんなことしなくちゃいけないの・・?
「今後もたけちゃんと付き合うなら、まず、めげないこと。手のひらで遊ばせるくらいの余裕を持つこと、だね」
「・・・」
「そうしていくうちに、きっとたけちゃんの良さがわかる日が来るよ」
「そうですか・・」
そんなものなのかな・・
余裕・・か・・
「あの・・でも、私・・」
「なに・・?」
「もしかしたら・・アメリカに行くかも知れないんです」
「えっ!ほんと?」
「父の仕事の都合で、アメリカに転勤になったんです。で、私も一緒に行かなくちゃいけなくて・・」
「それ、たけちゃんに話した?」
「はい・・昨日電話で少しだけ」
「たけちゃん、なんて言ってた?」
「あ・・私、電話を切っちゃったんで・・聞いてないです」
「そうなんだ」
「でも、私、行きたくないんです。嫌です、アメリカなんて・・」
「そのこと、たけちゃんにちゃんと話すべきだよ」
「はい・・」
「あのね・・」
「はい・・?」
「たけちゃんには言うなって言われてるんだけど、実はたけちゃん、薄柿さんを喜ばせるにはどうしたらいいか、色々と考えてるみたいだよ」
「え・・」
「まさくん、あ・・たけちゃんのお兄さんね。まさくんにも相談してるみたいだよ。で、俺ってどうしてこうなのかねぇ、とか言っちゃって、たけちゃんなりに悩んでるみたいだよ」
「そ・・そうなんですか・・」
時雨さん・・私のことで悩んでるんだ・・
そうだったんだ・・
ちゃんと・・私のこと、考えてくれてるんだ・・
「あのっ!私・・なんかちょっと、元気が出てきました」
「そっか。よかった~」
「翔さん、ありがとうございます」
「あ・・でも、今日のことは内緒だよ」
「はいっ!」
そして私は翔さんと別れた。
そっか・・そっかぁぁぁ~~~!
時雨さん、私のこと考えてくれてたんだわ~~~!
そうね・・不器用なのよね。
よーーーしっ、ここはいっちょ、私が余裕を持って、心を広く持って!
んで・・言いたいことも言って!
やるっきゃないよね~~~!
そして私も色々と考えた。
時雨さんって、お笑いとか好きかな?
ギャグとかやったら、笑うかな。
そうだ!お笑いと言えばっっ!美琴がいるじゃない~~~!
関西出身の美琴先生があああ~~~!
そうよ。
色々あっても、とにかく笑うことが大切よね。
よーーしっ、もう「てめぇ」なんて言わせないぞっ!
そして次の日、私は早速、美琴にお笑いのことについて、話を訊いた。
「なんやの~~、いきなり」
「私、時雨さんを笑わせることに決めたの。だから、美琴に関西のお笑いのこと、教えてほしいのよ」
「これはまた・・大胆な策に出たでありんすな」
「だってさ~、ギクシャクしてても、そこで笑わせれば、和むでしょ?」
「それはそうでありんすが・・すべったら逆効果でありんすよ」
「お笑いを舐めたらあかんで」
「なによ・・美琴」
「お笑いっちゅうのは、タイミングが大事なんや。ギャグであれば、出すタイミングやな」
「うん」
「タイミングを外すと、紬の言う通り逆効果になって、すべるで。そうなったらもう・・悲惨やで」
「いいのっ!私はもう決めたの。すべってもめげない!」
「ほほぅ~。覚悟はできてるっちゅうことか」
「当然よ!」
「よっしゃ。そこまで言うなら伝授したるわ」
「よろしくお願いしますっ!」
それから私は美琴にギャグを習い、それをノートに書いて覚えることにした。
私は習いながらも、実はなにが面白いのか、よくわからないでいた。
でもいいんだ!
時雨さんにはストライクかも知れないしっ!
「でな。「どやさ~」っちゅうんがあるんやけど、これは簡単に言うたら、マジー?って意味になるかな」
「ほほぅ~~・・どやさ~ね。マジ・・ね・・」
「ほな、一例として。小春~~、今日はえらい綺麗やんかいさ~~。はい、小春や」
「え・・ここで「どやさ~」って言えばいいのね」
「うん」
「どやさ~」
「ん・・まあ・・ええっちゃあ、ええけど。もっとオーバーに言うた方がええかな」
「どやさぁぁ~~!」
「あははは。ええやん」
「ほんと?これでいいのね」
「なんか・・不安でありんす・・」
「ええやん。なかなかおもろいで」
「そうでありんすかな~・・」
「紬は、面白くない?」
「うーん・・あまり・・でありんす・・」
「かめへんねや。んじゃ、次。そうやな~、クセがすごい!っちゅうのんあるんやけど、これは例えば時雨王子が、また上から目線でものを言うたら、その時に出したらええわ」
「ほほぅ~~・・クセがすごい・・ね・・」
「んじゃ、一例として。小春、てめぇ、ざけんじゃねぇぞ!はい、小春」
「クセがすごい!」
「えっとな・・そこは一言付け加えよか。その言い方のクセがすごい!やな」
「なるほど。上から目線のクセがすごい!でもいい?」
「あははは、ええな~~」
「やった~~!」
こうして私は、日々、特訓を受けるのだった。
そして私は、転勤の話をするため、時雨さんに電話をかけた。
「もしもし、小春です」
私はもう、オドオドするのはやめた。
「なんだよ」
「この間の話の続きをしたいんですが、今日、会えますか?」
「お前、電話を切ったくせに、よく言うぜ」
「話があるんです。会えますか」
「ああ。んじゃ放課後、俺がそっち行くから」
「わかりました」
そして放課後になり、私は校門で時雨さんを待っていた。
いきなりギャグを出すのは、さすがにダメよね。
話の流れの中で・・タイミングを見計らって、よね。
「よう」
ほどなくして時雨さんが現れた。
「こんにちは」
「ああ」
「この間の公園へ行きますか」
「うん」
そして私たちは公園へ行き、ベンチに座った。
「で、お前、海外ってどういうことだよ」
「父の仕事の都合で、アメリカへ転勤になっちゃったんです」
「それで、お前も行くのか」
「私は行きたくないんですけど、両親が連れて行くって・・」
「そりゃそうなるわな」
「でも、私、アメリカなんて行きたくありません」
「んじゃ、お前どうすんの?一人で住むってのか」
「それでいいと思ってます」
「そりゃ、いくらなんでも親は許さねぇぞ。曲がりなりにも、お前、女だし」
「曲がりなりにもって、どやさぁぁぁ~~!」
「は・・はあ・・?」
時雨さんは、狐につままれたような表情をしていた。
よしっ・・やったぞ・・
時雨さん引いてるけど・・めげないわ。
「お前、なに言ってんだよ」
「曲がりなりにもって、酷いですねぇ~。私、傷つきますよ」
「そ・・そうかよ・・」
よしよし・・時雨さん、戸惑ってるわ。
「それって、何年くらい行くんだ?」
「まだはっきり訊いてないんですけど、おそらく一年や二年ではないと思います」
「そっか」
「時雨さん、私が行くのに賛成ですか」
「別に賛成ってわけではねぇけど、親が心配すんだろ」
「私に会えなくても平気ですか?」
「え・・」
時雨さんは、私の押しの強さに、さらに戸惑っていた。
「私は時雨さんと離れるの、嫌です」
「・・・」
「時雨さんはどうですか」
「そりゃま・・行かねぇ方がいいけどよ、親はどうすんだよ。マジで心配させることになんぞ」
「それはそうですけど・・」
「お前、親のことも考えてやれよ」
「・・・」
「会えないっつったって、電話やメールだってあるんだし。俺はそれでもかまわねぇぜ」
「私は嫌です。行きたくありません」
「はっ、お前、子供かよ」
「その上から目線のクセがすごいぃぃ!」
「・・・は・・?」
「クセがぁぁ~~、クセがすごい~~!」
「おい、お前・・大丈夫か?」
うっ・・ダメだ・・通じない・・
真面目な話してるんだもん・・通じないよね・・
「と・・とにかくっ!私は時雨さんと離れたくないです」
「俺は反対だ」
「え・・」
「親に心配かけんな」
「私、留守番くらい一人でできます」
「ダーメ。俺だってずっと心配しなくちゃいけねぇし」
「どういう意味ですか」
「お前が家に一人ってことをだよ」
「そうですか・・」
「なんかあってからでは遅せぇんだよ」
時雨さん・・私を想って言ってくれてる・・
私を心配してくれてる・・
初めてじゃないかな・・こんなこと・・
「もう~~時雨さん、どやさぁぁ~~!」
私はそう言って、時雨さんの肩を叩いた。
「なっ・・なんだよっ」
「どやさ~~どやさ~~」
「お前・・さっきからなに言ってんだよ」
「私、嬉しいです。時雨さんが私のこと心配してくれて、嬉しいんです。だからどやさ~~なんですぅぅ~~」
「どやさ・・ってなんだよ」
「嬉しい~~ってことですよ~~」
いや・・違ったか・・
マジー?ってことだったよね。
ま・・いっか。
「でも、私、もう少し考えてもいいですか」
「行くのはいつなんだよ」
「一ヶ月後です」
「そっか。わかった」
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※文中に出てくるギャグ
「どやさ」は、漫才コンビ、今いくよくるよの、くるよさんのギャグです。
「クセがすごい」は、漫才コンビ、千鳥のノブさんのギャグです。




