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〜悪運と謀略の妖女〜

◾️

「…ここは?アタシ…一体どうなって…?


 一同が狂ったような笑い声を上げる生首にぞっとする中、ジェネが意識を取り戻した。


「ジェネさん!気が付かれたんですね⁈今助けて…。」


 ゴルドラはジェネの枷を外そうと駆け寄るが、見たこともない物体に埋め込まれているジェネを見て困惑した。


「ま、マスター!!これは…これは何ですか⁈」


 ゴルドラの震える様な声に、視線を向けた瞬間、勇者の顔面が蒼白となった。


 ジェネが拘束されている黒い柱だと思ったそれは、明らかに中世ファンタジーではあり得ない機械的な物だったのだ。

 その上部にはディスプレイモニターがあり、デジタルカウンターが時を溶かすかの様にカウントダウンを告げていた。


 そして、それを鑑定した瞬間、勇者にはそれが何なのか分かった。


「嘘だろ⁈そんな…これ全部…爆弾だ!!」


 リヴァイアの狂笑が響き渡る。


「そうよ!その通り!!アンタ達のおかげでこいつは起動したのよ!!」


 リヴァイアの言葉に勇者とゴルドラは困惑したが、レダはあの不穏な音が頭をよぎった。


「あの扉が開いた時に聞こえたあの音…まさか⁈」


 レダのその言葉、勇者は理解した。


「俺達が扉を開ける行為そのものが起爆スイッチだったってことなのか⁈」


「大正解!!」


 余りにも卑劣な罠だった。人質を取り、それを助けに来たことで起動するトラップ。


 ケラケラとリヴァイアは上機嫌に声を上げる。


「詳しいことは知らないけど、TNT換算で4.5トンの爆薬量よ。それが爆発したらどうなると思う?【アクエラ】は崩壊!その後は言わなくてもわかるわよね?」


 勇者達は呆然としながら、爆発後の惨状を頭の中で思い描き、怖気が走った。


 中でもジェネが感じる恐怖は人一倍大きなものに違いなかった。体を包み込む冷たい感覚が、死神を背負っていると同義であることを理解し、顔面蒼白となった。


「タイムリミットは10分!もう8分とちょっとかしら?早く逃げないと【アクエラ】と共に木っ端微塵になっちゃうわよ?」


 レダは苦々しく顔を歪め、恍惚とした笑みを浮かべるリヴァイアを睨みつけた。


「そんな怖い顔していいのかしら?その爆弾を止められるのはリーヴァだけかも知れないのよ?」


「なんだと…?」


 レダは憤りを抑えながら、リヴァイアの言葉に耳を傾ける。リヴァイアはニヤニヤと笑みを浮かべた。


「リーヴァの魔法であのカウントを止めてあげる。その代わり、分かるわよね?子猫ちゃん?」


 レダは苦虫を噛み潰したよう顔を歪める。そして、勇者達に視線を向けた。勇者もゴルドラも、苦渋の選択を迫られ、一様に視線を落とす。


 現在、《魔力錬成》を持つのはこの場にリヴァイアただ一人。この状況で取引に応じないという選択は偏に【アクエラ】の決壊を意味していた。


 どう考えても選択肢のない勇者は、レダに向かって頷く事しかできなかった。


 レダは舌打ちすると、手を離した。


 不可視猫(シュレディンガー)の効果が解け、リヴァイアの身体が元に戻る。

 リヴァイアは勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべた。


 それを見て、レダの眼光が射殺すような殺気を帯びる。


「…早くやれよ。だが、変な動きしたらただじゃおかない!テメェだけは道連れにしてでも殺すぜ!!」


 レダのドスの効いた胆に気圧されたのか、リヴァイアの額に汗が浮かんだ。


 リヴァイアは立ち上がると勇者達に一瞥する。


 その時、勇者とゴルドラは初めてリヴァイアの顔を直視し、動揺が走った。


「マスター…あのリヴァイアの顔は…。」


 ゴルドラの困惑の声に、勇者は頷く。


「ああ…ロアとそっくりだ…。」


 勇者の中で様々な疑問と憶測が駆け巡る。


 なぜリヴァイアの顔がロアと瓜二つなのか…。

 どうしてノアとロアが持つ【恋人】のアルカナは正位置にならないのか…。


 昨今では逆位置…つまり魔王勢力になっている事も勇者は確認していた。その謎の答えが、リヴァイアの今の姿に繋がっている様に思えた。


 だが、今はその疑問に答えを求める時ではない。勇者はゆっくりと時間をかけて動くリヴァイアに苛立ちを隠して見守った。


 リヴァイアは巨大爆弾に両手を翳し、魔力を行使する。すると、ディスプレイモニターのカウンターが止まった。


 それを見て、勇者達は安堵し、ホッと息を吐いた。


 リヴァイアは向き直ると誇らしげに口元を釣り上げる。


「さあ、約束は守ったから、リーヴァはお暇させてもらうわ。いいわよね?子猫ちゃん?」


 レダは「ちっ!」と吐き捨てる様に舌打ちする。


「ああ…今お前をどうこうしようとしても、また爆弾を起動させられちゃあ堪らねぇ…。行けよ…。」


 それを聞いて、リヴァイアは満面の笑みを浮かべた。そして、アストラルゲートを出現させる。


 その光景を、勇者達は何も出来ずに見送るしかなかった。


 ゲートに足を踏み入れながら、リヴァイアはポツリと語った。


「一つ忠告しておいてあげる。そこの娘だけど、ソイツを解放したらまたカウントが動き出す仕組みになってるからね。」


 去り際の直前に残した言葉はまさしく爆弾発言だった。勇者達は一様に目を見開き、驚愕する。


「な、なんだって⁈リヴァイア!!キサマ!!」


 勇者の憤りを嘲笑う様に、リヴァイアはゲートの中に姿を消していく。


「またね。まあ、次があったらだけど…。」


 そう言い残し、ゲートは完全に消え去った。


「ちくしょうが!!」


 レダは拳を床に叩きつけ、怒りを吐き捨てる。ゴルドラは呆然とし、勇者は絶望に顔を染めながら、恐る恐るジェネを見る。


「ジェネ…さん…。」


 ジェネの顔は涙でクシャクシャになっていたが、笑っていた。


「だ、大丈夫…。大丈夫だから…。みんな、私を置いて逃げて…。ハーディアのみんなにこの事を伝えて…避難を…。」


「お、落ち着いてください!ジェネさん!私達は置いて行ったりなんて絶対しません!必ず…必ず助けますから!」


 恐怖を押し殺しながら、精一杯気丈に振る舞うジェネ。そんな彼女を諌めるゴルドラの言葉は、勇者とレダの声も代弁してくれていた。


 なんとか彼女を救う手立てがないか勇者は必死に思考を巡らせる。


 勇者は収納(インベントリー)から《エクスカリバー》を取り出す。


 しかし、何の力も感じない…。

 当然、鞘から抜いても刃は全くなかった。


(ってことは…どうしようもない状況ではないってことなのか?でも…どうしたら…?!)


 勇者の思考を遮る様に、レダが巨大爆弾の前に立つ。


「俺が…俺が消してやる…こんなもの!!」


 レダは爆弾に近づき触れようとしたが、思い止まった。レダの背中冷たい汗が流れる。


 どう考えても、巨大過ぎて消す事なんて出来るはずがない。逆に、中途半端に消えた事が引き金になり、その場で爆発するリスクすらあった。


 そう考えることが出来たレダは、激情に駆られながらも冷静だった。


 そのレダの動きに勇者は疑問を投げかける。


「レダ…消すってどういう事だ?さっきのリヴァイアの状態に関係しているのか?」


 勇者の言葉に、レダは不可視猫(シュレディンガー)がスキルアップしたことを告げた。


 それを受け、勇者はしばし考え込んだ。


「もしかしたら…これで何とかなるかも知れない…。」


 勇者の一言に、皆の視線が勇者に注がれる。その視線の中には当然ジェネのものもあった。




◾️

 空間の歪みと共に、リヴァイアはある一室へと転移を果たす。


 部屋を見て、リヴァイアの陰鬱な面持ちとなる。その部屋はリヴァイアにとっては苦痛の幼少期を過ごした自室という名の牢獄だったからである。


 あの頃と比べれば、生まれ変わったと自負するリヴァイアだが、この部屋に来る度にあの地獄が脳裏に甦る。


 部屋の調度品やベッドを見るたび、一つ一つ思い出される。


 掃除は行き届いているものの、床に刻まれたひっかき傷や、そこに染み込んだ血の跡は消えていない。


 初めて手をかけた美しい顔の侍女。

 その死体を隠したベッドの下…。


 窓ガラスを割り、破片で自分の顔を傷つけたこと。


 茶会と称して呼び出し、侍女達にバレない程度に盛った毒の小瓶も、まだ残っている。


 リヴァイアの奇行の原因は全てグラミアにあった。


 だが、グラミアは止めなかった。

 諌めなかった。

 咎めなかった。

 その事実を闇から闇へと葬った。


 それはリヴァイアを守るためではない。コンプレックスとトラウマによって壊れていく彼女の姿を見て楽しんでいただけだ。


 リヴァイアはそんなことを思い出しながら、ふっと笑った。


「全部些末なこと…。リーヴァは選ばれた存在なのよ。それを証明することこそ、今のリーヴァの全てなのだから…。そうですよね? … …。」


 リヴァイアが部屋を出るとそこには跪礼したシェゾの姿があった。


「リーヴァ。無事でよかった。」


 シェゾの言葉にリヴァイアは目を細める。


「ええ、ありがとう。シェゾ。お母様は玉座に?」


「左様です。」


「すぐに取次ぎをしてくれるかしら?」


「御意に。」


 グラミアの側にはシェゾのデコイが控えている。伝達は一瞬で行われることだろう。


 二人はそのまま謁見場へと向かい、玉座に控えるグラミアを前に跪礼する。


「ただいま帰りました。お母様。」


 グラミアは目を細めながら笑みを浮かべた。


「あなたが生きて戻ってきたってことは、勇者達を罠に嵌めることが出来たということかしら?」


「ええ。リーヴァの考えが正しいなら、ここで奴らはあの切り札を切らざるを得ないはず…。」


 リヴァイアの言葉にグラミアは感心したように微笑んだ。


「全く、よく考えたものよね。爆弾に取り付けた人質を助ければ起爆カウンターが動き出す。人質を置いて部屋から出ようと扉を開ければ、同様に起爆カウンターが動き出す。悩ませておいてどちらも結果が変わらないなんて…。ホントよくこんな悪魔染みた仕掛けを思いつくものだわ。」


 グラミアの嫌味な賛辞を受け、リヴァイアは邪笑を浮かべて振り返る。


「お母様(悪魔)にそう言っていただけるなんて、光栄ですわ。」


 リヴァイアが勇者に突き付けた二択だが、実はどちらをとっても【アクエラ】の崩壊は避けられないものだった。


 勇者に与えられた情報だけならば、ジェネをその場に残し、応援を要請するか、ハーディアに避難を呼びかけることを選ぶだろう。


 だが、それが実際には最も悲惨な結末を辿ることになる。


 この二択の差は、ジェネを連れて逃げるか、置き去りにして殺すかの違いしかないのだから。


 リヴァイアは魔法により、巨大なスクリーンモニターの様なものを創り出した。


 代替魔法には監視記録(サーベイランス)と呼ばれる魔法がある。簡単に言えば、その場に監視カメラを設置する魔法である。


 この魔法は基本的に不可視であり、よほど知覚に優れていなければ発見することは難しい。スクリーンモニターはこの監視記録(サーベイランス)の映像を大画面で見るために創り出したものである。


 リヴァイアとグラミアが期待に胸を躍らせる中、暫くしてモニターに映像が浮かび上がる。


 そこには【アクエラ】内部の設備室の光景が映っていた。


 しかし、そこには人の姿はなかった。


 その状況にリヴァイアは慌ててモニターに駆け寄り、カメラの画角を変更して部屋中を探す。


 だが、部屋の中に勇者たちの姿はなかった。


 人質はそのまま。扉も閉まっている。

 カウンターが動いていれば、とっくに10分は過ぎているのだ。なのに部屋はそのまま…。

 つまり、起爆カウンターは動いていないということになる。


 リヴァイアは何が起こっているのかわからず、混乱した。


「あいつら…一体どこに…!」


「リーヴァ!人質が…!」


 グラミアの声に、リヴァイアは人質であるジェネをフォーカスしてアップにしていく。


 そして気づいた。それがジェネでないことを…。


「金で出来た…ダミー?」


 ジェネの代わりに爆弾に拘束されていたそれは、金色に輝く像であった。


「あの金竜の具現化能力…。」


 シェゾの呟きに、リヴァイアはこめかみに青筋を浮かべた。


 そして、監視映像(サーベイランス)の時間を遡り、この場で何があったのか確認すると、リヴァイアは床に拳を叩きつける。


「あの腐れ猫!!」


 映像には勇者たちが現在に至るまでの一部始終が記録されていた。


 レダが不可視猫(シュレディンガー)を使い、ジェネの拘束を解くと同時に、ゴルドラが作ったダミーとすり替えた。


 そして、ここまでくれば扉のトラップによる起爆カウンターが動いていない理由は明白である。


 レダは罠を警戒して扉を開閉せずに消したのだ。これでは、トラップは起動することはない。


 不可視猫(シュレディンガー)によってぽっかりとくり抜かれたような扉を潜り抜け、勇者たち一行は悠々と部屋から外に出ていたのである。


「アハハハハハハ!!!」


 グラミアは手を叩きながら呵々大笑する。

 対照的にリヴァイアは悔しそうに歯を食いしばり、大理石の床を睨みつけていた。


「上手くいかないものね。本当に、色々と策を巡らせるほどに上手くいかないものよ。」


 目尻の笑い涙を拭うと、グラミアはリヴァイアに同情の視線を向けた。


「リーヴァ、分かってると思うけれども、この失態は今の膠着状態を破壊するには十分な材料よ。アンタが仕留めそこなった娘がハーディアに戻れば、蜂起の材料になる可能性があるわ。第5、第6法王庁も呼応する可能性が高い。そうなれば、全面戦争となるでしょうね。まあ、そのこと自体は法国へのダメージが甚大になるから構わないんだけど、もう一つの目的を果たすのが難しくなるわよ?」


「分かってますわ…お母様…。シェゾ!!」


「はっ。」


 シェゾがリヴァイアに向かい、跪礼する。


「イグゼルダに駐屯させているデコイを使って【アクエラ】を強襲して爆弾を起爆させて!ハーディアにはリーヴァが向かうわ。」


「御意に。」


 転移門(アストラルゲート)による地点登録は見つかれば容易く潰されてしまう。

 現に、リヴァイアが【アクエラ】周辺や内部に作っていた地点登録は全て潰されていた。


 勇者たちの取るべき手段として、【アクエラ】爆破による被害から守るために、【アクエラ】周辺の防備を固めることが考えられる。


 だが、それを実行するにはあまりにも少数精鋭すぎるのだ。今のままでは勇者達は延々と【アクエラ】に留まり続けることになる。


 この状況を脱するための策は、ルネリオスからの援軍を要請するか、ジェネをハーディアに送り届け、協力を取り付けるかの二つ。


 秘密裏に勇者達だけがバーラルに向けて動き出したことを考えても、今のルネリオスは援軍を出せる内政状況ではないのは明白だった。


 となれば…奴らの判断は一つ。ハーディアに下るという選択一択。


「シェゾが【アクエラ】を破壊出来れば、その被害の先に必ず勇者を巻き込む事が出来る。そうすれば尻尾を出すはずだわ。勇者の持つ《エクスカリバー》が…。」


 リヴァイアは急ぎハーディアへ転移を試みる。だが、地点登録が潰されていることに気付き、困惑した。


 何者かが、既にハーディアに入り、こちらの布石を先回りしている。その事実を受け止めきれないリヴァイアは即座に第二法王庁ベゼルデンへ転移した後、ハーディアに向けて飛んだのだった。



▮ 

 陽が落ち、星の輝きが届かない森の中を百人ほどの黒い影が駆け抜ける。


 リヴァイアの命を受け、第3法王庁イグゼルダから【アクエラ】に向けて高速で行軍していた。


 《森渡り》による地形対応スキルは勿論、《縮地》や《影走り》、《韋駄天》のような高速移動スキルを駆使しながらの行軍は、通常2日はかかる行程を2時間足らずで走破した。


 【アクエラ】に到着したシェゾは天端を駆け抜け、中央棟にある内部に通じる扉に手をかけた。


 その時!


 バチン!!


 拒絶するような強い衝撃を受け、シェゾのデコイは大きく空を舞い、天端から落ちて地面に叩きつけられた。

 当然、隷属屍鬼(サーバントグール)は解除され、水のない川底に誰とも知れぬ死体が転がる。


 驚愕しつつ、シェゾは扉に《鑑定》を行う。


「…これは、固有結界…。奴らの中でこんな芸当が出来るのはただ一人…。」


「アーーーーーーハッハッハッハッハ!!!」


 どこからともなく、高笑いが響いた。


 その声に、シェゾは当然聞き覚えがあった。反響する森の中、シェゾは声の主の場所を瞬時に把握し、一斉に上空を見上げた。


 そこには4枚の蝙蝠羽を広げ、悠然と空を舞う一つの影があった。


 流れるような銀髪は月の光を受けてまるで星屑のように瞬き、真紅の瞳は夜空に煌々と映えた。


 金のブレストプレートにローブアーマーを纏いったそれは、エビルゴースト達を引き連れ、その姿を露わにした。


「腐海を彷徨いし屍鬼共よ。約束の時はきた。死に切れぬその情念を絶ち、冥府へ堕ちる時が来たのだ。だが、怯えることはない。死した果ては我が甘美なる不滅の園へ誘ってやろうぞ。」


 月を背景に、天端の柱の上にそれは立つと、腕組みをして不遜な視線を眼下に注ぐ。


「我は宵闇を統べる王にして生と死の調停者。その身に我が名を刻むといい!我が名は……。」


 不敵な笑みを浮かべると、マントを翻し、天端に集まる有象無象に向けてポーズを決めた。


「シャミル=ロア=エルディ=フォン=カーミラス!!」


 ズギューーーーーーーン!!!


 どこからともなく、効果音が流れる。


 その音に、シェゾのデコイは動揺した。


 以前も説明したが、この効果音は魔法によってロアが意図的に流しているものである。


 理由はかっこよくて気持ちいいからである。


 完全に大見得が決まり、上機嫌になっているロアに対して、シェゾが小首を傾げる。


「貴様…シャミル=ロア=ルシュナル=クルデ=シルヴァリオンではなかったのか?」


 その一言に、ロアは目に見えた狼狽を禁じ得なかった。


「え?あ、それは…その…。そう!!我は千の名を持つ偉大なる存在!その中の一つとは言え、見事魂に刻み込んでいたこと、褒めて遣わすぞ!」


 見苦しい言い訳をするロアだったが、シェゾはそういうものかと納得する。


 そして、最も気になる疑問を口にした。


「何故貴様がここにいる?」


 シェゾの疑問に対して、ロアは勝ち誇ったように薄い胸を突き出して踏ん反り返った。


「貴様らの浅はかな企みを見通すことなど、全知全能たる我が力の一端に過ぎぬわ。」


「そうか…。素直に話す気はないということだな。」


 ロアの偉人プレイに対して努めて通常運転で応じるシェゾ。完全にハッタリだと思われていることにロアはこめかみに青筋を立てた。


「はあ?ちょっとその反応は聞き捨てなんないんだけど?!」


 素が全面に出てしまったところで、シェゾはこれ以上の問答に応じる気配を断ち切った。

 デコイの全てが一斉に武器を構え、数多の鋭い殺気が向けられる。


 だが、ロアはそれを涼し気に受け止めると舌なめずりした。


「歓迎するぞ、低俗な木偶どもよ。我が血界術式(ブラッディーガーデン)へようこそ。」


 その言葉を合図にして、【アクエラ】の天端が無数の朱き茨の檻に包まれた。


 突如出現した異形の植物に、シェゾは固有結界に閉じ込められたことを悟った。


 その茨達は瞬く間に巨大化し、無数の鋭利な刃が剥き出しになっている様な触手は、目にもとまらぬスピードでシェゾに襲い掛かり、次々とデコイを食い荒らしていく。


 シェゾも応戦しようと試みるが、茨にシェゾのナイフは全く歯が立たず、100以上のデコイが見る見るうちに消し飛ばされていく。


 シェゾは目を見開いた。


 ロアと相対するのはこれで三度目。ロアの手札はほとんど見てきたはずだった。


 だが、天端を全て固有結界にすることで、攻め手も逃げ手も完全に潰されたシェゾのデコイ達に出来ることなど何もなかった。


 天端の上で踊り狂う魂なき茨の触手に、デコイ達が一方的に屠られる様に、シェゾは顔を歪める。


(これが真なる魔族…。レベルだけじゃない…。存在としての格が違う…!)


 最後のデコイの頭が吹き飛ばされた。


(勝てない…。今のシェゾでは…勇者達に敵わない…。リーヴァを守れない…。)


 儚い心の声と共に、シェゾのデコイは全て死体へと変わり、その死体は魔素としてロアの体に取り込まれ、MPに還元される。


 ロアは天端の中央に聳える塔の上から一歩も動くことなく、シェゾを返り討ちにしたのである。


 静寂が辺りを支配すると、ロアは大きく息を吐くと、顔面喜色のまま肩を震わせた。


「よっしゃああああああ!!か・ん・ぺ・きっ!!!ヤバい!!アタシかっこよすぎてヤバいってー―――!!」


 夜の静寂を突き破るような狂声をあげて一人見悶えるロア。


 自画自賛の唯我独尊ぶりではあるものの、彼女なりに前回シェゾとリヴァイアを取り逃してしまったのは大きな雪辱として刻まれていたのだ。


 汚名返上とばかりに一切の手心や遊び心を入れず、シェゾを圧倒したのは彼女自身の成長とも言える。


 一頻り勝利の余韻に浸ると、ロアは再び周囲に警戒を向ける。


「いるわね…。生態感知では捉えられない機械人形とやらが数十体…。」


 ロアの研ぎ澄まされた五感はスキル以上に知覚能力を引き上げた。ロアは右手を翳すと魔法陣を展開し、召喚を行った。


 現れたのはアビスリッチと呼ばれる超高位アンデットである。ゴースト種であるアビスリッチは一切の物理攻撃を無力化するアストラル生命体である。


 魔人兵を相手にするのに、これ以上にはない天敵であり、狩人である。


「さあ、いくらでも来るがいい!夜の宴はまだ始まったばかり…。退屈させてくれるなよ!!」




◾️

 夜明けを迎えようとする頃、ハーディアに到着したリヴァイアが見たものは完全な迎撃体制を整え、布陣して要塞と化した姿であった。


 リヴァイアは呆気に取られ、中空でその状況をただ見つめることしか出来ない。

 震える喉が目の前の光景を必死で否定しようと務めた。


「あり得ない…。あり得ない!なんで?早過ぎる…!アイツらに魔法を使える奴なんていないのに!なんで…なんで!!」


 リヴァイアはハーディアを囲う城壁の壁上通路に立ち、鋭い視線を向けるもの達へ向けて吐き捨てる様に怒声を上げた。


「何でアンタ達がそこにいるのよ⁈」


 そこには、勇者は始め、ゴルドラとロア、レダの姿があった。


 そして、もう一人…リヴァイアの目が憎々しげにその人物に殺意を向ける。


 勇者の側には、聖女 アリアデル=エスタ=リエ=オルフェリアの姿があったのだった。




第11章 オルフェリア法国の動乱【勇者編】 完


第11章 オルフェリア法国の動乱【勇者編】

ここに完結致しました。まあ、区切っただけですがw


読者の皆さんからしてみたら、あれ?急にどうしたんだ?っていう展開だとは思いますが、次章の開始からこの状況に至るまでの経緯をお話ししますので、もうしばらくお待ちくださいませ。


さて、気付いている方もいると思いますが第11章のepタイトルは「〜と〜」という形で統一しております。


このタイトルについては正直苦手でして、自分である程度ルールを作らないと決められないんですよねw


さて、ここで裏話のコーナー!

今や名前さえも忘れられているであろうナビですが、最初は勇者の旅をサポートするマスコットナビゲーターの役割をさせるつもりであり、運命の輪のアルカナキャストにする予定でした。

逆に、魔王には別のナビゲーターをつける予定だったのですが、なんかストーリーが上手くいかなかったため、超鑑定が代わりを務めてもらうことになりました。

なぜ上手くいかなかったのかは、ご想像にお任せします。


それでは、次回、第12章でお会いしましょう!


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