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〜人助けは勇者の領分〜


◾️

「よーし!今夜のお宿ゲット!」


 勇者は部屋に入るなりベッドにダイブする。だが、期待していたようなスプリングが効いているわけもなく、絶妙な硬さであったため鼻柱を軽く打ち付けた。


 勇者の真似をしてゴルドラも自分のベッドに向かってダイブしようとするが、勇者は慌ててそれを制止する。


「待て待て待て待て!全力でお前がダイブしたらベッドが大変なことになるだろ!」


 それを聞いてはっと思いとどまり、ゴルドラは咳払い一つしてゆっくりとベッドに腰をかけた。


 勇者は胸をなでおろす。ゴルドラのステータスはもう完全に異常値だ。何をするにも繊細な力加減が必要になってくる。


 事実、今日の働きはじめではことあるごとに店の備品を破壊してしまった。

 皿を持ち上げようとすれば持ち手が割れ、テーブルに料理を置けば机ごと粉砕。扉のノブを握れば粉々に握りつぶしてしまうのだ。


 勇者は青ざめ、亭主の堪忍袋の緒が切れるか否かの寸でで、ゴルドラは新しいスキル《手加減》を習得した。

 パラメーターを生活レベルの水準に調整できるスキルであり、これのおかげで首の皮一枚繋がり、今夜の飯—勇者が作った—と寝床にありつけたわけだ。


 先刻の冒険者チームとのトラブルだが、男の腕が骨折で済んだのも《手加減》のおかげである。

 もしこのスキルが発現していなかったら男の腕は木っ端みじんになり、その後の回復も出来なかったであろう。


 また、今日一日で接客言葉を覚えたのも素晴らしい。最初の頃のあの威圧的な注文の取り方には肝を冷やしたというレベルではなく凍り付いたものだ。


 金策のために勇者の出した結論、チュートリアルで取得した《料理人》のスキルを活かし、宿屋の厨房で住み込みバイトをすることであった。


 そして、火と油と湯気立ち込める戦場に、勇者はいた。


 スキルとは恐ろしいもので、全く作ったことのない料理のはずだが頭の中でレシピがインプットされており、勝手に作れてしまうのだ。

 自炊するために取得したスキルでまさか金稼ぎすることになるとは、わからないものである。


 ゴルドラはウェイトレスに扮し、持ち前の身体能力で山のように積みあがった料理の皿を運んでいく。まるで曲芸である。

 ウェイトレス用のエプロン姿に身を包んだゴルドラは、普段の露出度が抑えられ、筋肉によるワイルドさが幾分緩和されていた。


 勇者は部屋を見渡す。


 部屋は簡素なもので、ベッドが二つとテーブルと椅子が二脚。貴重品を入れるための大きな宝箱。ご丁寧に鍵もついている。—収納インベントリーがあるので要らないが—


 3階建てなので、窓からは町が一望できる。

 ロネリーの町はさほど大きい街ではないが、それなりに活気があっていい街だ。

 バラッカスのように埃っぽくなく、完全に一般市民や冒険者の町といった形である。


 町の中央にはカテドラルがあり、法王庁の兵士テンプルナイト—要は警察—が常駐している。


 カテドラルには町に到着してからすぐに訪れた。

 ヨーロッパの大聖堂をそのまま想起させるバロック調の絢爛な建物だ。天井まで埋め尽くす見事な絵画。彫刻や美術品の数々。

 法国とやらの権力の大きさを伺えた。


 こちらの世界に転生してきて、いきなり因縁をつけてしまった法国について勇者は一通り調べてきた。


【オルフェリア法皇国】 


 通称、【法国】である。現教皇は【マクスウェル8世】、ここからかなり遠いが西の果てに【教皇庁バーラル】があり、そこが首都であるらしい。


 聖母オルフェリアを信仰する宗教ということで、人々からは聖母教とも呼ばれている。

 母なる大地の神、地母神であるオルフェリアより生み出された豊饒な大地を与えられたとの神話があり、オルフェリアが与えてくださった恵みに感謝し、その恵みを分け合い、その土地を守り続けることこそ聖母の愛に応えること、というのが信仰の内容だ。


 こう聞くといい宗教に聞こえるのだが、権力者はそれを曲解したりして統治者に都合のいいように利用するものである。


 教皇庁には聖母オルフェリアの生まれ変わりとして代々聖女が祀り上げられていた。聖女は統治者である教皇の妻、もしくは娘であり、常に崇拝対象として権力の中に取り込まれていた。


 つまり、聖母オルフェリアの大地は生まれ変わりである聖女のもの。聖女は教皇の妻、もしくは娘なので当然教皇のもの。オルフェリアでの所有権は全て権力者の物というロジックが誕生するわけである。


 オルフェリアの大地を守り抜くという観点から、隣国である【グランベルド帝国】との国境には堅牢な砦を設けている。これには他国を寄せ付けず、自国の民の流出を防ぐという排他的思想感が垣間見える。


 住人たちの信仰心と愛国心は情操教育として幼いころから叩き込まれており、オルフェリアのためならば死をも厭わないという狂信者も少なくない。


 そして、今回勇者たちが喧嘩を売った相手が【法王庁ルネリオス】である。


 教皇庁から遠い場所には法王庁が立てられ、全部で7つ存在している。ルネリオスはその一つである。

 教皇庁からの指示を受け、国土の末端まで管理運営する。ー早い話が県庁のような場所ー

 そんな法王庁にはそれぞれ枢機卿が配属されている —県知事のようなもの— 

 各法王庁が治めるエリアの王は実質この枢機卿に他ならない。

 前世の歴史を振り返っても、この手のシステムは最初こそうまくいくが、年月を重ねていくにつれて中央から遠い地域ほど、影響力を失い、好き勝手し始めてしまうものなのだ。少なくとも勇者の常識ではそうである。


 だが、予想に反して町の住人が枢機卿を悪く言うことはなかった。


 法王庁ルネリオスの枢機卿【デズモンド=エラ=ドシアス=ヴァルクシュレ】。


 彼に対する評価は思ったよりも良いものだった。就任後、税金は確かに高くなったが、町には治安や教育、医療に対して精力的に着手し、街道の整備による物流の改善など暮らしぶりはよくなったと語るものが多い。


 テンプルナイトに対しても、バラッカスでの事件で勇者は警戒心を引き上げていたが、ロネリーの町を見てその印象は180度変わることになる。


 とにかく親切なのである。横暴さなどなく、規律よく、怠慢さなどもなく、子供が泣いていたらすぐに駆け寄り、喧嘩が起これば仲裁に入る。カテドラルでの対応も親切で、冒険者と聞けば歓迎してくれる。


 法国はどれほどの悪事を働いているんだと息巻いた勇者だったが、正直拍子抜けである。


 しかしながら、あの場で起こっていたことは事実であり、あれがこの国の闇の一面であることは疑いようはない。

 それに従事していたハーデラントがたまたま非道な男だったのかといえば、非道であるが故にあの仕事に従事していたと考えたほうが腑に落ちた。


 この国には表と裏の顔が存在している。カテドラルでの調査と宿屋での口コミで得られたことはそれぐらいだ。


 しかしながら、頑張って一日働いたものの、今日一日の賃金を得ることは出来ず、宿と飯だけということで労働は終了した。


(まあ、ほとんどゴルドラによる最初の所業が無賃労働に繋がったと言えなくもないんだけど…。)


 ちらっとゴルドラを見ると、よく働いたと言わんばかりに大きく背伸びをしている。

 当然フリルの多いエプロンはもう外しており、肌に貼りついているようなトップスとパンツ姿で豊満な体のラインがくっきり浮き出ており、なんだか目のやり場に困る。


 と、いうより、女性エルダと同室ということに改めて気恥ずかしさが生まれてきた。変な雰囲気になったらどうしようという焦りの一方で、ゴルドラのイビキと寝相が酷くてそんな気分も萎えるというお決まりパターンも頭をよぎり苦笑した。


 勇者の視線に気づいたのか、ゴルドラはこちらに向き直る。反射的に目を逸らしてしまい、慌てて何か話題がないか考える。


「あ~え~っと…。ゴルドラ、今日はお疲れ様。」


「はい、マスターもお疲れ様でした。まさかマスターがあれほどまでに料理がお上手とは、感服いたしました。」


 スキルのおかげとはいえ、ちょっと照れ臭い。事実、亭主からもめちゃくちゃ褒められた。


(しばらくはここを拠点にしてもいいが、いつまでもこのままというわけにはいかない。どうしたものか…。)


 そう考えていると、ゴルドラの表情が戦士のそれとなり、部屋中に緊張が走る。それを勇者も感じ、部屋の扉に視線を向けた。


「何者かがいます。」


「何人だ?」


「一人…ですね…。階段を上ってからこの部屋の前に来るまでに足音を抑えてきていました。今は扉の前で待機しています。」


 さすがはゴルドラ。感覚器官の違いなのか、かなり具体的に《危険察知》が働いている。勇者は誰かいるぐらいの感覚しかわからなかった。


「それにしても、だれだ?亭主?それともテンプルナイトが俺たちを不審者としてマークしてるのか?」


 大事にはならなかったが、夕刻の件もあるので、あながちないとも限らない。もしくは法王庁に帰した調査員たちが結局リークしたという線も考えられる。


 ゴルドラはボクサーの様な猫足立の構えをしたまま、ドアへとにじり寄る。

 先手必勝を決意するほんの僅か手前に、部屋の扉がノックされた。


「だれだ?」


 予想外のノックに勇者が努めて平静に返事をする。

 すると、扉の向こうから意を決したような上ずった声で返答があった。


「や、夜分に失礼いたします!僕はこの町の調合屋で働いていますエリックと申します!お二人を見込んで是非とも聞いていただきたいお話があるのですが…!」


 若い男の声だ。声色からも緊張が窺える。恐怖や後ろめたさ等は感じないので安心だとは思うが…。


(何時だと思ってるんだ?)


「何か話があるようだけどもう時間も時間だし明日にしてくれないか?今日は疲れたからもう休みたい…。」


「お疲れだということは十分承知ですが、今日中にお返事をいただかなければ間に合わないのです!どうか話だけでも聞いてください!」


 こちらの意思表示を無視しての食い気味な主張に多少ムッとしてしまう。ゴルドラも怪訝な顔をしており、勇者が何も言わなくてもゴルドラが追い返してしまいそうな雰囲気だ。


 だが、声の主の必死な訴えに、先ほどの決意表明が頭に蘇る。

 困っている人のために動く。そう決めたばかりだ。何かは分からないが、彼が困っていることはおそらく本当だろう。

 自分が信じる勇者としての立ち振る舞い、行動は、自分がもう眠いから追い返すという行為ではないはずだ。


 勇者は意を決すると、ゴルドラに向き直る。


「ゴルドラ、扉を開けてやってくれ。」


「よろしいのですか?」


 意外な指示に、ゴルドラは反射的に確認を取ってしまったが、ゴルドラは思い直した。


(マスターは勇者を目指しているのだ。勇者ならば当然の選択か…。)


 そう考え、答えを聞くまでもなく頷き、扉を開く。


 そこには10代半ばといった雰囲気の少年が1人、肩を竦めて立っていた。


 伸長は160cm程度、肩ほど伸びた茶褐色の髪を後ろで括っており、服装は一般市民のそれと材質は変わらないが、所々濃い緑色のシミがある。先刻、調合屋で働いていると言っていたので、おそらくその際の汚れだろう。


 少年は突如開いた扉に困惑しつつも、ゴルドラと視線が合い、喜色を浮かべて大きく頭を下げた。


「お疲れのところ大変申し訳ございません!」


「他の人の迷惑になるからとりあえず入ってくれる?」


 勇者は少年を招き入れ、椅子を差し出した。

 遠慮していた少年だが、促されるままに椅子に座り、勇者と机を介して向き合う。ゴルドラは少年の横に立った。おそらく、怪しげな動作がないかどうか確認するためだろう。彼女の表情から気を許している感じはない。

 それが気になるのか、少年は落ち着かなそうにゴルドラに向けて視線を上下していた。


 先ほどといい、今といい何か態度に引っかかるが、勇者は気にせず話を始める。


「それじゃあ、一体何の話があるのか聞かせてくれるかな?」


「は、はい!それでは…!」


 少年の声の大きさに勇者は口元に人差し指を立て、静かにと合図する。


 繰り返すが、夜分です。


 他の泊り客の迷惑になるので大声は慎んでいただかないといけない。


 少年は緊張を取り払うかのように大きく深呼吸すると、改めてゆっくり口を開く。


「改めまして、【エリック=リーケンス】といいます。よろしくお願いします。」


 多少落ち着いたのか声のトーンも落ち、ぺこりと頭を下げた。


「今日お話しさせていただきたいのは北にある森についてのお話です。」


「森…?」


 地図マッパーで確認した際、確かにロネリーの町の北方に巨大な森林地帯があった。それに関係することなのだろうか?


 エリックは続ける。


「僕たち調合士は薬草採取が主な仕事であり、それを使って薬を調合し、販売するという生業をしています。その森は僕たちの薬草採取の場所として長らく使われていました。しかし…。」


 そこでエリックは視線が落ちる。


「ロネリーの町の周辺の田畑の収穫が悪くなっていっていることをきっかけに、その森を焼き畑にして収穫量を増やせとのお達しが法王庁から下り、近日中にあの森に対して大掛かりな焼き討ちが行われてしまうのです。」


 そこまで聞いて、勇者はうーんと唸った。


「税を徴収するため、食糧事情の改善や増産のために焼き畑の命が下っているが、それをされると君の生業である薬草採取という根柢の仕事場を失うことになると…。て、ことはその焼き討ちを止めてきてくれって話?」


(いや、無理だろ?まあ酷い話と思わなくもないし、オルフェリアの大地の恵みがうんたらかんたらと宣っている宗教法人が焼き畑を敢行してくるとか世も末だとも思うが…。あまりにも被害が個人的すぎないか?少なくとも、ロネリーの町のほとんどの人が不作に喘いでいる中でこれを止めるのはさすがにどうかと思うが…。)


 勇者のそんな考えを断ち切るように、エリックは手を立てて横に振った。


「いえいえ!そりゃあ、採取場所がなくなるのはつらいですが、それとは別の話です。」


(あれ?そうなの?変なところで話の腰を折っちゃったな…。)


「すまない、続けてくれ。」


 勇者はバツが悪そうに頬を掻くと、エリックは多少胸襟を開いてきたのか、落ち着いた口調で話を続ける。


「あの森の奥地には不可侵の領域があるのです。人々は通称 【魔性の森】と呼んでいます。」


「魔性の森?」


 勇者はエリックの口から出た新たなキーワードを思わず復唱する。


 エリックは深く頷く。


「あの森には長年魔女が住み着いていて、その領域に入るとそれまでには見なかった魔物やアンデットが出現するのです。」


(なんだか話の流れが掴めてきたけど、これって危ないんじゃないか?また違ってて話の腰を折っちゃうと格好悪いので口には出さないが、こんなの焼き討ち何てことしたら絶対に報復されるよな?)


 話を聞く限り、魔女は魔物やアンデットと共に暮らしている。おそらく使役しているのだろう。

 焼き討ちがされたことを怒って魔物の集団で襲ってくるという展開は予想できる。そうなれば一番最初に被害を受けるのは当然、このロネリーだろう。


 勇者はごくっと生唾を飲み、エリックの話の続きに耳を傾ける


「どうにか焼き討ちが始まる前に魔女と会って逃げるように伝えたいんです。」


(…はあ?)


「でも、僕一人では魔物やアンデットが蔓延る魔性の森の奥にいると言われる魔女まで辿り着けません。そこで、お願いです!」


 エリックは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて懇願する。


「どうか、僕と一緒に魔性の森の奥までついて来てもらえませんか?!」


 … … …


「色々と聞きたいことがあるんだけど…。」


 勇者がそう言うと、エリックはなんなりと!と前傾姿勢になる。


(ちょっと頭痛くなってきた。)


「まず一つ目、早い話が護衛任務ってことなんだろうけど、なんで俺たちに頼んだの?」


(この町では情報収集と宿屋のバイトしかしていないはずだが…。)


 その問いに関して、エリックはゴルドラを仰ぎ見る。


「それは、こちらの方がとんでもなく強いからです。」


 憧れを込めたその眼差しを受け、ゴルドラも思わず目を丸くして、私?と、自分を指さす。


「はい!僭越ながら夕方での一件をお見掛けして、この方しかいないと思い、お話させていただきました。」


 勇者とゴルドラは顔を見合わせる。勇者は表情で「バレてるじゃねぇか!」と、非難するが、ゴルドラも目を白黒させながら「いや、まさかそんな!モブ程度に見切れるはずが…!」と言い訳する。


 少年が勇者よりもゴルドラに対して熱視線を送っていたのはそういうことかと勇者は納得した。

 おそらく宿屋の亭主に俺たちのことを聞き、仕事が終わる時間と部屋を教えてもらったというわけだ。


 勇者は頭を掻きながら思案する。少年の様子からゴルドラが実は金竜であるということは分かっておらず、とんでもなく強い女戦士ぐらいに考えているのだろう。尻尾での攻撃ということまでは気づかれていないならセーフと判断した。


「とりあえず座って。」


 エリックの興奮を冷ますためにも一度椅子に座らせる。


「それじゃあ、二つ目の質問。なんで君も一緒に来るの?」


 勇者の問いに、エリックの目線が一瞬泳ぐ。


「それは…、森の中の案内のためです。お二人が北の森の地理にお詳しいのであれば不要かと思いますが、僕にとってはあの場所は庭ですので。」


 勇者はとりあえず「なるほど…」とつぶやく。


(…とりあえずだが。)


「三つ目。魔女を逃がすっていう主目的についてだ。その意図を聞きたい。」


 実は勇者は既に北の森の魔女について簡単ではあるが情報を仕入れていた。


 200年、もしくは300年前になるか定かではないが、森の中に魔女が住み着きそこを塒とした。

 だが、今に至るまで魔女がこの町に何かしたことは一度もなかった。普通なら何かしら悪さをしてきそうなものだが、全くないのである。

 なので、今まで不可侵とされていたが、実際に魔女と遭遇したとの報告もないため、もはやデマという噂すらもある。


(そんな中で、彼は魔女の存在を確信している。なぜ?)


「あ、危ないから別の場所に移り住んでくださいって言いに行きたいっていうのは理由になりませんか?」


 少年のたどたどしい返事に勇者は一つため息をする。


「じゃあこういう質問ならどうだ?魔女は君にとってなんだ?どういう関係なんだ?」


 それを聞いて少年の肩が竦む。


「君の言葉には魔女に対する親近感が見て取れる。逃がすっていう行為はそこから来ているんだろう?」


 勇者の言葉はある程度少年の真意に基づいたものだ。魔女と知り合いということが法国にとって褒められることではないことは誰でもわかる。だからこそ、エリック自身も多少なりともヤバい話をしている自負があるのか、所々歯切れが悪くなっていたのだろう。


 少しの間の後、少年は意を決して頷いた。


「命の恩人なんです。」


 ポツリと言ったその言葉に、勇者は前のめりの姿勢から椅子の背もたれに深く体を預ける姿勢に変えた。まるでようやく自白させた検察官のような気分となる。


「四年前、森の奥に進み過ぎて魔性の森の領域に入ってしまったんです。怖くて寂しくて泣いていた僕の目の前に同じ年ぐらいの女の子が現れて、僕を森の外まで連れ出してくれたんです。」


 女の子?それは予想外の答えだった。


「正直、あの女の子が魔女なのかどうかはわかりません。でも、あの日僕を送ってくれた後、森の奥に消えていった彼女が魔性の森の住人であることは確かなんです。だから、早く伝えて、逃げてほしい…です。」


 語尾は消え入りそうな声色になったが、話の全容は分かった。恩返しという線は有体予想通りだったが、最後のキーワードでこの話がなんなのかが見えたつまり…。


「森が焼かれる前に初恋の人ともう一度会いたいってことね。」


 さらっと口に出した勇者の言葉にエリックは顔を真っ赤にした。


(青春だね~なんて親父みたいなことは言いたくないが、なんだかこっちも恥ずかしくなってきた。)


「四年越しの再会をするためにはそれなりに危険だから、その点は依頼料にしっかり加味してくれ。それと、魔女が逃げてくれるかはクエストの成否に関わらないことは条件にさせてもらうぞ。」


「それって…。」


 勇者の言葉にエリックは顔を上げる


「ああ、その依頼は俺たちが引き受けた。」


 勇者のその発言に対し、ゴルドラは苦笑いをしながらも頷いた。なんだかんだ言って勇者は断らないと思ったのだろう。


 エリックは勢いよく、席を立ち、姿勢を正してから勢いよく頭を下げる。


「本当にありがとうございます!」


 あまりの声の大きさに勇者とゴルドラが口元で指を一本たてる。


 くどいようですが…夜分です!


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