二十九、父の転勤
私は電話を切った後、もう疲れたと思った。
やっぱり私は・・時雨さんの見た目重視というか・・見た目が好きなだけだったのかなぁ・・
時雨さんって、なんでもはっきり言う人だけど、なんていうか・・肝心なことは言わないのよね・・
いや・・言ってるんだけど・・私が理解しきれてないっていうのかな・・
例えば、私が斎藤くんといた時、気分が悪くても「帰る」とだけ言って・・
え・・待てよ・・
ほんとに気分が悪かったのかな・・
私が斎藤くんといたところで、別にいいやって思ったのかな・・
でも、違うよね・・
「お前のお薦めが読みたい」って言ったよね・・
ってことは・・やっぱり気分が悪かったのよ・・
ああ~~・・もう、考えるのがしんどい・・
私たちって、これ以上は無理なのかな・・
なんか、そんな気がするのよね・・
「小春~~!」
階段の下から、母の呼ぶ声がした。
「なに~~!」
私はドアを開けてそう言った。
「小春、降りてらっしゃい」
「なにぃ~」
「お父さんが話があるって」
「えぇ~~、今じゃなきゃダメなの?」
「大事な話よ」
「そうなんだ・・わかった」
なんだろ・・大事な話って・・
いつも忙しくて、滅多に顔も合すことがない父が・・なんだろ。
「お父さん、話ってなに?」
リビングのソファで寛ぐ父にそう言った。
「ここに座りなさい」
私は父にそう言われ、ソファに座った。
「なによ」
「あのな、お父さんは転勤することになったんだよ」
「へぇ~そうなんだ」
私は忙しい父のことだから、転勤の話も特に驚くことはなかった。
「それって単身赴任よね」
「いや・・」
「えぇ~~、まさか家族で転勤とか・・言わないよね」
「それが家族で転勤なんだよ」
「えええええ~~~!ヤダ~~!」
「小春、ちゃんと話を聞きなさい」
そう言って母が父の横に座った。
「だって、ヤダもん~~!単身赴任してよ~~!」
「お父さんも国内ならそうするけどね」
「え・・うそ・・。なに、それって海外なの!?」
「うん」
「ヤダ・・どこなの?」
「アメリカ」
「げ~~~~!イヤっ!そんなとこ行きたくない!」
「無理を言わないの」
母がそう言った。
「だって、お母さん!お母さんは行きたいの?」
「そりゃ・・お母さんだってアメリカなんて知らない土地だし行きたくないけど、お父さんの仕事なんだから、着いて行くしかないのよ」
「私・・学校はどうなるの?私、英語なんて話せないよ!」
「日本人学校があるから、大丈夫だよ」
「えええ~~~!でも知らない人たちばかりでしょ。私、ヤダ~~!」
「そんなことを・・小春。お前一人を置いて行くわけにはいかないんだよ」
「いやっ!私、一人でも残る!ちゃんと留守番できるから!」
「小春!そんなこと、お母さんは許さないわよ!」
「お母さん!私、平気だから!絶対にちゃんと留守番するから!」
「バカを言いなさい!高校生の若い女の子が、どうして一人で留守番ができるというの!っていうか、させられないの!」
「私、絶対に行かないから!」
私はそう言って、自室へ戻った。
なにがアメリカよ。
絶対に行きたくない!
私は紬と美琴と一緒にいたいの。
・・そして、時雨さんと離れることになるのよね・・
どうなんだろ・・私って離れても平気なのかな・・
会えなくても・・平気なのかな・・
そして翌日・・
私は紬と美琴に、転勤の話をした。
「ええ~~・・転勤って・・。ほんで、よりによって海外って・・」
「ショックでありんす・・」
「んで、小春は行くんか?」
「ヤダ~、行きたくないよ~」
「でも・・あんた一人を置いて行くわけには、いかんのとちゃうの」
「うん・・そう言われた・・」
「そりゃそうでありんすよ。社会人ならともかく、まだ高校生でありんすからなぁ・・」
「で、時雨王子には言うたんか?」
「まだ・・」
「なんで言わへんの?」
「実は・・」
私は昨日、時雨さんと静香さんに会ったこと、その後、電話があったことを話した。
「マジかいな・・。なんかあんたら、揉めてることが多いよな」
「だって・・あんなに楽しそうに・・」
「まあ・・気分はよくないでありんすな・・」
「でしょ・・?私の気持ち、わかってくれるよね・・」
「それにしても、和樹王子の過去って・・悲惨やったんやな」
「うん・・」
「爽やかな和樹王子からは、想像もできないでありんすな・・」
「あ・・そうか・・」
「なんやの、小春」
「前に紫苑さんが、あの三人は特別な関係だって言ってたのよ」
「三人王子のことか?」
「うん。その意味が・・やっとわかった気がする・・。で・・そこに静香さんも関係してたのね・・」
「なるほどなぁ。でもさ、時雨王子は、小春に対して配慮が足りんわ。っていうか、無神経ちゃうか」
「ダチだからって・・すぐにそう言うの」
「色々あったでありんしょから、自然と繋がりは深くなったでありんしょ」
「そうなのよね・・」
「でもそれを、小春が気にしてても、どうしようもないでありんすよ」
「うん・・」
「それより、転勤のこと、時雨王子に言った方がいいでありすんよ」
「そうね・・」
そして私は放課後、時雨さんに電話をかけた。
「もしもし・・小春です・・」
「なんだよ」
「昨日は・・すみませんでした・・」
「別に。で、なんか用か」
相変わらず・・冷たい言い方・・
「あの・・お話したいことがあるんですけど」
「話ってなんだよ」
「会ってお話したいんですが・・」
「くだらねぇことなら、嫌だぜ」
「時雨さんにとって、くだらないことかも知れませんが、私にとっては大事なことなんです」
私は思わず皮肉を言ってしまった。
「なんだよ、その言い方」
「時雨さんだって、そうじゃないですか」
「どういう意味だ」
「話の内容も聞かないうちに、くだらないことって決めつけてるじゃないですか」
「お前な、昨日の今日だぜ?俺と由名見のことじゃねぇかと思っても、不思議じゃねぇだろ」
「違いますけど!」
「てめぇ・・まだ怒ってんのか」
「時雨さんって、ほんとに私に対して冷たいですね。静香さんにはあんなに優しいのに!」
「てめぇ・・なに言ってんだ」
「私、海外へ行くかも知れないんですけど、もういいです!」
「は・・?海外って、なんだよ」
「別にいいでしょ。私がどこへ行こうがどうでもいいんだし。東雲さんや静香さんたちと仲良くやってください。では、さようなら!」
「てめぇ・・ちょっ・・」
そこで私は電話を切った。
するとすぐにかかってきた。
私は電源を切った。
もういい・・
疲れた・・
どうしてあんな言い方しかできないのかしら・・
静香さんには・・とても優しいのに・・
時雨さんの彼女って・・私なんでしょ・・?
でも、もういいや・・
これ以上疲れるのは・・もう嫌だ・・
きっと時雨さんのことなんて・・すぐに忘れられる・・
時雨さんだってそうだよ・・
私のことなんて、すぐに忘れるに決まってる・・
っていうか・・もう忘れてるようなものよ・・
っていうか・・時雨さんって、ほんとに私のことが好きだったの?
それさえも疑ってしまうくらい・・時雨さんは冷たい・・
私の足は自然と漫画喫茶へ向かっていた。
私はいつものように、漫画を手に取り席に着いた。
ここが一番、落ち着く・・
でも・・内容が入ってこない・・
私は何度も同じページを繰り返し読んでいた。
「あ・・薄柿」
この声は・・斎藤くんだ・・
顔を上げると、斎藤くんが立っていた。
「斎藤くん・・」
「僕たち、ほんとによく会うね」
斎藤くんはそう言って、私の前に座り笑っていた。
「ほんとね・・」
「薄柿、なんかあったの?」
「え・・」
「元気ないよ」
「・・・」
「なんか最近の薄柿って、元気ないこと多いよね」
「うん・・」
私はそう言うと、涙が出てきた。
「お・・おい・・薄柿・・」
「あ・・ごめん・・」
「マジでどうしたの?」
「なんでもない・・」
「もしかして・・彼のこと?」
「・・・」
「うまくいってないの?」
「うん・・」
「そっか・・」
「ごめん。斎藤くんに関係ないのにね」
「いいんだよ。色々あるよね」
「・・・」
「僕、何もしてあげられないけど、薄柿には元気出してほしいよ」
「・・・」
「薄柿だけなんだ。僕の漫画を褒めてくれたの」
「え・・」
「僕、嬉しくてさ」
「そうなんだ・・」
「続き、まだ描けてないんだけど、描いたら見せるね」
「うん、楽しみにしてるね」
斎藤くんだと、ほんとに気が楽だわ・・
ホッとするっていうか・・
でも・・ホッとするだけなのよね・・
ときめきは、全くないのよね・・
っていうか、斎藤くんだって同じだよね。
別に私のことが好きとかじゃなくて、単なる漫画友達よね。
「薄柿さん」
私は誰かに声をかけられ、振り向くと翔さんが立っていた。
「あ・・翔さん・・」
「こんにちは。久しぶりだね」
「こんにちは・・」
「お友達?」
翔さんは斎藤くんを見て、そう言った。
「はい。同じクラスの斎藤くんです」
「どうも・・斎藤です」
「初めまして、僕、朝桐翔って言います。よろしくね」
翔さん・・なんて優しい話し方なんだろう・・
斎藤くんにも、きちんと挨拶してくれて・・
「僕、きみたちがここにいるの、時々見かけてたんだよ」
「え・・そうだったんですか」
「夢中になって、漫画読んでるよね」
「はい。あっ!遅くなりましたが、遊園地のチケット、ありがとうございました」
「ヤダな~。そんなこといいんだって」
「いえ・・あの日、とても楽しかったです」
「そっか。よかったね」
翔さんはそう言って、ニコっと微笑んだ。
「薄柿さん、後でいいから、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「え・・あ、はい・・」
話ってなんだろ・・
きっと・・時雨さんのことよね・・




