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〜【正義】と【力】〜


◾️勇者

 その頃、俺は鉱山の奥地に来ていた。

 外はもう真っ暗、当然電気などもない洞窟だったが、入り口の松明を拝借して進入禁止エリアを超えて奥に進んでいった。


 この世界の【料理人】は逞しい様で、ジョブスキルにダンジョン探索用の便利スキルが沢山あって助かる。モンスターなどに襲われながらも頑張る料理人の姿に想いを馳せながら、スキルをフル活用して進んでいく。


 基本的にこの鉱山の内部を登っていくような形になっており、なかなかに険しい。


 生前、探検家でもなければサバイバル、登山すらしたことがない一般人には過酷な道のりだったが、鉱山夫が残していたナイフやロープ、つるはしなどを駆使してなんとか先に進めていた


 そして、お役立ちスキルの《危険察知》による知覚強化により、ジェイクたちの言っていたことが信憑性を増していくのだ。


 確かに聞こえる。

 呻き声、唸り声、たまに咆哮…。

 確実にいるのだ。人ならざる何かが。


 正直、それに出会ったからといってどうするでもない。ただ、その怪物が見たいという好奇心が俺を突き動かしていた。


 まだこの世界に来てモンスターに出会っていない。異世界ファンタジーに心躍る世代にとってこれは後先考えない行動と言うしかない。


 だが、一つ確信もあった。


「勇者がスルーしていいイベントじゃないだろ。」


 以上。


 別に倒せと言われたわけでも、その怪物に苦しめられてもいない以上、目的は本当にただ見に行くだけだった。


 そして、その怪物との対面はもうそこまで来ていた。


 ここだ。間違いない。


 全知覚がこの先の抜け穴だと言っている。そもそも何のスキルがない人でもここまでくれば誰でもわかる。子供でもやばいことを感じて逃げるだろう。


 不自然な高さまでにくり貫かれた巨大な空間…もはや自然に作られたものではなく、完全に人為的だ。


 俗にいうボス部屋感が半端じゃないということだ。


 普通ならビビッて二の足を踏むところだが、自然と足は前に進んだ。

 勇者という肩書がそうさせるのか、死がない故に恐怖を忘れたのか、とにかく、抜け穴の先に身を投じた。


 手に持った松明の炎に照らされた眼前の光景に、俺は思わず息を呑んだ。


「おいおい…嘘だろ…?」


 正直、予想をはるかに超えた存在がそこにいた。


 5mは超え、見上げるような巨躯、鋭い眼光に獰猛な牙、そして巨大な2枚の翼…これだけの情報でわかる。


 ドラゴンだった。


 そしてその鱗は金色に輝いていた。

 つまり、そこにいるのは金竜【ゴールドドラゴン】。


内心焦った。


(いきなり?いきなりドラゴン?!まだ俺はLV5の超若輩者なんですけど!!いやいや、焦らず騒がずここは《超鑑定》で相手の情報を確認するべし!案外この世界のドラゴンはLV5でもなんとかなるぐらいのソフトなモンスターかも…。)


 もちろん、その1秒後に絶句する。目の前に映し出されたステータスは…。


 LV72


 圧巻の貫禄と強さに脱帽というか、拙い希望にすがった自分を殴りたかった。


(LV72ってレギオンランクだと【キングレギオン】のほぼ最上位…こんなのとエンカウントして無事に済むのか?てか戦うとか絶対無理だぞ!!逃げるしか…。)


 そう思って踵を返そうとした時、金竜のステータスの左下に信じられない情報があった。

 そこにはアルカナナンバーⅧ【力】とあったのだ。


(アルカナキャスト!?こいつが?!こいつ、仲間にするの?!てか出来るの!!)


 そうと決まれば逃げる選択肢はない。全身から吹き上がる汗を感じながら金竜に向き合う。


 金竜もこちらに視線を向ける。その視線は怒り一色であることはだれの目から見ても明らかだった。


「あ、あのさ…。」


 交渉を試みようと口を開いた瞬間、俺の頭上を掠めて、直径1mほどの岩が飛んできた。

 唖然としながらも、意外としっかりしている俺の頭は、金竜が尾を振って岩を飛ばしてきたのだと理解する。


「性懲りもなく来たな!人間め!」


 怒気を隠そうともしない金竜は明らかな敵意を向けてきた。それに対して俺は必死に両手を振りながら応える。


「喋れるんだったら話が早い!なんでそんなに怒ってんの?!ちょっと話したいんだけど!」


「貴様らに受け続けてきたこの80余年の屈辱を前に、怒りの理由などと片腹痛いわ!もう二度と貴様らの思い通りに等させてたまるか!!」


 金竜の口から火球が放たれる。


 紙一重でよけるが、その熱気たるやこの空間の温度が10℃以上は明らかに一瞬で上昇している。火球を受けた背面の岩盤はマグマのようにドロドロである。


 あんなのまともに受けたら当然即死だ!


 息巻いて怒気を露わにしてくる金竜だったが、こちらに向かってこようとしない。ブレスと岩石飛ばし、今のところ全部飛び道具だ。どういうことなのか…。


 金竜をよく観察すると、天井から延びる巨大な鎖に首、四肢と5か所繋がれていた。


 その様子からわかることがある。金竜はこの場所を根城にしているのではない、捕らえられているのだ。


 頭の中ですべてが繋がっていく。

 立ち入り禁止区域に囚われている金竜、調査員が町の人々を追い出して何をしていたのか、どうして金脈が復活したのか…。

 それは金竜の体にある無数の傷、特に痛々しい翼を見れば一目瞭然だった。そして金竜から絶え間なく放たれる憎悪がその根拠…。


「お前、まさか…!?」


 その言葉を遮るように、体に電撃が突き刺さる。今まで当然体感したこともない痛みと衝撃が全身を襲った。

 体からぶすぶすと肉を焼く音をさせながら、俺は膝をついた。



◾️

「まったく、妙なネズミが迷い込んだものだ。」


 何とか意識を保ち勇者は背後振り返る。

 そこには白い法衣を身に纏った男が3人いた。そのうちの一人はほかの二人よりも上位であることは服飾から伺える。


 刈り込んだ金髪に深いしわを刻みながらもその顔つきは威厳と強者たる貫禄があった。


 男の蹴りが勇者の腹に突き刺さる。


「がっ!」


 まだ癒えぬ激痛をさらに刺激され、地面でのたうち回る勇者を見て加虐的な笑い声を上げる。


「ゴミは隅で大人しくしていろ。貴様には他にも用事があるからな。ここで死なせはせんよ。」


 金竜は小さく唸り声をあげ、勇者を一瞥する。


「こいつは貴様ら法王庁の人間ではなかったのか?」


 それを聞いて男は鼻で笑った。


「これだから長生きしているだけの竜族というのは愚かだな。こんな下賤のネズミとわが偉大なる聖母オルフェリアの信徒を見間違えるなど、長年の洞窟暮らしで視力を失ったか?」


 その言葉に後ろの二人もケラケラと笑った。


「通りでか…この小僧と話が噛み合わないわけだ」


 金竜から憐みの視線を感じる。


「何をどう間違えばこんなところに迷い込めるのか…。それなりに情報を集めていたら、ここに来ること自体が危険であることは容易に想像がついたはず…なのに…こいつは…。」


 突如、金竜の体が重くなり、首をもたげることも出来なくなった。金竜は渾身の力を込めて抗おうとするが、力を込めれば込めるほど力が抜けていった。


「くっ!貴様らは何度も何度も…!」


 苦虫を嚙み潰したような表情で、金竜は男に向けて殺気を込めた視線で睨みつける。

 そんな金竜の顔に向けて棘の鞭が放たれ、金竜の皮膚から血が流れた。


「まったく、家畜同然の分際で、聖騎士団 部隊長の【ハーデラント】様に対してなんて態度だ。10年ぶりに貴様を可愛がってやろうとわざわざ出向いてやったのだぞ?歓喜して自分から頭を垂れんか!このバカ者が!!」


 男、ハーデラントはいうと高速で鞭を金竜に打ち付ける。その鞭は竜の皮膚を切り裂き、一面はおびただしいほどの金竜の血でいっぱいになった。


「貴様の血がこのまま下層に流れ落ちる頃には金に変わるという仕組みを知ったときは、正直打ち震えたよ。まるで神が我々の繁栄を約束するためだけに貴様を遣わしたようではないか、なあ!?」


 強烈な一撃が首筋に入り、血が吹き上がった。その様子に勇者は今まで生きてきた中で経験したことがない怒りを感じた。


 なぜLV72の化け物がいいようにされているのかと疑問になったが、《超鑑定》のステータスをみたらその圧倒的な違和感に気づかないわけがなかった。

 確かにLVは72だが、各パラメーターが明らかに低すぎるのである。LV15であるハーデラントよりも力や守備などが劣っている。おそらくは…。


 勇者は金竜を繋いでいる鎖を《超鑑定》で見た。


 すると、どうやらこれは【ドラウプニル】と呼ばれるゴッズアイテムで、竜族に対して特攻を発揮し、能力を1/1000以下にまで下げてしまい、鈍足効果まで与えるとのことだ。

 竜の力を吸い上げながらその効力を維持しているので、捕縛している竜が死ぬまで効力が解けることがないという。


 もはや生き地獄である。


 金竜が勇者を見て…いや、人間を見てあれほどの怒りを向けてきたのは当然である。金竜は何か悪いことをしたわけじゃないのだろう。ただただ人間の欲望のために連れてこられ、捕らえられ、傷つけられ、搾取されているのだ。


「ぐっ!!」


 体中に駆け巡る怒りは体の痛みを忘れさせてくれた。勇者はよろよろと立ち上がる。

 勇者になど目もくれず、ハーデラントは上機嫌で金竜をいたぶり続けていた。


「よーし、そろそろあれを用意しろ!」


 部下の二人は部屋の奥から巨大なノコギリのような刃を持ち出してきた。全長3mほど、両端に持ち手があるそれは二人で木を切り倒すときに使う鋸歯状のあれに似ていた。


 部下は動けなくなっている金竜の背中を登り、翼の根元に刃を当てる。


(まさか…?!)


 ハーデラントは高笑いした。


「まったく、トカゲの再生力とは恐れ入ったものだな?10年前切り落としてやった翼がここまで再生するは…。伸びすぎるのも困りものだし、ちゃんと手入れしてやるよ。」


 そう言って薄汚い笑みを浮かべる。それを聞いて部下たちもケラケラと笑う。


「爪も全部剥いで牙も抜いて帰りましょう。竜の素材は貴重品ですからね。今回のお布施で我々もまた出世できますよ。」

「違いないですね。アハハハハ!」


「いい加減にしろよ…お前ら…!」


 笑うのをやめ、三人はいつの間にか立ち上がっていた勇者に視線を落とした。


 息を荒げながら血走った目でこちらに向かってくるその姿に、部下の二人は多少気圧された。

 だが、ハーデラントは鼻で笑い、勇者に向き直る。


「なんだなんだ?きさまもこの竜で一攫千金でもしたかったのか?残念だが、これは我々オルフェリア教会の官物でね、貴様ごとき下賤のものが手を出していい代物じゃないんだよ。」


「人間の腐った欲望を正当化するのに神様を使うんじゃねぇよ。生臭坊主ども…。」


「あ?」


 勇者の一言に、ハーデラントの顔が引きつった。勇者一歩ずつ距離を詰めていく。


「あんたらの宗教がどんだけおありがたいもので、どれだけの信者がいるかは知らないが、末端のあんたらの腐り様からして碌なもんじゃないな。神様を言い訳にして、好き勝手してもいいなんて教えでも説いてるのかよ。」


「その薄汚い口を今すぐ閉じろ!!」


「やめねぇよ!てめえらこそ下卑た口元から噴き出してる涎とっとと拭けよ!」


 勇者の言葉に部下の二人は慌てて口を拭う。

 ハーデラントは額に青筋を浮かべて怒りを露わにした。


「小僧…町でバラまいていた金貨の件があるから生かしておいたものの…。その減らず口を今から聞けなくしてくれるわ!」


 ハーデラントが魔法の詠唱に入った。

 勇者は構わずハーデラント達に近づいて行く。


「どんな時代でも、どんな世界でもこんなクズ野郎がいる…。俺が戦うべき敵は、竜でも魔物でもない!絶対に許せない悪だけだ!!」


 勇者は《インベントリー》から《エクスカリバー》を取り出した。


(『奇跡を起こす』それが何なのか全くわからないが、今この時、この瞬間こそ、あっていい奇跡があるはずだ!)


 勇者はゆっくりと《エクスカリバー》を引き抜いていく。

 その刀身は透き通るようなガラスのようであった。

 稲光のごときエネルギーがほとばしり、目を焼くような輝きを放つそれは、伝説の聖剣エクスカリバーの名に恥じぬ、見るものを圧倒する存在感であった。


 その圧倒的な威圧感にハーデラントは詠唱も忘れて見入ってしまい、それは二人の部下、金竜も同様だった。


(いける!)


 勇者は確実な手ごたえの元に、鞘を投げ捨て、《エクスカリバー》を大きく振りかぶった。


「これが俺の…勇者の…正義だ!!」


 その勢いに呼応したのか、振りかぶった刀身の輝きが何倍にも膨れ上がった。

 あまりに膨れ上がった刀身は勇者の意図に反してハーデラントの頭上を掠め、その後ろにいた金竜の体を横なぎに一閃してしまう。


(えっ!うそっ!?)


 渾身の力で放たれたパワーと遠心力は当然止めようがなく、そのまま金竜を真っ二つに切り払ってしまった。


 驚くほど手応えがなく、当たってないのではと下手な願いを込めたりする。だが、それはハーデラントの笑い声によって打ち消された。


「バカめが!どうやら身の程を超えた武器の力に振り回されたと見える!あれほどの威力、金竜は生きてはおるまい!」


(冗談だろ?何が奇跡だよ?!こんな笑えない幕切れ…有り得ないだろ!)


 動揺を隠せない勇者に対してハーデラントはトドメとばかりに魔法の詠唱を開始する。詠唱が完了すると、ハーデラントの両手いっぱいに火球が出現した。


「アハハハハ!コケ脅しが!驚かせよって!これで終わりだ!」


 ドガァァアアン!!


 一瞬何が起きたのかわからなかった。


 あの大きな火球が飛んでくると思い、顔を伏せた瞬間、机をたたいた音を千倍大きくしたような音が部屋中に響き渡った。


 恐る恐る目を開けると、ハーデラントが消えていた。代わりに、壁にはクレーター出来ており、その中心には破裂したように出来た血だまりの中に、人間だったものがいた。


「う、うわぁあああ!!」


 部下2人の声が恐怖を帯びた悲鳴を上げる。彼らは金竜の背中にいたはずだが振り落とされて、地面に転げ落ちていた。


 勇者は改めて現状を理解した。


 金竜を拘束していた【ドラウプニル】はことごとく砕け散っており、力なく横たわっていた金竜は体を力強く擡げていたのだ。


 勇者には見えていなかったが、ハーデラントは魔法を放つその瞬間、自由を得た金竜の前足の一撃により、まるで虫けらのごとく吹き飛ばされ、壁にクレーターを作って炸裂死した。


 改めて勇者は金竜のステータスを確認する。

そのパラメーターは全ての項目で10000~30000超え。

 ハーデラントのパラメーターが総じて40に満たないことを考えると、この戦闘力の差こそ本来の力であり、金竜は完全に解き放たれたのだ。


 ようやく頭が回ってきた勇者ははっとなった。


「奇跡…もしかして奇跡って、あいつらを倒すってことじゃなく、こいつを解放することだったのか…。」


 80余年ぶりに力を解放され、金竜はまさしく翼を伸ばし、大きな咆哮を上げる。僧兵2人はそれに対して失禁の上、気絶してしまった。


 だが、逆に勇者には疲れを吹き飛ばすほどの高揚感を与えてくれた。雄々しきその姿はまさしく竜の威厳たる風格そのものだった。


 金竜は勇者に対して向き直り、急に頭を垂れ、体を伏せた。それはまるで、王の前に傅く騎士のようであった。


 突然のことに勇者が反応に困っていると、金竜はゆっくりと口を開く。


「わが封印を解いてくださったこと。心より感謝する。」


 初対面と違い、全力で敬意を示してくる金竜に対し、勇者は軽いパニックになりながら返答する。


「え、あ、いや、それはなんていうか偶然だけど…。ま、まあよかったな!お互い!」


 空笑いする勇者に対して金竜は目を細める。


「あなたは私への仕打ちに対して、同族であるはずの人間を咎め、心から激怒してくれた。そして、あなたが貫こうとしている正義に、私は心から感服した。」


(え?なに?褒められているのは分かるけど、俺なんて言ったっけ?なんか必死過ぎたせいでなにを宣ってたのか覚えてないんだけど…めっちゃ恥ずかしいこと言ってた気がする!)


 赤面する勇者を尻目に、金竜は真摯な目で勇者を捉える。


「この御恩は私の一生をもってお返しさせていただきたい。然らば、あなた様をマスターとし、従者として末席においていただければ幸いでございます。」


 思った以上の感謝の意に勇者は唖然としてしまった。


「俺の仲間になってくれるの?ってか一生って…。」


「言葉の通りです。死が二人を分かつまでお仕えさせていただければと考えております。」


(この世界の竜ってめっちゃ義理堅いな!こいつが特別なのかもしれないけど、これってもしかして…。)


 勝ち確入ったんじゃね?


(いきなりLV72のキングレギオンが仲間になるとか…マジでぶっ飛んでる!まだ序盤だぞ?どこぞのゲームの【序盤お助けわんこ】のレベルじゃねー!)


 あまりのことに動揺を隠せない勇者だったが、こんなの断る理由なんて一つもない。ゲームクリア条件のこともあるし、勇者は金竜の鼻頭を触りながら顔をほころばせた。


「是非もなしだ。こちらからもお願いするよ!」


 なんだか金竜が少し赤面しているようにも見えるが、気にせず鼻頭をなで続けた。


「そういえば、お前名前はなんていうんだ?俺の名はアレックスっていうんだけど…。」


 金竜は軽く首を振る。


「私は真名しか持ち合わせておらず、この世界における名を持ち合わせておりません。」


「真名?」


 勇者は聞きなれない言葉に首を傾げた。


 【真名】について金竜が教鞭を振るう。

 この世界に生きとし生けるものにはすべてに真名が授けられており、それは個人を特定する絶対の名であり、その名は自分以外の誰にも知られてはいけない。

 簡単に言えばとマイナンバーに似たようなものであり、他者に知られるとそのものの意志を完全に支配することが可能となる。すなわち逆らえなくなってしまうのだ。


 どこかで聞いたことがある話だと勇者は思った。


(あっ!これナビに言われてた自分の本当の名前は絶対教えちゃダメなやつ!)


 しかしながら、その真名を使った契約が存在し、それを【真名契約】と呼ぶ。


 真名契約は絶対の忠誠を誓うということで、裏切りなど一切できない不可逆的な関係の構築に使うことが出来る。


 当然ながら、従属側にもメリットがある。

 それは【ユニークスキル】の発現である。


 レギオンという種の潜在目的として、より上のランクを目指したいと思う本能から、ユニークスキルの発現は大きなメリットなのである。弱者が強力な力の発現を求めて強者と真名契約を行うことは一つの摂理と言える。


 その拘束力は絶対であり、契約解除はどちらかが死ぬしか解除方法はない。


「ですので、マスターがお構いなければ私と真名契約を結んでいただきたいのです。」


 なるほど、と勇者は頷いた。正直結ぶ側としてはデメリットがないため、勇者が断る理由はない。むしろ相手のリスクが高すぎて本当にいいの?と、不安になるぐらいだ。

 生殺与奪を相手に握らせる行為と同義であるためである。


 念入りに勇者は確認を試みるが、金竜の意思は変わらない。


(まあ、これはこれでこの世界の仕様ってやつかな。まあ、悪用なんてしないし。)


 お互いの意思を確認した上で、真名契約が発動する。金竜の真名が勇者の頭の中に流れ込んでくる。

 言葉や文字にすることは出来ないようで、認識できるがアウトプットとしては全く表現できないのである。


 これはさすがにメタ的な表現となるが真名を契約者以外に記録されることを防いでいると考えられる。つまり、真名を第三者に伝えることを防止するための情報漏洩防止対策なのだろう。


 初めての真名契約に感慨に耽っていると、金竜は最後に前置きをする。


「それでは命名の儀をお願いします。」


……


「はい?」


 小首を傾げる勇者に対して金竜は真顔で答える。


「名前を付けるんですよ。この名付けはユニークスキル取得にも繋がる重要事項です。さあ、お願いします。」


(そ、そうですか…名付けね?まあ、仲間にしたら名前つけるのはよくある話か。しかし名付けって言われても、子供はもちろんペットも飼ったことないし、ゲームでも常にデフォルト名だった俺としてはちょい難関だな…。うーん、うーん…。)


 勇者は頭からぷすぷすと湯気を吹き上げながら考える。


(まあ、モンスターの名前とかって見た目とか種族名からサクッと決めることが多いよな?スラりん的な感じで…って法則に当てはめれば、ドラりんか?いや、金竜…ゴールドドラゴン…。)


「よし決めた!お前の名前は今日から【ゴルドラ】だ!」


(う~ん、我ながらオリジナリティの欠片もないが、これ以上生みの苦しみを味わうのは勘弁ってわけで、これで頼む!いやとか言うなよ?!)


 恐る恐る金竜の顔色を窺うと、意外なことに金竜は満足そうに頷いた。


「承知した。これより私はゴルドラと名乗り、ここに【真名契約】の完了を宣言する。」


 高らかな金竜の声とともに、まばゆい光がゴルドラを包んだ。その光に目が眩み、勇者は右腕で顔を覆った。

 光の収束とともに、勇者はゆっくりと視界を取り戻していく。


 そこには、巨大な金竜の姿はなく、代わりに、長身で筋肉質な体躯の女性がいた。


 勇者はただ茫然と立ち尽くしたのだった



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