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〜紅き一閃〜


▮魔王

「こっちだ!こっちにいるぞ!」


「もっと応援を…!盾だ!盾を持ってこい!」


「ダメだ!防げな…ぎゃっ!!」


 狂騒に怒号飛び交う阿鼻叫喚の中、ドワーフとゴブリンの連合部隊は歩みを止めず、立ち塞がる鬼人オニ達を蹴散らしていく。破竹の勢いとはまさにこのことだろう。


 転送ターミナルから中央センター内部に入り、その先にあるという総合庁舎なる場所を目指して、魚鱗の陣の形で進軍していた。


 建物の内部構造はあまりにもシンプルであり、敵に責められることなど全く想定していないただのプレハブである。

 石材や鉄を無理やり魔法で捻じ曲げて形を作っていることは明らかであり、合金など科学的に作られた素材は全くなく、大変お粗末な作りだ。


 つまり、『よく知らないけどだいたいこんな感じじゃないかな?』というような素人がイメージだけで作り出した建築物であり、魔法という接着剤がなくなれば簡単に崩れてしまうだろう。


 鬼人達の装備も原始的な装備しかなく、遠距離からの銃撃に全く対応できていない。これが屋外であれば、投擲などの手段もあったのだろうが、掃除が行き届いた綺麗な床には小石など転がっているわけもない。


 索敵はゾゾに、殲滅は種族混合の小隊に任せ、ゆっくりとした歩みの進軍が続く。


 私とゾゾが本気を出せば、この程度の敵であればすぐに片が付くがそれでは意味がない。


 虐げられてきた者たちが直接表舞台に上がることで、クーデターは成功する。

 誰かに助けてもらうだけではいけない。

 自分たちで勝ち取ったという自覚が必要なのである。


 また、この戦いを通してどうしても証明したいことがあった。


 それは、科学の下では種族間での戦闘力カーストはほぼ存在しないということである。


 これこそが重要なのだ。そしてそれは、私の見立てでボスレギオンクラスまでならば可能であると見込んでいる。


 彼らの根底に根差しているのは弱肉強食。弱小部族だから虐げてよい、強者には逆らわず、関わらない。


 これでは統治にはならない。


 力関係の平等は文明社会においてまずは基本。その後に控えている法治制度までの地均しとして、必要不可欠なのである。


 ゆっくりではあるが、思ったよりも順調な行軍中に、隣を歩くホビットの娘、ポルテにこの《領域結界》について情報を得た。

 大枠予想通りであり、各地にいた妖精族と精霊族を攫い、この空間に閉じ込めることで生産プラントの構築と同時に、各エリアの生活ストックを引っこ抜くことが出来たというわけだ。


 だが、解せないこともあった。

 それは、あまりにも戦力が弱いのである。


 この場所が鬼王会にとって超重要拠点であるにもかかわらず、防御にも攻撃にも適していない建物の作りは勿論のこと、警邏隊の武装もおざなりなのである。


 転送装置を設置した以上、敵に利用されることは視野に入れるべきだ。グラナ外れの街道の石畳に擬態するかのように設置されていた転送装置には、鬼王会の人間だけしか知らないパスワードのようなものがあったのだろうが、フェルは一目見ただけでそのセキュリティシステムを解析してしまい、無効化させてしまっていた。簡単にハッキング出来てしまったわけである。


 あまりの簡単さに転送先が罠である可能性も警戒していたため、転送後の眼前に鬼人達がいたことに対しても速やかに行動に移せたわけでもある。


 意表を突くことは多いが、軍事行動は順調に推移している…が…。


 私はちらりとポルテに視線を向ける。


 こいつが何を考えているのかが問題だ。邪魔しなければいいのだが…。


 行軍はついにセンターを抜け、眼前に聳える建物に、正直唖然とした。


 巨大な堀に囲まれた日本の武家屋敷のような建物。堀を渡るために添えられた大きな橋は、朱色に染められた垣根と巨大な唐門へと続いていた。


 バカな…急にこれほど文化の変容があってたまるか…。こんなものを作れる…いや想像できるとするならば…。


 そこで一度私の意向は遮られた。

 門に続く橋の袂に、大きな赤い影があったからだ。


 それはこちらを認識したのか、ガシャガシャと重厚な音を立てながらこちらに向かってきた。

 その姿は一言で言うと巨大な赤武者だった。身長は3メートルぐらいだろうか?巨大な大鉈を持ち、顔は面頬に覆われ、伺い知れない。その姿を見て、ガラの言葉を思い出す。


「まさか、あれが例の嶽閻がくえんか?」


 ガラから聞いていいた特徴と酷似している。唯一違うのは、漆黒ではなくどう見ても赤いことだが…。


 赤い鎧武者は足を止めると無言で大鉈を振り上げる。

 その動きに、混成小隊は銃を構え、私の号令を待つ。私もその動きに連動するように端を発した。


「てぇえええええ!!!」


 先頭を担う9名の銃口が同時に火を噴く。無数の弾丸が鎧武者を襲うが、そのすべてが、鎧に弾かれ、乾いた音を立てながら周囲に力なく散らばっていった。


《超鑑定》

 … …


 LV51か…。名前は【朱天】。パラメーターは当然高いが、何よりスキルが厄介だ。《物理・属性耐性 強》を持っている。マシンガンの弾も弾くわけだ。


 マシンガンが効かないことに、先頭部隊に動揺が走る。

 弾丸の雨が止んだ刹那。朱天の面頬の奥の瞳が赤く光った。


「断。」


 短く、低い、だが響く様なその声が聞こえた。


 朱天の大鉈が勢いよく振り下ろされた。それは間合いとしては確実に小隊の外であったが、激しく叩きつけられた地面を走る衝撃波が小隊を襲った。


「ぎぃやあああああああ!」


「がはっ!!」


 先頭を担っていた9名が衝撃波により体が切断、消滅し絶命した。


 その他5名が負傷したが、私とゾゾを含むその他の兵については無傷だった。

 かなりの威力とスピードに、ゾゾは確実に守れる範囲を限定して自らの体を防壁として敵の攻撃を耐えた。


 ゾゾは人間の形態に戻る。


「ン ソコソコ ツヨイ。」


「ゾゾ、食べたいか?」


 私のその言葉に、ゾゾは「ウーン」と唸った後、首を横に振った。


「イラナイ オイシクナサソウ。」


 ゾゾが強い相手を前にして美味しくなさそうだということは、つまりそういうことである。


 部隊が半壊しているというのに、呑気な話をしていると思ったのだろう。ポルテが目を戦慄かせていた。


「ご…ゴブリンとドワーフさん達、し…死んじゃいましたけど、大丈夫なんですか…?」


 不安を押し殺したようなその声に、私は「問題ない」と短く答える。

 首を傾げたポルテはその言葉の理由をすぐに知ることになった。


 ほどなくして、死んだはずの9名が復活したのである。


「??え?な、なんで?」


 ポルテは目を白黒させていたが、本人や兵たちが受けた衝撃はさらに大きいものである。

 驚嘆は最もだが、今は戦闘中だ。


「復活したものは後方に戻り、速やかに装備を受け取れ。肉体は復活しても壊れた装備は元に戻らないからな。」


 復活した兵達は裸同然だったが、なんとか脳は指示を受け付けたようで、慌てて後方に下がる。

 それと入れ替わるように後列が前線に立つ。後列なった兵たちは、ゾゾが守っている防壁内に入り、収納インベントリーから取り出した装備を受け取る。


 淡々としたその作業の中、ポルテが私の方に視線を向けていた。


「あ、あの?あれってどういう…。」


 私は敢えて無視した。


 この部隊には予め聖杯カリスを服用させている。つまり、今日一日死に放題なのだ。


 最初このスキルを取得した際は自分の事ばかり考えており、《輪廻》が手に入ると分かった瞬間、正直興醒めした。

 だが、これは前線を戦う部下へのサポートとしてはあまりにも優秀過ぎると知った時、評価を改めることとなった。


 しかしながら、皆には一度しか復活しないという情報を伝えているため、二度殺すわけにはいかない。


 朱天は蘇った敵兵に対して意に介する様子は見られず、そのままこちらへと近づいてくる。その進行を遮ろうと、入れ替わった前衛部隊が銃口を朱天に向けた。


 ダアアアーーーーーーン!!!


 今までのものと大きく異なった銃声が響くと、弾丸を受け、朱天は大きく仰け反り、横転しそうになるところを必死に堪えた。


 新たな前衛が持つ武器はショットガン【レミントンM870P】。


 見たところ、この距離であの威力ならば、至近距離で打てば奴の鎧を打ち抜けるかもしれないが…。さすがに奴の大鉈の射程範囲に入ることは恐怖を感じることだろう。


 仕方ない、あれでいくか…。


「プランBに移行する。全軍後退だ!」


「プランB?」


 ポルテが尋ねるが相変わらず返答は避ける。


 ゾゾを含め、後衛は全速力で後退。遅れて前衛のショットガンによる足止めの後、部隊は隙を見てセンターに向かって後退した。


 朱天はそれに合わせて走り始める。地面が悲鳴を上げているかのように、地響きを立てながらのその走りは思いの外早く、兵の最後尾にあと10メートルと迫っていた。センター内部で改めて魚鱗の陣を敷くと、朱天を迎え撃つ。


 センターの内部に朱天が一歩足を踏み込んだその時。


 ドォオオオオオオン!!


 朱天の足元が爆発した。

 地雷だ。


 激しく舞う粉塵の中、奴のダメージをしっかりと確認する。右足・脚部の鎧が吹き飛び、その下からは生身の肌や肉、血が見えるわけでもなく、無骨で金属質な骨組みが覗かせていた。それにより、朱天の巨体が大きく傾き、膝をついた。


 私は思わずほくそ笑んだ。


「構えろ。」


 静かに告げたその声に呼応するように、6名の後衛部隊が筒状のそれを背中に担ぎ、その円錐型をした先端が、立ち上がれずにいる朱天へと向けられる。


「ファイヤ。」


 その一言に、6つの大筒から切り離されたロケット弾が真っすぐに朱天目がけて飛び立っていく。


「全軍!物陰に避難しろ!!」


 素早く回避行動をとった直後、センターの入り口を建物から吹き飛ばしかねない巨大な爆発が引き起こされた。

 余りの爆風と熱波に、兵たちにも恐怖の色が見受けられる。

 

 私とゾゾとポルテはゾゾの張った防壁からその一部始終を通路の中央で観察する。


「あ、あわわわわ!!」


 余りの出来事に、ポルテは体を震わせる。


 まあ、無理はない。魔法ではなく本物の爆薬だ。

 完全に前世のレシピで作られたものではなく、火薬の製造については魔鉱石マテリアがほとんど代わりの役目を果たしている。


 爆発というダメージが果たして物理なのか、何かの属性に当てはまるのかは、奴がどのような状況にあるかで決定づけられるだろう。


 そして、粉塵が収まり、視界が開けてきたことで、その結論は出た。


「爆破攻撃は《無属性》で決まりだな。」


 私は小さく笑みを浮かべた。


 そこには、見るも無残な残骸があった。


 煙をあげ、火花を散らし、人で言うならば背骨の様なものと、半壊した顔面。腕は両方とも消し飛んでおり、辛うじて足は原型を留めているレベルだ。

 胸元には煌々と光る魔鉱石マテリアが見受けられるが、完全に壊滅状態である。


 朱天はゴーレムだった。


 魔鉱石マテリアを心臓部の核とし、魔力経路を血管や神経の様に繋いで作る機械人形である。

 ゾゾが食べたがらなかったのも頷けるというものだ。


「よぉおおしゃあああああ!!!」


 圧倒的な強さの相手を完膚なきまでに叩きのめしたことで、士気は最高潮に達した。鬨の声はセンターの内部に響き渡り、まるで万の軍勢の様な勢いだ。


 まあ、はっきり言って出来過ぎだ。多少訓練したとはいえ、初戦でこれほどの成果を挙げられたことは本人たちの大きな自信となり、それは皆の自信となる。

 そして、ともに強大な敵と戦ったことによって互いを讃え合い、硬く手を握り合うドワーフとゴブリンを見て、ことは順調に推移していると実感した。


「マオウサマ アイツ ドウスル? アレ イチオウ マダウゴケル。」


 ゾゾの言葉に全員が朱天の成れの果てに視線を向ける。何かできるとは到底思えないが、確かにまで起動しており、足は立ち上がろうと震えている。


「いかが致しましょうか?」


「一思いにやっちゃいますか?」


 兵達の言葉に少し思案したが、一つ危惧すべきことを思いついた。


「そうだな。完全に破壊しておこう。自爆などされても迷惑だからな。あんな入り口に鎮座されては、邪魔というものだ。」


 私の言葉に頷くと、小隊は武器を携え、警戒したままソレに近づいていく。

 収納インベントリーから手榴弾を取り出し、後衛の兵の一人に渡した。


「この距離なら目測は取れよう。念のためだ。それで吹き飛ばせ。」


「はっ!!」


 軽快な返事と共に手榴弾のピンに指を掛けようとした時、朱天だったソレの前方空間が歪む。


空間転送テレポート!!」


 全員が警戒し、時空の歪みに向けて銃口を向ける。


 その歪みの中からはまるで花魁の様な鬼女が現れた。

 豪華な着物に身を纏ったその鬼人は朱天の前に両手を広げて立ち塞がった。


「もうやめて!朱天をこれ以上壊さないで!!」


 その必死な形相と涙に、兵の中で動揺が走る。まあ、さすがにこういったところは武器があっても、一朝一夕で戦士になれるわけではないようだ。


 すると、鬼女はそのまま膝を折り、煤汚れた地面に額を擦り付けた。


「降伏…致します。どうか…どうかご容赦と、ご慈悲あるお沙汰をよろしくお願いいたします。」


 土下座する鬼女に対し、当然誰も反応できない。返事などできるわけがない。皆が一斉に私に向けて視線を向けた。


「一つだけ確認する。貴公はこの領域空間の主人なのか?」


 私の問い、鬼女は顔を伏したまま答える


「…はい。わたくしの名は紅麗尉。鬼王会 荒虎衆の紅麗尉でございます。この領域結界内の全権はこの私にございます。」


 …どうやら嘘はないようだな。


「良かろう。降伏を受け入れる。これより2時間後、終戦処理会議を執り行う。会場はこの場所を使わせていただこうか。警備強化のため、あと100人ほど兵を追加するが異論は?」


「ございません。」


 もはや何もかもを諦めてしまったのか、鬼女はあっさりと返答した。


 特に何か騙そうという意図は感じられないため、正直、戦力を増強する必要もないかもしれないが、念には念を入れるとしよう。


 それに、この場所を手中に入れた以上、我々が奇襲を受ける心配などないのだから。



 魔王は一度帰還し、本来の姿で再び総合庁舎の前に立ち、赤い門を開いた。

 内装も赤が基調となっており、首里城や中国の居城の様な印象も受ける。


 魔王は新たに連れてきた兵100人でターミナルやセンターを占拠し、庁舎の周りにも兵を配置している。そして、後ろにはゾゾをはじめ、先刻の戦いを共にした混成部隊が続いていた。


 門の先には鬼人族が両脇に列をなして並び、一斉に膝を折って平伏した。

 【土下座の道】とも呼べるような少々座りの悪い歓待を受けながら、来賓館に通される。


 その建物だけは洋風の応接間となっており、80坪ほどはありそうなダンスホールにテーブルと椅子が並べられ、最奥の舞台には互いの首脳が座る豪奢な椅子が2脚。

 まるで首脳会談の一幕の様なセッティングに、魔王は失笑してしまった。


 余りにも異質なオーラを放つその人物を、紅麗尉は当然首魁と判断し、自ら進み出て深く頭を垂れた。


「お待ちしておりました。シェブニグラス=インフェルド様ご本人でお間違いないでしょうか?」


「以下にも。先刻はスライムの姿で失礼したな。」


「いえ、とんでもございません。どうぞ、こちらの席へ。」


 紅麗尉が席にエスコートしよう促すが、魔王はその場から動こうとしない。


「?いかがなさいましたか?」


 魔王は辺りを見渡すと小さく溜息をついた。


「止めだ。」

「…は?」


 止め。


 その言葉に、紅麗尉は顔を青くする。

 何か癇に障ることをしたのか。

 粗相があったのか。


 紅麗尉の頭はパニックになりながら弁解の言葉を探す。


「も、申し訳…!」


「いや、そうではない。言葉足らずで住まなかったな。」


 半ば泣きべそをかく寸前だった紅麗尉はその言葉に顔を上げた。


「貴公は互いの部下を交えての会議を想定していたようだが、それではお互いに胸に秘めたものを明かすことは出来まい。調停者を立てないというのは些か無粋ではあるが、私と貴公の二人だけで話をさせて頂きたい。」


 魔王のその言葉に、紅麗尉は心の中の恐怖が和らぎつつあった。


(この方は、本音で私と話そうとしている?それはつまり…彼も第三者にまで広げたくない話を切り出そうとしているということ。)


 紅麗尉は背筋を伸ばし、魔王に向き直った。


「畏まりました。それでは迎賓室へお通しさせていただきます。お連れの皆様にはこちらで簡単な立食を楽しんでいただきながら、お待ちいただくということといたしましょう。」


「ゴハン タベレル?」


 魔王はゾゾの頭を撫でる。


「それでは行ってくる。決して問題は起こすな。何かあっても防御に徹しろ。攻撃は禁止だ。」


「アイ」


 魔王はゾゾと部下たちに別れを告げると、紅麗尉の案内で迎賓室へと通される。

 紅麗尉が扉を開けると、その中には豪奢なソファーと調度品の数々が並んでいた。


(どこかで見たことのあるようなデザイン…。だがやはり多少歪だ。これもイメージで作られているな。)


 魔王は促されるままにソファーへ腰を掛け、紅麗尉にも座るように促した。


防音障壁ブラックカーテン


 魔王が放った魔法の力で、部屋の色合いが少し変化する。

 急に魔法を放った魔王に対して紅麗尉は驚愕した。


「え?さっきのは魔法?無詠唱?」


 紅麗尉の困惑ぶりに魔王は落ち着けと手で制する。


「念のために防音処理の魔法を施しただけだ。無詠唱は珍しいかもしれないが、それは私に与えられたスキルであるとしか言えない。」


 紅麗尉は頬を膨らませて、「なにそれ?ズルい…。」と溢していた。


 そんな紅麗尉の様子を見て、魔王はさらに疑念が浮かんだが後回しにして、「さて」と話を切り出した。


「まず、大前提として伝えておく。私は相手の嘘を見抜くことが出来るスキルがある。それが発動した段階で、この対談は終了だ。逆を言えば、私との話を打ち切りたければすぐにでも嘘を付けばいい。いいかな?」


 それを聞いて、紅麗尉はこめかみに汗を浮かべながら、薄っすらと笑みを浮かべる。


「ええ、いいわ。正直、あたしは全部もう諦めたし、嘘をついてまで守りたいものなんてないもの。」


 … …


 魔王は静かに席を立つ。


 それを見て紅麗尉は大慌てて立ち上がった。


「あ~!!ごめんなさい!!『守りたいものなんてない』ってちょっと言ってみたかっただけだから!!てか、あんたのスキルって冗談すらも受け付けないわけ?!」


 紅麗尉の慌てぶりに、魔王は失笑し、再び席についた。

 それを見て、紅麗尉は「ぜぇーぜぇー」と息をしながらホッとして席に座る。


「随分と口調が乱れたな?そちらが素か?」


 魔王にそう指摘され、紅麗尉はハッとなり、慌てて頭を下げる。


「た、大変申し訳ございません!!つ、つい!」


 絶対的優位者である魔王に対して「あんた」呼ばわりしたことを思い出し、紅麗尉は顔面蒼白になる。

 だが、その様子を見て、魔王は喉を鳴らすように笑う。


「クックック…。いや、構わない。むしろ先ほどの口調の方が心地よくもある。私も気楽に話させてもらうので君も楽な喋り方をしてもらっていい。」


 紅麗尉は乾いた笑いを浮かべ、小さく呼吸を整えた。間合いを見て魔王が口火を切る。


「それでは、早速本題だ。君は転生者だね?」


 紅麗尉は即座に頷く。


「ええ、そして貴方も…。」


「ああ、転生者だよ。」


 二人の間にあった蟠りの糸が一本解けた瞬間だった。二人とも、口元には笑みを浮かべている。


「まさかとは思ったが、こんなに早く出会えてしまったとは意外な展開だったよ。」


「早い?冗談でしょ?この世界に来て600年、あんたが今までやってきたことを聞かせてもらいたいものだわ。」


… …。


「ちょっと待て、何か話が噛み合わないような気がするんだが…。」


「やっぱりそう思う?ねえ、お互い、相手が何者であると思っているか、同時に言い合わない?」


「いいだろう。では…」


 二人は「せーの」という掛け声の後、次の言葉を発していた。


『勇者だろ(でしょ)?』


 次の瞬間、二人はまさしく紛擾多端となってしまうのだった。



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