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〜鋼鉄の機兵と黄金の竜騎士〜

▮勇者

「大丈夫か?!レダ!!」


 放心状態のままへたり込んでいるレダに声をかけるが、すぐに反応はなかった。だけど、無事なことは窺える。


 色々と想定外の事が起こっているが、今は目の前の事への対処が優先だ。


 《超鑑定》を発動させる。そこに表示されたデータを見て、俺は目を疑った。


「LV69 魔人機兵(ゴーレムソルジャー)!こいつ!人間じゃないぞ!!」


 鑑定結果を証明するように、ゴルドラの一撃を受けて吹き飛ばされた魔人機兵が立ち上がる。右顔面が半壊しているものの、モノアイの様に目玉だけが動く様は背筋を凍らせた。


 あまりにもファンタジー世界にそぐわないその異形を見てゴルドラとレダは動揺を隠せない。


「な、なんですか?あれは?人間じゃない…?むしろ生き物なんでしょうか?」


「俺らの感知スキルが全く働かねぇんだ。生き物なわけねぇよ…!不可視猫(シュレディンガー)まで見破られたのはハッキリ言って納得できねぇけどな!!」


 苛立ちが恐怖を押し殺すことで、レダはなんとか恐慌状態陥ることなく立て直したようだ。


 一安心したところで視線を再び魔動機兵に向ける。


 ファンタジー世界にも魔動人形(ゴーレム)や人造人間(ホムンクルス)みたいなのはよく目にする。


 この世界に機械が存在することを完全否定することは出来ないが、あまりにも作為的に生み出されたような造形に俺だけが素直にその存在を受け入れることが出来てしまう。この感覚が指し示す答えは…。


「まさか…。これも前世の知識とイメージが元になっているんじゃ…。」


 どこかで見たことがある様なその造形は、前世のアニメや映画で見たSFのロボットやアンドロイドのようだ。

 魔法が存在するこの世界で、そのイメージを投影させて作りだしたとしたら…。


 額に冷や汗が浮かび頬を伝って顎から落ちる。前世の知識を異世界で使って無双するのはよく聞く話だが、さすがにこれは反則なんじゃないのか?


 魔人機兵が立ち上がる。それに呼応するように、他の魔人機兵が集まってきた。

 外に配置されていた3体、そして天端の内部から2体。皆同型モデルだ。


 つまり、こいつらは…。量産されている可能性があるってことだ…。


「冗談じゃないぜ…。キングレギオンクラスの量産体制が整ってるとか…。どんな冗談だよ…。」


 思わず震えが走る中、ゴルドラが竜騎装甲(ドラグーン)を発動させる。そしてその手には巨竜戦斧(ハルバード)が握られた。


「LV69が5体…。マスター、もしもの時はよろしくお願いします。」


 あまりにも不穏な言い方に苦笑した。だが、俺はその言葉の意味を瞬時に察した。


「レダ!後方に下がってジェネさんとマガークさんを連れて距離をとってくれ!」


「ああ!分かった!」


 レダの動き出しに呼応したかのように、5体の魔人機兵が一斉に飛び掛かった。


 ゴルドラは身の丈を超える巨竜戦斧(ハルバード)を振りかぶる。大気が震えるほどの巨大な金色のオーラを纏う戦斧を、身体の回転と共に横薙ぎに一閃する。


「剛竜滅断(ドラグスラッシュ)!!」


 その強烈な一撃に大気が揺れ、耳を劈く様な金切り音が響き渡った。


 まるで空間を切り裂くようなその一撃は、三体の魔人機兵の胴体を真っ二つに断裂させた。


 凄まじい一撃に目を見張りながらも、俺は回避した二体の魔人機兵に向けて走り出す。

 二体は大技を繰り出した後の無防備なゴルドラの懐に潜り込んでいた。


「《真空波》!」


 ミスリルソードで二連撃。


 空を斬ると同時に身の丈ほどの真空の刃が魔人機兵に向かって放たれた。


 その真空波は見事に直撃し、魔人機兵が態勢を崩した瞬間に、ゴルドラは巨竜戦斧(ハルバード)を消し去り、両の拳を変形させる。


「双竜神拳(ゴッドハンド)!」


 ゴルドラの金色の右拳が一体の顔面を粉々にし、そして左拳はもう一体の喉元に食らいつき、そのまま首を捩じ切った。


 胴体から切り離された頭が天端の上に転がり、異音を発しながら赤色のモノアイがその光を失っていった。


 戦闘が終了したことを物語るように、ゴルドラは竜騎装甲(ドラグーン)のフルフェイスを外すと、俺に向けて屈託のない笑顔を向けた。


「マスター!練習通りに行きましたね!」


「ああ!ばっちりだったな!!」


 俺はそう言って親指を立てた。


 この一か月、俺は聖王国でダラダラしていたわけじゃない。


 戦闘技術の習得や連携強化のために、常にゴルドラと一緒に修行を行っていた。


 自身に強化(バフ)をかけることが出来ない俺は戦士としては完全に二流だ。

 その弱点を補うためのスキルとして、《真空波》などの必殺剣や弱化(デバフ)スキルを習得した。


 MPが低すぎて魔法に頼れない以上、俺は強くなるために必要なスキル習得に明け暮れていたのである。


 早速その活躍の場が現れたことに、思わずテンションが上がった。


 しかし、満面の笑みを浮かべていたゴルドラの表情が一瞬だけ曇り、左に首を回したその時だった。


 ゴルドラの額が鈍い音を立てて大量の血飛沫を上げた。


 目の前が真っ白になる。


 何が起きたのか、それを考察するための脳みそが働かない。


 ただ、自然と俺の口はゴルドラの名を呼び、激しく心を乱していた。



▮

 時は少し遡る。


 ここは魔王城アーカムハメルの軍事演習エリア。白い壁と強化ガラスによって囲われたモニタールーム。


 幹部会の後、魔人兵のお披露目と称してその性能テストが行われていた。


 ゾゾの分身体が10体と魔人兵の10名との戦闘実験である。


 魔人兵は装備によって違うクラスを持ち、パラメーターやスキルが違うように設定されている。


 前衛は魔人機兵(ゴーレムソルジャー)6体。中衛は魔人兵長(ゴーレムコマンダー)1体。後衛の魔人射手(ゴーレムスナイパー)3体である。


 打って変わって、ゾゾの分身体には特に役割などなく、有象無象に動く10体である。

 ほぼ同レベルでありながら、演習場内で繰り広げられる戦闘は思いがけず一方的なものになった。


 魔人兵部隊は魔人機兵を1名失っただけの損失で、ゾゾの分身体を殲滅させたのである。


 その組織的な戦果に魔王は脱帽し、喝采した。


「素晴らしい…。魔人機兵は白兵戦特化型のスキルで攻防の要。魔人射手は前線の間隙をついての一撃必殺。魔人兵長は状況に応じた《魔力通話》による差配やバフなどの支援に特化している。一個小隊としては理想的な形だと言えるだろう。制御においても全く問題を感じない。完璧だ。」


 魔王の大賛辞を受け、紅麗尉は深々と頭を下げる。


「さすが陛下。的確な御慧眼です。」


「ムゥ ゾゾ 手モ足モ デナカッタ。悔シイ。」


 口を尖らせるゾゾに対して、紅麗尉は苦笑する。


「分身体でなくゾゾさんが本気で相手をしたらこちらが手も足も出ませんってば。」


 いじけた子供を宥めるような口調の紅麗尉を見て、魔王は思わず笑みを溢した。


「それにしても、奴らが使っている武器…普通ではないな?私が以前フェルに作らせた重火器レベルではキングレギオンクラスにダメージを当てることは難しいという結論を出したはずだが…。」


「さすが旦那!良く気付いてくれたのぅ!」


 ケラケラと笑いながらフェルが嬉しそうに口を開く。


「魔人機兵のブレードはMPを消費して刃を高速回転させることでバフとエンチャントを同時に載せる特殊仕様じゃ。ペレタイザーやストランドカッターから着想を得たこのブレードは鋼鉄だろうともバターの様に切り裂くわい。」


 自慢げに語るフェルを見て熱くなったのか、紅麗尉も増長する。


「ブレードもそうなんですけど!私としてはこのライフルなんですよ!レールガンの仕様を魔力操作で盛り込んで射出スピードアップ!銃身は極力摩擦をなくして従来の回転速度の1.3倍を実現!ジャイロ効果も相乗してより安定性と精度は爆上がり!その結果あのラプアマグナムを超えて飛距離は3000mを実現!魔鉱石を使った弾丸は陛下が前に作ってましたけど、あれは雷管代わりに魔鉱石のエネルギーを利用してたんですが、今回の弾丸は魔鉱石のエネルギーを着弾後の破壊エネルギーに転用してるんです!つまり徹甲弾!だから命中した瞬間にどんな重装甲でも貫通して吹っ飛ばすんですよ!!この軽さと手ごろさで、もはや対戦車ライフルも同然の威力なんです!!」


 鼻息を荒くしながら大興奮で迫る紅麗尉に、冷や汗をかきながら後退る魔王。


「う、うむ。素晴らしい成果だ。これならば例の金竜や吸血鬼にも効果が期待できるというものだな。」


「はいっ!!もちろんです!!」


 紅麗尉が前世で軍の武器開発に従事していたという話はない。つまりこれは、完全に紅麗尉の趣味であった。


 成果を認める一方で、紅麗尉の危険なスイッチの発見に魔王は苦笑いするしかなかった。


「あら?もしかしてもう仕舞われたのかしら?」


 モニタールームにグラミアがリヴァイアとシェゾを引き連れて現れた。


 グラミアの登場に、紅麗尉の顔が明るくなり、グラミアの手を取った


「グラミアさん!陛下が魔人兵の性能テストを見て絶賛していただきましたよ!」


 それを聞いてグラミアの表情が一気に崩れ、まるで少女の様に目を輝かせながら紅麗尉の手を固く握り返す。


「ほ、本当ですの?!あ、主様!!」


 グラミアが目を見開きながら魔王へ期待を膨らませた視線を向ける。それを受けて、魔王は笑みを浮かべながら頷いた。


「本当だ。十全十美といったところだな。本当によく出来ているぞ。」


「あ、主様…!このグラミア…大慶至極に存じ上げます!!」


 グラミアは目に涙を浮かべると、まさしく欣喜雀躍といったように、紅麗尉の手を握りながらその場で飛び跳ねた。


 そんな少女のようなグラミアの姿に、リヴァイアとシェゾは呆気に取られていた。


 あの高邁な唯我独尊の支配者が、これほどまで変わってしまうほどの影響力を持つ魔王に畏怖すると同時に、尊敬を抱いたのだった。


「リーヴァ、シェゾ。魔人兵を率いてバーラルに向かうわよ。勇者など、主様の足元にも及ばないことを、私達が証明して差し上げるのよ。」


 リヴァイアとシェゾは跪き、深々と頭を下げる。


「はい。お母様。全ては魔王シェブニグラス閣下のために…。そうよね?シェゾ?」


「御意に。魔王閣下の御心のままに。」


 リヴァイアとシェゾの忠誠の言葉に頷きながら、魔王はグラミアに視線を移す。


「時に、グラミアよ。せっかくだ。貴公の最初の一手について聞かせてもらおうか?」


「はっ!お耳汚しかもしれませんが、是非私の策をご拝聴くださいませ!」


 グラミアは跪礼しながら嬉々として述べた。


「法国から向こう一年間の力を奪うために、まずは戒厳令を敷き、物流と情報を遮断しております。これにより、経済は先細り、先行きの見えない生活苦が続く中で、暴徒が現れ、各法王庁は身中の虫に食われるが如くその力を失っていくでしょう。」


 聖王国が反乱因子として存在する以上、どの法王庁も聖王国に組みすることがないように戒厳令を敷くことは道理となる。


 国民は納得しながらも、いつ解けるやもしれない経済と情報の封鎖を受け入れざるを得ない。

 国民にとっての最大の不幸は、その命令は国民のほとんどが飢えるまで続けるつもりであることを知らないことである。


「二つ目はバーラルに距離が近い法王庁の枢機卿を暗殺すること。第1から第3法王庁の枢機卿は皆食わせ者。戒厳令の穴をついて会合を開き、諜報を行う可能性があり、速やかに彼らを排除することで情報統制は順調に機能するでしょう。」


 魔王は「なるほど…」と呟いた。こういった各法王庁の情報と分析はさすが法国を長年裏で支配してきただけはあると感心した。


「そして、これはリーヴァからの進言を採用したものではありますが…。」


 その前置きに、リヴァイアは目を見開き、慌ててグラミアに視線を向ける。


「グラミア様!」


「お黙りなさい。主様には誠実に報告するべし。アンタの気遣いとはいえ、部下の手柄をさも自分のものとして差し出す浅ましさは主様への不敬よ。」


 リヴァイアを諌めるグラミアの言葉に、魔王は「ほう…」と嘆息の声を上げた。

 グラミアの成長に、紅麗尉やゾゾ、フェルも柔らかい笑みを浮かべていた。


 そんな雰囲気を察し、リヴァイアは素直に頭を下げた。


「大変…申し訳ございません。お母様。」


 リヴァイアの謝罪を受け、グラミアは続けた。


「改めましてご報告致します。法国の急所として先ず握り潰すは第4法王庁ハーディア北部にあります巨大堰堤基地アクエラ。ここを完全に抑えることで、バーラルをはじめ、第1から第6法王庁に壊滅的なダメージを与えることが可能です。」


 魔王は頭に記憶していた法国の地図を思い浮かべ、その言葉が何を意味するかを理解した。


「なるほどな。法国の豊かな大地を支えてきた水瓶が機能停止となれば、国全体が機能不全に陥る。上手く出来たことに、第7法王庁ルネリオス…つまり聖王国だけはこの恩恵から無縁の存在であるため、各法王庁は聖王国の仕業だと噂が立つのは当然ということか。」


「仰る通りでございます。」


 グラミアは深々と頭を下げる。グラミアの後頭部を眺めながら魔王は呟くように言い放った。


「それで?どれだけを見込んでいるのだ?」


「は?」


 グラミアは慌てて顔を上げる。そして、グラミアは背筋を凍らせる。魔王から放たれる気配が冷酷さに満ち満ちていたからである。


「貴公に聞いても分からないなら、提案者であるリヴァイア、貴様に聞こう。ダムを堰き止めることで最終的に引き起こされる未曾有の大被害がこの作戦の肝であろう?貴様はどれだけの規模を想定しているのだ?」


 グラミアはまだ魔王の言葉を意図していない中、リヴァイアは嬉々とした表情で述べた。


「さすがは閣下!ご明察の通りです!この作戦の最終目的はアクエラの決壊でございます!」


 リヴァイアのその言葉に、グラミアは目を見開いた。作戦を聞いた時、グラミアは法国中に水不足を意図的に発生させるものだと考えていた。


 だが、真意はその先…。グラミアは息を呑み、戦慄しながら邪悪な笑みを浮かべるリヴァイアの横顔を見ていた。


「アクエラの総貯水量は6億6000万㎥。その堰堤が決壊すれば、第4法王庁ハーディアの壊滅は必至。水の通り道を鑑みれば、第5法王庁ビューネルも水害影響を受けるでしょう。同時に、第5から第1法王庁まで続いていた街道も壊滅すると考えます。」


 不気味な笑みを浮かべながら魔王に告げるリヴァイアを見てグラミアは内心で震えていた。


 魔王の怒りに触れるのではないかと…。


 だが、グラミアの心配など顧みることなく、リヴァイアは魔王に高らかに宣言する。


「おそらく、洪水による直接的な死亡数は2万人ほど。その後の食糧危機や各地での水源問題による疫病によって最終的に24万人の被害者が出ると予想されます。これは現法国の全国民の1/4程度かと。アクエラやハーディアの水源管理能力の復旧は極めて困難。おそらく、暫くはまともに国家を機能させることは困難になると思われます。」


 リヴァイアの報告が終わると、グラミアは恐る恐る魔王へと向き直った。


「見事だ。その作戦を承認する。」


「ありがとうございます。魔王閣下。」


 魔王の一言に、グラミアはほっと胸を撫で下ろした。


「それでは、お許しも頂いたことですし、私どもはバーラルに参ります。」


「うむ。良い報告を期待しているぞ。」


 グラミアの敬礼にリヴァイアとシェゾが続き、3人は転移門(アストラルゲート)を使ってアルカトラズへと移動した。


 魔王はそれを見送ると、心配そうに顔を顰める紅麗尉とフェルに向き直った。


「さて、我々は帝国攻略だ。準備に取り掛かるとしよう。」


 先ほどとは打って変わり、普段通りの様相の魔王を見て、紅麗尉とフェルは胸を撫で下ろした。ゾゾはぴょんぴょんと魔王の肩に飛び乗った。


「魔王サマト 冒険。ワクワク。」


 魔王はゾゾのスライムボディを優しく撫でる。


「ああ私もだよ。ゾゾ。」


 喉を鳴らすように笑う魔王は虚空に視線を向ける。


「人間を支配する根底は心の支配に他ならない。ならば教えてやればいい。女神オルフェリアは誰も救ってくれないということを。その絶望を知ることで、彼らは真の救いに縋ることになるのだから。」


 魔王は高らかに笑った。その様子に、紅麗尉とフェルは互いに顔を見合わせながら苦笑いした。


 そんな中、ゾゾは魔王の真似をして笑っていた。


「さて、お手並み拝見といこうか?勇者よ。何度でも足掻き、我が一手に逆らってみるがいい。貴様らの希望の糸が切れるまでな。」




▮勇者

「ゴルドラぁああああああ!!」


 ゴルドラに駆け寄り、抱き抱える。


 頭部に大きな損傷を受けているが、それと同時に左手に大きな銃創があり、その手からも夥しいほどの血が流れていた。


 パニックになりかけていた頭が心身健全(オートキャンセラー)によって正常になり、冷えた頭は状況を冷静に判断させる。


 左手の銃創から考えて、ゴルドラはあの一瞬の間に、銃弾の飛来を確認して左手で防ごうとしていた。

 その超反応には頭が下がるが、ゴルドラはその威力を軽んじていたみたいだ。


 その結果、弾は左手を貫通してそのまま頭部へ…。


 手を介したことで威力が激減したとはいえ、ゴルドラのダメージは計り知れない。


 っていうより…当たり前の様に銃弾だって言ってるけど…ライフルなんて持ってるのかよ!!

 しかも絶対、文字通り魔改造してやがるな!!


 兎にも角にもこの場所はマズイ!!天端なんて「どこからでも好きに撃ってください」って言っているようなもんだ!


「マズイ!狙われてる感覚がビンビンする!」


 ゴルドラが視線を向けた方角。そしてゴルドラの知覚範囲外となると人工湖を挟んで向かい側…。


 そんなところから狙撃だなんて冗談じゃない!


「マ、マスター…。」


「ゴルドラ!生きてたのはさすがだけど、まだまだ地獄の一丁目だ…。もうしばらく堪えてくれよ!」


 ゴルドラを抱えて立ち上がり、思案する。


 どちらに逃げるべきか…。

 おそらく、狙撃手はそれを待っているんだ。

 俺の動き出しに合わせて狙ってくる!

 くそ…どっちに逃げれば…。


 引き返せば背中を撃たれる。進んでアクエラ内部に逃げ込むこともできるが、もしそこにさっきの奴らが潜んでいたら万事休す…。


 どっちだ?どっちを選べばこの状況を打破できる?!


「マスター…《射手返し》です…。」


 痛みに苦しみ喘ぐ中、漏らしたその一言に、俺はゴルドラとの特訓を思い出した。


 遠距離攻撃に対してその軌道を反転させて打ち返す剣技の事である。


「《射手返し》って…100m程度の距離の矢でも成功確率は五分五分だったのに…。射程距離1000m以上のライフル弾なんて打ち返せるわけが…。」


 ゴルドラは右手に金色のオーラを凝縮させ、二振りの金の短剣を創り出すと俺に差し出した。


「出来ますよ…。マスターと私の二人でなら…。」


「ゴルドラ…!お前…その体で…。」


 ゴルドラは強がりながらも笑みを浮かべる。


「心配しないでください。私が全力をもって飛んできた弾を必ず防ぎます。打ち返すタイミングはマスター…自分を信じて…。」


 激痛に顔を歪めるゴルドラを見て、素直に応じることなんて出来ない。

 だが、俺一人で成功させられるかと言えば、その可能性はほとんど0%だろう。


 賭けるしかなかった。

 このスキルの利点は狙撃手に一撃必殺のカウンターを食らわせられることだ。


 現状を打開するためには銃弾を防ぐだけじゃあ足りない。反撃して撃破することでしかこの苦境は乗り越えられない。


「いいぜ…腹は決まったよ。一度も練習したことがない二人での《射手返し》!ここ一番で決めてやろうぜ!!」


「はいっ!お任せください!私を信じてください!」


 満身創痍の中、ゴルドラの目には燃え上がる様な闘志が宿っていた。


 ゴルドラはいつも俺に勇気をくれる。どんな恐怖も払う金色の光だ。


 その光を、俺が刃に変えてやる!


 俺はゴルドラの肩を抱きながら、天端の中央に向けて駆け出す。


 敵が撃って来るであろう方角を常に視認できるように、レダ達のいる陸地ではなく敢えて中央に向けて走ったのだ。


 だが、予想は呆気なく裏切られることになった。


 人間の域を出ないレベルの俺の知覚が、後方からの風切り音を感知していた。


 え?嘘だろ?まさか…移動した?

 狙撃場所を特定されないために?


 俺の知覚が働いている以上、もう弾はすぐそこだ…。振り返ったその時には…頭が飛ぶ!


 竦み上がるような恐怖で支配されそうになったその時!!


 ガキィイイイイイイイン!!!


 ゴルドラはまさしく金色の一閃となり、金の短剣でライフルの弾の推進力を弾き返した。

 そのライフルの弾はさながらジャイロの如く、空中で高速回転して浮遊していた。


 呆気に取られている場合じゃなかった。


 ほとんどのラグなく、俺の体は動き、金の短剣をジャイロの様に回転するライフルの弾のケツに向けて渾身の一撃を叩きこむ。


 回転している親指ほどの弾丸のケツを叩けるのかということに疑問はなかった。


 それぐらい、今の俺なら狙わなくても出来る!


 問題は打ち返す方角…それはゴルドラが指し示してくれていた。


 黄金に輝く、レーザーポインター!!


「そこだ!!」


 渾身の一撃が弾丸のケツを叩き、光の矢の如き一閃が導かれるように茂みの一点に撃ち返された。


 ガシィィイイイ!!


 金属物の破壊音が微かに俺の耳にも届いた瞬間、拳を強く握りしめた。


 当然、ゴルドラの耳にもその音は聞こえたのだろう。ホッとしたように笑みを浮かべていた。


 顔が綻び、安堵から警戒感が薄れかけたその時だった。


 俺の頭に疑問が走る。


 スナイパーが潜んでいたあの位置…。

 近すぎるんだ…。

 レダ達がいた場所に…。


「レダ!!返事をしろ!!レダ!!」


 何の応答も示さない。その不穏な空気に、ゴルドラも目を戦慄かせた。


「マガークさん!!ジェネさん!!」


 声は虚しくこだまする。嫌な予感は徐々に現実のものとなり、焦燥感となって襲い掛かった。


「走りますよ、マスター!」


 ゴルドラは危険な域を自己修復によって乗り越えたようで、痛々しげではあるものの、一人で歩けるまでに回復していた。


 それを確認すると、俺は頷き、レダ達がいた場所に向かう。


 そこには、変わり果てた姿になったマガークさんの姿があった。


 叫び声が上げられないように、口の中に皮袋を詰め込まれ、心臓を貫かれて絶命していた。


 俺はその場で膝をついて愕然とした。


「すいません…マガークさん…。」


 拙い謝罪を口にしながらも、頭は悲しみ一辺倒に染まることはなかった。姿が見えない二人の行方に心を掻き乱された。


「レダは?レダはどこに?!ジェネさんは?!」


 俺の問いに答えるように、ゴルドラは目を瞑って集中し、《生体感知》を展開させる。そして、間もなく目を開き、堰堤に目を向ける。


「どうして?一体…どうやって…。」


 ゴルドラは目を戦慄かせながら動揺していた。


 俺はすかさずゴルドラに詰め寄った。


「ゴルドラ!どうしたんだ?!二人は一体どこにいるんだ?!」


 ゴルドラは震える指で堰堤を指し示した。


「お、おい…まさか…?」


 ゴルドラは頷きながら言った。


「はい…。【アクエラ】の内部です。」



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