二十五、ここに来た意味
私はあの日以来、学校でも斎藤くんと話すようになり、時々、漫画喫茶へも一緒に行くようになっていた。
「ちょっと、小春」
私が教室で斎藤くんと話をしていると、廊下で美琴と紬が私を呼んだ。
「なに?」
私は廊下に出て、二人にそう言った。
「小春・・えらい最近、根暗の斎藤と仲ええやん」
「え・・斎藤くんって根暗じゃないよ」
「時雨王子はどうしたでありんすか・・」
「どうしたって・・別にどうもしてないけど・・」
実は、時雨さんからの連絡は途絶えていた。
「あんた、斎藤に乗り換える気か?」
「乗り換えるって・・妙な言い方、やめてよね」
「だってそうやん」
「そんなことない!斎藤くんとはただの漫画友達なの!」
「ふーん」
「小春・・時雨王子のこと、忘れているでありんすか・・」
「そんなっ!忘れるわけないじゃない。ずっと会いたいって思ってるし・・」
「でも、小春が斎藤くんと話しているのを見てると、とても楽しそうでありんす・・」
「まあ・・変な気を使わなくていいから、そういう意味では楽しいけど・・」
「時雨王子と話す時と、違うでありんす」
「え・・」
「時雨王子とは、小春はいつも緊張しているでありんす」
「そりゃ・・だって・・好きなんだし・・」
「なあ、小春」
「なに・・美琴・・」
「時雨王子に対する気持ちって、単なる憧れなんちゃうか?」
「えっっ」
「好きやと勘違いしてるんちゃうかな」
「そっ・・そんなっ・・」
「紬も言うてたけど、小春って、斎藤と話してる時の方が、マジで楽しそうやで」
「・・・」
「まあ、私らがあれこれ言う権利はないけど」
「小春。誰といたら楽しいか・・ちょっと考えるのもいいでありんすよ」
「斎藤くんと話してたら楽しいけど・・でも、楽しいだけなの。ドキドキしたりワクワクしたりは、ないの」
「そっか。まあええがな。とにかく時雨王子にあまり振り回されるのは、もう違うと思うねん」
違うと思う・・か・・
どうなんだろ・・
私は時雨さんが好きだし・・
でも・・美琴や紬の言うように、いつも緊張してて・・確かに気楽ではないよね・・
だからこそ・・漫画喫茶へ行って、何もかも忘れて漫画を読みたいって思ってるんだし・・
恋とか恋愛って・・苦しいものなんだな・・
そしてこの日の放課後も、私は斎藤くんと漫画喫茶へ行くことにした。
「僕さ~、将来は漫画家になりたいと思ってるんだ」
「え~、そうなんだ!すごいじゃない」
私たちは校門に向かって歩いていた。
「家では、いつも漫画を描いてるんだよ」
「えええ~~!マジーー!」
「あはは、そんなに驚かなくても」
「ひゃ~~今度、見せて~~!」
「うん。いいよ。学校に持ってくるね」
「やったあ~~~!んで・・やっぱり少年漫画?」
「もちろん!友情をテーマにした漫画なんだ」
「へぇ~~!」
斎藤くん、すごいな~~!
漫画家かぁ~~・・
私は絵は下手だし無理だけど、やっぱり憧れるよね~。
「漫画家になったらサインちょうだいね!」
「あははは、気が早いなあ~。結構、狭き門なんだよ」
「そうだろうなぁ~」
「厳しい世界だけど、でも頑張るよ」
「うんっ!私、応援するね!」
「ありがとう!」
「おい・・小春」
後ろで私を呼ぶ声がした。
え・・
嘘・・
この声は・・
私が振り向くと、時雨さんが立っていた。
ぎゃあ~~~~!なっ・・なんで・・ここにっっ!
「時雨さん・・」
「お前・・楽しそうじゃねぇか」
「え・・」
「今からデートかよ」
「え・・ち・・違います・・」
すると斎藤くんは、戸惑った様子で私たちを見ていた。
「薄柿・・大丈夫か・・?」
「あ・・ああ・・うん・・」
「僕・・先に行ってるよ」
「あ・・うん・・ごめん・・」
そして斎藤くんは、私たちから離れ歩いて行った。
「邪魔したみてぇだな」
「え・・」
「そっか。なんかお前、そっけないと思ったら、彼氏、いたんじゃん」
「ち・・違います!彼氏じゃありません」
「まあ別に、俺には関係ねぇからいいけど」
「あの・・どうしてここに・・」
「来たら悪いのかよ」
「いえっ・・そんなっ・・」
「んじゃ、俺、帰るわ」
そう言って時雨さんは歩き出した。
「ちょ・・ちょっと待って!」
「っんだよ」
「誤解です・・彼氏じゃありません!」
「別にいいじゃねぇか。彼氏であろうとなかろうと、俺の知ったこっちゃねぇよ」
「そんな言い方・・」
「なんだよ」
「時雨さん!どうしてここに来たんですか!?」
「だからっ!来たら悪いのかよっ!」
「そんなこと言ってません!来た理由を訊いてるの!」
私はいつになく、強い口調でそう言った。
「っんなこと、俺が言う必要があるのかよ」
「ありますっ!」
「はっ!バカか!知るかよっ」
「私のことが気になって来たんじゃないんですか!?」
「うるせぇよ!勝手に決めんな!」
「なによ!いっつもそんなことばかり言って。偉そうにしないで!」
「はああ?なに言ってんだよ!」
「もう知らないっ!」
私はそう言って、駅に向かって走り出した。
なによ・・なによ!
どうして来たのかも、素直に言えないの!?
もういい!時雨さんなんて知らないっ!
「待てよ、小春!」
そう言って時雨さんはすぐに私に追いつき、腕を掴んだ。
「なによ!離して!」
「バカ小春!」
「はああ?バカってなによっ!」
「うるせぇ!黙れ!」
そう言って時雨さんは、私を抱きしめた。
え・・
なにっ・・
これって・・なにが起こってるの・・?
「時雨さん・・」
「うるせぇ・・黙れ」
「でも・・みんな見てる・・」
「黙れっつってんだよ」
わ・・私・・どうしたらいいの・・
黙ってるべきなの・・?
「小春・・」
「なんですか・・」
「俺・・お前が好きだよ・・」
え・・
ええええええええ~~~!
いま・・なんて言った・・?
好き・・だって・・言ったよね・・
「時雨さん・・」
「黙れ」
「はい・・」
「だから・・俺と漫画喫茶へ行け」
「え・・」
「あいつとは行くな」
「・・・」
「わかったか・・」
「は・・はい・・」
私は嬉しさのあまり、涙が出てきた。
「泣くな」
「だって・・」
「お前、俺でいいのか」
「いいに決まってます!決まってます!」
「そっか・・」
「時雨さんこそ・・私でいいのですか・・」
「だからここへ来たんじゃねぇか」
「・・・」
「俺、前にも言ったけどさ・・俺は王子じゃねぇし、お前が描ているような恋人同士ってのもできねぇぞ。それでもいいのか」
「はい・・いいです。私・・死にそうなくらい嬉しいです・・」
「んじゃ、お前の好きな漫画喫茶へ行ってやるよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
そして私たちは漫画喫茶へ向かった。
でも時雨さんは照れくさそうにして、私の少し前を歩いていた。
私は半ば放心状態だったが、初めて時雨さんに立てついたことを、自分でも驚いていた。




