〜精霊達の奴隷区〜
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見渡す限り広がる森。その森には様々な果実が実り、それらを小さな亜人が収穫する。
彼らは【ホビット】と呼ばれる【妖精族】の仲間である。
いっぱいに果実が盛られた収穫カゴを担ぎながら息も絶え絶えになっているホビットが1人。
彼女は【ポルテ】。
100cmに満たない身長だが、れっきとした大人の女性だ。—等身が低いため幼く見えるが—
三つ編みにした長い金髪は汗と泥に塗れ、緑のエプロンドレスも同様にくたびれ、汚れ放題の状況で収穫作業を行っていた。
(ここが終わったら畑で野菜を収穫して、家畜に餌をやって畜舎の掃除…。男たちが捕まえた魚や出荷した肉の燻製作業…。エールの仕込み、エリアごとに箱詰め作業をしたら、逆にエリアからの納品物の帳簿確認…。そこまで終わったらみんなのお食事を作って洗濯して…。一体いつになったら仕事が終わるのだろう?)
時計のないこの空間には正確な時は全く分からない。何時間働き、どれだけの時間休憩することが出来ているのかはすべて体感になる。
ポルテの感覚が正しければ、20時間は休憩なく働き、食事と睡眠時間で2時間ほど休めばまた仕事が始まっている。
この場所には各地から集められたホビット達妖精や精霊たちが集められている。何をさせられているのかはポルテの仕事内容を見れば明らかだ。
食糧生産、つまり第一次産業を強要されているのである。
鬼王会の物流拠点に建設されている巨大プラント。広大な敷地内には各地で集められた精霊によって地下でありながらも緑豊かな自然により、生物と作物が作られていた。
火の精霊【サラマンダー】が熱と光をもたらし、水の精霊【ウンディーネ】は豊かな水源を作り出し、土の精霊【ノーム】は大地の質を高めることで畑に多くの実りを与え、木の精霊【ドリアード】は森に活気を与え木材などの多くの恵みをもたらした。
鬼王会の作り出した閉鎖的なプラントの中で、ホビットは労働力として、同じ妖精族の【フェアリー】は精霊たちの力の回復のために雇用…いや収容されているといった方が良い。
精霊たちが使う力は魔法とは違い、自身の構成元素を自然の力として放出する能力である。つまり、自身の体を切り売りしているようなものである。フェアリーが回復してくれなければ、当然ガス欠となり、死に至るのである。
(このニブルデッドでも精霊は大陸のあちこちにいたのに…今やこのプラントの中にいるのが全部なんだろうな…。)
ある意味、絶滅を防いでいるという見方も出来なくはないが、継続的な農業生産を継続させるための単なるエネルギー資源として捉えているようにしか思えない。
(消費するばかりの亜人たちにとって、精霊は使い捨ての道具なんだ…。)
ポルテは途端にバカバカしくなって建物の陰に大の字になって寝転がった。ここに収容されている精霊族の総数は100万人はくだらない。一人がサボったところで分かるはずもない。
なぜみんな、黙って働いているのか、ポルテには分からなかった。自由意思を持たない魔動人形の様に、まるでそれをするのが習性の働き蜂の様に、黙々と作業を続けているのである。
このプラントがどこにあり、どれほどの広さなのかよく知らない。寝転がるポルテの視界に映るのは、新品の白いキャンバスが一面を埋め尽くさんばかりの天井であり、これが外の風景とあまりに違うことだけは間違いなかった。
まさしく瓢箪ナマズな状況ではあるが、ポルテはここから脱出する方法だけは心得ていた。
それは、積み荷の中に忍び込むことである。
このプラントから出荷される食糧は亜人たちのエリアに運ばれる。うまく見つからなければ脱出は可能だ。
しかしながら、ポルテ以外の精霊たちは誰もそれをしようとは考えない。このプラントの労働力として、エネルギー資源としての役割に準じている。
ポルテは意を決したように起き上がった。
「もう働きたくないし、逃げよ。それに…。」
ポルテは歩きながらポツリと溢した。
「アタシが逃げることで何か変わるかもしれないし…。」
ポルテは果実の詰まれたカゴを放り出し、その場から駆け出して行った。
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純和風の装飾、畳と襖が作られた広い空間で、膨大な紙の束と異形たちに囲まれながら、慌ただしく踊るペンの音が響き渡る。
その主はまるで一流の芸者を彷彿とさせるような和装に身を包んだ異形の女性であった。
朱く癖のある髪は背中まで伸び、切れ長な目と凛とした表情は、現在鬼気迫るものとなって目の前の書類に向けられている。白と金で豪奢にあしらわれた着物からはうなじがのぞき、十分な色香を想起させるが、現在は体中から放たれるビジネスオーラ(殺気)がそれを打ち消した。
そして、そんな彼女を異形たらしめるものは他でもない、その額から鋭く伸びる二本の角であった。
彼女は鬼人と呼ばれる種族である。
彼女は雑な精製品質の紙に書かれた文字と数字に目を通し、加筆修正、承認印を猛スピードでこなしていく姿は、夜の華というよりはキャリアウーマンの様に見えた。
彼女の周りの鬼人たちは男性、女性問わずせわしなく駆けずり回り、ペンを走らせていた。
新たに目の前に積まれる書類の束に、彼女は大きく溜息をついた。
彼女の名は【紅麗尉】。
まるで地獄の様な業務に追われ、ストレスは限界に達していた。
鬼人は戦闘力は高いが識字力が低く、算術もろくに出来ない脳筋種族のため、その中でも選りすぐったメンバーを部下としてつけているが、相変わらずの誤字脱字、計算間違い…。結局部下が作った資料にも自身で目を通す必要があり彼女の負担はほとんど軽減されていなかった。
しかしながら、他種族を見渡しても大して差はなく、文明のない世界では言語と算術のスキルを有しているものなどいなかった。
(本当に失敗した…。人間種って本当に優秀だわ…。)
紅麗尉は現実逃避のために席を立ち、部屋の窓枠に腰かける。そして、袖口から煙管を取り出すと火をつけ、紫煙を吐き出した。
外は一定の白い空に覆われ、奥には広大なプラントが広がる。だが、この庁舎の周りには砂利を敷き詰め、さながら日本庭園のような趣があった。
しかしながら、そうした風流な景色も、季節や昼夜の巡りが全くないこの世界では、まるでプリントされた壁紙を見ているような空虚さが彼女の心を一段と荒んだものにしていくのだった。
山の様な仕事から目を逸らし、ただ紫煙を繰り返し吐き出す行為の中で、無に興じようとしていた矢先、紅麗尉の脳裏に直接声が響いてきた。
『紅麗尉様、お忙しところ失礼します。』
丁度仕事をしていないタイミングではあったが、息抜きをしている最中に念話を使われたことに、紅麗尉は不機嫌を露わにする。
「なに?」
『第13区画にて収穫が足りないことに気づいた現地担当者が現場を確認したところ、放置された収穫物とカゴが見つかりました。その場所を任されていたホビットを探しましたが、どうやら行方不明とのことです。』
「なんですって?!」
思った以上の異常事態に紅麗尉は煙管を落としてしまう。そして動転する。
「バカ言わないでよ!なんで妖精がそんな勝手なことするのよ!?」
『は、我々も初めての事なのでどうしていいかわからず…ご指示を頂けますか?』
紅麗尉は頭を抱えた。精霊族は自然を維持するための行動をし続ける以外には言葉も発しない、感情もない、文化や言語も持ちえない。それが常識だったのだ。
その中で、確かに妖精族のホビットは特殊であり、単純作業であれば指示命令を休まずに繰り返し行ってくれるロボットの様な存在だと思っていた。
それが離反したことに、紅麗尉は自分の中の常識を疑わざるを得なくなったのだ。
彼らにはそもそも感情があって、それが爆発してしまったとしたならば、もしかしたらそれは他の精霊族、少なくともホビットには起こりうることだということだ。
頭を巡る思考を力尽くで整理し、紅麗尉は立ち上がった。
「その区画には別のホビットを配置して収穫を再開させなさい。そして行方不明のホビットについては捜索班を組織。場所の特定は私が今から行います。」
『はっ!』
念話が切れると紅麗尉は電算処理に追われる部下を尻目に、部屋を飛び出る。
(全く!このクソ忙しい時に面倒なことを…!)
悪態を突きながら紅麗尉はバタバタと奥の間に向かう。
仰々しい襖を開けると、その部屋は窓一つない10畳ほどの畳の間が広がっており、最奥には淡い緑色の光を放つ巨大な大岩、魔鉱石が置かれていた。
紅麗尉はその魔鉱石の前で座し、祈祷を始める。
すると、彼女の脳裏にプラント内の風景がまるで監視カメラの様に映し出される。
(第13区画って言ってたわよね…。ちっ!時間を巻き戻した映像を見ることが出来ればもう少し楽なのに!)
悪態を突きながら周囲の痕跡を注意深く探す。
(足跡?どこに続いて…。)
くっきりと残る足跡を追っていくと、それは搬入庫へと続いていた。貯蔵エリアをぐるりと見渡し、同じ足跡が無いことを確認すると、建物の中に視点を変更する。
搬入庫の中には本日の出荷分の荷物はなく、部屋の中は伽藍洞であった。
それを一瞥すると、紅麗尉は一気に顔色を変えた。
紅麗尉は魔鉱石に手を触れ、魔力回路を構築すると警邏隊に一斉に《魔力通話》を開始する。
『緊急指令!!センター内部にホビットが侵入した恐れあり!本日第13区画から集荷された荷物を徹底的に改めよ!繰り返す!センター内部に…。』
紅麗尉の指令は瞬く間にセンターに常駐する鬼人達に伝わり、無骨な鉄棍や太刀を持ち出し、物流拠点へと集結しようと動き出す。
紅麗尉は魔鉱石から手を放すと、大きく息を吐いた。
「つ…疲れる!魔鉱石を使ってMPを代行してもらってるっていうのにこの疲労感…本当に魔法ってしんどいわ…。」
紅麗尉は額の汗を拭き、この場を後にしようかどうか迷い、足を止めた。
「…いや、どうせ捕まえたら捕まえたでどうするかの指示を求められるだろうし、この件が終わるまで事務処理なんか集中して出来ないし…。」
独り言を呟くと今一度、魔鉱石の前で座した。
「ちゃんと片が付くまで見届けましょうかね。」
職務放棄に新しい言い訳を見つけた紅麗尉は、休憩がてらこのホビット脱走事件の顛末を追うこととなった。
しかしこの後、物流拠点で巻き起こる一部始終に唖然、茫然自失となったのち、顔面蒼白となって膝から崩れ落ちたのだった。
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「作戦成功っと…。」
ワインの入った樽の蓋を開け、ホビット族のポルテは猫の様に背筋を伸ばし、自分の状態をみて顔を顰める。
半分ぐらい飲んだとはいえ、服はびっしょりとワインで赤く染まっており、酸味と甘い香りが体から常に立ち上る。
アルコールで酔ったりはしないが、さすがにこんな状態でうろつけない。
ポルテが軽く目を閉じると、服装は新品同然に新しくなった。
白いシャツに緑色のフレアースカート、茶色の皮靴と仕立て直し、満足げにその場を後にしていざ外に、と思ったが愕然とした。
とっくにどこかのエリアに辿り着いている頃かと思ったが、まだこのプラントのセンターにいたのである。そして今、目の広がるこの場所は最終集約DCの起点、6つのエリアへの魔動転送装置がある場所だった。
これが鬼王会の物流システムの全容である。広大なプラントで生産された食品をセンターに集約し、エリアに運ぶための輸送方法とは、馬車で街道を渡っていくことではなかった。
輸送方法はこの転送装置を使って輸送物資を直接届ける者だったのである。
ポルテはまじまじと転送装置を眺める。
「ルーンを刻み込んで空間転送の魔法をしっかり固定化させている。輸送のためとはいえ、こんな大きな魔法陣を6つも作って永続的に利用できるようにするなんて、ほんとどうかしてるよ…。これを作るのに100年200年はざらにかかるっていうのに。」
ポルテは転送陣の上で仰向けになる。
(さ~て、これからどうしようかな~。ずっと荷物の中に隠れ続けるのもなんだし…。外に出られないならいっそセンターの庁舎にでも忍び込んでみようかな~。)
そんなことを漠然と考えていた時、物流拠点から慌ただしい気配が感じられた。
ポルテはそれに感づいたが、逃げも隠れもせずにそのまま仰向けになったままだ。
ほどなくして、警邏隊である鬼人達が5人現れ、ポルテを取り囲んだ。それを確認すると、ポルテは上半身を起こしてにっこりと笑った。
「あ~あ、見つかっちゃったか…。って、わざと見つかるように足跡残してきたんだけどね。確か聞いた話によると、『かくれんぼ』っていうんだってさ。鬼から隠れる遊戯だなんて、面白いこと考えるよね?」
きゃっきゃと笑うポルテに対し、警邏隊の赤鬼はこめかみに青筋を立てながら、ホビットに太刀の先を向ける。
「貴様を処分については紅麗尉様がお沙汰をくださるだろう。職務放棄と脱走未遂、ただで済むと思うなよ?」
ポルテは切れ長な細い目を薄く開け、にたりと笑った。
「ん?アタシまだ捕まってないよ?見つかっただけ。隠れるの飽きちゃったし、せっかく5人も集まってくれたんだから、『鬼ごっこ』にしよう。」
それを聞いて赤鬼は怒りで目が血走る。
「小娘が!調子に乗るなよ!!」
大きく太刀が振り上げられる。振り下ろされようとするまさにその時、魔動転送装置が動き始め、光の柱が現れた。
オニ達は急に稼働し始めたことに驚愕した。空間転送が動く条件は二つだけ、転送元の装置を起動させるか、転送先の装置を起動させるかである。
今回の場合、確実に前者ではないため、後者なのだが、後者の場合、誰が動かしているのか?ということが疑問になる。転送装置は誰もが起動させられないように複雑にセキュリティの下、パスワードを設定されていた。それを知っている以上、仲間であるはずなのだが…。
「こ、この転送装置の先のエリアは?!」
「この先は確か…グラナ!!」
直近でグラナに鬼王会が派遣されたという報告はない。
動揺するオニ達を尻目に、ポルテは転送装置に腰かけたままの状態で、振り返るようにしてその光の柱を見る。その光の中からは、30人ばかりの人影が現れた。
その体躯から、ドワーフやゴブリンであることは容易に判断できた。だが、その一人一人が金属の鎧で武装されており、筒状の道具を肩から背負っている姿は、驚嘆と共に首を傾げてしまう光景だった。
そして、その中央には透き通る青い肌の少女がおり、その手には小さなスライムが握られていた。
突然現れたその集団に、鬼人達とポルテは初動を欠いた。
その遅れを取り戻すより早く、その集団はいち早く現状を把握し、30人のドワーフとゴブリンの達が一斉に手に持った筒状の先端を鬼人達に向ける。
鬼人達は何をされようとしているのかもわからず、ただただ狼狽するだけだった。
そんな剣呑とした空気に割り込むように、一匹のスライムが声を発した。—不気味な口を形成して—
「お取込みの中失礼する。我が名はシェブニグラス=インフェルド。早速だが、貴公ら鬼王会に対し、全面降伏を要求する。」
スライムが放つその暴挙ともいえる発言に、鬼人達の動揺は憤慨に変わる。
だが、その怒りの声は轟音によって掻き消された。
一人のドワーフの持つ筒状の武器から放たれた無数の筒音は、オニ達の足元に無数の銃痕を残した。 オニ達は基い、ポルテにも一体何が起こったのか分からず、唖然とした。
(なに?あれは?武器?何かが発射された…。魔法じゃない…?)
スライムは「コホン」と咳ばらいをするとまた口を開く。—気持ち悪い…以下同文—
「このような姿で侮られるのも無理はないが、こちらとしては無益な殺生を好みはしない。願わくば、この在庫型物流施設、いや通貨型物流施設かな?こちらの責任者にお目通りをさせて頂きたい。」
「ふざけるな!誰がそんなこと…!」
「であれば、立ち塞がるものを全て薙ぎ払い、目的を達するまでの事。」
鬼人達の言葉を遮るようにして発せられた魔王の一言に、銃口が再び鬼人達狙う。
刹那
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
30の銃口から放たれる銃声はまるで雷鳴の様に響き渡った。
絶え間なく発射される弾丸の雨は鬼人達の体をいとも簡単に貫き、5人の鬼人達を蜂の巣にするのに5秒とかからなかった。
レベル差が20近くもある鬼人族5名の命を、いとも容易く刈り取った武器の威力に、トリガーを引いたドワーフやゴブリンたち自身が唖然とし、鳥肌を立てていた。
その様子を唖然としてみていたポルテに、魔王は語り掛ける。
「貴公は鬼人族ではないようだが、貴公が何者か聞いてもいいだろうか?」
努めて紳士に振舞う魔王だが、スライムに対して言葉を交わすことに違和感があるのか、ポルテは戸惑いながら首を縦に振る。
「あ、あたしはホビットのポルテ…。このプラントで働かされてたけど逃げ出してきてて…。捕まってしまうところを助けて?くれたんでしょうか?ありがとうございます。」
ポルテは深くお辞儀をした。
その様子を見て、魔王は沈黙し、思考を巡らせる。
「脱出しようとしてここまで来れたということは、貴公はこの《領域結界》の中をご存じなのかな?」
魔王は語彙を強めてポルテに尋ねる。その威圧感に、ポルテはじんわりと汗をかく。
「詳しい…ってことではないですが、センターを管理している総合庁舎の場所は分かるのでそこを案内することなら…。」
「この空間における施設の情報について提供する意思はあるか?」
多少食い気味な魔王の言葉にたじろぎながら、ポルテは頷く。
「そうか…ではポルテ、貴公も我々に同行するがいい。話は総合庁舎とやらに辿り着くまでの道すがら聞かせてもらう。」
そう言うと、ゾゾはへたり込んでいるポルテに手を差し伸べた。ポルテは少し戸惑いながら、その手を取る。
ゼリーの様な手触りに、一瞬で怖気立ったが、不快感を押し殺した。
ホビットとそんなに変わらない身長のゾゾと肩を並べるのは、どちらかというと安心感を与えるものだが、無表情で冷たいその横顔に、親密な会話など期待できないとポルテは俯くのだった。
▮紅麗尉
「なに?なによ、あれ?」
あれは…あれは…別にミリオタでも何でもないけど、私でも知ってる…。
サブマシンガンだ!
確かあの形状は『イングラムM10』…ってそこまで知ってる私はミリオタか?
「違う違う違う!そうじゃない!」
頭の中で流れそうになる音楽を慌てて追い出し、肩で息をしながら落ち着けと自分を宥める。
あんなのが急にこの世界に現れること自体が有り得ない。そもそもこの600年もの間、この世界はほとんど原始時代だ。
突然降って湧いた近代兵器をもったドワーフやゴブリン…。
グラナで一体何があったの…。
「もしかして…転生者?」
それしか考えられない。
考えられないけど…。
一体どういうことなの?
そんな馬鹿な話はない!!
だって…だって私は…。
心臓が激しく波打つ。
止まらない疑念と不安。
焦燥感と恐怖。
冷や汗が止まらない体が小刻みに震える。
そんな私の顔を照らし出すように、巨大な魔鉱石は変わらず妖しげな光を放ち続ける。
「そうだ…そうだ!私は負けてない!私は負けない!!相手はたった30人程度…。なら勝てる!絶対勝てる!」
私は魔鉱石に触れ、《魔力通話》を行う。暫しの間を置いて、無骨な声が響く。
『拝。』
「【朱天】!中央センターから賊が現れたわ。生死は問わない!蹴散らしなさい!庁舎に近づけては絶対ダメよ!!」
脳内だけでいいのに思わず実際に声を荒げてしまった。
『御意。』
そう言うと、《魔力通話》が遮断される。
「朱天なら…朱天ならマシンガン弾ぐらいなんでもないはず…。」
なんでもないはずだけど…奴らの底は全く見えない。まだ切り札があるとしたならば…。
「一体いつの間に…グラナで一体何があったのよ…。」
私は膝から崩れ落ち、頭を抱えた。




