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第50話パワハラ上司の良心


重なりかけたリンリンとヒバリの唇。しかし寸前でヒバリの方が顔を上げた。


「すまないリンリン。立てるか?」


ヒバリは立ち上がるとリンリンに手を差し伸べた。その眼差しはいつもと同じ。堅物の目。


リンリンは胸の奥が小さく痛むのを感じた。


「……ありがとネ」


(ダメアルな…まぁ出会ったばかりネ。ゆっくり距離近くなって行けばいいヨでも、ここまで興味持たれないと流石に落ち込むアルなぁ…)


リンリンは肩を落としながらもダンジョンを行く。堅物の背中を見つめていると、ツンッと躓くヒバリ。


「わぉっ、だ、大丈夫ネ?」


ヒバリ数歩よろめいたが踏みとどまり、ほっと胸を撫で下ろす。ヒバリの耳がじわりと赤らんだ。


「……問題ない」


「…………もしかしてヒバリ、さっきのこと意識、してる?」


「……してない、というのは嘘をつくことになる。俺もまだまだ鍛錬が足りない」


首裏をかきながら目を泳がせるヒバリ。リンリンの胸がトクトクと高鳴り始める。自然と口角が上がる。


「超真面目アルなぁ〜!正直に答えるの可愛いアル」


「かわ……なっ、なんだと?」


「お、赤くなったネ。ただの堅物じゃなくて安心したヨ〜こっちばっかり意識するのも悔しかったしナ?」


「…………は?」


「さーて、サクッとダンジョン攻略するアルよ〜」


「おぃリンリン。今のは一体…おい待て。待てって」


追いかけるヒバリ。笑うリンリン。


その後ろ姿に岩陰にいた下世話三人組はガッツポーズしていた。


「甘酸っぱい社内恋愛!イイッスね!」


「羨ましいです〜…わ、私も是非アザゼル様と…」


「え?俺?ルイーゼ俺の事好きなのか?」


「え、ハイ。バレているものかと思いましたが…」


「いや…その、尊敬してるとか、そっちかと」


「勿論尊敬もしていますがラブの方でも好きですよ」


「…そ、そう、か…」


アザゼルとルイーゼの間に唐突に漂う恋愛フラグ。二つのリア充に挟まれたシンは不憫としか言いようがない。


「あーあーもうイイッス。おなかいっぱいッス。やっぱり社内恋愛ナシにしませんか?」


◇◇◇


エンゼル王国

冒険者斡旋ギルド


「なぁ聞いたか?カイザーの奴、ヘマして魔王にほとんどの勇者奪われたらしいぜ」


上流階級の身なりをした男が空っぽの斡旋ギルド内を覗き込みながら口角を上げる。


「あぁ。長年目の上のたんこぶだったカイザーがやっと消えてくれたな?恨みつらみを晴らすなら今だろ」


「なんでもショックのあまり寝込んでるとか」


「ぷはっ、ざまぁねぇな。親の七光りボンボンの癖に販路を独り占めしたり他から勇者を引き抜いたりするから罰が当たったんだ」


カツ


そんな二人の背後に立つはカイザーの秘書、クレア。振り返った男達二人は、カイザーの側近秘書に焦りを見せる。


クレアは何も言わず、ただメガネを押し上げると男たちの間を割って斡旋ギルドへと入っていった。


「あ、あの……俺たちはその…」


「頼むっカイザーには言わないでくれ!」


「……」


クレアは振り返った。


「カイザー様は貴方方が申し上げるようにできた人間ではありません。ですが、この斡旋ギルドを立ち上げるまでどんな努力をしてきたか…そこは知っていますので」


クレアは静かに受付裏へと入った。


執務室の隣。カイザーの自室の戸をノックして開けてみる。


「おはようございますカイザー様。お加減はいかがですか?」


カイザーは寝転んだまま窓の外を眺めていたがクレアの声に反応し体を起こす。


「今日は天気がいいですね。朝食は食べられそうですか?」


「…………クレア。貴様も魔王城に行けばいい。俺の力も及ばない。勇者も八割方奪われた。取引先とも次々に手を切られている。これから俺に待っているのは借金の返済と破滅への一途だけだ。どうせ貴様も魔王城の方がいいのだろう」


「カイザー様…いえ、私はまだ……」


「今は何も聞きたくない。一人にしてくれ」


まるで幼い子どものような拗ね方だ。

クレアはそれ以上何も言うことができず、カイザーの自室を後にした。ドアを背に暫し考え込んだ後、顔を上げ心を決める。


「拗ねて諦めて、破滅の時まで黙っているなんて、カイザー様らしくないですよ」


クレアはもう一度メガネを押し上げると颯爽と歩き出した。


◇◇◇


「アザゼル様。来客です」


「ん…残りの勇者かな」


アザゼルは玉座の間に腰掛けると遠隔透視魔法にて来訪者をチェックする。魔王城へ向かってくるのは、グレーの髪を靡かせたメガネの女。


「この子は……」


「カイザーの所の秘書さんですね。ついに彼を見限ったのかしら」


「まぁアイツの秘書なんかやってたらどんな扱い受けるかは目に見えてるからな。転職希望なら温かく迎えてやりたいところだ」


魔王城の扉が開き、肩で息をしているクレアは真正面から入ってきた。戦う気では無いらしい。


「何か用か?」


「はぁ…は…あの…折り入ってお願いがあるのです。あ、貴方には関係の無いことかもしれない。恨みつらみしか無いかもしれない。頼むのは、お門違いも甚だしい……けど、お願いです。カイザー様を、ここで雇っていただけませんか?」


「…ほぅ……それはできないお願いだな」


アザゼルは目を伏せると肘掛に頬杖をついた。







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