〜貧民街での出会い〜
▮
「着いたー―――――!!!」
勇者は大きく両手を挙げ、目の前に広がる巨大な町を見て興奮のあまり声を張り上げた。
高さ30mにも及ぶ巨大な防壁の中央には10mはあろうかという巨大な門が大きく開かれ、その両脇には武装したテンプルナイトが常在している。
往来は激しく、荷馬車などが何台も検問に列をなし、観光なのか冒険者なのかは分からないが、多くの人も同様に、門の前で取り調べを行い、入出手続きを行っているのが窺えた。
検問は特に重々しい様子はなく、武器の没収もされていない。
検問では外から持ち込むものと持ち出すものを照合するようであり、どうやれそれにより、入出に課税が課されるシステムなようである。
つまり、町で買ったものは町の中では非課税だが、持ち出すと品物に応じた課税が徴集される。逆に商売などが目的で町に持ち込む場合は予め課税がなされるということである。
(これって収納や《ブリオーン》はどうなるんだ?)
勇者の抱いた疑問は厳密に言えば違法であろうことは疑う余地もない。しかしながら、これから勇者たちが行おうとしていることもまた違法であることから、この事実を開示すること自体不毛であり、心苦しくも知らぬふりを突き通すしかなかった。
正直、勇者にはもっと懸念するべきことがある。
(俺の顔…割れてるんじゃないだろうな?)
バラッカスでの騒動、魔女退治と何かと法国とは因縁を抱えている中で、綱渡りの口止めをしてきている中、どれかでも破綻していればお尋ね者になっている可能性があるのだ。
一つ安心材料として、ロネリーの町では3日も過ごしてそう言った気配はまるでなかったことから大丈夫だとは思うが、検問を終えるまで生きた心地がしなかった。
そうした勇者の不安は杞憂に終わり、3人は問題なく門を通過して、ルネリオスの門前町に入ることが出来た。
それは勇者にとって目を輝かせるような光景。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる石造りの建物が列挙し、大きな街道には様々な露店が立ち並び、大勢の人々が活気に溢れた声を上げている。
美しい石畳と店舗が視界を埋め尽くす中、その先にはロネリーのカテドラルなど足元にも及ばないような巨大な建物があった。
「あれが…法王庁ルネリオスのカテドラル…か?」
勇者は思わず嘆息の声を上げた。
ヨーロッパにも巨大な聖堂はある。
前世でドイツのケルン大聖堂を見た時にはその荘厳さと神秘性と巨大さに呆気にとられ、息を呑んだ経験があるが、スケールはその規模をはるかに超えていた。
教会というよりも完全に城である。
勇者は興味本位から地図を唱え、この町の全容を確認した。—町に入ったことで勇者が見ていなくても敷地内の構図は見える。建物の中は不可—
勇者たちが今いる正門はルネリオスの全景の北部に位置している。正門から中央のカテドラルを中心として弧を描くように防壁が築かれていた。その防壁はおおよそ200度の円形になっており、残りの160度は南に聳える岸壁が自然の防壁を成している構造である。
カテドラルの周りは商業地区、文京区、工業地区や若干の農地、そして大半は居住区となっている。
カテドラルは巨大な階段を経て二階に大聖堂を要している。だが、二階はそれだけに留まらず、門前町とは全く雰囲気の異なる豪奢な住宅が広がっていることが分かった。
(これは、上流階級と住居を住み分けているって感じかな?)
巨大な建物の二階に住居が列挙しているという構造を想像するだけで、どれだけこのカテドラルが巨大かがお分かりいただけるだろう。
当然のことながら、その地区には一般の住人や旅人では侵入は不可能らしい。
ということで、勇者が訪れることが出来るのはカテドラル周辺の門前町と、二階は礼拝用の大聖堂までということになる。
勇者はまるで位置検索アプリの様に、スワイプで拡大縮小しながら地図を操作して簡単な情報収集を済ませていると、ノアが勇者の頭の上から嘆息の声をあげる。
「すごい、便利なの。こんなのロアちゃんの魔法でも見たことないの。」
ゴルドラの時と同様にノアも地図には興味津々だった。
(これ魔法っていってたから代替魔法じゃないのかな?それともプレイヤーだけの固有の魔法なのか?)
小さな疑問が浮かんだが、勇者は説明が苦手なので笑って流してから「さて」と切り出す。
「周りは誘惑に溢れてるけどご存じの通り俺たちは一文無しだ。というわけで早速だが目的を果たすためにみんなで手分けして捜索しようと思う。」
なんとも悲しい宣言をしながらも、ゴルドラは強く頷いた。
「はい!とっても美味しそうな匂いがします!早くお金を手に入れて食事と洒落こみましょう!!」
(意気込みは買うが涎は拭け。)
勇者が毒づいていると、ようやくノアがひょいと勇者の頭から地面に降りた。
「この町は円形になってるの。だから基本的に二手に分かれて探すのが得策なの。ってわけで、ノアはゴルドラと一緒に右側を見るの。」
ノアが一方的にそう告げる。勇者はさっきまで肩車していた相手が急にいなくなったことに一抹の寂しさと疑問が浮かんだ。
「なんでゴルドラとペアなんだ?」
珍しくノアが自分を選んでくれたことに対して破顔しているゴルドラを尻目に、ノアは表情を変えずに言い放つ。
「ノア、戦闘能力ないの。可愛いノアは襲われたら大変なの。その点、パパよりもゴルドラの方が頼りになるの。」
(めっちゃ自己的な保身が理由!!)
すこしショックを受けながらも、ノアはこういう奴だと早々に納得した。
ゴルドラはそんなノアの打算を知ってから知らずか、胸を叩いて意気揚々としている。
「お任せください!ノアさんは私が守って見せます!」
(お前が守るのは俺じゃなかったか?)
真名契約をしているマスターを差し置いて何を言ってるんだと勇者は毒づきながらも、実はさほど心配はしていなかった。
なんだかんだ言って勇者のレベルはもうLV39である。《超成長》の効果は伊達ではなく、前回の戦闘で聖騎士団長のハイレンよりもレベルでは高くなり、ステータスで言えば勇者を害せるような悪漢などそうはいない。—当然、戦闘スキルと経験の少なさは否めないが—
逆にノアはレベル3…。
ロアとのギャップが凄まじい。
逆に非戦闘スキルにおいては無類の数を誇っているのだが、とてもじゃないが通行人に絡まれただけでも危険だろう。この判断は正しいと納得するしかなかった。
「それじゃあ、2時間後にノアから《魔力通話》するの。念話はすぐに妨害や盗聴される危険性があるから街中では絶対ダメなの。」
ノアの忠告は代替魔法の大きな短所である。誰でも使えるが故に、セキュリティー面が兎に角甘いのである。
特に、ルネリオスのような大都市では魔道具を使って念話を常に監視している可能性は非常に高い。その点、《魔力通話》は完全に個人に波長を合わせるため、安心して使用できるのである。
「それじゃあ、2時間後にまた!」
勇者はそう言って、ゴルドラとノアと別れ、大通りから左の路地に入っていく。
裏路地に一歩入った瞬間に漂うアウトローな空気感に、勇者は思い出した。今から自分が探そうとしているのは完全に非日常な裏世界なのだということを…。
その瞬間に勇者は一人で足を踏み入れたことを激しく後悔したのだった。
▮???
日が部屋に差し込むと同時に、私は粗末な木の板にボロ布を重ねただけのベッドから起き上がり、大きく伸びをする。
まだ血が通いきらない頭と足を何とか動かし、寝ぼけ眼で水瓶に向かった。
正直キレイとは言えない雨水をためているだけのものだが、水は貴重だ。贅沢は言えない。
顔を洗うと薄汚れた粗末な寝間着から同じく薄汚れた普段着へと身支度する。
よれたシャツに貰いものの布を繋ぎ合わせたエプロンドレス、いつもの格好だ。
同じく貰い物の手鏡を覗き込む。作りが悪く歪曲して見える鏡に自分の顔が映り込む。
長いブロンド髪、碧眼、そしてその両目尻の下にある赤い線の様な刺青。
ホクロの様に小さいそれは物心ついた頃からあり、そのせいで私はあまり自分の顔が好きではなかった。
簡単な身だしなみをすると、窯に火を入れ、食卓の準備をする。換気の悪い土づくりの家に充満する煙を外に逃がすため、木で作った窓を開け放つ。
まだ時間としては5時過ぎだろうか?白み始めた空と共に涼しい風が吹き込んでくる。
砂埃を舞い上げる風はとても気分のいいものとは言えないが、朝を告げる小鳥の囀りは気分を高揚させてくれる。
小さく鼻歌を歌いながら、私は朝の食事の準備をしていく。
夜は火が使えないので夕食は食べていない。だから朝はお腹がペコペコだ。
貰いものの野菜と干し肉の切れ端から粗末なスープを作り、何日前に買ったのかも忘れた黒パンを切り出す。
そうしていると、部屋の奥から物音がした。お母さんが起きたようだ。
程なくしてお母さんが顔を出した。
やつれた体に白髪に染まった頭髪。
しかしながら、顔立ちは年の割には綺麗だといつも思う。若い頃は嘸かし美人でモテただろうなと邪推してしまう。
「おはよう、アリー。今日も早いね。手伝おうか?」
私は首を横に振る。
「大丈夫。後は卵を焼くだけだから。テーブルに座って白湯でも飲んでて。」
粗末なテーブルには朝方に沸かしたポットが置いてある。
私たちの飲み水はそのまま飲めるようなものじゃない。
煮沸しても嫌な香りが抜けないため、本当ならお茶やエールにしたいところだが、生憎お茶は高く、アルコールに弱い私達ではどちらの手段も選べない。エールは雨の日の後、水が潤沢にある時に作る副収入の様なものだった。
お母さんは素直にテーブルに腰かける。最近体が弱ってきているお母さんに、あまり働かせたくないのが本音だ。だから少し早起きして朝の支度は全部やっておくのが私の日課となっている。
目玉焼きが完成すると、テーブルの上に二人分のスープと黒パンを一緒に並べ、私もようやくテーブルに着いた。
そして、食事の前に二人で祈りを捧げる。
『母なる大地の女神オルフェリアよ。今日も生きる糧をお与えくださり、感謝いたします。大いなる愛と慈悲に心からの祈りを…。』
一分近くに及ぶ無言の祈りの後、二人は食事を始める。
敬虔なオルフェリア信徒として祈りの儀式は毎食欠かしたことはなかった。
食事が終わると出かける準備を始めた。
今日も忙しい一日が始まる。
朝は農地を所有するカザフさんの手伝い。
お給金の代わりに野菜を分けて貰えるので、食事の糧として毎日欠かしたことがない仕事。
昼からは酒場に行って給仕のお仕事。
昼は酒場が一番盛況な時間なので飛び込みでも雇って貰える。
酒場と言えば夜、と思われるかもしれませんが、夜出歩く事はこの町では認められていません。
理由は明かりを灯す油がないからです。
なので夜になると町は真っ暗になる為、皆家に帰って寝てしまうのが常となっています。
一説によると、火事や夜中の会合を防ぐためなどと言われていますが、ともあれ昼間は一番の稼ぎ時。この仕事は給金は出ませんが、昼の賄いが出たり、お客様からチップとして現金が貰えます。
まあ、たまに酔っ払った客からしつこい誘いを受けたりしますが、そこは町のみんなが守ってくれるので安心です。
そうして仕事を終え、稼いだお金で買い出しに行きます。
日の傾いたこの時間なら売れ残りの食材や日用雑貨が値引きされている事が多いので、露店を見て回って家路に着く。これが私の一日の生活です。
今日はあんまり商品が残ってないな…。
そう思いながら露店の立ち並ぶ通りを歩いていると、通りの先にいる一人の男性に視線が止まった。
緑の髪に奇抜な服装…どう考えてもこの町の住人じゃない…。繁華街から路地に入り込んでここまで来てしまったのだろうか?
この町は決して治安が良くない。スリやカツアゲ、危険なお店に誘い込むのは日常茶飯事だ。
でもそれは外部の人間にとって…と釘を刺しておきたい。
この町の住人は決してこの町で生きる仲間から盗んだり襲ったりしない。
それは貧民街と呼ばれるこの町、ソドムで生きる者達にとって暗黙の了解なのです。
なので、私にとっては危険がないこの町でも、彼のような外部の人間には危険な場所だ。彼を早く大通りに帰してあげないと…。
私は彼に近づいて声をかけた。
「あの…。」
彼がこちらに振り向き、視線が合った瞬間。
まるで時間が止まったような気がした。
綺麗な顔…。歳の頃は同じくらいだろうか?
吸い込まれそうな赤い瞳を見つめて続けていると、次第に顔が火照り始めた。
え?なに?なんなの⁈これ⁈
私はあたふたとして自分の顔を隠し、彼から目を背けてしまう。
「え?あ、あの…⁈」
彼の声が背中越しに聞こえる。当然困惑しているだろうことは声色から察するに余りある。
しかし、それ以前に私の方がパニックだ。こんな事は今まで生きてきて一度もない。
確かに彼はとても…その…格好いいとは思う。
均整のとれた目鼻立ちやシミひとつない肌には正直驚かされる。
それにしたってこの胸の早鐘は異常だ!
まるで魔法にかけられたかのようなこの感情は、私の中で激しい葛藤になり、走って逃げ出したい衝動に駆られる中、自身の頬を思い切り両手で叩く事で沈静化をはかった。
パン!っという音を立て、赤く膨れ上がった顔で再び彼に向き直る。
努めて笑顔で向けた視線の先は、心配してオドオドとする彼の姿があった。
「な、何かお探しですか?ここは貧民街ソドム。あなたは旅の方だとお見受けしますが、この場所にはお求めになるものは無いと思いますが…。」
精一杯の平静を保ち、当初の目的を達成させた。
一先ず声をかけた体裁が保てた事でホッと安堵の息を吐く。
当の彼はポリポリと頬を掻きながら、少し俯き加減で視線を泳がせていた。
「えっと…あの…ここに雑貨屋があるって聞いたんだけど…それを…その…探してて…。」
彼から歯切れの悪い答えが返ってくる。
私の動揺に感化されたのか、彼もまた少ししどろもどろだ。
それにしても、雑貨屋?この町で建物として店を持っているのは少ないので当然知っている。
でも…。
「えっと…雑貨屋は確かにありますが…大したものは取り扱ってませんよ?むしろ大通りの方がいい物が並んでいると思いますけど…。」
「あ!えっと…あの!そうなんだけど!大通りには無い掘り出し物があるとかないとかで行ったみたらどうだって勧められて…。」
彼は慌てたようによく分からない身振り手振りをした後、取り繕うように返答した。
私は少し怪訝な顔をしたが、雑貨屋の店主とは顔馴染みであり、とても良心的な人だ。彼に対して酷い商売をしたりはしないだろうと思い、私は案内を買って出ることにした。
「すぐそこなので、案内しますよ。」
私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「本当に⁈ありがとう!助かるよ!」
その言葉に私の心は幸福感に満たされていた。
喜んでいる彼の笑顔が眩しく、数秒見惚れてしまったところで我に帰る。
「じゃ…じゃあ!行きましょうか!!」
自分でも分かるぎこちない動きで彼を先導して歩く。その中で、彼の視線を背に受けてもなお顔の火照りが収まらない。
もう…絶対変な子だ…。あ〜もう…いやだ…。
世間話の一つも振ることが出来ず、私は俯きながら雑貨屋までの道を歩くのだった。
▮勇者
「ありがとう。助かったよ!」
上擦った声でそう言うと、彼女もまたきごちない動きで頭を下げる。
「い、いえいえ!それでは、失礼します!!」
そう言うと、彼女は足早にその場を去って行ってしまった。
… …
めっちゃくちゃ緊張したーー!!
俺は心の中で絶叫し、酸欠状態からようやく解放されたかのように肩で息をしていた。
何?何なんだ⁈アレは?
彼女を一目見た時から頭が真っ白になって…心臓が痛いぐらい爆音が鳴って…。
外に聞こえてないよな?アレって何なんだ?
店の前で佇み、去っていく彼女の背中を追う中で一つの仮説が浮かび上がる。
もしかして…一目惚れ?おいおい…嘘だろ?
こんな分かりやすい事あるか?今まで生きてきて、そりゃあ可愛い子も見てきたけど、あんなに心と体が思い通りにならない程、胸が高鳴ることなんてないぞ!!
思わず誘惑の魔法を疑ったが、《オートキャンセラー》がある俺にその手の状態異常が効く訳ないんだ。
アナウンスが聞こえる事はなく、ステータスは至って正常…。つまりそれは、仮説の信憑性を高める事になった…。
冷静になって彼女のことを思い返す。
ハッキリ言って、地味だ。
絶世の美女というわけでもスタイルがいい訳でもない。
至って普通…。
服装も貧民街の住人らしく粗末な物で、彼女を引き立てるものなど何もないように思える。
だが、論理的に説明がつかないが、この胸の高鳴りだけは真実だ。
何故もっと話をしなかったのか?せめて名前だけでも聞いておけば…。
後悔と自責の念に押し潰され、店先で思わず蹲ってしまう。
何故彼女にここまで心惹かれるのかは全く持って意味不明だが、素直に自分と向き合ってみれば出てくる答えは一つだ。
もう一度…彼女に逢いたい…。
そんな浮ついた頭に突如として旧式の電話のベルのような音が鳴り響いた。
ギョッとして思わず立ち上がり、狼狽する俺の頭の中に、聞き慣れた声が響いていた。
『パパ、ノアなの。こっちは空振りなの。パパは見つけたの?』
《魔力通話》だ。俺は慌てて頭の中で声を紡ぐ。
『あ、ああ。俺の方は見つけた。今店の前にいる。』
『おー。パパ、出来る子なの。それじゃあ、パパの場所に今から転移門を開くの。』
ノアがそう言うと、目の前に扉が出現する。
ギョッとして身構える俺と何人かの通行人達…。
扉の中からはゴルドラと、肩に乗ったノアが現れた。
あまりにも常識離れした登場に俺を含め通行人達も面食らっていた。
「どこでもドアかよ…。」
「ブイ。」
ノアがVサインをする。
いやいや、目立ち過ぎじゃないか?なんか通行人がドン引きして逃げ出してるし…。
「さすがマスターですね!しっかりと目的の場所を見つけるとは!敬服いたします!」
そして跪くゴルドラ。
コイツら空気読めねぇな?
「人目が怖いからさっさと中に入って用件済ましちまおうぜ!」
俺は面倒事を予期し、率先して店の中に入る。
中には如何にも不機嫌そうなカタギには見えないおじさまが待ち構えていた。
「店の前で何グダグダやってやがんだ?ああ?テメェらみてぇなやつらに売るもんなんざねえよ!とっとと失せな!」
店に入った瞬間に門前払いを受けて焦る俺。
確かにここは店というよりガラクタ置場…。雑然と積み上げられたゴミの山は、雑貨屋というよりジャンク屋と言った方がいい。
俺は慌てて言葉を紡ぐ。
「あ…えっと…すいません!あの…実はですね…あの…。」
「凄い風で吹き飛ばされそうになったの。」
しどろもどろになっている俺の言葉を遮り、ノアが言い放った言葉で、店の親父の眉がピクリと動いた。
「ほう?嬢ちゃん…それは何色だった?」
この問答は…。
そう思ったのも束の間、ノアがすぐに続きの合言葉を口にした。
「黒だったの。」
ノアの言葉に親父はカウンターに項垂れていた体を起こし、カウンターの上を指で小突く。
ノアが俺を見上げて視線で合図を送ってきた。
流石の俺も為すべきことを理解し、収納に仕舞っていた紹介状を取り出すと、カウンターの上に置いた。
親父は封を切り、中身を確認すると徐にカウンター下で何かを操作する。ー多分レバーのような物を引いたー
すると店の入り口に施錠がされ、窓に暗幕が施される。
そして、商品棚が動き、地下への階段が目の前に現れた。
「ようこそ。シュヴァルツ=シンジケートへ。」
親父は先程の態度を一変させ、仰々しく頭を下げて俺達を歓迎してくれた。
「さ、いくの。」
ノアが率先して地下への階段に向かう。俺とゴルドラは慌ててノアの後に続いた。
度胸あり過ぎじゃね?
見た目の幼さからは考えられない場慣れ感に圧倒されながらも、俺達は闇の界隈に足を踏み入れたのだった。




