二十七、通じない想い
私は翌日の放課後、一人で漫画喫茶にいた。
そして『スラムダング』の続きを読んでいた。
これ・・ほんとに面白いわぁ・・
バスケなんて全然知らないけど、ルールがわからなくても、自然とわかるように描かれてあるし、画も上手いしなぁ・・
なによりストーリーが最高だわ。
斎藤くん、いい本を紹介してくれて・・よかった。
「薄柿」
声のする方を見ると、私の傍で斎藤くんが立っていた。
「斎藤くん・・」
「今日は一人なの?彼は?」
「ああ・・彼ね、漫画に興味ないの」
「そうなんだ」
「っていうか・・よく会うよね。私たち」
「あはは。そうだね。ここ、座ってもいい?」
「うん、いいよ」
私はほんの少し、時雨さんに悪いと思ったが、斎藤くんと話したくてそう言った。
「あ・・この間の続き、描いたよ」
「あっ!もしかして斎藤くんの作品?」
「うん」
「わあ~~!見たいっ!見せて~~」
「ちょっと待ってね」
斎藤くんはそう言って、鞄の中からノートを取り出した。
「はい、どうぞ」
「わあ~~ありがとう~~」
私は早速、ページをめくった。
ひゃあ~~、やっぱり上手いなぁぁ~~
「ねーねー、この主人公の茂文くんと、友達の洋輔くんは、どうなっちゃうの?」
「それを聞いちゃったら、面白くないよ」
「そうだけど~。でも、ちょっとだけ・・教えてよ~」
「しょうがないなぁ。えっとね、とあることが原因で・・離れてしまうんだ」
「えええ~~~!そうなのーー?」
「まあ・・一旦は・・ってことだけど」
「そうなんだぁ~~・・。で・・その後、どうなるの?」
「ダメ~~。言わないよ」
「ヤダ~~、気になるよ~」
「ダメダメ。言わないってば」
「ええ~~・・仕方がないなぁ」
「でも、僕、嬉しいよ。そんなに楽しみにしてくれて」
「すっごく楽しみ~~。どんどん描いてね」
「うん!」
斎藤くん・・いいなぁ・・
画も上手で、内容も面白いし・・
羨ましいな・・
「『スラダン』、何巻まで読んだの?」
「ほら~~、これ」
私はそう言って本を差し出した。
「おおっ!もう五巻まで読んでるんだ」
「そうなの。これ、すっごく面白いよね」
「だろ~」
「この本、紹介してくれて、ありがとう」
「そんな~。お礼を言われるほどのことでもないよ」
「これ読み終わったら、またお薦めの教えてね」
「うん、いいよ」
それからしばらく私たちは、漫画を読みふけっていた。
ルルル・・
あっ・・電話・・
ヤダ・・時雨さんだ・・
「ちょっと、ごめん」
そう言って私は席を立ち、人のいない場所で電話に出た。
「はい・・」
「あ、俺」
「こ・・こんにちは・・」
私は斎藤くんと一緒にいることで、少し気が咎めていた。
「お前、今、帰りか?」
「あ・・えっと・・」
「なんだよ」
「いえっ・・その・・漫画喫茶に・・」
「そうかよ」
「はい・・」
「俺、今から行くわ」
「えっっ!」
「っんだよ」
「いえ・・はい、そうですか・・」
「なんだよ、行かねぇ方がいいならそうするけど」
「いえっ!そんなこと・・ありません」
「んじゃ、後でな」
「はい・・」
なんだろ・・時雨さんが来てくれるというのに・・嬉しくない・・
会えるのに・・なんで嬉しくないの・・
「斎藤くん・・悪いけど・・私、席移動するね・・」
私は席に戻りそう言った。
「あ、そうなんだ。わかった」
斎藤くんは、なにかを察したのか、席を移動するわけも聞かずにそう言った。
そして私は、別の空席に座り、再び漫画を読み始めた。
しかし・・内容が全く入ってこなかった。
「よう」
ほどなくして、時雨さんが私の目の前に現れた。
「あ・・どうも・・」
「なんでお前一人で来てんだよ」
時雨さんは、私の向かいの席に座りそう言った。
「え・・だって・・時雨さん・・漫画に興味ないし・・」
「興味がなくたって、声くらいかけろよ」
「はい・・すみません・・」
「俺も何か探してくるわ」
そう言って時雨さんは、漫画を選びに行った。
え・・
興味がないはずなのに・・どうして・・
「おい、小春」
時雨さんが本棚の前から私を呼んだ。
「はい」
私は時雨さんの傍へ行った。
「どれが面白いか、教えてくれよ」
「え・・」
「なんだよ、早く教えろよ」
「えっと・・少年漫画がいいですよね・・」
「なんだっていいよ」
「そ・・そうですか・・えっと・・」
私・・少年漫画、あまり知らないんだよね・・
どうしよう・・
さ・・斎藤くんに・・訊いてみるとか・・?
別にいいよね・・
だって・・私が選んだのがつまらなかったら・・ますます漫画に興味がなくなっちゃうもんね・・
「あの・・ちょっと待っててください」
私はそう言って、斎藤くんの席へ行った。
「斎藤くん」
「なに?」
「お薦めの少年漫画、教えてほしいの。んで・・絶対に面白い作品をお願い!」
「え・・いきなりどうしたの?」
「あ・・えっと・・」
斎藤くんは、すぐに時雨さんを見つけ、事情を把握したようだった。
「彼、どんなのが好みなのかな」
「いや・・知らないの・・」
「そうなんだ・・。どんなジャンルでもいいのかな」
「うん・・いいと思う・・」
「じゃあ・・そうだなぁ・・。彼、頭いいんだろうし・・文字が多くて内容も複雑な『デスノート』なんかどうかな」
「う・・うん。わかった。ありがとう」
『デスノート』か・・
名前は知ってるけど・・なんかノートに人の名前を書いて殺すのよね・・
「あの、時雨さん」
私は時雨さんのもとへ戻り、『デスノート』を渡した。
「これ、お前が選んだのかよ」
「はい・・」
「そうか・・」
なんか・・時雨さん・・おかしい・・
どうしたのかな・・
「あのさ、俺はお前のお薦め作品を読みてぇんだけど」
「え・・どういうことですか・・」
「だから、これ、お前のお薦めなのかよ」
「あの・・私・・少年漫画、あまり知らないので・・同じクラスの子に教えてもらったんです・・。で・・さっき訊きに行ったんです・・」
「だよな」
「え・・知ってたんですか・・」
「っんなもん、バレバレだぜ」
「そ・・そうですか・・」
「んで?今日はあいつと来たから俺に声をかけなかったんだな」
「えっっ!ち・・違います!」
「まあいいよ。俺はこの本、読まねぇから」
時雨さんはそう言って、私に本を返した。
「え・・時雨さん・・」
「んじゃ、俺、帰るわ」
そう言って時雨さんは、店を出ようとした。
「ちょっと・・待ってください・・」
「なんだよ」
「誤解です・・。今日は、私一人で来たんです」
「別にいいっつってんだろ」
「よくないです・・。時雨さんに誤解されたままなんて・・嫌です・・」
「だからいいっつってんだろ」
「私・・時雨さんが漫画を読むって言ってくれて・・それで・・私が選んだのがつまらなかったら・・もう興味が失せてしまうと思って・・それで斎藤くんなら男子が読む面白い作品を知ってると思って・・それで訊いたんです・・」
「グダグダうるせぇんだよ。さっきから言ってっけど、俺はお前が面白いと思うものを読みたかったんだよ」
「だから・・それだと・・少女漫画になってしまうし・・」
「それだといけねぇのか」
「いけないとか・・じゃなくて・・。そうじゃなくて・・私は時雨さんが漫画を読むようになってくれたら、すごく嬉しいし、一緒に楽しむことができるし・・。だから絶対に面白いものを読んでほしかったので・・」
「なーんか、歯車がズレまくってんな」
「え・・」
「ああ~~、うぜぇ。もういいわ。帰るし」
「時雨さん・・」
「んじゃ」
そう言って時雨さんは店を出て行った。
どうしてわかってくれないの・・
私は時雨さんに漫画を読んでほしいし・・一緒に楽しみたい・・
だから斎藤くんが選んでくれたものを、読んでほしかっただけなのに・・
時雨さんに、漫画って面白いって思ってもらいたかった・・それだけのなに・・
どうして・・こうなるんだろう・・




