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勇者になりたい俺が、夢想の魔王になった件  作者: 月欠けラムネ
第二章 俺が婚約するわけがない

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第2話 勇者を目指すのは変なのか


「…………」


 ケイは地面に座り込んだまま、しばらく動けなかった。


 遠くには、もうマリアンヌとサラの姿はない。


 頭の中に残っているのは。


「今は、嫌」


「しばらく、話しかけないで」


 そして。


「勇者を目指してる変な人が好きなんだね、とか」


「…………」


 ケイは俯いた。


『アズラ』


『はい、ケイ様』


『勇者を目指すって、そんなに変なのかよ』


『勇者でございますか?』


『うん』


 少しくらい、否定してほしかった。


 勇者を目指すことの何がおかしいのか。


 立派な夢ではないか。


 そう言ってほしかった。


 だが、この悪魔は。


『そうでございますなあ』


 アズラは少し考えた。


『幼い子供が「勇者になりたい」と申すのであれば、それほど珍しいことでもございまへん』


『だろ?』


『ですが』


『うん』


『十三にもなって、本気で勇者になろうとしておられるとなりますと……』


『…………』


『まあ、少々変わっておりますな』


「…………」


 ケイの肩が落ちた。


『お前までそう言うの?』


『ワテはごく普通のことを申し上げただけでございますが』


『普通……』


『はい』


『俺、慰めてもらえると思ったんだけど』


『そうだったので?』


『そうだよ!』


『それは失礼いたしました』


『じゃあ慰めてよ』


『勇者を目指されるのは、大変立派なことでございます』


『…………』


『ケイ様なら、きっと――』


『今さら言われても嘘にしか聞こえないよ!』


『難しいですなあ』


 ケイはさらに項垂れた。


『でも……そんなにおかしい?』


『世間一般から見れば、という話でございます』


『世間一般……』


『ケイ様は農家の御子息でございますし』


『うん』


『騎士の家系でもなければ、勇者になることを約束された御立場でもございまへん』


「…………」


『十三歳になっても本気で勇者を目指しておられるのであれば、変わっていると思われても仕方ないかと』


「…………」


『……言ってること正しいんだよな』


『左様でございます』


『そこは否定してくれよ……』


『ですが御安心ください』


『何を?』


『勇者に拘る必要はございまへん』


「…………」


 嫌な予感がした。


『……まさか』


『はい』


『真の魔王を目指されればよろしいのです』


『もっとおかしいだろ!』


『何故でございます?』


『農家の十三歳が勇者を目指すよりおかしいだろ!』


『ですがケイ様の場合、すでに《夢想の魔王》でございますさかい』


『俺は魔王じゃない!』


『左様でっか』


『絶対納得してないだろ!』


『ほっほっほ』


「…………」


 ケイは大きく息を吐いた。


 少しだけ気が紛れた。


 けれど。


 すぐに、マリアンヌの顔が浮かんだ。


『……でもさ』


『はい』


『俺が勇者になりたいって言ってるのを、そんなふうに言われるのが嫌だからって』


「…………」


『俺と話すのまで嫌になることないだろ』


『そうでございますなあ』


『…………』


『ワテも、その点についてはマリアンヌ様にも問題があると思いますで』


『え?』


『何度もケイ様から話しかけられておきながら無視を続け』


「…………」


『最後には「一生話しかけるな」とまで仰ったのでしょう?』


『……違う。しばらく、だけど』


『似たようなものでございます』


『全然違うよ!』


『左様でっか』


『それに、マリアンヌが俺のことを変な奴って言ったわけじゃないから』


『ですが、そのように言われることを嫌がってケイ様を避けておられる』


「…………」


『ずいぶんと失礼な御方ではございまへんか』


『…………』


『そのような娘なら、少しくらい罰が当たってもよろしいのでは?』


『おい』


『はい?』


『マリアンヌのこと悪く言うなよ』


『ですが』


『俺が腹立てるのと、お前が悪く言うのは別だろ』


『左様でございますか?』


『そうだよ』


『ケイ様は、まだマリアンヌ様がお好きなので?』


『…………』


『あれだけ拒絶されたにもかかわらず』


『うるさいな』


『ワテでしたら、もっとケイ様を敬ってくださる御方を探しますが』


『だから、そういうのいいって』


『左様でっか』


『それに……』


 ケイは小さく息を吐いた。


『俺も悪かったし』


『どの辺りがでございます?』


『色々だよ』


『なるほど』


『だから、マリアンヌのこと悪く言うな』


『承知しました』


「…………」


 少しだけ間があった。


『ですが』


『何?』


『ケイ様も、マリアンヌ様を悪く思われたからこそ、《夢想因果》が発動したのでは?』


「…………」


 ケイの身体が固まった。


『火傷をして、ひどい顔になればよいと』


「…………」


『本気で思われたのでしょう?』


「…………」


 正論だった。


 さっきより深く、ケイは項垂れた。


『……それ、今言う?』


『事実を申し上げただけでございますが』


『俺、今かなり落ち込んでるんだけど』


『存じております』


『だったらもうちょっと言い方あるだろ……』


『難しいですなあ』


「…………」


 ケイは地面を見つめた。


 そうだった。


 マリアンヌに腹を立てた。


 傷ついた。


 悔しかった。


 だから、ほんの一瞬でも。


 本気で酷い目に遭えばいいと思ってしまった。


「…………」


 その瞬間。


 さっきまで忘れかけていたことを思い出した。


『……あ』


『どうされました?』


『解除条件』


『はい』


『調べてたよな』


『左様でございます』


『分かった?』


『すでに解析は完了しております』


『早く言ってよ!』


『ケイ様がお話を続けておられましたので』


『途中でも言えよ!』


『左様でっか』


 ケイは立ち上がった。


 服についた土を払う。


『それで?』


『はい』


『どうすれば解除できる?』


 アズラが答えた。


『村に住んでおられる、メイ様をご存じですね』


『……メイ?』


 もちろん知っている。


 同い年の少女。


 最近も話したばかりだ。


 お菓子もあげた。


『知ってるけど』


『そのメイ様のもとへ赴いてください』


『うん』


『そして、花束を御用意ください』


『花束?』


『はい』


「…………」


 嫌な予感がした。


 それもかなり。


『それを、メイ様御本人へ直接お渡しください』


『……それだけ?』


『いいえ』


『だよな……』


『花束を手渡した後、メイ様の目を見て』


「…………」


『次の言葉をお伝えください』


『何て?』


 アズラは淡々と告げた。


『「俺はずっとお前のことが大好きだった。将来、俺と結婚してほしい」』


「…………」


 ケイは動かなかった。


 しばらく。


 本当に何も言えなかった。


 やがて。


『……アズラ』


『はい』


『それ』


「…………」


『どういうことだよ!』


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