表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

〜金色の女戦士〜


◾️

 完全に唖然としてしまった。

 

 何が起こったのか、なんとなくわかったが嫌な汗が止まらなかった。


 長い金髪に切れ長な青い瞳、端正な顔つきに野性味あふれる褐色の肌とセクシーなあれそれのパラメーターの高さが露出の高い服からよく伺える。


 彼女は勇者の前に跪き、真摯な顔でこう告げた。


「私の名前はゴルドラ。今後ともよろしく…。」


「ちょっと待てやーーーーーー!!」


 洞窟の中で勇者の声が響き渡った。

 突然の激昂に、ゴルドラは動揺を隠しきれないまま小首を傾げる。


「ど、どうかされましたか?マスター?」


「どうもこうもない!お前エルダだったのかよ?!」


 エルダとは現代語にすると広い意味で女性を意味する。特に定義はない。


 その言葉にゴルドラは動揺する。


「は、はあ…そうですが…。もしかして、エルダじゃなくてオルクじゃないとダメでしたか?!」


「そういうことじゃないが、先に言えよ!!」


 オルクとは現代語にすると広い意味で男性を意味する。特に定義はない。


 勇者は「しくじった~!」と頭を抱えた。


(なぜか知らんが完全にオルクだと思っていた…。エルダだと知っていたらもう少し名前に気を使ったわ!)


 改めて勇者は、長身麗躯な竜人に視線を向ける。


(この見た目でゴルドラとか…その前に竜人化出来るとか先に言ってくれよ…。完全にペット気分で名付けちまったじゃねぇか。)


「一応聞くけど、名付けって変更出来たりなんかは…。」


「無理です。【真名契約】に取り込まれているので、どちらかが死んで解除されない限りは…。」


 即答…。完全に罠だった。


(ま、まあ仕方ない!幸いにもワイルドな見た目だし、案外馴染んでいくのかもしれないしな!別に相手も嫌がってるわけじゃなさそうだし…。良しとしよう!)


「それでは、後始末をして脱出しましょうか。」


 そういうと、ゴルドラはいつの間にか目を覚まして部屋の隅で肩を寄せ合い、震えている僧兵二人を前にゴキゴキと指を鳴らす。


(あ、これ完全にやる気だ。)


 いつの間に目を覚ましてたのかは知らないが、目の前にいる金髪のエルダが金竜であることは理解しているようで、涙で顔をクシャクシャにして命乞いを始める。


 聞くに堪えないなと思いながら、勇者は完全にスプラッターにされたハーデラントの方をちらりと見て、この後起きる惨劇を予想した。


(まあ、こいつらがどうなろうと反対するわけじゃない。ゴルドラがこの80余年、されてきたことを思えば嬲り殺されても文句は言えない。反省して罪を償うとかってレベルの話じゃないしな。でも…。)


「ゴルドラ、怒りはごもっともだがちょっと矛を収めてくれないか?」


 勇者の言葉にゴルドラは素直に殺気を解いた。しかしながら、怪訝な表情は当然である。


「何かお考えがあるのでしょうか?」


 自分の怒りを抑えこんででも、契約に従ってマスターの命令に忠実に動く。早速マスター権限を発動してしまって勇者の心が痛んだ。


「いや、こいつらの仲間が多分町にいると思うんだ。この三人が誰も帰らないとなるとさらに大きなトラブルになりかねない。ここはこいつらを大人しく帰らせたいんだよ。」


「町にいる仲間とやらも皆殺しにしては?」


(おいおい、この娘はサラッと恐ろしいこと言うね。)


 一瞬助かるという希望が見えていた僧兵2人はヒィィイと震え上がった。


 勇者はまあまあと嗜める。


「この町が報復対象になるのは避けたいんだよ。この町の人たちは今回の件を誰も知らない。法国が秘密裏に行ってきたことだからな。」


 ゴルドラは浮かない顔をする。それを見て勇者は肩に手を置いた。


「安心しろ、必ず落とし前はつけさせる。神の名のもとに他者を苦しめて私腹を肥やすようなろくでもない連中だけど、国を名乗っている以上相手の規模は強大だろう。こんな下っ端たちで憂さを晴らすんじゃなくて、元凶をぶちのめしてこそ本懐って奴だろう?」


 勇者の言葉に、ゴルドラは深く頷いた。


「確かに…。おっしゃる通りです!ではこいつらをぶちのめしてから法国そのものを滅ぼしてやりましょう!」


(おやおや?この娘は賢さが足らないのかな?素養が邪竜過ぎる…。そういえばキングレギオンって一人で国を亡ぼせるとか力があるって言ってたから不可能じゃなさそうなところが冗談として受け止めきれん…。)


「悪いが、俺は勇者だからな。悪を挫き、弱きを守る人間でいたいから、虐殺や大量破壊とか絶対なしな。」


 そう言った勇者に対して、ゴルドラはようやく納得してくれたのか、深く頷いてくれた。


(ってわけ、それじゃあネゴシエーションと行きますかね。)


「まあ、そんなわけであんたらには口裏合わせた上で大人しくお帰り頂きたいんだけどいいかな?」


 僧兵の一人は苦虫を嚙み潰したような表情となり、啖呵を切ろうとしたが、勇者の後ろで仁王立ちしてこちらに殺気を向けてくるゴルドラにすくみ上り、たどたどしく怒気を下げた。


「そ、そんなこと言われても…リーダーは死に、金竜も解放されて、金の収穫も出来なくなった事実は隠しようもない。そんな状態でどうやって大人しく帰れというんだ!町にいる仲間はもちろん、ルネリオスに戻れば我々は処分されるし、法国がこの事実を知ったらこの町に軍を差し向けることだって考えられるんだぞ?穏便に済むわけがないじゃないか!」


(この状況でなかなかの正論をぶちかましてくるな。)


 勇者は相手の言い分に深く頷く。


「確かにな、この状況をありのまま持って帰ればそうなるだろうさ。リーダーのことは…残念だが不慮の事故があったってことで処理してもらって、今後の金の採掘については俺が何とかしてやる。」


「な、なんとかって…。」


 男はちらっとゴルドラを見る。刹那、憤怒にギラつくゴルドラの視線をもろに浴びてしまった。


「この期に及んでてめぇらと同じことするわけないだろうが…。」


 やれやれと勇者は《ブリオーン》を取り出し、適当に金貨を握ると地面にバラまいた。重厚なその落下音にゴルドラも含めた三人はギョッとする。音だけでそれが本物だということがすぐに分かった。


 ザクザクと金貨を出して見せる勇者はダメ押しとばかりに袋をひっくり返して振ると、今度は金塊がボトボトと落ちてくる。


 その様子に皆言葉を失ってしまった。あっという間に目の前には純金の山が出来てしまった。おそらく現代社会で換金したら100兆円はくだらないだろう。


 ゴルドラは金塊を一つ掴み、幻でもなく偽物でもないことを確かに実感した。


「金が生み出せるなんて…マスターはいったい?」


(その辺の事情を聴かれても全く答えられないのでゴルドラには悪いが苦笑いでスルーさせてもらう。本題はここからだ。)


「こいつを炎で溶かして金脈に流し込む。血液流し込んで金脈を偽装できるような神の仕組みなら、別に不可能じゃないだろ?」


 皮肉をたっぷりと込めて言い放つ。しかしながら、相手はぐうの音も出ずに黙り込んでしまった。これはもう完全に論破したと言えるだろう。


「てわけ、あんたらの筋書きはこうだ。任務遂行中によくわからない自称勇者に邪魔されたことにより不慮の事故が発生して金竜に踏みつぶされ、リーダーが死亡。その後、邪魔に入った自称勇者も金竜にやられてしまった。お前たちは二人で協力してその後のお勤めを果たして帰還するが、町にいる仲間たちにはリーダーの悲しい訃報を告げ、涙ながらに帰還。上長にも殉職したと伝える。OK?」


 とりあえず筋は通るはずだ。まあ、問題は俺たちが町の人間に顔を合わせないようにして町から脱出する必要があるぐらいのものだ。


 僧兵二人は互いに顔を見合わせて軽く頷いた。

 それを確認し、勇者は少し邪悪な笑みを浮かべた。


「一応言っておくが、さっき言ったシナリオ通りに事を運ばなかったり、真実があんたらの上層部にばれて大事になったなら、俺もゴルドラのことを抑えつけたりしない。その時は法国まるごと焼け野原にしに行くから覚悟しとけよ。」


 それがトドメの楔となり、僧兵二人は完全に屈服。


 その後は首尾通り、金竜に戻ったゴルドラが金を溶かして金脈に流し込む。ちゃんと採掘場で固まってくれるかは不安だったが、その後採掘場で試し掘りしてみると、なんといきなり金が取れていた。不自然なくらいザクザクと…。


(ちょっとご都合がよろしい気がするが、まあいいでしょう。)


 僧兵二人はというと、ミンチになったハーデラントの死体を袋詰めして運んでいる。まあ、気味が悪い絵だが、なぜかそこまで心理的に拒絶することはなかった。


 当然だが、人を殺したことなんてないし、人が殺された場面に出くわしたこともなければ凄惨な死体を見たこともない。普通なら震えや恐怖といった感情が湧いてくると思うのだが、まるでよくあることみたいに感じ、特に心は動かなかった。


(俺ってサイコパスなのかな?)


 若干自分が怖くなったが、ステータスやスキルには精神に係るものがあり、MIDの数値が高ければ恐怖や動揺が抑えられるようなので、その影響だと思うことにした。


 ついでに言うと、いつのまにかLVが12に上がっていた。

 どこでどう経験を積んだのかはわからないが、さすがは《超成長》というしかない。敵との戦闘だけでのレベルアップだとしたら正味ハーデラントからの魔法攻撃を一回受けただけでしかない。


(そういえばあのとき、自分では死んだと思ったんだけど生きてたな…。もしかしたらLVアップして致死を避けたのか?)


 LVアップ時に体力が回復する仕様となればそれなりに頷ける。


(これからはちょくちょくステータス画面見て、ちゃんとシステムを理解しないとな。知っていると知らないでは下手したら明暗を分けることになる。)

 

 そうこうしていると採掘場の入り口に辿り着いた。

 入口付近にはどうやら仲間たちが待ち伏せているようで、談笑が聞こえてくる。


「私たちが先に行き、引き離しますのでその隙にこの町から脱出してください。」


 僧兵二人がそういうと、勇者は頷く。


「ああ、わかった。ちゃんと約束は守れよ。」


 軽めに釘を刺したつもりだが、相変わらずゴルドラが後ろでヤバい視線を送っていたので予想以上に怯えてその場を後にした。


 一刻して勇者はゴルドラとともに外に出る。なんだか何日も穴倉生活をしていたような感覚があり、満天の星空の下で吸う空気が肺一杯に満たされる。ゴルドラは余計にそう感じているのか、目を細めながらも解放の喜びに浸っていた。


 勇者たちは山肌から駆け下りてその場を離れた。


 今夜は月夜だったためか、夜だというのに思いの外明るく感じた。電気のない世界の夜はさぞかし暗いだろうと思っていたが、取り越し苦労だったようだ。


 前世では大した運動やトレーニングなんて積んできたことなどないのに、体力が底なしのように感じられ、2~3時間山道を走り通しだったが大して苦ではなかった。

 当然ゴルドラも涼しい顔で着いてくる。これもパラメーターによる補正効果だとしたら、案外異世界でやっていくことに前世のハンデはないのではないかと感じた。


 そして、ようやく勇者が思い描くような異世界の草原、風を浴びることが出来、遠くには街が見えるところまでやってきた。


 勇者は《マッパー》を開く。何もない空間にホログラムのような形で地図が浮かび上がる。


「あれがロネリーの町かな?半島のくびれ部分にあるし、確かにこの町通らずにバラッカスに来るなんてことはあり得ないな。」


 バラッカスの町でロネリーの町を知らないことを言及された意味がよくわかる。

 勇者の使っている《マッパー》の魔法が珍しいのか、ゴルドラが後ろから覗き込んできた。


「これは…魔法ですか?初めて見ますがかなり便利ですね…。」


 非常に興味ありげで、とても感心している。


「金塊を生み出す技といい、マスターは人並み外れた能力をお持ちなのですね。」


 そう言われては俺も多少天狗になった。


「まあ、俺は勇者だからな!これぐらいは使えるのは当然の特別仕様というか…。」


 説明の仕方がわからないのでそういっておどけてみたが、ゴルドラは神妙そうな顔をする。


「先刻からマスターは自分のことを勇者だ勇者だと言っておられますが、マスターはその年齢でどのような偉業を成し遂げられたのですか?」


 その質問に勇者は目が点になった。


(えっ?勇者ってクラスとかジョブじゃないの?そういえば、ジョブ選択で勇者なんて職業はないし、クラス分けはレギオンランクでされている。ステータス画面にも当然ながら勇者という文字は一つもない。)


「いや、あの…勇者って一般的に何?」


 勇者が嫌な汗を浮かべながら尋ねると、ゴルドラは真摯な顔で答える。


「勇者とは偉業をなし、生きとし生ける者たちが賞賛と敬意をもってその者に送る敬称です。その他には英雄、聖人、救世主などがそれに当たりますね。」


(あ~なるほど…勇者って単語は完全に他己評価による他称であって、俺が勇者だ!って自称しているやつは一般的にかなり痛いやつってことね…。)


「うわっ!めっちゃ恥ずかしくなってきた!最悪じゃん!!」


 勇者は赤面し、蹲ってしまった。その様子を見てゴルドラは慌てふためく。


「あ、いや!すいません!勇者と呼ばれるための生き方や心構えを大事にされているということですよね?!非常に素晴らしいことだと思います!」


 なんか必死にフォローされているがこの事実はかなり勇者の心にダメージを与えた。


 以降、アレックスは人前で勇者を語らないことを心に決めたのだった。



第一章 黄金の鉱脈 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あっさり無限の金貨をばらしてしまいましたが、これは勇者のガバ行動なのか、それとも特に不利益にはならないのか。 お務めを果たしたと報告する作戦ですがドラゴンの翼や爪などのアイテムは持って帰れないわけで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ